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2016-08-31 ソードアート・オンライン 18

ソードアート・オンライン 18

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内容(「BOOK」データベースより)

アンダーワールド“最終負荷実験”二日目。“人界軍”最強の整合騎士ベルクーリ、スーパーアカウント・太陽神ソルスのシノンを打ち破ったガブリエルは、逃げるアリスを追う。一方、圧倒的な数の“暗黒騎士”に包囲された“人界軍”囮部隊の戦場では、アスナの奮闘、リズベットシリカらの助力虚しく、ついに自失状態のキリトが、ラフィン・コフィンの残党“PoH”につかまってしまう。積年の恨みを晴らさんと、PoHの毒牙がキリトに迫り―瞬間。キリトのこころの中に、声が響いた。それは、共に暮らし、戦い、笑いあった彼の親友の声。たった一人の、最高の相棒の声―。ついに、キリトは復活する。アンダーワールドに生きる“すべて”を、救うために。


 ネタバレあり。

 ついにアリシゼーション編完結。キリト復活からのPoH戦、ラスボスのガブリエル・ミラー戦があって、現実世界での奮戦も描いて、長いエピローグでその後についても書かれてあって1巻でまとまっているのはいいよね。これを見るとAWでも、もう少しテンポを早めて欲しいと思ってしまう。

 PoH=ヴァサゴの過去、そういった理由があると説明されることでなんか逆に不気味さが消えてしまったな。人間らしくなって悪意の象徴愉快犯で何するか何考えているのかわかんねぇみたいな狂人的な怖さはなくなったな。

 彼がキリトに執着する意味、他の人にとって彼が不屈や希望の象徴だったように、彼にとっても希望。明るい世界の象徴でヴァサゴのようなものに染まらずに否定してくるからこそ、その場所から生まれたときから阻害されてきたヴァサゴはその場の象徴であるキリトを同じように否定して潰すことにこだわっていて、わかりやすい目標と言う意味での希望という感じだろうか。

 キリトアスナにログアウトしなかったら時間の加速を戻すまでに200年経過して危険と言うことを伝えなかったのは何でかと思ったら、共に戦うといわれて、アリスをラース側が確保して相手を諦めさせることもアスナを脱出させることもできなくなる恐れがあるからか。

 復活したキリトについてクラインが口走った言葉だが、確かにキリトガブリエル・ミラー戦で繰り出した技といい、それっぽい。

 しかし茅場が彼の影とかではなく、メカ茅場として再登場するとは意外だったなあ。

 それからヴァサゴについてはいやあな伏線が残ったな、リサイクルとかエコなことをせずにすっきり終わらせてくれてもいいのに。

 本編も今まで長かった分、エピローグも150ページとかなり長め。その後のあれこれが書かれているのを見るのは好きなので、こんな感じでエピローグが長く取られているのは嬉しい。

 菊岡は人工フラクトライト搭載の国産戦闘機を諦めていないという話。記憶が削除される前のキリトアスナは、アンダーワールドに閉じ込められていた間にそれを想定していたみたいで、機竜を操作する機士(騎士)たちを養成していたようだ。交渉してアンダーワールド世界の安定のために人員を出すことにはなるだろうが、相手にとっても価値を出すためにと撃墜なるべくされないようにしておきたいという思いもあってそのように制度を整えたのだろうなとか想像してしまうな。

 預言の通りに新たな時代を告げる使者たちとして、キリトアリスの姿を見た本編アンダーワールド世界から200年後のアンダーワールドの機士が伝説的存在を目の当たりにしていることもあるだろうが、その大きな変革があるだろう未来に前向きなのが嬉しいね。

 あとがきを読んだら、個々でひと段落といった感じだから、このシリーズはしばらく神官内のかなと思ったら、巻末の広告ページで2017年に書き下ろしのシリーズ新作がでるとあって嬉しい。早くも来年にSAOの新刊が見られるのかと思うと楽しみだ。

2016-08-30 闇の奥

闇の奥

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闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

船乗りマーロウはかつて、象牙交易で絶大な権力を握る人物クルツを救出するため、アフリカの奥地へ河を遡る旅に出た。募るクルツへの興味、森に潜む黒人たちとの遭遇、底知れぬ力を秘め沈黙する密林。ついに対面したクルツの最期の言葉と、そこでマーロウが発見した真実とは。

 kindleで読了。

 有名な小説だけどようやく読めた。思っていたよりも読みやすかったが、この本が色々と言及されるし、色んな評価がされることの多い理由はいまいちわからなかったな。

 主人公であり語り部のチャーリー・マーロウ英国で海を絆に結ばれている友人たちに自身のアフリカコンゴ)での体験を語るという形式。

 彼が子供の頃には世界地図で空白となっていた土地があった。彼がそこへ向かった当時は空白ではなかった。しかしそこに大きな大河が流れていることを見て、そこでは蒸気船を使っているだろうから、その仕事をしてみたいという気が起きた。そこで親類に運動して、そこの職を紹介してもらう。

 そして彼はアフリカの任地に着く。そこで疲れ果てた現地の労働者たちとその人々を監督する「教化された」現地人、そしてこんな奥地でもきっちりと身なりを整える主任会計士と会う。そして彼からあなたは奥地でクルツと会うだろうと聞かされる。ここで初めて聞くことになるクルツ氏は一番奥地で、他の出張所を合わせたよりも多くの象牙を送ってくるという人物。

 そしてしばらくしてこの地にある会社の出張所の中心である中央出張所に行ったら、彼がそれを使って仕事をすることになっていた蒸気船が沈んだことを伝えられる。そういうわけで船の修理から始めなければならないことになる。

 中央出張所の主である支配人は大物きどりで、能力的に優れたところのある人物ではない。しかしこの地で3年の任期を三回務めたほど体が丈夫という、この地ではある意味最も重要ともいえる資質があった。

 そして支配人の秘書役をしている一級社員は、マーロウが社員になるために使ったパイプが有力者であったので強力な後ろ盾あると思われた。そのため今後地位どうなるか気にしている。

 彼らへの失望もあってか、マーロウの中にクルツ氏への関心が強くなる。

 そして支配人の秘書役である社員に後ろ盾あると勘違いさせたまま、その社員に船を治すのに必要なリベットを送るように頼む。

 それもあってリベットが送られてくると思って、マーロウは機械工の老人に近々リベットがくるぞと伝え二人で喜ぶが結局前々来ないというエピソードはちょっと好き。

 クルツは本社経営陣に背を向けて、原始の森の方へ顔を向けた。

 そんなクルツと会うために支配人らとともに蒸気船で川をさかのぼり奥地へと進むことになる。

 蒸気船に向かって何かの儀式(呪詛か祈りかは不明)を見た彼は『原住民は――いや、彼らは、人間とは思えないというわけじゃなかった。わかるかな、そこが最悪なんだ――ああいうのも非人間的とはいえないんじゃないかと思えることがね。』(N1012)という感想を抱く。野蛮だと見下していたものが自分も相手も大自然の中、その場にあって見ると人間らしい自然なものに映って、それが見下していただけにショックだったということかな。

 奥地に向かう間に色々とトラブルもあったりしたが、何とか奥地出張所。件のクルツ氏がいる場所へとたどり着く。

 クルツと会う前にクルツの下で働く彼に心酔するロシア人の青年に彼についての話を聞く。

 その奥地で王のように振舞うクルツ氏。力・野蛮さでも支配して、象牙を多く蒐集している。かつては『各出張所はより良きものへと向かう途上の標識となるべきであり、通商の拠点となることは当然として、同時に文明化と向上と教化の拠点にもならなければならない』(「闇の奥」N910あたり)と言っていた人物の変わりよう。まあ、言葉も風習も違い、仕事をするには力で威圧するのが一番楽だからいったんそれに流れるとずるずる、そうした行いに染まってしまって変質していってしまったということなのか。

 しかし彼はそれと同時に支配者として現地の人々に認められる存在でもあるということは、ある意味現地に適応してそういう風なあり方になったということなのかな。そうであれば少なくとも欧州の単純な押し付けだけではいけないことはわかっていたということか。

 現在病身であるクルツと対面することになる。そして彼を蒸気船で連れ帰る途中で、彼は死亡することになる。『怖ろしい! 怖ろしい!』(N1946)というのが彼の末期の言葉であった。

 そして欧州に帰った彼はクルツの婚約者と会い彼の最後について聞かせるが、最後の言葉は彼女を慮って彼女に向けた言葉と言うことにした。

 近代西欧文明という光の届かない世界という意味での闇と、近代西欧文明の驕慢さという闇。クルツは、近代西欧を絶対に思っていたから、自身のその観念に亀裂が入ったときに狂わずにはいられなかったということなのかな。

2016-08-28 千の顔を持つ英雄 上 新訳版

千の顔を持つ英雄 上 新訳版

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内容(「BOOK」データベースより)

世界最古の英雄譚といわれるギルガメシュの冒険からオデュッセウスの苦難の旅、ブッダの修行、イザナギイザナミの物語まで、古今東西神話や民話に登場する「英雄」たちの冒険を比較すると、心を揺さぶる物語の基本構造が見えてくる―。ジョージ・ルーカスに“スター・ウォーズ”創造のインスピレーションを与えるなど、世界中のクリエイターたちに多大な影響を与えた神話学者キャンベルによる古典的名著の新訳版。


 『本書の目的は、あまり難しくない例をたくさん提示して本来の意味を自然とわかるようにし、その上で、私たちのために宗教的人物や神話に出てくる人物の姿に変えられてしまった真実を、明らかにすることである。』(P14)神話などの宗教的物語やイニシエーション儀礼)として世界各地で変奏されているが、それらの物語には共通していることの多い要素がある。そうして世界各地で物語や儀式として伝えられている重要なことについての話であり、それらについて多くの神話や儀式の例を紹介しながら、そうした物語の意味について説明している。

 『英雄の神話的冒険がたどる標準的な道は、通過儀礼が示す定型――分離、イニシエーション、帰還――を拡大したものであり、モノミス(神話の原形monomyth)の核を成す単位と言ってもいいだろう。/ 英雄はごく日常の世界から、自然を超越した不思議の領域(X)へ冒険にでる。そこでは途方もない力に出会い、決定的な勝利を手にする(Y)。そして仲間(Z)に恵みをもたらす力を手に、この不可思議な冒険から戻ってくる。』(P54)この基本的な物語の形の中にある、色んな要素を解説している。

 例えば物語の初めの英雄の分離・出立を扱う第一章では「冒険への召命」や「最初の境界を越える」などが書かれて、二章の「イニシエーションの試練と勝利」では英雄に課された試練で、その試す者や援助する者などがどういう意味を持ち、それを経ることでどのような成長を遂げるかについてが書かれる。そして三章では英雄が共同体への帰還についての話が書かれる。また『第二部の「宇宙創成の円環」では、世界の創出と破壊の壮大な姿を紐解く。』(P67)上巻では、二章までが扱われている。

 英雄は困難な道を歩む。そうした自己発見や自己発展の困難な道。『たいていの人は、男も女も、比較的無意識な市民的で部族的な習慣である、あまり冒険的ではない道を選ぶ。しかしそういう人たちもやはり救われる。社会に受け継がれた象徴的な援助の手や、通過儀礼、神の恵みを生む秘蹟など、救い主によって大昔の人類に与えられ、何千年もの間伝えられてきたもののおかげである。内なる召命も外部の教えも知らない人たちだけが、どうしようもない苦境に陥る。つまり、今日を生きる大多数の人々が心のうちでも外でもこの迷宮に迷い込んでいるのである。』(P44)

 しかしその道を通った神話の英雄たちがいるので『私たちは英雄が容易してくれた糸の道をたどればいい。そうすれば、忌まわしきものを見つけるつもりだったのが神に出会い、出会った者を殺すつもりだったのが自らを殺し、外の世界へ飛び出すつもりだったのが自分自身の存在の中心に戻り、ひとりでいるつもりだったのがすべての世界と共にいる、ということになるだろう。』(P46)そうして一つの真実を見つけることで、すべてが関連付けられる。

 『もし英雄が手ほどきの試練をすべて受けずに、プロメテウスのように暴力や抜け目ない策略や幸運によってただ目的に向かって走り、思惑どおりに世界のための恵みをもたらしたら、そのせいで不安定になった力は凶器となって、英雄は内からも外からも打ちのめされ、プロメテウスのように、汚された無意識と言う岩の上で十字架にかけられることもあるだろう。』プロメテウスは正統な方法でなく、力を得たから罰せられたというのはなるほど。そうした見方は知らなかったが面白い。

 『伝統的なイニシエーションの考え方は、若者に仕事の技術や職務、特権を教えることと、親のイメージに対する感情的な関係を合理的に見直すことを結び付けている。秘儀を伝授する者(父親または父親の代理)は、不適当で幼稚な充当(カセクシス)をすっかり取り払った息子にだけ、仕事の象徴を託すことになる。そういう息子なら、自己強化や個人の好み、または憤りと言う無意識な(意識的で合理的な場合もあるが)動機のせいで、正しく客観的に力を行使することが不可能になる、ということはない。理念的には、託された者は単なる人間性を取り払われ、人格のない宇宙的な力を現すことになる。つまり、「二度生まれた」。自分で父親になったのである。その結果、今度はイニシエーションを授ける人間や、案内人や大洋の扉といった役目を負う資格を持つようになる。そしてそれを通じて人は、幼稚な「良きもの」「悪しきもの」という幻想から脱して宇宙的な法則の権威を経験し、希望や恐れを取り払って、本質の表れを理解した心穏やかな状態に慣れるのである。』(P204-5)

2016-08-26 怪人二十面相

怪人二十面相

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怪人二十面相

怪人二十面相


 青空文庫kindleで読了。

 江戸川乱歩は小学生のころに、この本だったかはわからないが、小林少年がでてくるやつを読んだことがあるくらいで、それも今となってはほとんど何も覚えていないので実質今回が初乱歩みたいな感じ。

 もともとが少年誌に掲載されていたというだけあって、思っていたよりも児童文学的な語り口でちょっと意外だったな。

 怪人二十面相は高価な品物を盗む盗賊で、現金は盗まないし、人を傷つけたり殺すことはしないようにしている。だから作中で死者は出ない。

 それから彼は結構大勢の配下を雇い入れて、大がかりな仕掛けをしてその犯行を行うことも多い。大胆不敵な単独犯的なイメージがあったから、それは少し意外だった。しかし二十面相のやり方は今から見たらなのか、それとも少年誌で掲載されていたからなのかはわからないけど、単純なものが多いな。まあ、こういったものは細かいやり方というよりもキャラクターの活躍・すごさを楽しむものだからね。

 それと彼はいつの間にか持ち去っているというよりも、手に入れてから相手に種明かししたりとか語ってから逃げるパターンなのね。本書最後の事件にしても、相手の反応を見るために居残っているしね。二十面相は盗まれた相手の反応が見たい人なのだろう。

 この長編の最初に書かれている羽柴邸の事件で、その家の子息の壮二が夢で盗まれる光景を見て、壮二は夢で二十面相が踏み入れた花壇の中に一つ罠をしかけた。そうするとたまたま二十面相が実際に引っ掛かった。それでも二十面相は何とか逃げおおせたが、それで傷を負った二十面相は壮二を誘拐して代わりにまた違う美術品を要求するというのは大人げないなあ。盗みに入っておいて、怪我をして怒っているという子供っぽさがある人物よね。

 この事件を解決すべく明智探偵に依頼しようとするが、外国に行っていて不在なのでその助手の小林少年がこの事件にあたることになる。しかし助手に任せるのを不安に思っている依頼者に対して小林少年が『助手といっても、先生におとらぬ腕ききなんです。じゅうぶんご信頼なすっていいと思います。』(N530あたり)といっているのは、依頼を受けるためとはいえ、「先生におとらぬ腕きき」とはふかすねえ。小林少年は明智先生に信服しているから、実際はそうは思っていないと思うが、この誘拐事件にかかわるためにさらっとそういうこといっちゃうのなんかいいね。

 小林少年のとっぴな申し出に驚く羽柴氏に、小林少年は『ちょっと考えると、むずかしそうですが、ぼくたちには、この方法は試験ずみなんです。先年、フランスの怪盗アルセーヌ=ルパンのやつを、先生がこの手で、ひどいめにあわせてやったことがあるんです。』(N567)といって説得している。急に他作品がでてきたけど、この物語世界じゃ本当にあったことなのか、適当にハッタリをいっているだけなのかどっちなのだろう。まあ、少年誌の読者へ知った名前が登場させることで、明智のすごさをわかりやすくアピールしているのだというのはわかるけれど。

 小林少年は二十面相の拠点で美術品奪還まであと少しの所まで行くも、彼の盗賊が壁のボタンを押してできた落とし穴で地下に落とされて囚われの身となる。こうした落とし穴とかリアリティーとかは置いておいて、ロマンあるわくわくさせる道具立てでいいね。こうした謎めいた敵方のギミックにはまってピンチにという展開、嫌いじゃないよ。

 もっと怪盗二十面相は、煙のようにいつの間にか目当ての物を取っていき歯がみすることになったり、あるいは阻止したり、あくまで現場での攻防だけかと思いきや意外と二十面相のアジトに侵入できたりするのね。

 地下室にとらわれた小林少年に二十面相は、食事一回ごとにご飯と引き換えに銃やら回答が羽柴邸で盗んだダイヤを取り戻して持っていたのでそのダイヤと交換することにした『二十面相は、この奇妙な取りひきが、ゆかいでたまらないようすでした。』(N930あたり)一気に取り戻さずにそうしてじわじわと取り返すことで、じっくりと勝利を味わおうとしているのかな。二十面相は小林少年や明智探偵に追いつめられることも多く、想像よりもクールな感じではなかったけど彼のこうした彼の遊び心や稚気はいいね。結構彼のそうしたところ好きだな。

 羽柴邸一件が終わった後、二十面相は偏屈な美術収集家日下部老人の邸宅に盗みに入る。

 そしてその後ついに明智探偵と二十面相の直接対決の話が始まる。

 羽柴家の壮二が小林少年のことを友人に話して、小林少年にあこがれた彼ら少年たちは小林少年を団長として少年探偵団を結成することになる。

 そして最後は明智探偵が怪盗よりも一枚上手で、少年探偵団の見せ場もちょっとあってよかった。

2016-08-25 帰ってきたヒトラー 下

帰ってきたヒトラー 下

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内容(「BOOK」データベースより)

テレビで演説をぶった芸人ヒトラーは新聞の攻撃にあうが民衆の人気は増すばかり。極右政党本部へ突撃取材を行なった彼は、徐々に現代ドイツの問題に目覚め、ついに政治家を志していくことに…。静かな恐怖を伴ったこの爆笑小説は、ドイツで大反響を巻き起こした。本国で二五〇万部を売り上げ、映画で二四〇万人動員したベストセラー小説の待望の文庫化。




 テレビ出演時の映像がユーチューブに流されて話題となったヒトラー

 彼のビジネスパートナーであるベリーニ女史は本物のナチではないことを確かめるために彼を調査して不都合な証拠は見当たらないが、同時に彼に関するものも当然に見当たらない。そのためもしかしたら本物のヒトラーではという考えがわずかに頭をよぎったようだが、当然のことながら自分でも本気にはしていない。

 ビルト紙が彼のイメージダウンのために彼を追跡し良からぬことをしているようにも見える写真を撮る。そして昼間から飲酒とか女性との関係とかについての捏造攻勢をかけて、不謹慎なこの男をこらしめようとする。その新聞のインタビューに応じたが、発言を自分たちの思う彼の像にあうように編集された記事が載る。ビルトが意図して悪意に取っているから、同席した事務所の人々は怒っている。しかし奇跡的な偶然でこのコメディアン・ヒトラーは実はヒトラー本人であるから、結果としては描き出された姿はあながち間違っていない。

 しかしビルトの更なる攻撃の一矢であったインタビューでその場の支払いをビルト紙のインタビュアーがしたところを撮影したところを、ヒトラー側は『総統の支払いを<ビルト紙>が?』というキャッチコピーをつけて商品化したことで状況は一変する。

 それに抗議するビルト紙だが、裁判所はヒトラー存命中にこの新聞はなかったし、現在にいるのはコメディアンである総統ヒトラーで、彼にインタビューした時の飲料の支払いを持ったのは事実、そして新聞自身先鋭化した言動を取っているので同様のことをやられたときには相当程度許容しなければならないとして棄却される。

 そして社のイメージダウンを嫌ったビルト紙は敗北を認め、その商品の販売を停止するかわりに件のヒトラー追跡レポートを中止し、彼の芸へのよいしょ記事を2回書くことになる。

 そうやって捏造で攻撃されて、それにへたらずに対抗して勝利する。そうしたシーンは読者を彼の側に感情移入させるような効果がある。またこの場面は、いつのまにやら彼の側に感情移入させられていることに気づかされる場面でもある。

 そのように攻撃も退けて、現代でも着々と地歩を固めていくヒトラー。常に焦らずに行動していてわかりやすい悪人・幸運者というのではなく、一角の人物という感じがでている。

 クレマイヤー嬢から彼女のユダヤ人の祖母が家族を全員殺された話を聞かされても、別段同様もせずにどう説得すべきかと考えていることに彼の怪物性を感じる。『ヒトラーが悪者としてではなく人間的な、あえて言えば魅力ある人物として描かれている』(P283。訳者あとがき)からこそ、ふいに垣間見せるその暗黒にぞっとする。

 そしてヒトラーの活動をドイツを侮蔑した行為だと見なしたネオナチによって襲撃されて、大怪我をする。しかしその時に毅然とした対応をしたことで逆に彼の株があがって、その行為を自分たちの善いほうに解釈した多くの政党から入院中の彼に対してオファーがくる。「新しい」本のオファーもくる。

 そして入院しているヒトラーが病室で次の一手をどうするか思案しているところでこの本は終わる。

 解説によるとこの小説のヒトラーは、あらゆるジャンルの読者が異口同音にばっちりな出来と口をそろえるほど本質をついた姿であるようだ。

2016-08-21 鼠 鈴木商店焼打ち事件

鼠 鈴木商店焼打ち事件

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鼠―鈴木商店焼打ち事件 (文春文庫)

鼠―鈴木商店焼打ち事件 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

大正年間、大財閥と並び称された鈴木商店は、米価急騰の黒幕とされ米騒動の焼打ちにあった。だが本当に鈴木は買占めを行ったのか?丁寧な取材を経て浮かび上がる、一代で成長を遂げつつも、近代的ビジネスとの間で揺れながら世界恐慌の荒波に消えた企業の姿。そして大番頭・金子直吉の生涯。城山文学の最高傑作。

 kindleで読む。

 鈴木商店米騒動で冤罪で焼き討ちされた事件を書いたノンフィクション

 鈴木商店は勢いに乗っていた商社だったが別段高給というわけではなかった。しかし会社の雰囲気がよく、かつて働いていた人々からはいい会社だったと懐かしがられるような会社だった。

 事実に反して鈴木商店は米で暴利を得ているという冤罪で悪玉というイメージを背負わされて、焼き討ちまされる。その創作された奸商鈴木像は少なくともこの本が出るあたりまでは事実と見なされてきた。どうしてそういうことが起こったかについての外的な政治状況、そして鈴木商店の内部事情が書かれている。

 ○鈴木商店の内部事情

 鈴木商店の女主人ヨネは、会社の繁栄は金子直吉と社の人材のおかげだとわかっていたので彼らに経営を任せて、息子たちには経営に興味を持たせないようにしていた。

 そのため鈴木商店金子直吉のワンマン経営であった。金子直吉の判断で物事が進む。

 そして鈴木商店の内部に土佐派(丁稚からのたたき上げの人物など)と高商派(神戸高商や東大・一橋出身者。近代派)があった。とはいっても、米騒動時点ではそこまで派閥的な対立はなく、会社を挙げて渾然一体となっていた。

 高商派を代表する人物が、その能力を見込まれて鈴木の女婿となった高畑である。

 米騒動時点で両派閥の対立が顕在化していなかったのは鈴木商店の名支配人西川文蔵の尽力もあってのことだった。彼は金子直吉と高商派の間に立って、意識的に新旧両者の断絶を埋めようと努力していた。

 金子に若手のホープ高畑が会社を近代化することを求めても、彼は株式会社にするといろんな情報を公開しなければならない、そうして手札を公開することを嫌がった。それに金子は忠臣でもあったので主家を差し置いて自分が社長となれない、すると重臣の一人となるので自分が独断で進められず、合議でやらねばならないのを嫌がった。

 そうして会社の近代化を拒む金子直吉と近代化を求める高畑との対立を西川がとりもっていた。

 高畑には1年目に大失敗した時に親身に慰めてくれた西川に恩義があり、一方西川は西川で直吉に恩があり、そして金子はヨネに恩がある。そして高畑はヨネの女婿で、鈴木と一体化している。そういった連環のなかで、苦労しているのが西川。

 ○金子直吉と政界との関係

 米騒動当時の寺内藩閥内閣の後藤内相が金子直吉と親交があった。そのため内閣を倒すために何でもしようという野党の憲政会やら、大阪朝日新聞によって鈴木が叩かれる。

 その大坂朝日新聞は奸商鈴木のイメージを創作した。

 朝日は二年前に鈴木が第一次大戦中に敵国ドイツ向けに米を輸出しているという記事を書いたが誤報だった。その誤報を認めたが、最初の国賊鈴木のイメージが残った。

 以前に麦粉取引の中で、売り浴びせをして来た三井ら売り手連合に対して買いをした鈴木。結局それで鈴木は大きな儲けを得た。それで売り手側が新聞や憲政会代議士を使って攻撃をしてきたが、鈴木はその悪あがきに反応を示さなかった。しかしその買占めと巨益のイメージと2年前のドイツへと輸出という誤報が、後の米騒動の時に転化されることになる。

 金子直吉との政界との接触。経済行政についての政治家の意見は拙いしので、金子直吉は『気まぐれな、それでいて命にかかわる嵐を避けるためには、政治との絶えざる接触が必要であった。(中略)台湾以来の付き合いで、直吉はその窓口を後藤新平としていたが、だからといって寺内藩閥内閣の後押しをしようとしたわけではなく』(N1435あたり)あくまで経済問題で変なことをしないようにという接触だった。しかし『たまたま直吉が選んだ窓口は、当時の政治社会では、最悪の窓口であった。攻撃の標的とされるのに打ってつけの窓口でもあった。小廻りのきかぬ直吉は、仮に最悪と気付いていても、やはりその窓口を通さずには居られぬ性格であった。/ というより、現実は直吉も西川もその辺の事情をもっと無造作に考えていたようである。』(N1440あたり)

 『直吉が献金するのも「えらい政治家になって日本のために尽くしてくれたら」という極く素朴な天下国家主義から出発していることが多く、露骨な反対給付を期待しない。それだけに政治家とフランクに付き合えたのだが、その一方では、最後のところで政治家を動かす力とならなかった。世間に騒がれる割には、彼は政商に徹しきれない。親しさが目立つだけに帰って世論を刺戟したり、反対等の怨みを買ったりもした。』(N4195あたり)後藤内相など政治家との付き合いで特別利益を得ようとしていないからこそ親しかった。だが。その親しさから米騒動の時のような捏造によるバッシングの対象となった。

 ○米騒動時の鈴木商店の実際の行動と外部の情勢

 米騒動の時に鈴木が実際に行っていたこと。それは政府からの依頼で鈴木商店朝鮮米を移入してきて、安値で内地で売っていた。一石ごとにいくらかの手数料があるだけで損はしないが、他の用途で船を使ったほうが儲けは断然大きいものだった。

 その依頼を自由にでき船が国内で一番多く後藤と親しかったことで、鈴木商店が担うことになった。つまり国内混乱を収めるため薄利でその仕事をしている。

 しかし鈴木がその仕事で暴利を貪っていると自ら創作することの虚構の事実に憤る大阪朝日。そうした印象操作で鈴木焦点を悪玉に仕立て上げる。同時期の大阪毎日はそうした理不尽な鈴木焦点叩きはしていない。

 徹底的な大阪朝日の攻撃だったが、世間には新聞を軽んずる傾向がこの時あり、鈴木社員も気にしていなかった。危険性に気付いた西川は大阪朝日に誤報の訂正を求めるもそれは容れられず、直吉の政治力で対処することを求めたが、直吉は悪いことをやっていないのだからそうした対処をする必要がないと思って、無視する姿勢をとっていた。

 その頃直吉は鉄問題での大仕事をしていた。

 当時、世界大戦による世界的鉄不足で米国が鉄の禁輸をした。米国の鉄に依存していた日本には死活問題だった。船不足でもあったので、船を多く売るかわりにその対価を鉄でもらうという契約を金子直吉が取り付ける。そうして日本重工業の危機を救った。 直吉は大阪朝日の攻撃の頃、この大交渉をまとめていたので、大阪の一新聞のバッシングを気にかけていなかった。

 そうして正しい、疚しくないからと意固地になったように何も手を打とうとしない金子。

 そうして大阪朝日によって悪玉にされて、追いつめられた民衆のはけ口にされそうという状況で、何も手を打たなかった。そのため結局現状への不満が爆発して、悪玉にされていた鈴木商店が焼き討ちされる結果となった。

 ○そして焼打ち後

 しかし鈴木の事件あって米騒動の報道禁止令がだされた。それに反対する大阪朝日の記事で、意識してか否か「白い虹日を貫けり」という故事を使ったが、それは革命の前兆を意味するものでもあった。失態を待っていた当局は大阪朝日新聞を朝憲紊乱で告発し、不敬罪も適用しようという構えを見せた。

 それに裁判所も極刑で臨む姿勢を見せて、発行停止をにおわせた。裁判中に寺内藩閥内閣が終わり、平民宰相原敬首相となる。政友会内閣となったが寺内・山県と組んでいた政友会はさんざん攻撃されたので、朝日新聞に対しては前内閣の方針を踏襲する構えを見せた。

 そのことで大阪朝日は社長と論説関係者全員が退社することになった。

 このことで大正デモクラシーでの言論の自由が後退。大阪朝日の捏造を交えた報道を掣肘するための朝憲紊乱と不敬罪。このことが原敬にその線で取り締まりを強化することを考えつかせた。そうした考えがやがて治安維持法へと至る。

 結局大阪朝日の行き過ぎた言動、バッシングが結局言論の自由を狭めることにつながってしまった。

 そして鈴木商店の金子ワンマン体制、そして鈴木商店は御存じのとおり関東大震災で崩壊することになる。そして最後金子の失意の晩年などが書かれる。