かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ギンレイホールの2本(7月17日)


デヴィッド・クローネンバーグ監督「ヒストリー・オブ・バイオレンス

アメリカ中西部の田舎町でダイナーを営むトムは、ある夜押し入った2人組の強盗を逆襲し、客や友人を救い町のヒーローとなり……その日からトムの家族に執拗につきまとう男たちが……。幸福と暴力の対立と、究極の愛の選択を描くクローネンバーグ監督のサスペンス!


「ギンレイ通信vol.90」より


押し入った2人組強盗を退治したまではよかったが、テレビなどにヒーロー談としてとりあげられたため、主人公の秘められた過去が露出していく。この男(ヴィゴ・モーテンセン)の過去には一体何があったのか、なかったのか?……という興味で映画の筋にひかれていきます。

過去が次第にわれてくると、あとはバイオレンス映画らしいアクションが展開されて、ぼくの好みではなくなります。ただ、今は善良な市民として家庭を愛する過去のある男を、その過去がわかったとき、現在の家族が受け入れるのか拒否するのか、そこが最終的な焦点となってきます。ぼくとしては、可もなく不可もない作品でしたが、主演の、善良だが不気味な表情をもつヴィゴ・モーテンセンが、腹の底が読みにくく、観客の興味をひっぱっていると思いました。



ヴィム・ヴェンダース監督「アメリカ、家族のいる風景」

アメリカ、家族のいる風景 [DVD]

全てがイヤになり、撮影現場から逃亡した西部劇スターのハワードは、再会した母から20数年前に生まれた息子の存在を知らされる……。「パリ、テキサス」の脚本・監督のコンビが20年ぶりに描く人生と家族の意味!!


「ギンレイ通信vol.90」より


ぼくはこの監督のおもしろさがわかりません。画面にいろいろ技法をこらしているようですが、それがちっともおもしろく響いてきません。主演のサム・シェパードも、西部劇スターというより、カウボーイの扮装をした冴えないオッサンとしかぼくには見えません。このスター男が自分の実の父とわかったときに、息子が逆上して2階から家具を全部外へ放り出しますが、この辺から見ているのが苦痛になりました。登場人物の誰にも感情移入できないのです。

見ようによれば、むかし見た小津安二郎監督の「浮草物語」のようにもスジだけは思えるのですが、こちらには、小津作品のような格調も繊細さも感じられません。

我慢ならないので、途中で帰ろうとすると、祭日で映画館は満員。座席の並んだ中央にすわってしまったので、左右どちらも4〜5人のひとに脚やカバンをひいてもらわないと外へ出られない。そんなことをして途中で出ていけば、見ている人にいやな思いをさせるのは明らか。なんとか、寝てしまって映画の終わりを待とうと眼を瞑ってみますが、こんなときは眠れません。となると、狭い座席のスペースにからだをのばすことができずにいるのが、窮屈でならなくなってきます。仕方ないからもう一度映画に意識を向けますが、どうも、知っている人の出ない「学芸会」を見ているようです。

こうなってくると、満員の映画館というのは、拷問ですね。あれは映画がおもしろいから、そんなことを忘れていられるのですが、それが死ぬほどつまらないとなると……。

しばらくすると、1つ置いて右に座っている女性が立ち上がりました。このチャンスを逃したら、二度と来ない。「どうもすみません」といって、からだをこごめ、急いで席を立ちました。

樋口真嗣監督『日本沈没』

日本沈没 スタンダード・エディション [ 草ナギ剛 ]
1970年代のはじめに、ぼくは小さな本屋さんにつとめていました。その本屋さんに平積みされた小松左京作『日本沈没上下』(カッパ・ブックス版)は、補充しても補充しても、1日で飛ぶように売れていきました。自分でも、さっそく読んでみました。時代の空気もあって、おもしろかったような気がします。細かなところは忘れていますが。

あとで映画化された森谷司郎監督の『日本沈没』も見にいきました。特撮がたのしく、鎌倉の大仏が沈んでいく様子などをちょっと覚えています。しかし、ほかの記憶はありません。ともかく『日本沈没』や『ノストラダムスの大予言』が大ヒットしていた時代のお話でございます。

今回はそのリメイク版ということで、やはりこの手のものは登場人物がどう描かれているかなどということより、一にも二にもお目当ては特撮であり、わたしたちの日本が、どのように沈没してしまうのか、それを想像すると、胸がわくわくしてきます(不謹慎といえば不謹慎ですが、まあそういわないで。これは映画です)。実際京都や奈良が壊れていく予告編を見ていると、ドキドキするような興奮を感じました。

で、今日見てきました。感想は、ロード・ショーのさなかなので、厳しい批評は控えますが、予想を遥かに下回りました(笑)。期待の日本沈没シーンは、映画のメインではなく、驚いたことに、登場する人物たちの恋愛、家族愛などが長々と描かれているのです。それも、使い古されたパターンそのままに。これからご覧になる方は、「日本沈没シーン」に過度な期待を寄せない方がよいとおもいます。

先に、名作『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイク版『ポセイドン』は、パニック映画のおきまりである人間関係を淡白に描いて、映画の醍醐味を特撮にしぼっておもしろくしていた、と感想を書きましたが、リメイク版『日本沈没』は、これでもかこれでもかという執拗さで、恋愛・人間愛の感動を押しつけてきます。

(ワーナーマイカル大井にて)