【職員報ノートリミング版・リンクつき】「一人の嘘は万人の実を殺す」!?〜知られざる国勢調査へのいざない

タイトルからいきなり物騒ですが、これは、1920年大正9年)に行われた第1回国勢調査のときに採用された標語のひとつです。さすがは明治憲法下、「国勢調査は、回答することが法律で義務付けられています」これをどう伝えるかについてすら四苦八苦している現在とはずいぶん違います。しかしこの標語は、後ほど述べるように、国勢調査の本質をもっともよく表すフレーズの一つでもあるんです。


中堅からベテランの方の間では知らぬ者はない、この国勢調査。いよいよ今年の10月1日に実施されます。しかし、若い世代にはその言葉すら知らない人が増えてきているとともに、中堅・ベテラン世代の間にも「何の役に立つのか」ということはあまり理解されていません。それに、国政調査とか、「こくぜいちょうさ」とか言われてみたり。。。(笑)

そこで、今回の特集では、その簡単な歴史を含めて「知られざる国勢調査」についてご案内します。


今日にも通じる、130年前の大隈重信による建議

現在の国勢を詳明せざれば 政府即ち施政の便を失ふ 過去施政の結果を鑑照せざれば 政府其政策の利弊を知るに由なし 故に現在の国勢を詳明し過去施政の結果を鑑照するは 是れ政府に在て欠くべからざるの務なり

これは、当時の参議(現在でいう閣僚級の帝国議員)で後に早稲田大学を創立する大隈重信が、1881年(明治14年)に出した建議「統計院設置の件」において述べている言葉です。

国立公文書館に保存されている大隈重信の建議書



一方、実は世界中で行われている国勢調査(「センサス」と呼ばれます。)、その国際基準を示した「人口・住宅センサスに関する原則及び勧告*1」のほぼ冒頭に、こんなことが書いてあります。

証拠に基づいた効果的な社会・経済政策決定は、今日では誰しもが認める方法である。適時・適切に正確な統計を作成すること、さらに小地域あるいは小グループの人口に関する詳細な統計を作成することはその必要条件である。


つまり、今日にも通じる「証拠に基づいた効果的な社会・経済政策決定」の重要性について、大隈公は130年も前に「現在の国勢を詳明せざれば 政府即ち施政の便を失ふ」と建議する形で説いているわけです。



議員提案によって実現した国際基準による調査


国際的には、その後の1897年(明治30年)に開催された第6回国際統計協会総会において、「世界各国の政府は、1900年に、そしてなるべく12月31日に、人口センサスを行う」ことが提案され、現在のような国際基準によるセンサスがスタートすることになりました。


一方わが国では、日清戦争(1894〜95年)が終わった直後に、国際統計協会から前述の勧告を見越した形で世界人口センサスへの参加の働きかけがなされると、「これで名実ともに文明国への仲間入り!」とばかりに国勢調査実施の機運が高まることとなり、「国勢調査ニ関スル建議」が1896年(明治29年)に貴族院及び衆議院において可決されます。そして勧告を挟んだ6年後の1902年(明治35年)、当時としてはたいへん珍しい議員提案により、第1回調査を1905年(明治38年)とした「国勢調査ニ関スル法律」が成立、公布されるに至りました。



第1回調査はまさに「お祭り」!


しかしながら、日露戦争第一次大戦と戦争が続いたこともあって第1回調査は延びに延び、ようやく1917年(大正6年)の建議により実施されるに至ったのが1920年大正9年)というわけです。



写真は、この第1回調査で作られた広島市の広報用ポスターですが、役人的でなくてよいとの評判だったとのことです。ちなみに、「何の為に調べるか」という見出しの下に続いているのは、振りがな付きの次の文章です。

国勢調査は社会(よのなか)の実況(ありさま)を知る為に行ふので課税(ぜいきん)でも犯罪(ざいにん)を探す為でもありません

タイトルの標語とはずいぶんトーンが違いますよね。確かに役所っぽくない感じです(笑)。


このときは、各地で名士による講演会、新聞の華々しい報道、旗行列、花電車、さらにチンドン屋までが広報に活躍したばかりか、調査の日時である10月1日午前0時の前後には、各地でサイレンや大砲が鳴り、お寺やお宮では鐘、太鼓を鳴らし、まさにお祭り騒ぎが繰り広げられたんだとか。



世界標準のデータが食糧危機を救い、500m四方のデータが天災から命を守る!


こうして始まった近代人口センサスは、今や200を超える国で実施されるに至りました。そのおかげで、一国では到底解決できない食糧事情、環境・エネルギー問題などといった地球規模の問題を、同じ土俵の上で扱い、解決を目指すことができるようになっているわけです。


また、わが国の国勢調査結果は、500mメッシュ(網目状。都市部の一部では最小250mメッシュ)で提供されています。このことが最も生かされる代表的な例が防災対策。建物や道路、河川沿岸の分布状況、地震津波、堤防決壊に伴うエネルギーなどといった情報に、国勢調査で明らかにされる細かい人口分布を当てはめることで、被害想定を見積もることが可能となります。そしてそのことが、防災のためのインフラ整備や、町の防災意識の向上につながっていくわけなのです。



回答が法律で義務付けられているワケ


このように、「命」に関わることにも利用される国勢調査「塵も積もれば山」と昔から言われるように、「自分一人くらい」という気持ちでウソを記入したり回答を拒否したりすることは、これが積もって不正確な統計が導き出されることになり、そのことが、自分はもちろんのこと、国内全体あるいは世界中に対して「命」の危険をも含む不利益をもたらしかねない――大げさではありますが、このように本質的に内在するリスクを警告したのが、まさに「一人の嘘は万人の実を殺す」という第1回調査の標語であると言えます。


一方、国勢調査の大切な役割のもう一つとして、「母集団情報を提供する」というものがあります。個人や世帯を対象としたすべての公的な統計調査は国勢調査の結果をもとに設計されているほか(ちなみに、法人や事業所、企業を対象にした調査のベースとなるのは「経済センサス」)、民間企業も含めて行われている多くの調査、分析には、ほとんどといっていいほど国勢調査の結果が何らかの形で絡んできます。つまり、逆説的な言い方をすると、国勢調査が正確でなければ、他のすべての調査は崩壊する」と言っても過言ではないことを意味します。


調査に対する回答義務(法律では「報告義務」)や、虚偽回答、回答拒否の禁止、さらには禁止事項に対する罰則が法律に定まっているのは、調査そのものがきわめて重要だからであることはもちろんですが、まさにこうした「一人の嘘は万人の実を殺す」事態が起こらないようにするためでもあるのです!



実施本部は「区を挙げての『お祭り』の仕掛けづくり」、指導員・調査員は「『お祭り』成功のための現場スタッフ」


地球規模の問題からわが町の問題まで幅広く役立てられることになる国勢調査、これを赤ちゃんからお年寄りまで一人の漏れもなく調査しなければならないわけですから、これはまさに国、そしてもちろん区を挙げた「お祭り」です。そのお祭りに向け、国や都、そして区では、国勢調査実施本部を設置して、その成功のために邁進しています。


なぜ「お祭り」なのでしょう。


花火大会を思い浮かべてみてください。大枠を決めて下準備を担う実行委員会があり、開催日直前から当日を挟んで終了後まで奔走する現場運営スタッフがいます。そうした多くの力があって初めて、来場する多くのお客様に喜んでいただくことができます。


国勢調査もまさに同じ。実施本部の下準備のもとに、多くの指導員・調査員が現場スタッフとして成功を目指して集まってきてくれることで初めて、お客様となる回答者は信頼した上で回答することができ、さらに結果の利用者となった時に安心して役立てることができるようになるのです。


町方と区がスタッフとして一体となって取り組んでいくこの国勢調査に、各職場の多大なるご支援、そして特に若い世代を中心とした職員の皆さんの指導員・調査員としての参画を、どうかよろしくお願いします!





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国勢調査担当者センサスちゃんのつぶやき written by センサスちゃん