バッドバンク・官民ファンド構想から見るアメリカ

 なんか株価は年度末が見えた頃から上がり続けで、全般に金融業界もほっと一息、春うららな感じである。僕も花見に3回も行ってしまった。夜桜の中、酔っ払って騎馬戦をする羽目になるとは思わなかったが・・。
 それはともかく、全般にセンチメントが良くなったのは、ようやくアメリカの官民ファンドによる公的資金注入の話が具体化してきたからだろうか。この仕組も、公的資金投入するよ、と昨年の9月に発表してから、ウダウダ半年かかったが、この間相当な議論が行われた形跡はあり、なかなかユニークなものになっている。
 一つ目は、レバレッジをもってハイレバ時代の後始末をすることである。住宅ローンや不動産担保ローンなどの買取ファンドについては、1:6のレバレッジFDIC(預保)が保証し、しかも1のエクイティの内、半分を例の70兆円枠の中から出資する。よって、民間投資家からすると、協調投資家とレバレッジに対する保証で14倍のレバレッジが保証されていることになる。もう一つの、証券化商品全般の買取ファンドは、FRB(中央銀行)が1:1のレバレッジで実際にカネを入れる。1のエクイティの半分を協調投資するのはローンの方と同じである。よって、こちらは民間投資家からすると、協調投資とFRBローンで併せて4倍のレバレッジが効くことになる。こちらの方がレバレッジ比率が低く、かつ政府が直接資金を出すのは、単なるローンと比べて、原債権が多数だったり、より仕組が複雑な為、保証が有っても資金の出し手がおらず、かつミスプライスの度合いが強い為、民間にとっての期待リターンがあんまりレバレッジを付けなくても満たされるからであろう。
 二つ目は、政府がDDを放棄したことである。プライシングは民間資金側に任されており、儲ける為に必死で資産を精査するであろう民間ファンドの経済的インセンティブに一任した形に見える。政府資金乃至は保証は、民間ファンド資金と同列の協調投資か、それよりも保全されたシニアに入るから、民間ファンドが総じてリターンを上げられるなら、政府の資金は必ず100%以上保全される、ということである。
 三つ目は規模的な話で、最大10兆円の政府出資を考えていて、それが民間ファンドとFRB/FDICによって4倍から14倍の資金に膨らむから、合計で50-100兆円位のバッドバンクによる不良債権買取を考えているそうである。日本の整理回収機構が、住専・破綻金融機関・健全行合計で大体10兆円位の不良債権を買い取り、産業再生機構が投じた資金が約1兆円位だから、規模感としては、GDP比を考えても、日本の不良債権処理と比べ、「小さくは無い」というのは間違いない。しかし、結局アメリカをもってしても一気に不良債権の処理というのは出来ないのだな、というのは再確認されたと思う。米国の不良債権の金額は300-500兆円とされていて、これが全額損失かどうかは、調査手法の違いもあって、apple to appleな比較が難しいのだが、50-100兆円という今回のバッドバンクの規模がそれに満たないのは間違いない。一方、日本の不良債権も100兆と言われていたが、政府の措置はその10分の1がせいぜいである。日本において、この100兆と11兆の差額がどこに行ったのかと言えば、一つには日債銀とか足利の例でもそうだが、破綻金融機関として、国有化された際に預保が負担をしている。これが約20兆である。拓銀とか、預保が株主になっていない事例があるので、それを含めればもう少し増えるかもしれない。二つ目は金融機関の資本によって賄ったもので、過去からの蓄積と土地・有価証券の含み益、及び公的資金の注入が原資である。金額は推算は可能だが、その辺はエコノミストに任せることにする。その残りが、金融機関の期間収益で賄ったものである。ゼロ金利政策はマクロ経済的要請も勿論あったが、金融機関にとっても、日本の金融機関は長期運用・短期調達のALM運用をしているケースが多かったから、金利低下局面では先に利息支払の方が減り、有価証券サイドでは膨大なJGB資産が含み益に変わり、収益貢献は大きかったと思う。これら3つの併せ技で時間をかけて残りを埋めた、というのが日本の処理であったが、アメリカも不良債権の残高と政府処理予定金額にギャップが大きいから、日本と同じ道を辿りそうである。含み益というクッションが無い分だけ、アメリカの方がきつい部分もある。この低金利時代は長く続きそうである。
 さて、これらの特徴がワークするかどうかだが、レバレッジを付ける点と民間にDDを任せた点において、うまく出来ているとは思う。かつては民間でレバレッジが付けれていた分野が、信用収縮によってレバが付けれなくなっている状況に対し、政府がその間をつなぐということである。今は、デレバレッジが進んでいる状況だが、その急速な進捗を政府が緩和し、かつ不良債権の回収が終われば、政府の資金も全額返ってくるから、デレバレッジ後の世界が「正常」だとすると、そこには最終的に収斂することになる。
 ただ、アメリカにそのレバレッジを賄うだけの貯蓄があるかだけは疑問で、日本では産業再生機構が資金調達する際には政府保証が付いていたから、資金調達の入札には余資を抱えていた銀行がワラワラと群がったものだが、アメリカにはそんなお金の余った金融機関は現在少ないだろう。今回の措置も、ローン債権の方のファンドにもFRBが資金を出せればその方が良かったのだろうが、政府もこれ以上米国債を刷って、財政を悪化させられないから、保証という形に落ち着いたのだと思われる。保証なら実損が出ない限り、資金負担は無い。政府にお金が無いのは日米共通だが、民間の商業銀行にもそれ程お金が無いのが米国である。お金があるのは年金基金とか保険とかだが、この辺りは商業銀行よりもリターンの期待水準が高いから、政府保証が付いた低利のローンの買い手にはなるまい。そうすると、ローンの金利を上げるか、ユーロダラーを呼び込むしかなくなる。ローンの金利を上げると、そのコスト分だけ不良債権の買い取り額が下がって、原保有金融機関の損失が大きくなって本末転倒になるから、出来ればユーロダラーということになろう。各国の膨大な外貨準備のフローや、外貨預金の見合い資産の投資先にこの政府保証ローンを加えてくれ、とそういうことだが、経常赤字に頼る構造がまた一つ増えることは不安要素である。
 ちょっとバラバラと散文的になってしまったので、強引にまとめると、サブプライム証券化商品から去ってしまった民間資金を政府レバレッジや政府保証によって、無理矢理この分野に民間資金を呼び戻して、流動性を復活させるのがこの仕組の本質だ。だが、その民間資金の中で、商業銀行が担うべきローリスク部分については、金額も大きいだけに貯蓄不足のアメリカでは賄えない可能性が有る。そうすると、また外国からのファイナンスに頼らざるを得なくなり、これは持続可能かどうかが疑問ということである。
 また、民間の資産精査能力とリスクマネーを当てにしたのも、アメリカの持てるリソースを考えれば、至極妥当という感は有る。これまで、金融のスキルとリスクマネーアメリカの経済は大きくなり、そしてバブルを生んだのだが、それを始末するキラーアプリケーションは再び民間の金融スキルとリスクマネーなのである。この辺りに、アメリカ人の自国の金融に対する変わらぬ自信の程が窺え、結局そこは当てにせず、政府主導で不良債権処理を行った国の国民としては、大変面白い。
 最後に、この件、相当大きな話だと思うのだが、中身が難解すぎるのか、ニュースとして新しく無いのか、3月24日の報道以降、ロイター発の翻訳記事以外には殆ど解説記事らしきものが日本のマス媒体に無く、情報集めも難航したことを付記しておく。
Competition
[NIKON D700 /AiAF Nikkor 24-85mm/F2.8-4D]

  • 競争の様に枝を伸ばして咲くソメイヨシノ。この種の花は結実せず、接ぎ木によってしか増えないのだが。さて、このブログもやっと今日で300エントリの様である。