創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(311) ボルボの広告(5)

40年前に出した拙著『ボルボ--スウェーデンの雪と悪路が生んだ名車』(ブレーンブックス)を引きながら、車の本質についてあれこれ、考えています。
第1回目(2008.10.24)に「程度のいい中古のフォルクスワーゲンをお捜しなら、ボルボのディーラーへお越しください。」と見出しで呼びかけている広告を見て、けっきょく、スウェーデンの西南ゴーテボーグ市の工場まで取材に出かけたことを紹介しました。
実は、その広告にも疑いの目をむけて、ニューヨークへ出向いて、その広告をつくったカール・アリー広告代理店のアリー社長ほかの関係者を取材するとともに、米国ボルボ社にも手紙で資料を請求しました。ちょっと、スウェーデンから米国へ飛びます。拙著『ボルボ』の[第2章 ボルボ、米国へ突撃す]の前部分です。


第2章 ボルボ、米国に突撃す

ボルボの客層

スウェーデンまで来てしまった(ほぼ既出)
「程度のいい中古のVWをお捜しなら---」(ほぼ既出)


年収1万ドルの既婚者

この広告文に全面的に賛成したというわけではない。いや、はじめは疑ってかかった---といったほうが正確である。フォルクスワーゲン・ビートルの客とボルボの客は、たはして似ているのか? 私の最初の調査は、ここから始まった。
ニュージャージーにある米国ボルボ社からの1964年の調査資料によると、ボルボの所有者のプロフィールき、こうなっている。

      ボルボ所有者   全車平均 
年齢   33.8歳   43.5歳 
男性   91.8%   84.9% 
既婚者  77.1%   ---- 
扶養家族   1,8人   ---- 
年収   9,637 ドル   9,650ドル 
教育(大学)   53.2%    25.2% 
(専門校以上)   77.7%  42.1% 


つまり、ボルボの所有者は、他の車を持っている人よりも、年収は同じであるにかかわらず、年齢は6.8歳若く、2倍の教育を受けているといえよう。彼らの専攻科目をみると、

工学   23.5% 
経営学   19.4% 
教養学科   17.3% 
科学   13.8% 
医学   8.3% 
教育学   7.6% 
管理学   4.3% 
法学   3.1% 
その他   3.7% 


となっており、技術畑の人が過半数を占めている。
したがって、ボルボを買うのに最も適当な米国人は、年収約1万ドル(360万円=当時の交換率による)で、子供が1人いる37歳前後の既婚者ということになり、彼が技術的職についていれば確率も相当に高くなる。しかも彼らは、
chuukyuu注】いまなら、10万ドル(1,000万円)でしょうね。

ボルボのみ所有   46.5% 
1台目の車として   41.6% 
2台目の車として   11.9% 


というふうに考えている。


VWからボルボ


ボルボを買うにあたって彼らが下取りに出す車について調査データをみると、さらにある事実がわかってくる。

輸入車を下取りに出す   44.1% 
米国車を下取りに出す   33.1% 
下取りに出さない   22.8% 


もちろん、これは米国における(1964年の時点での)米国における統計であるから、輸入車というのはヨーロッパ車、日本車のことである。
さらに下取りに出される輸入車、米国車の銘柄別の内訳をみると、


輸入車では、

ボルボ   46.2% 
VW   18.6% 
サーブ   2.6% 
オースチン   2.1% 
ルノー   1.8% 
プジョー   1.6% 

以下、アルファ・ロメオ、ボーグワード、ヒルマン、ジャガー、とつづき、(この時点では当然)日本車名はない。


この調査は、1万2,526人のボルボ所有者に郵送されて返送されてきた4,603通のうちの3,867通を分析してつくられた、相当に大ががりのものであるから、まあ、信用していいだろう。
さて、私は、この調査によって、前に掲げたボルボの広告の書き出し部分---「前からボルボを持っている人を除いて、フォルクスワーゲンに乗っていらっしゃる人びとが、いちばん多くボルボを買っていらっしゃる」というコピーに関する疑いを解くと同時に、笑いだしてしまった。
巧妙なワナを発見したからである。


広告コピーの巧妙なワナ

この調査が行われた1964年(昭和39)には、フォルクスワーゲンは米国に、30万7,173台輸入されており、輸入車の王座を確保していた。
それに対してボルボは、約1万7,000台。VWの10分の1である。
それでも、輸入車の第2位の地位にあった。
もつとも、この年にスウェーデンで生産されたボルボ乗用車は9万6,159台であったから、ボルボの台数が少ないことを笑ったのではない。
いや、むしろ、その年の全生産台数の17%強を米国市場に売り込んだボルボの努力を高く評価したいほどである。
では、なぜ笑ったのか? それはこうである。
1949年に、2台のVWが米国に陸揚げされて以来、1964年までに概算140万台以上のかぶと虫とその仲間が、米国中を走り回っていた。

chuulyuu注】しかも、1959年8月からDDBによってはじまめられたVWビートルの広告キャンペーンは、その質の良さ、訴求のユニークさで、米国の上半分以上の人たちに浸透していた。


ところが、一方のボルボは、1955年以来いくら多めに見積もっても10万台弱が走っているにすぎなかった。
つまり、VWは当時すでに、よく見かける車という域を通り越して、いたるところで目にはいる車になつていたといえる。
そうした事情を知った上で「VWに乗っていらっしゃった人びとが、いちばん多くボルボをお買いなっていらっしゃる」というコピーを読むと、140万人のVW所有者の大半がボルボに乗り替えているような錯覚に陥り、あすにも、ボルボがどっと町々にあふれてくるように思えてくる。
もちろん、広告文自体は、そんなふうには言っていないから、読み手の想像といわれてしまえばそれまでのことだ。
また、事実、同じ調査で、ボルボ以外にどんな車を買うつもりであったか---という問いへの答えが、

ボルボ以外に考えなかった   34.3% 
米国車を買うつもりであった   38.0% 
輸入車を買うつもりであった   27.7% 


であり、輸入車と答えた人の内訳としてた、

VW   40.7% 
ベンツ   10.6% 
プジョー   9.9% 
ポルシェ   7.8% 
トライアンフ   5.5% 
サーブ   4.7% 
ジャガー   4.4% 

以下1%台に、アルファ・ロメオ、オースチン・ヒーレー、ルノーシトロエン、サンビームが並んでいる。


chuukyuu注】ヨーロッパや中東、あるいはアジアからの移民で構成されている米国民のこと、中にはつよい愛郷心をもっている人びとも、当時は少なくなかったろうと思われる。

これでみてもわかるように、ボルボVWの客は、相当に近い関係にあり、VWの所有者たちがボルボに関心を寄せているであろうことも容易に想像できる。
だからこそ、「VWに乗っていらっしゃる人ぴとが、いちばん多くボルボを買っていらっしゃる」という広告文が。巧妙なワナであると、私はいいたいのだ。
私は広告畑で仕事をしている人間だから、こういう言い回しを「うまい」と思いこそすれ、「誇大」とは思わない。ただし、この「うまい」は一歩誤ると、「誇大」につながる危険性もある。

車庫がなければ車庫のいらない車になさるんですね。


ボルボには、車庫など必要ありません。自分で持っています。車を保護するために24ポンドもの塗装がしてあるのです。下とぎ6回、サビ止め1回、プライム(下塗り)2回、そしてエナメル3回・・・ってなぐあい。
この塗装をやる前に、車体を亜鉛燐酸塩の液につけます。こうすると、金属の表面が腐蝕されて塗装をしっかりと定着さすことができるのです。
こんなことで私たちが満足しているなんて、お考えにならないでください。外見は調子良さそうに見えても、中側からひそかにサビ始めている車が多いんですから。内部から起こってくる腐蝕は、車庫だって防ぎきれませんからね。そこで、サビ止め液につける以外にも、金属面にくまなく絶縁剤を接着させています。 これで腐蝕を防いでいるのです。腐蝕なんか、起きるチャンスなし、です。
最後に、下塗りの上にスプレーします。これ以上に保護が必要な個所には、はじめっか上質な亜鉛鋼板を使っています。これだけの配慮がしてない車には車庫も必要でしょうさ。四つ目の前照灯が必要なように、ね。
革庫をお持ちですって? じゃあ、冬のあいだには、モ-ターボートでもお入れになってください。スウェーデンで平均寿命11年。自動串変速装置付のタイプでも、リッターあたり10.6km走り、かつ、このクラスのどのコンパクトカーをも引きはなし、不動産税などビター文もかかってこない車庫に守られている車を所有することで浮いたお金で買ったモーターボートを、ね。




If you don't have a garage, you should have a car that doesn't need one.


A Volvo doesn't need a garage. It has one.
It has 24 pounds of paint to protect it. Six hand rubbed coats: one rustproofing, two prime, and three enamel.
Before a drop of that paint goes on, we bathe the body in zinc phosphate. This etches the metal so it gets an almost unbreakable grip on the paint.
But we don't stop there. A lot of cars look line from the outside, while they're quietly being eaten, alway from the inside,
What'as eatin~ them is condensation, (Evcn a real garage can't keep it out.) So besidcs dippine the body in rustprooling we bond pads of insuiation inside all large metal surfaces. This prevents condensation from forming so it never "gets a change to begin eating.
Finally we spray on the undercrating. Any part that needs more protection than that. we make out of hot galvanized steel in the first place, The result of all this is a car that needs a garage like it needs four headlights
You've got a garage? Store vour cabin crusier it during the winter.,,the one you can buy with all the money you savc owning a car that lasts an average of 11 years in Sweden, gets 25 miles to the gallon even with automtic transmission, still runs away from every other compact in its class, and comes fully protected in a garage that will never cost you a nickel in real estate taxes.