シャングリ・ラ / 池上永一

あほ過ぎワラタwww って感じです。いや本当に。ツッコミどころ満載というか、むしろツッコミどころしかないというストーリーで、「風の谷のナウシカ」型SF@地球温暖化後の近未来 だと思っていたら、ドラクエになりやがった。なんだよ武器がブーメランって。10ページごとにジャンプ編集部の干渉を受けてるんじゃないかっていうぐらい漫画チックなネタが多いです。とはいえリーダビリティの高さが尋常じゃなく、気づいたら軽く数十ページめくっていたりして、自分の身に何が起きてしまったのかと不安になりました。魔性の本です。
以下ネタバレという名のツッコミ。

東京以外の都道府県は?

難民ってアトラスいかなくても隣の県いけばよかったんじゃないですか。てか、第二次関東大震災の復興として巨大都市造るぐらいなら首都機能移転しちゃったほうが早いんじゃ。北海道とか、温暖化したらちょうどいい具合の気候になってていいと思いますよ。それに北海道はプレートのずれによって起こる巨大地震は起きないんでそもそも地震対策する必要ない。わざわざ震源地で復興計画たてる意味がわからない。

メデューサのシステムっておかしくね?

例えば、こういう節税スキームを考えてみます。金持ちのAさんが貧乏人のBさんにお金を渡して、「お前、このお金で税金払っといて。どうせBは貧乏だから税率低くなってるし、一定額までなら控除もついてるんだろ。俺が払うと税率が高くてやってらんねーんだよ。で。税金払ったあと返してくれよ。お前にもちょっとだけ手数料やるから」と頼むのです。Aは税金が安くなってハッピーだし、Bは手数料を稼げるのでハッピー、泣きを見るのは税金をとりっぱぐれる政府だけですね。しかし、これは一回ぽっきりのスキームです。その期はこれでしのげるかもしれませんが、次期からはBさんも法的に高額納税者扱いになります。当然税率も上がるし、控除もつかなくなります。というわけで、このスキームはすぐに使えなくなるのです。
炭素税の控除(炭素出しても一定額はカウントされない)がある国に登記上の炭素排出源を移す、というメデューサのテクニックも基本的に同じです。その仕組み自体は現実のタックスヘイヴンを利用した節税と一緒ですが、現実の経済と違ってこの作品内は炭素経済で動いています。炭素経済は、国連主導による世界同時炭素税がある状況なので、炭素税の控除の設定を決めているのも国連です。*1
で、国連は今までの炭素排出実績をもとに炭素税の控除額を決めます。当然、炭素をばんばん出すような地域は次期から炭素税の控除が認められなくなるでしょう。だからこのメデューサのスキームは使った瞬間に、「あれ? なんかこの太平洋の島、めちゃくちゃ炭素税の控除使ってるぞ? じゃあ、それなりに炭素出す地域になったんだな。控除はもう廃止しちゃおっか」となって速攻でばれます。

世界観おかしくね?

近未来SFだと思っていたら、悪魔の実の能力者が出てきてもおかしくない世界観でした。
あと「良き統治者さえいれば国はなんとかなる。それまでには愚民がいくら死のうとかまわん」ってすげー全体主義的です。仮にこれが理想の国体だとしても、自由と民主主義の伝統をことごとく蹂躙してまでやるべきものだとは思えません。何人死んだと思ってるんだ。なんかラストが全然理想的に思えなくて、無駄に殺されていった人間がひたすらかわいそうです。

*1:現実のタックスヘイヴン主権国家なので、他国はおろか国連でもその税制を変えることは不可能に近いですが。