江戸川乱歩「日本探偵小説の系譜」

『一人の芭蕉の問題(Amazon)』という乱歩の日本ミステリ論集をそろそろ手放そうかなあと思い、ここに入ってる収録作って青空文庫でどれくらい読めるんだろうと見にいってびっくりしたんだけど、あんなにたくさん(百本以上)公開作品並んでるのにエッセイに関してはほぼほぼ入ってないのね。
 で、ぱらぱらめくってたら、表題のエッセイが結構面白く読めたので99円で売ってみよっかなあと本文を抜いてみた。
 のだけども、その作業終わったところで、青空文庫に入っていないにせよ、乱歩ってば、電子版の全集もあったよななど思いつき、検索してみたら、本編所収の『続幻影城』はちゃんと電子版も出ていた。これ。

 となると、電子出す意義もねえかとなり、表紙作る気力がわいてこなかった。
 なんだけれども、青空文庫のラインナップ見ても、エッセイ全然収録されてないのってもったいないなあという気がどうしてもしてしまう。
 とかあれこれ考えているうち、ここに本文貼っておくから、これ叩き台にして誰か青空文庫にファイル提出しちゃって、みたいな放り出しもありではないかという気になってきた。ので以下に本文貼っておく。ほんとは最後のほうで言及されている木々高太郎の論も並べられたら面白いと思ったのだけど、没年見るとまだまだ著作権保護期間中なので果たせなかった。
 そんなわけで以下本文。

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織田作之助『合駒富士』

KDPリリース。今回は織田作之助の『合駒富士』
Amazonに書いた紹介文は以下。

織田作之助が昭和十五年から十六年にかけて野田丈六名義で『夕刊大阪新聞』に連載した著者初の長編時代小説。戦後の1948年に単行本刊行、1955年に『江戸の花笠』とタイトルを変えて出版されたが、2024年5月現在新刊本ではもとより『青空文庫』でも読めない(作業中リストに掲載)幻の作品と化している。本バージョンは『底本織田作之助全集第一巻』を底本として、およそ70年ぶりに同書を復活させたファン必携の一冊である。

 青空未公開なら出せば読みたい人もいるかな、くらいの軽い気持ちで作ってみた。お値段198円。
 長編時代小説と書いたのだけど、読み終えると著者がやろうとしたのは長編時代探偵小説ではなかったかという気がしなくもない。衆人環視のなかで起こる殺人事件だの暗号だのってなモチーフが出てくるし、最後はいちおう謎解きで終わるからである。
 けれども、書いているのは織田作之助である。スピード感が信条の作者と不可能犯罪だの暗号解読だのの相性はベストマッチとは言いがたい、というよりも織田作之助に探偵小説の文法使いこなせってのが無理な注文なのかもしれず、それなのに暗号のアイデアが出ちゃったもんだから、思わずそれっぽい筋でっちあげたのか、それともこの暗号のアイデアは連載途中に思いついたもので冒頭時点では「謎の詰将棋と殺人事件」っていうコンセプトしかなかったのかが読了時には疑問になった。というのも、ある難問の詰将棋棋譜(っていうの?)を中心にして話は進むのだけど、これが図としては掲げられていないのである。本文からは王が五五にいるということくらいしかわからない。で、詰まない詰まないとやっている。もちろん、データがないので読者が先回りすることも不可能。もしも連載開始時にラストまで考えていたら、図をつけたほうが最後の驚きは倍加するとわからなかったはずがないので、ひょっとすると開始時、解決考えてなかったんじゃなかったかと思う次第である。が、考えていなかったのなら、このオチつけるのはなかなかすげえとも思ったり。
 というような方向に焦点がいってしまうのは、おれがミステリー好きだからで、自分のバイアスを割り引いて考えるんだったら、これは将棋好きたちが事件に巻き込まれる話になるだろう。すぐ横で殺人事件が起きても将棋を続けちゃう主要キャラたちは、チャンバラするより将棋してる場面のほうが多かったりする。それが本書最大の特色かもしれない。
 と書くと動きがないように思われてしまうだろうけれども、そんなことはなく、むしろ随所に複数の視点人物を同時に動かしてところどころ適度な巻き戻しも入れて映画だったら盛り上がりそうな演出が見られる。そうした工夫は初読時よりも二度三度と再読したときのほうがはっきりわかるので、これ買ってくれた人には二度読み三度読みをお勧めする。いや、マジで。ついでにいうと、改行のペースも相当速いのでページ数から想像するほど時間もかからない。自分はこれ入力したり校正したりしてるときに、織田作之助の伏線技術みたいのにちょっと感心したりした。語り口が好きでたまに読みたくなるくらいの位置づけで話の内容とか読んだ途端に忘れてあとには語り口だけが残る、みたいなイメージで、才気のままに書き飛ばす人って印象だったから、へーこんなこともするんだ、みたいな驚きがあった。この『合駒富士』単体で傑作かと問われるとなかなか返事に困る(←リリースしといてそういうのか……)けれども、あれこれ織田作之助読んでいる人なら、これ読んでからほかの短編読み直せば見え方変わるだろうし、これ自体も「へえ、こんなのも書くんだ」と面白がれるだろう。ことに、ラストの謎解きのそれっぽさなんかにちょっと笑えるはずだ。
 っつーことで、Amazonの紹介文を繰り返すなら、本書はファン必携の一冊である。よかったら買ってね。

合駒富士

合駒富士

Amazon

石川淳選集収録作品一覧を作ってみた

 先日、そろそろ読むかと本棚の奥から『至福千年(amazon)』を引っ張り出して読んでみた。石川淳読むのは久々。
 つまんなかったらポイするつもりだったんだけど、やっぱり読むと面白い。どこがどうとはいいにくいのだが、読んでいて楽しい。ポイどころかもっと読みたいとなり、いっそ全集みたいので揃えてみてはどうかなんてことまで思ってしまった。で、あるに決まってるだろうからWikipediaの項目で全集何冊本なのか確認してみっかと調べたら、

石川淳著作集』全4巻 全国書房、1948-49
石川淳全集』全10巻 筑摩書房、1961-62
石川淳全集』全13巻 筑摩書房、1968-69、増補版・第14巻 1974
石川淳選集』全17巻 岩波書店 1979-81
石川淳全集』全19巻 筑摩書房 1989-93(※翻訳編も収録)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%B7%9D%E6%B7%B3

 バージョンありすぎだった。
 で、日本の古本屋いって検索かけてみたところ、死後の19巻本と74年までに完結した14巻本で嘘みたいな価格差がある(ちなみに19巻本も新刊では入手できないし、入手できたとしても定価ではまったく手が出せない)。安い方が嬉しいが74年までとなると収録されていないのはどこからなのか、手許には『狂風記』と『六道遊行』はあるけど、これにプラスしてあと何冊探せばいいのか、など気になるところで、どっかに収録作一覧はねえのかと検索してみたら、奇特な方が収録作リストを作ってくださっていた。それも14巻本19巻本両方である。ありがたい。

kenkyuyoroku.blog84.fc2.com
kenkyuyoroku.blog84.fc2.com
 見較べてみると、14巻本が出たあとのものが追加されて19巻本になったというわけでもなさそうである。おまけに19巻本なら解説は鈴木貞美だ。しかし、圧倒的な価格差、むむむ……。となって、ことのついでに選集17巻はどんな感じなんだろとこれも検索してみた。岩波書店のページを見ても収録作一覧はない。上記サイトにも選集はない。日本の古本屋を見てみてもお値段はわかるが収録作まではわからない。サイズはコンパクトな新書版とある。スペース的には負担が軽そうであるが、さてはて。となったところで、地元の図書館にあたる手があったと思いつき、検索してみたら全集はないが選集はヒットしてくれたので、どんなもんか確認して見るべしと一巻予約する。
 開けてみたらなんと「佳人」が未収録(自選集らしいんだけど、デビュー作を入れなかったんだ……)にちょっとびっくり。で、いちばんうしろを見てみたら、おやまあ全巻収録作リストが載ってるじゃないの。っつーことでそれを入力してみた。
gkmond.hatenadiary.jp
 ニッチもニッチなデータではあるけれど、おれはこのリストが欲しくて彷徨ったのだし、まあ折角入力したのだから有用かどうかなんて度外視する。このあと各収録作品付き合わせ、読んだものを確認し、どのバージョンがいちばん自分にフィットするか考える予定(なんだけど、どれを選んでも半分近くは評論で、読みたいのは小説だけだから、結局手を出さずに終わるかもしれない)。

ウィルキー・コリンズ 仮井三十訳『カインの遺産』

 ってなわけでepubにしたところで苦労したり作品情報入れるところでロイヤリティの設定条件に驚いたりしていたこれ、無事リリースにたどり着いた。

 エントリータイトルでわかるように、作者は『白衣の女』『月長石』なんかが有名なウィルキー・コリンズ。結構好きなので一度訳してみたかった。これを選んだ理由は今までに訳されたことがなさそうな作品のひとつだったのと、コリンズが生前最後に完成させた作品だったから。
 『毒婦の娘』の解説で佐々木徹が「後半失速気味だが、前半は極めて好調で楽しませてくれる」と書いているのが、自分に見つけられた唯一の作品評ってレベルで言及が少ない作ではあるけれど、訳している分には楽しかった。
 テーマは「道徳性は遺伝するのか」って問いで、物語は監獄を舞台に始まる。夫殺しで死刑宣告を受けた囚人が悔悛しないどうしようってところから評判のいい牧師が呼ばれる。囚人は牧師に悔悛してやってもいいけど条件があるって言い、自分の娘を養子にして欲しいと頼む。牧師はそれを引き受ける。さあこの子がどう育つでしょう、にあれこれの大映ドラマっぽい要素が加わるのだけど、贔屓の引き倒し的なことを言わせてもらえば、出揃った大映ドラマな要素を津原泰水が『赤い竪琴』でやったみたいなずらし処理かけようとしていて興味深かった(とは言え、その手つきは津原みたいに洗練されたものではないため「後半失速」という読みが成り立っちゃうんだけど、そこに作者の願いみたいなものがあるんだというふうに訳者のおれは読んだ)。
 このへんもうちょっと書いてみたい気もするけれどリリース初日からネタバレ記事書いてどうするっていう気もするのでこれくらいにしておく。
 とりあえずサンプル読んで気に入ったら続きも読んでもらえたらと思う。お値段安くしてないので、キンドル・アンリミテッド登録してる人がきまぐれ起こしてくれると嬉しいなあ(もちろん購入してくれる人がいたら大喜びしますが)。

 
 

  

35%と70%

 前回の続き(?)
 EPUBファイルをどうにかこうにか作成し、見直しとかもして、そろそろアマゾンさんにアップロードですかねって気分になったので、登録情報をポチポチやっていった。
 KDPのロイヤリティを決める項目で35%にしますか70%にしますかってのを選択する箇所がある。70%を選ぶには読み放題に登録しなきゃいけないとか著作権者でなければいけないとかそういう縛りがある。今回作ってるのは作業量も結構あったので奇蹟: 柴田宵曲随筆選のときみたいに99円で売るのは無理(奇蹟の場合は無料がないので有料の下限に設定しただけだった)と考えており、これくらいはほしいよねというロイヤリティの腹づもりもして数字を入れてみたのだけど、なんと上の条件以外に70%ロイヤリティを受けられる価格の上限なんてもんがあったのね。知らなかった。希望金額入力したらその金額だと35%しか選択できませんって言われちゃったよ。もともとKU登録してる人をメインターゲットにするしかあるまいと思っていただけに定価はむしろ好きに設定してしてしまえと思ってたわけだけど、好きに設定するとロイヤリティの%が減るんじゃもっかい考え直さなきゃいけないなあっていうか、現実問題としては読み放題設定できる範囲に収めるしかないよなあ。やらないと知らないままのことは色々あるもんだと思いつつ上限の数字を入力した。2000円とか強気の値付けがしてみたかった。まあ、仕方ない。っつーことで、もうすぐリリース。何も問題なく出てくれるだろうか。

EPUBファイルをくっつけたり分解したり不意にあらわれた目次を消したり

『鬼啾啾』KDPしたときに、結構な苦労をしたのに、『通夜の人々・見えぬ顔』出したときは割とスムーズに公開までたどり着いたもんだから文字飾りさえなきゃどうとでもなるだろうと高をくくって次のKDP用ファイルをポチポチ作成して、表紙なんかも仮こしらえして、そろそろキンドルでどんなふうに見えるかチェックしとこうかなあって一太郎さんにepubファイル作らせてプレヴューワーで開いてみたら、なんか一画面一文、みたいな区切り方がなされていて慌ててsigilにファイル放り込んでみれば、恐ろしい数のdocumentってファイルが並んでいた。
 入力方式はまえと変わらないのになぜこんな未体験ゾーンに突入した? と首をひねったが、なぜ起きたかよりもさっさと直してしまおうとファイルをマージして邪魔なタグ消してってやっていったら、途中から今度は複数の章が1ファイルにまとまっており、ここまで1章1ファイルにしてきたんだから、最後までそうしたほうがよかろうがどうしたらそうできるのかと考えて、スキルがないのだからちまちまやるしかあるまいってことで、コピーとデリートに頼った整形をちまちま行った。ファイルのコピーつくって元ファイルは冒頭の1章残して全デリート、コピーしたファイルは冒頭の1章デリートしたら名前変えてコピー作って冒頭になった章以外全デリートみたいなスマートさゼロスタイル
 何回かこれ繰り返して一休みがてらプレヴューワーでファイル開こうとしたら、レイアウトがおかしいどころか開けなくなっていた。なぜ……と涙目になりつつ調べてみたら、目次のリンクがエラーを起こしているらしいとわかる。
 ファイルのリネームは自動で更新してくれるスマートなsigilさんもコピーしたファイルまでは追いかけてくれなかった(そりゃそうだ)っつーことで、作業に目次のリンク修正も加えてスマートさゼロスタイルの作業は続く。
 途中で「このあと本文をいじろうと思ったら元の文書ファイルとepubファイルの両方とも別個の更新作業しないと駄目なんじゃない? 文書ファイルいじってepub出力したらまた一からやり直し状態なんだよね」と気がついたがもはや後の祭りであった。
 で、ちまちまちまちまと作業を続け、最後まで1章1ファイルに仕上がったのでプレヴューワーでファイルを開いた。今回は目次が直っているので開けた……が、今度はなんか前回なかった謎の横組み目次が発生していた。なんで? こんなん出なくていい。と、思ったときに、そういえば『鬼啾啾』作ったときに、どっかの解説記事でタイトル前に出てくる横書き目次(現れたのはまさにそれ)消せるって言ってたような。と思い出したので検索。
 当時見たサイトが出てくる前にこちらの記事がヒット。
note.com
あーそうだったそうだった、論理目次とかいう言い方見たよー、でも作り方じゃなくて消し方なんだよねえ、と思いつつ読み進めていったら、

Sigilの左側にあるブラウザナビで順番を設定してください。

論理目次(navi.xhtml)はテキスト(xhtml)の最後にドラックして移動

HTML目次(toc.xhtml)はテキストの最初へ移動してください。

これで論理目次とHTML目次が設置できました。

 と書いてあり、自分のファイルを見るとnavi.xhtmlは上から二つめくらいの場所にあった。だから突然登場したの? でも最初からこの位置で前回見てみたときは出て来なかったし、ほかの作品ファイルでもこんな出方してなかったけどなあ……と思いつつ、ものは例なのでファイルの場所を動かしてみた。
 そしたらば、
 消えた。ちゃんと非表示になった。
 なんでなのかはわからんが問題解決(たぶん)。
 もうちょっと確認作業して問題なければ(まだありそうな気もするけど)リリースへ向かいたい。今回は自分で訳した翻訳。
 オチはないけど、リンク先の記事に助けられた話の前後関係は書けたからこのエントリーはこの辺で。