45『英雄の条件  Rules of Engagemen』ウィリアム・フリードキン監督


【スタッフ】
監督:ウィリアム・フリードキン『フレンチコネクション』『エクソシスト
原作:ジェームズ・ウェッブ
脚本:スティーヴン・ギャガン『ラストサマー2』『トラフィック
撮影:ウィリアム・A・フレイカー『ローズマリーの赤ちゃん』『フォルテ』
音楽:マーク・アイシャム『リバーランズスルーイット』『ネル』

【キャスト】
チルダーズ大佐:サミュエル・L・ジャクソンパルプ・フィクション』『アフロ・サムライ』
ホッジス大佐:トミー・リー・ジョーンズある愛の詩』『逃亡者』
ビッグス少佐:ガイ・ピアース『プリシュラ』『LAコンフィデンシャル
モーリン大使:ベン・キングズレーガンジー』『砂と霧の家
ソーカル大統領補佐官ブルース・グリーンウッドカポーティー』『南極物語
モーリン大使夫人:アン・アーチャー『BODY』『パトリオットゲーム』
リー大尉:ブレア・アンダーウッド『ディープ・インパクト』『フロンターズ』
ホッジス将軍:フィリップ・ベイカー・ホールドッグヴィル』『マグノリア
リー将軍:デール・ダイ



【あらすじ】
ベトナム戦争で共に戦った2人の男、海兵隊チルダースとホッジス。
生存率が非常に低い最前線・カールーで指揮を執っていた2人は、一枚の硬貨でその行軍ルートを決めた。結果、水路を取ったホッジス隊はほぼ壊滅。陸路を進んだチルダース隊の救援によって、ホッジスは一命を取り留めたが、その負傷が元で前線からは去ることになる。
28年後、大佐まで出世した2人であったが、流れた時は明暗を分けるようなものであった。独身を通しその生涯を海兵隊に捧げたチルダースは、常に前線で奮戦し数々の軍功を挙げ多くの勲章を受章していた海兵隊の英雄になっていたのに対し、家庭を持ち子供まで持ったホッジスは弁護士となったが目覚ましい功績は残せず、アルコールに溺れた時もあった。
そんな時、イエメンのアメリカ大使館が暴徒と化した民衆に襲われるという事態が起きる。
アメリ海兵隊はこの特殊任務の適任者としてチルダース部隊を派遣する。
激しい住民たちの武力攻撃に耐え、大使を救出するも戦死・負傷する部下が相次ぐ。
ここでチルダースは部下に住民への攻撃を命令。結果、100人近い死者を出してしまう。
この行為が虐殺行為とみなされ国内や国際世論が大きく騒がれる中、チューダースは軍事裁判にかけられることになる。
「気取った弁護士より銃弾を受けたやつに頼みたい」チューダースは自身の弁護を旧来の友・ホッジスに依頼したのであった。
裁判の争点は、「住民たちは武装して海兵隊を攻撃していたか」であるが、その証拠となるビデオテープは政府当局のソーカルの手によって、すでにこの世から消されていた・・・

【感想】
映画技術という面では非常にクオリティーの高い作品である。
まず脚本がいい。戦場、チルダースとホッジスの2人の軍人の仕事と家庭を随所でこまめに描くことによって30年という年月の中で2人が得たもの、失ったもの、叶わなかったものがはっきりと読み取れる。この個人を中心として、ソーカルの「一人のしりぬぐいを何故国がしなければならないのだ!」という言葉がしめすように周りに存在する海兵隊アメリカ軍、国内世論、そして政府や外交とそれぞれの思惑があり、その中で翻弄される2人を通して、個人という人間の限界を知らしめる。
軍事裁判では観ている側は、あの時あの場で起こった事実、つまりチューダースの行為は「正当防衛」=「無罪」であることを知っている。同時にそれを証明するビデオテープがこの世にないことも知っている。加えて、民間人の被害を見せられるとその信念も揺るいでくる。これだけの被害を簡単に肯定する要因がないからだ。
観客にネタばらしをした上で、命を救った大使などの虚言や事実のねつ造が相次ぎ、ここままではチューダースは有罪になりそうなことも観客は知っている。四面楚歌の中、観客はホッジスがどんな戦いをするのかに強い関心が集まる。
同時に、軍の反撃行為による民間人の甚大な被害を見せられるとその行為の正当性云々ではなく
「発砲したという事実」に対する 自信すら揺らいでくる。これだけの被害を簡単に肯定する理由を探すのは難しいからだ。
このような状況に観客を置いての話の進め方は、なかなかの才である。

撮影もとても良い。イエメンでの作戦のシーンやベトナムでの臨場感あふれる回想シーンは、被弾、戦場での死が観客の深く心に印象に残る「戦場での生きるか死ぬか」という極限状態に置かれている部隊の様、そして大佐の有能ぶりが短い時間でよく描かれている。それがしっかり書かれているからこそ、その後の静の部分であり大佐の部門外である裁判のくだりを見る視点がしっかりと座ってくる。裁判での窓のブラインドを生かした陰影も良い。

話は大佐の無罪という結末を迎えるのであるが、その判決に違和感を感じた人も多いだろう。
軍人として行った行為が正当性をもったとしても、イエメンで散った民衆の命が戻ることはないからである。これは戦争という行為が行われる場合、つねに付きまとうパラドックスなのだ。
これを踏まえて私は思う。アメリカだとうがイエメンだろうがベトナムだろうが、これだけ多くの人が心に傷を抱え、生き延びる為にとった止むをえない行為の為に不当に裁かれている中、それらの人の悲しみ・人生すらを肥やしにして、幸せ顔で利益をむさぼているのは一体誰なんだ。彼らは「国」のためというが実際にその下で苦しんでいるのは、「国民」ではないか。「国」のためという大義名分を隠れ蓑にして己の懐を肥やしている連中がいると思うと反吐がでる。

【総評】☆22STARS☆ (各項目5点満点で計30点)
脚本★★★★
演出★★★★
役者★★★★
撮影★★★★
美術★★★
音楽★★★
「やっぱり、映画が好きです。」