新鋭船ナッチャンWorldを青森に追う

Blueforce2008-05-04

さてゴールデンウィークですが、今年は昨年・一昨年と2年連続で行った岩国は飽きたのでやめて、早々に次のイベントを探し出してきた。
昨今廃止された地方の民鉄が車両と短い区間のレールを残して、定期・不定期で復活走行を行う例が増えているが、1997年に廃止*1になった南部縦貫鉄道でも毎年この連休中に保存しているレールバスを使用しての旧七戸駅構内での撮影会・乗車体験イベントが開催されている。私は同鉄道の廃止前、1993年に一度乗ったことがあるが、写真は大して撮らなかったので、もう一度行ってみたかったのだ。
2日夜出発で3日の撮影会(4日は乗車イベントなので、それはそれで楽しいのだが写真は撮れなそうなので)に行き、その日のうちに青森に抜けるつもりだったのだが、諸般の事情で出発が1日遅れ・・・それが原因で今年最大のトラブルに・・・参りました。あえてどんなトラブルかは言いませんが、どうしても気になる方はメール頂ければ、あなたのためだけにこっそり教えちゃいます(^^;)
というわけで、3日夜、2000出発。どこへ行くのかって?青森ですよ、でももう七戸には行きません、青森「県」ではなくて県庁所在地の青森です。
青森―函館間には、青函トンネルが開通した後も自動車を航送するフェリー航路がいくつかの会社により運行されている。なかでも東日本フェリーは、20007年9月より営業最大速度36ノットという高速フェリーを投入、従来フェリーで4時間(かつての青函連絡船もそうだった)かかる青函航路を約2時間に短縮した。所要時間半分という劇的な短縮を実現した画期的な新形フェリーの名は、
ナッチャンRera。
当日記で詳しく説明するまでもないが、同船はオーストラリア・インキャット社が建造する波浪貫通型高速船、いわゆるウエーブピアサーと呼ばれる双胴船で、インキャット社のモデル名は112メーターウエーブピアッシング・カタマランと称する。総トン数10,000t、ペイロード1,500t、最大定員800名、搭載車両数乗用車で350台に達する大型船である。
私は本来フネは軍艦にしか興味がないタチで、比較的軍艦に近い性格の巡視船ですらようわからんのらに、豪華客船とかはなおのことピンと来ないのだが、このナッチャンReraだけは何か惹かれるものがあって、就航時から気になっていたのだ。何度か撮影に行こうかと思いつつ、さすがに青森なのでなかなか実現せず、今回2番船のナッチャンWorldが就航し2隻体制になったのを機会に、効率のいい撮影もできそうだし、何よりあわよくば「東日本フェリーでナッチャンRera&Worldを撮る会」が開催できるかも・・・と出かけることにしたのだ。

双胴高速船といえば、オーストラリアが本場。主流は2タイプあり、インキャットと並ぶのはオースタル社の製品で、写真は本隊・当分遣隊で何度も紹介している、アメリ海兵隊の西大平洋水域での人員・車両輸送用に長期間リースされている同社製のウエストパック・エクスプレス。高速双胴船はその名の通りその高速性、そして大きなペイロードで軍事輸送用途で注目を浴びており、ウエストパック・エクスプレスはどのような経緯で建造されたかはわからないがすでに事実上のMSC所属の輸送艦として機能しており*2、インキャット社も同じようにほぼナッチャンシリーズと同じ大きさ・スペックのスイフトSwift HSV-2が海軍の、またジョイント・ベンチャーJoint Venture HSV-X1、スピアヘッドSpearhead TSV-1Xが陸軍の輸送艦としてチャーターされている。
また、ポスト冷戦の新艦種としてアメリカ海軍が建造を進めている沿岸戦闘艦・LCS(Littoral Combat Ship)は*3ロッキード・マーティン社を主契約社とするチームの単胴形(従来タイプ)の船体であるタイプ(フリーダム Freedom LCS-1)と並んで、三胴型と極めて意欲的な設計のジェネラル・ダイナミクス社チームのタイプ(インディペンデンス Indypendence LCS-2)が並行で建造されたが、この三胴形タイプにはオースタル社が設計チームに加わっており、今後このオージー高速船は軍用・民生用ともに普及が進んで行くと予想される。
ま、いつものように力業で軍艦話に持って行くのはひとまず置いといて(笑)、なっちゃんといえば一時期めざましテレビを毎朝録画していた(!)、今でも日曜の昼下がりは「噂の東京マガジン」と決めている(!!)私はこのフネを逃すわけにはいかない(おいおい命名の由来が・・・奈津子じゃなくてなつみなんですけどw)。決してオレンジジュースではありません!! 津軽海峡で洋上追撃戦だ!
というわけで、本年のゴールデンウィークは過去2年とは正反対の方向に走り出すことになった。まずは浦和インターから屋根を開けて夜の東北道を70km/hクルーズ。宇都宮までの深夜・早朝割引適用のための時間調整であるが、まあ3車線の左端を走っていてもバンバン抜かれる・・・デジタコ装備のトラックだろうが若葉マークの軽だろうが、すべての車に抜かれるという屈辱的な事態。それでも、オープンにしていると気分も変わるのでそれほど気にならない。計算通り適用時間の2200を2分過ぎて宇都宮インターを乗り降り、それ以降はさすがに70km/hではいつまで経っても青森に着かないので、85km/h・2800rpm固定でクルコン設定する。
このガソリン高騰の折、どこまで燃費を伸ばせるかというチャレンジの側面もあったので、あわよくば青森まで無給油でと狙ったのだが、最初の休憩地点国見SAで何をトチ狂ったかガスを入れてしまった。これで往路行程単体での計測はできなくなってしまったのだが、いずれにしても急ぐ旅ではなし、85km/hでの我慢の走行が続く。
築館―若柳金成インター間が事故で通行止めというので下に降ろされたが、ここまで来ると下道でもあまりペースが変わらないので、気が向く所まで国道4号を走ることにした。一関を通過、中尊寺を横目に見(本当に見えるわけではないが)、水沢で再び高速に復帰、しかし盛岡を過ぎまた滝沢で降り、国道282号を行く。

国道282号龍ケ森越えは、おととし初代ふうこ号で弘前・竜飛に行った時以来となるが、昔は何度も行き来した馴染みの道。さらに花輪線に沿って鹿角まで、夜が明け始めたこんな時間では走っている車もほとんどおらず、まったく高速に乗る意味なし!いい調子で龍ケ森への峠を駆け上がる。

昔々、ハチロク三重連の伝説が繰り広げられていた頃、龍ケ森と呼ばれていた峠の駅、安比高原に寄る。この駅に来たのも10年ぶり位になろうか。
時刻は0420、もちろんこんな時間に花輪線の列車があるはずはなく、一番列車が来るのは2時間も後の0623になる。どちらにしても、周りに人家など1軒もないこの駅に利用者などいるはずもない。かくいう私も、10年前に岩手山登山に行く知り合いを彼のパジェロで送って行った時に来た時も(当たり前だが)車で訪れていて、列車で利用したのは大学時代に安比にスキーに来た時に2度乗降したのみ。もっとも、それだけあれば現代人としては多い方かも知れない。安比にスキーに来る連中は自家用車でなければバスを使うに決まっているからだ。
なぜかバブル全盛期に安比グランドのタワーに2度も泊まったことのあるなんちゃってセレブ大学生が、いつも東京からの往復は臨時の八甲田だったり583系時代のはくつるだったりするのだ(まあ・・・趣味ですけどw)。当時はまだ盛岡からの列車は冬場にはこれら上野からの夜行列車乗り継ぎのスキー客が結構乗っており、列車が着くたびに駅もそれなりに賑わっていた。事前に連絡しておいたり、駅の公衆電話から連絡するとホテルやペンションからの送迎の車が迎えに来てくれるのだ。今は安比も開発したリクルートの手を放れ、そもそもスキーブームは遠くなりにけりで、誰が列車で来るのかという話・・・かつてはホームも1面2線で交換ができたのだが、ご多分に漏れず1線は剥がされ棒線になってしまっていた。

その後、朝の通勤割引適用時間帯に入ったこともあり計算通り鹿角八幡平から再び高速に乗り、半額で0600過ぎ青森に到着。フェリーターミナルでまず最新鋭のナッチャンWorldと初めて対面! まず初めにびっくりしたのはなんと言ってもその大きさだ。なんとなく、その形態から横浜港内とかの遊覧船のようなもんだと思っていたのだ。もちろん、総トン数10,000tというスペックは知っているけれども、大きさばかりは実物を見てみないとイメージできない。これほどまでに大きいとは・・・「ゆき」型の護衛艦が中にすっぽり入ってしまうようなサイズだ。

さて、本来なら0720発のフェリーに乗って、後から追いかけてくるナッチャンWorldと函館からヘッドオンで向かってくるナッチャンReraを洋上迎撃撮影する予定であったのだが、まあいろいろありまして・・・今回は青森フェリーターミナルからのオカ撮りに徹することにした。まず1発目は東日本フェリーと同じく青森―函館航路を運行する道南自動車フェリーの「えさん」。こちらはトラックなどの自動車航送が主な業者なので、旅客定員は78名と少なくアミューズメント設備も(ご覧の通り)ない。

え〜、無茶苦茶遠いですが海保3管区の巡視艇「おいらせ」が出港していきます・・・背景は夏泊半島か。

ナッチャンRera&Worldは同時刻に両方の港を出港する単純な機織りダイヤになっており、0800に出港していったWorldと同時刻に函館を出港していったReraが沖に姿を表した。おおよそ到着の15分前には見えてくるので、撮影には25分位前に準備を始めること。

まさにインキャット社製ウエーブピアサーの特徴を余すことなく見せつける前面の顔つきが近づいてくる・・・初めて見る姿に大興奮だ!

巨大な水棲生物然としたそのフォルム・・・ウエーブピアサーは、いわゆる通常タイプの船舶の仲間で、水中翼船やジェットフォイルとは異なる。その高速力は、大きな抵抗となる水線下の船体を双胴にし大幅に小さくしたことで実現される。同船のエンジンはこの水線下の船体内に装備されるV型20気筒の中速ディーゼルエンジン、MAN B&W 20RK280×4基で、各出力は1万2,245馬力、すなわち総出力では4万8,980馬力となる。これは先日来日したフランス海軍の駆逐艦、ジョルジュ・レイグ級の準同形艦であるミサイル駆逐艦、オールディーゼル推進艦であるカサール級の総出力4万2,300馬力を上回り、同じくオールディーゼル推進の異色艦であった海自の汎用護衛艦、「やまぐも」「みねぐも」型からなるいわゆる「くも」型の2万6,500馬力の倍近い数値になる。ナッチャンシリーズの最大速力は40ノット以上とされており、30ノット弱であるカサール級との出力差以上の速力の差を叩き出すが、その秘密がこの双胴の船型にあるわけである。

ナッチャンシリーズはその形状上当然車両ランプは船尾にしか設けられておらず、港では必ず出船で着ける必要があるが、ポンプジェットのノズル排出方向を変えることで舵を使用せずに進行方向を変えることができ、その場回頭も可能なので入港時にタグの助けを借りる必要はない。今回のWorld就航に合わせて新築された高速船専用の新ターミナルに後進で接岸する。

船首部分を切り取ると、そのシャープさがいっそう引き立つ。先頭の尖った部分はいわゆるフェアリングのようなもので、写真でもわかるが上面には大きく穴が開いており、下からではわからないがそこにもイラストが描かれている。

まるで鯨か巨大なエイのような最先端。

青森ターミナルは西側にある防波堤からは当然午前中が逆光気味で、特に入港してくるシーンはほとんど真っ黒になってしまう。出港でこのようになんとか半逆光なので、午前中は横がちのフォルムはほとんど捨てショットにしかならないかも。

45分のターンアラウンドで再び函館に向けて出航。意外になんのヒネリもない車両ランプの構造に注目して頂きたい。なにせ36ノット・72km/hにもなる速力を出す船だけに、前面・側面にはオープンデッキは一切なく(護衛艦の体験航海で、第三戦速=45km/h程度で息ができないほどの猛烈な風に襲われる)、外に出られるのは真後ろのみだが、ここから見るウエーキは大迫力だそうである。今度ぜひ体験したみたいものだ・・・だいたい人の大きさから、この船の巨大さがおわかり頂けよう。車両ランプの上には"www.incat.com.au"と同社のアドレスが書かれているが、↑のウエストパック・エクスプレスも側面に大きくオースタル社のアドレスを書いており、オーストラリアの高速船メーカーはアドレスを書くのが流行り?

ここで2時間の待機時間をはさみ、1245、1往復目を終えたナッチャンWorldが函館から帰ってきた。すでにここまで港に近づいた時点では速力はほとんど落ちてしまっているが、それでもウエーキはまだ相当のもの。また、冷却用の海水が上部船体の底からドボドボ排出されているのが大迫力だ。

ReraとWorldは船内も外観もほとんど同一の姉妹船で、グラフィック以外でその相違点を見つけるのはほとんど不可能。

ここの防波堤、まるで撮影の邪魔をするように前にもう1本小さなものが横たわっており、横がちの写真を撮ろうとするとここまでが限界。てゆーかすでに右側に入ってしまっているが・・・しかしさすが津軽海峡、朝方は比較的凪いでいたのに、妙に波が高くなってきて、防波堤にもジャバジャバと波が洗う状況に!Blueforce青森まで来て機材水没か!?

ここで港内に停泊する他の通常形フェリーの顔ぶれを紹介。こちらは同じく東日本フェリーの青森―室蘭航路の「びなす」。東日本フェリーはかつて商船三井フェリーと共同で大洗―苫小牧航路を運行していたが、経営破綻により撤退し(このため現在の東日本フェリーは会社更生法適用・経営再建前の同名会社とは厳密には別法人となる)たため、大洗でその姿を見られなくなった。大洗―苫小牧航路、そしてこちらも撤退となった八戸―苫小牧航路ともよく利用したので、このグラフィックと神話に登場する神々の名を付けた船名が懐かしい。

こちらは朝方入港してきた「えさん」と青函フェリーの「3号はやぶさ」。どちらも貨物輸送が主体の業者のフネなので、ナッチャンに比べ華のなさ(失礼!)は一目瞭然・・・でも、基本的に軍艦屋の私だけれど、内航フェリーは結構興味の持てるジャンルかも・・・鉄道や飛行機と違ってフネ屋は分業がかなり徹底しているから、フェリー系のプロパーの方にも全然存じ上げなかったが超有名な方がいて、かなり濃い世界があるのも今までほとんど知らなかったのだが、ちょっとそっちの系統にも行ってみようかなと・・・

青森―函館航路の在来船である「びるご」のファンネルをバックにナッチャンWorldの主錨アップ。
船首側面に見える「065」の数字はインキャット社における建造船舶の通しハルナンバーで、064がナッチャンRera、前述の米軍のチャーター輸送船ジョイント・ベンチャーは050、スピアヘッドは060、スイフトは061となる。インキャット社サイトのプロダクションのページにはこれらの一覧表があり、「US Navy」のスイフトと並んで「Natchan」の文字があるのが楽しい。

コクピットはなにやら形状のせいかどこかB-2を連想させる。かぶりつきマニアとしてはどんなたたずまいなのか一度見てみたいもんですな〜。上部にある気象?/水上レーダーはもちろんおなじみフルノの製品。

そして、1345定刻、ナッチャンWorldは2往復目の函館に向け出港。時間帯が悪いせいか、後部オープンデッキはさっきのすずなりだったreraと比べると閑散としている。

船尾ポンプジェットノズル部のアップ。青い水線下部分にリンクアームで作動するカバー?のようなものが見えるが、これはジェット水流の上下方向への噴射を変えて速力調節や逆噴射効果を発揮する後進バスケットと呼ばれるものと思われる。船体がアルミ地肌独特の質感を見せているのに注目されたい。こんなんで防錆などは大丈夫なんですかね・・・? 定係港の表記がreraの函館から青森となっているのも目立たないが大きな変化。

再び待つこと2時間、1545に午前中出港して行ったナッチャンreraが再び入港。
しかし、こうやって改めて実物を見ると、その大胆なスキームには本当に驚かされる・・・もともとラッピングバスとかポ○○ンジェットとかマッコウクジラ描いたのとかあまり好きじゃないんだけど(松井の顔がデカデカと貼り付けられているのか最悪・・・)、ナッチャンシリーズはこの絵があってこそと思う。あまり直線的なストライプとかは似合わないのではないのだろうか。
インキャット社のスタッフも、このデザイン案を見せられた時には驚いたに違いない。どういう経緯で、東日本フェリーが新造船のイラストデザインを「ナッチャン」に依頼することになったのかはわからない(ネットにもその辺の情報はなぜか載っていない)、よく7歳の女の子がその期待に応えてこれだけの絵をのびのびと描いたものだと思う。一見子供なら誰でも描ける絵のように見えるでしょう、いやいや、普通の子供にこれだけの大作、描けるもんじゃありませんよ*4
今回は洋上撮影&乗船という所期の目的は果たせず、青森でのオカ撮りのみに終わってしまい、船内レポなどもできなかったが、近日中に改めて訪れてその全貌を明らかにしたいと思う。経営再建のため、多くの航路を手放しほぼ青函航路のみに経営資源を集中した東日本フェリーの起死回生の切り札、ナッチャンRera&World姉妹に幸多からんことを。

ナッチャン、大好き!

*1:正確には1997年からは休止扱いで、廃止となったのは2002年

*2:しかし、インキャット社の船舶がハルナンバーを持ち塗装も軍艦風のグレイに塗られているのに、ウエストパック・エクスプレスはハルナンバーも付与されず、塗装も民間船然としたものになっている

*3:例によって技術的なトラブルや価格高騰などで若干炎上気味

*4:ここでは改めて説明しませんが、血筋というやつらしいです