柄谷行人 / 革命と反復 序説 (『クォータリーat 0号』太田出版)

 柄谷行人による『トランスクリティーク』以降の新展開を告げる連載とのことだが、まだ連載第一回とのこともあり、とりあえず様子見というところ。とりあえず次号も引き続き読む。
 柄谷行人は80年代後半に60年周期の歴史の反復を考えていた。その内容をざっくり言えば、90年代が30年代の反復になるだろうということ、要するに帝国主義の時代が到来するということ(政治的経済的なブロック化)だが、これはもちろん「単なる予言」ではなく資本主義の周期性の問題(コンドラチェフの波と言われる景気循環)だ。
 連載第一回を読む限りでは、柄谷はこの連載で自身のこの説を廃棄し、その倍の120年周期での反復の構造を提示しようとしている。そして、「フランス革命以来の革命運動の反復の軌跡を構造的に示すとともに、それらの不毛な反復の外に革命運動可能性を見出したいと考えている」。
 僕らが自覚なしに同じことを繰り返しているのだとするならば、その外にでるべきかどうかはともかく、やはりその外に出たいと思う。現在が1880年代の帝国主義の時代の反復であるならば、なおさらそうだ。
 
太田出版
http://www.ohtabooks.com/
 

ジャストシステム・エンタープライズソリューション協議会 / 思考停止企業

 架空企業の営業力強化の取り組みの物語だが、著者がジャストシステムが音頭を取る協議会だけあって、落としどころナレッジマネジメントの導入になっていることは仕方がない。
 だが、それを割り引いて考えても、ナレッジマネジメント導入に関する課題が分かりやすく解説されていておもしろい。いまや何をしなくても売れる商品など、まずない。また、企業が大きくなればなるほど、特定の人間に頼ったやり方は通用しなくなる。具体的なナレッジマネジメントの導入のノウハウが読みどころなのだが、これからの企業に求められる三つのキーワード、すなわち知識武装、提案型営業、組織戦という指摘などは、なかなか見事な整理と言えるのではないか。これらをどのように実現していくのかが、今後の企業各社の競争力を左右する。もちろんその方法は必ずしもナレッジマネジメントシステムの導入とは無関係であり、その意味でナレッジマネジメントシステムの導入を検討していない企業の人にもお勧め。
 

思考停止企業

思考停止企業

 

東渕則之 / 建設会社でも二ケタ成長はできる!

 構造不況業種といわれる建設業において過去十数年にわたって二ケタ成長を続ける脅威の企業が愛媛県に存在している。本書はその企業ジョー・コーポレーションの躍進の理由を平易に解説した本だ。内容は、社長、経営理念・ビジョン、ビジネスモデル、システム化・型決め、行動環境の5つに沿って解説がなされており、記述も非常に平易だ。
 興味深い点はいろいろとあるが、最もおもしろかったのは「システム化・型決め」と「行動環境」に関する部分だ。よくトヨタの「カイゼン」について、「トヨタカイゼンがどういうものなのかは分かるが、どうすれば『カイゼン』を根付かせることができるのか分からない」と言われる。ある意味で、ジョーはこのカイゼンマインドを見事に植えつけた事例として多くの企業にとって参考になると思う。その鍵となるのは、もちろん社長や経営理念・ビジョンなども大きいのだが、仕組み面でシステム化・型決めと行動環境が大きな影響を及ぼしている。
 「システム化・型決め」というのは、要するに標準的な作業手順の明確化のこと。基本的には他企業も含め、最もうまくやっている仕事のやり方(ベスト・プラクティス)を手本にして作りあげられている。例えば、顧客情報の収集の機会として、「営業に始まり、設計・仕様の打ち合わせ、建築中の連絡、さらに建物完成後の定期訪問等、お客様との多様なコミュニケーションの機会」が手順として決められており、もちろんそこから得られた情報はCRMシステムで一元管理されている。
 顧客情報の収集など当たり前のように思えるかもしれないが、漠然と「顧客満足が重要だ」というだけの企業とこうした手順を明確化している企業とではパフォーマンスが全く異なるはずだ。事実、ジョーではこうした手順の遵守を超えて、社員が自発的にお客様のことを考えて行動する社員がたくさんいるらしい。例えば、賃貸マンションの入居者から水道が壊れたから修理してほしいという連絡が夜遅く入り、すぐさま駆けつけると特殊な部材が必要なために取り寄せに時間がかかるため、修理完了まで1日かかること分かり、その説明とお詫びをして帰った後のこと。その担当者はコンビニで1.8リットル入りの水を5〜6本購入し、すぐさまそのお宅を再訪問し、再度のお詫びと同時に水を置いていったのだとか。こうしたことが会社からの支持ではなく、すべて自発的に行われているのだ。
 「行動環境」もおもしろい。この言葉は会社の文化や雰囲気を意味し、「学習と成長」をその核としている。ジョーではなんと就業時間の2割に当たる時間を学習や研修に費やしているらしい。そして、他社からスカウトに来るほどの能力を持つように薦めているのだとか。
 具体的には、月に一冊以上の読書と読書感想文の提出(管理職は月さ二冊以上。社長自身は年間140冊以上読んでいるらしい)、月一本のビデオセミナーの受講とそのレポート提出、各種専門研修の受講とそのレポート提出(特に部課長研修は月一回、土曜日に丸一日かけて部課長全員を本社に集めて研修を実施)、社長以下経営幹部からのレポート配信(内容は社長などの読書感想文であり、これはジョーのホームページ上で一般にも公開されている)、社長以下役員が主催する少人数選抜方式の塾などなど、社員に対して非常に豊富な学習機会を提供している。
 これらはジョーが従来型の法人やお役所を相手にした事業を捨て、個人を相手にした事業を展開していくなかで、従来型の応待ではとても対応できないという現実に直面し、「『応待』自体が商品だ」と考えるに至ったことが背景にある。しかし、個々の社員の能力を向上させること以外に企業を成長させる方法はないという認識を持ったとしても、これだけの学習機会を提供できる企業はなかなか存在しない。もちろん社長や経営幹部層がこれほど学習している企業もなかなか存在しない。社員に学習しろと言うだけの企業ならたくさんあるだろうが。
 
株式会社ジョー・コーポレーション
http://www.jowcorp.jp/&e=9707
 

建設会社でも二ケタ成長はできる!

建設会社でも二ケタ成長はできる!

 

カエターノ・ヴェローゾ / プレンダ・ミーニャ

 ライヴ以来、カエターノのCDばかりを聴いている。だからという訳でもないのだが、ライヴアルバムをよく聴き返していて、2005年2月23日のエントリに書いた『フェリーニへのオマージュ』と並んで『プレンダ・ミーニャ』もよく聴いている。傑作『リーブロ(書物)』、著作『ヴェルターヂ・トロピカル(トロピカリズモの真実)』に続く3部作の完結編とされているライヴアルバムだ。
 先日のライヴでも演奏された「テハ」も収録されている。「テハ」はやはり何度聴いてもすばらしい。既に発表されてから20年ほど経っているにもかかわらず、今の時代でもこの美しさは圧倒的だ。「テハ」とは「テラ」、つまり地球のことだ。

牢獄の独房につながれていた時
僕は生まれて初めて見た
おまえの写真を
おまえの全身が写っている
でも裸じゃなかった
雲に覆われていたからね
 
地球 地球よ
おまえがどれほど遠い存在であれ
どれほど過ち多き旅人であれ
おまえを忘れることは決してないだろう

 知られるように、カエターノは60年代後半に軍事政権によって投獄され、釈放後も2年以上に及ぶイギリスでの亡命生活を余儀なくされた。だが、牢獄での体験がこれほどまでに優しく美しい歌に結晶するなんて奇跡的だと言っていい。パーカッションのリズムに続き、カエターノが語りかけるようにゆっくりと歌い始め、様々な楽器が更にかぶさっていく。宇宙空間のなかにぽっかりと地球が浮かぶように、カエターノの歌声が宙に、意識のなかに浮遊し、そして雄大な大河そのもののようにゆっくりと流れ始める。極上のひと時。これからこの曲を生で聴けるであろう東京公演参加者たちが羨ましい。
 このアルバムの聴きどころはもちろんこの曲に限らないのだけれど、カエターノの音楽をライヴから距離を置いて聴くにはまだもう少し時間が必要なようだ。
 

Prenda Minha

Prenda Minha