其の419:お洒落女子向き映画「唇からナイフ」

 最近、<男の子映画>ばかり書いていたから、たまには<女の子向き映画>を書こうかな^^

 さて、一時期<渋谷系>なる言葉が流行ったが(今では“死語”)、今回紹介するアクション・コメディ作「唇からナイフ」(’66)もその文脈に入る一本だろう。一言でいえば“ポップでキッチュな映画”(笑)。主演は・・・驚くなかれ、あのモニカ・ヴィッティ!そして監督が、な、な、なんとジョセフ・ロージーだぜ〜!!今作、ぶっちゃけそんなに面白くないんだけど(笑)、こういった趣の映画は近年作られなくなったし、ヴィッティもロージーの名もとんと聞かなくなったので・・・あくまで“記録”する為にここに記す!


 女泥棒モデスティ・ブレイズ(=もちヴィッティよん)は、今では足を洗い悠々自適の生活を送っていた。そんなある日、彼女にイギリス政府から“ある仕事”を依頼される。イギリスは中東・マサラ王国の石油採掘権獲得のため、5千万ポンドのダイヤを送ることになったのだが、謎の国際盗賊団がそのダイヤを狙っていることが判明。そこでモデスティにダイヤを護衛してほしい、というものだった。そこで彼女は長年の相棒ウィリー(=テレンス・スタンプ)と共にことに当たることにする。ダイヤを狙っているのは、南地中海のとある島に本拠地を置くガブリエル(=ダーク・ボガード)の一味。モデスティ、ガブリエル、そしてイギリス政府それぞれの思惑が絡みあうなか、遂にダイヤ輸送作戦が開始されたのだが!?


 今作で何より驚かされるのはヒロイン:モデスティ・ブレイズ(←原題)に扮したのがモニカ・ヴィッティ(1931年、イタリア・ローマ生まれ)だという事実。ヴィッティといえば巨匠ミケランジェロ・アントニオーニとのコンビで「情事」(’60)、「夜」(’61)、「太陽はひとりぼっち」(’62)、「赤い砂漠」(’64)・・・といった俗にいうところの“愛の不毛”のおねーさんだぜ!!都会以外には生きられそうにない、あのけだる〜い、アンニュイ〜なおねーさんが、こんな漫画原作のアクション・コメディに出ようとは!!原作のファンだったのか?狂気じみた女の芝居に飽きたのか?はたまた生活の為かは定かではないが(→だが、その他の出演作を調べたら「私は宇宙人を見た」という東スポの見出しのような作品にも出とる:爆笑)今作の彼女は非常に楽しそう!へっぴり腰ながらアクションもちょこっと披露するし、シーンが変わる度に衣装も変わる(それも全てがセクシーでオシャレ!さすがに現代の街中ではちょっと着れそうにないが)!!この辺りは今作の前年に公開された泥棒コメディの快作「黄金の七人」のロッサナ・ポデスタの影響もありそうだ^^。

 そして次に驚くのが・・・監督が、あのジョセフ・ロージー!!映画に詳しい人なら、彼の代表作としてジャンヌ・モローの「エヴァの匂い」(’62)とか「召使」(’63)、カンヌでグランプリ獲った「恋」(’71)辺りを取り上げるのが普通なんだけど・・・あえて「唇からナイフ」を取り上げるのも、このブログならではということで(笑)。中田秀夫監督がリスペクトするこの御仁は作品同様、彼自身も非常に興味深い人生を送った人で・・・1909年にアメリカで生まれ、監督デビューしながらも、“赤狩り”にあってイギリスに亡命。「死ぬ前にもう一本、真のアメリカ映画を作りたい」と思っていたにも拘わらず、その機会はなかったりするのだが・・・もっと詳しいことが知りたい人は後は自分で調べてね(笑:筆者は多忙なのよ)^^。そんなロージーが今作を監督したのは・・・謎!原作が好きだったのか、プロデューサーにごり押しされたのか、はたまた生活の為か?いずれにしても多分現場は楽しかっただろうと筆者は想像している(笑)。

 そんなロージーが「エヴァの匂い」でも組んだエヴァン・ジョーンズに脚色させた今作は、セットに幾何学模様やポップ・アートをふんだんに取り入れ、演技も台詞回しも完全に“オフ・ビート”を狙って撮られている(ジャンプカットもありありで、いきなりヴィッティのヘアスタイルさえ、同ポジで変わる!!)。今作も「007」のヒットの流れを組んでいるのだが(本家を越える妙ちきりんな武器も多数登場)・・・何故か、どの作品も「007」の二番煎じ作ると緊張感まるでなしのコメディに変貌する(苦笑)。先程、<ヴィッティの衣装チェンジ>について、「黄金の七人」の影響を指摘したが(違ってたらメンゴ)・・・今作の<ポップ&キッチュさ>はーこの翌年に作られた女たらしの“耽美派監督”ロジェ・ヴァディムによる「バーバレラ」(’67)に影響を与えた気がしないでもない。人気漫画の原作、華麗なヒロイン(→主演は当時のヴァディムの奥さん、ジェーン・フォンダ)、そしてヒロインの名前が入ったテーマ曲があることも共通してるし(考えすぎ??)。

 邦題がどこからきたのか、よく分からない上に、展開がたるいのに尺が2時間もあるので、あと30分ぐらい切れば良かったと思うのだが(笑)、近年の出演作では“目の怖いじいさん”ー「テオレマ」、「コレクター」のテレンス・スタンプは今作では若く、他の作品では見られないぐらい楽しそうにいきいきアクションしてるし、「ベニスに死す」では原作小説のモデル、作曲家のマーラーを完コピしてたダーク・ボガード(→彼はロージーの「召使」にも出演)も、敵役をの〜んびりと怪演。ヴィスコンティの「ベニス〜」や「地獄に堕ちた勇者ども」、「愛の嵐」のときの“デカダン”状態のボガードしか知らない人が観たら驚くこと必至!そういった意味でも「唇からナイフ」は、よく言えば名匠がメジャー俳優を集めて作った“びっくりおもちゃ箱”のような映画。悪くいえば、ロージーがどっかで何かを間違えて出来ちゃった“珍品”・・・かな(苦笑)?どんな大監督でも1つぐらいはハズした作品作ってる人の方が多いし、彼も人間なんで、そこは笑って許してあげよう^^。



 <どうでもいい追記>今月号の「CUT」は特集が「70年代、映画は狂っていたのか?」と題し、「タクシードライバー」、「地獄の黙示録」、「時計じかけのオレンジ」をメインに取り上げているが・・・このブログの第1回から読んでみればわかるように、答えは「イエス」だろう。但し、それには<歴史的背景>があることは忘れてはならんのだが。加えて、邦画について言及していないのはちと残念!

 ・・・そうそう、前回とリンクするんだけど、マーティン・スコセッシロバート・デ・ニーロコンビの最高傑作は、一般的には「レイジング・ブル」というのが“定番”だけど・・・そうか?筆者は「タクシードライバー」の方がいいと思うのだが。勿論、「レイジング〜」は名作だけど、どうも伝説の“デ・ニーロ・アプローチ”に皆ひっぱられ過ぎてる気がするんだよね〜。ちなみに「〜黙示録」は、正直どちらのバージョンにしてもマーロン・ブランドが出てきてからは面白くない(→そのため、このブログでは山ほどネタあるけど取り上げていない)。かの“ヘリ軍団”のシーンは、年に1回はチャプターでよび出しては、そこばっか観るぐらい好きではあるのだけれど(苦笑)。