Hatena::ブログ(Diary)

メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

20141230(Tue)

[]今年のオレを振り返ってみた 今年のオレを振り返ってみたを含むブックマーク 今年のオレを振り返ってみたのブックマークコメント

今年も残すところあと僅かでありますねえ。さて、本だの音楽だの映画だのとこれまで数回にわたって「今年のまとめ」をしてきましたが、今回は「自分のまとめ」でございます。オレの今年一年を振り返ってみようという、多分他人様には誰も何一つも興味の湧かないまとめをしようというわけなんですな。

まあ1年過ごしてりゃなにがしかはありますが、実のところ毎年たいしたことやってません。だいたい仕事と趣味以外でオレのやってることといえば日記書いてるか酒飲んでるかのどちらかであります。ええ、ホントたいしたことないんです。そんなたいしたことのないオッサンの1年はどのようにたいしたことなかったでありましょうか。

1月

◎長野にカピを見に行った

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お正月は相方さんと一緒に長野県須坂市にある須坂市動物園でカピバラ見たり温泉に入ってきたりしてました。カピも温泉入ってました。子カピがいっぱいいて楽しかったなあ。

長野カピバラ旅行 その1 カピに引かれて?善光寺参り篇
長野カピバラ旅行 その2 須坂市動物園でカピバラ温泉篇

2月

◎ブログが10周年を迎えた

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2004年2月21日から書き始めたオレのブログ10周年を迎えました。この間に更新したエントリは2989件、1件1200文字ということでざっくり計算すると3586800文字、400時詰原稿用紙で8967枚、1ページ480文字の文庫本だと7473ページ、1冊300ページの文庫本だとするとだいたい25巻の分量になります。要するに10年で文庫本25冊分の文章書いていたってわけですね。これは文庫本の巻数だけだと池波正太郎の『鬼平犯科帳』全24巻を超え、山岡荘八の『徳川家康』全26巻に匹敵する分量であろう、というわけですな!いや、分量だけだけど!内容に関しては触れちゃいけない!(あと計算は適当だからね!)

書いたブログが10周年!飲んだビールが5万本!?

3月

◎お花見をしてきた

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場所は神奈川県は衣笠にある衣笠山公園。JRの駅を降りてから歩いて20分ほど。着いてみると桜はまだ満開というほどでもなくてちょっと寂しかったんですが、とりあえず相方さんとお花見気分だけ味わってまいりました。

お花見してきたよ

4月

平々凡々と過ごしていました。

5月

◎ブログ作法のエントリを書いた

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「わしのブログももう10周年、もはや巨匠の名をほしいままにしているこのわしのブログ極意を下々のものに教授してあげようかの」という偉そうな目論見の元、『誰にも何の役にも立たない9つのブログ作法』というしょーもない文章を書きました。読んでも何の役にも立ちません。むしろ、立ってたまるか!という内容です。

【ブログ10周年記念企画】しょーもないブログを10年書き続けたオレが明かす、誰にも何の役にも立たない9つのブログ作法!

◎またもやカピバラ見に行った

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連休はカピバラさんたちに会うために、相方さんと一緒に伊豆稲取にある動物園「伊豆アニマルキングダム」へ行ってきました。

伊豆アニマルキングダムへカピバラたちに会いに

6月

◎相方さんの誕生日会だった

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相方さんのお誕生日祝いということで、一緒にお茶の水の「山の上ホテル」にある『天ぷらと和食 山の上』で食事をしてきました。実は…すっごい高級店なんです…。

『天ぷら 山の上』でお食事

7月

新江ノ島水族館に行ってきた

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7月も平々凡々と。水族館に行ってクラゲみてきたぐらいですかね。クラゲいいですよね。ユラユラしてて。

新江ノ島水族館に行ってきた

8月

◎またしてもカピバラを見に行った!!

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お盆休みは相方さんといっしょに千葉市原にある動物園「市原ぞうの国」、それと隣接する「さゆりワールド」に行ってきました。もちろんカピバラと会うためであります。「さゆりワールド」は沢山の動物たちが放し飼いになっているところで、これは圧巻でした。もちろんカピバラいじりまくってきました。

カピバラに会いに市原ぞうの国とさゆりワールドへ

9月

◎オレの誕生日だった

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誕生日には相方さんといつもどこかで食事して祝ってもらっているのですが、インド映画にはまりまくっていたオレは今回迷わず「インド料理食べに行きたい!」とリクエストしました。そして先日出掛けたのが八重洲にある「南インド料理ダクシン」。インド料理はまあまあ食べたことはあるんですが、南インド料理となると初めてだったんですよ。そんなわけでちょっとわくわくしながらお店に入りました。

南インド料理店ダクシンでバースデー

◎バレエなんぞを観てしまった!

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このオレがなにをトチ狂ったのかバレエ「白鳥の湖」を観に行ってきました。クラシックのではなく、コンテンポラリー・ダンスと呼ばれる、いわゆるバレエの現代的解釈版というやつです。演出・振付はマシュー・ボーンという方。場所は東急シアターオーブで、相方さんと二人で観に行きました。バレエは全然知らないし初めてだったんですが、大変素晴らしかったですよ。

バレエ「白鳥の湖」を観に行った

10月

◎そして性懲りもなくまたしてもカピバラを見に行ったッ!?

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10月の3連休は千葉はマザー牧場までまたしてもカピバラを見に行ってきました!

カピバラに会いにマザー牧場へ

◎帰省していた

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母親が入院したというので北海道の実家に帰省していました。見舞いに行く以外はすることがなく、故郷の町をぶらぶらしておりました。

帰省(その1) 帰省(その2) 帰省(その3)

11月

◎再び帰省していた

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母親の体調が思わしくなく、またもや帰省しました。

再び帰省

◎文フリに参加した

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知る人ぞ知る映画評論同人誌『Bootleg』にこのオレも執筆することになり、文フリに顔出してきました。オレの書いた原稿はインド映画についてです。準備期間3ヶ月!参考文献5冊ぐらい!全部で7000〜8000字!結構がんばって書きましたがどんなふうに読まれたのかなあ。文フリで買えなかった人は「新宿ビデオマーケット」というところで売っているらしい(通販もあり)ので興味があったらご一読を。

11月24日開催の文学フリマ出展の映画評同人誌『Bootleg』にこのオレも参加します

文フリ終了

12月

◎「スカイツリーハラミ」を焼いた食った美味かった!

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肉美味かった!けど12月も肉食った以外たいしたことしてません。

それはスカイツリーハラミだったッ!!

まとめのまとめ

…というわけで今年一年を振り返りましたが、いやあ、カピバラ4回も見に行ってますね。

あと思い出に残っているのは春頃からず〜〜〜〜っとインド映画ばかり観ていたのと、同人誌にインド映画の原稿書かなくならなくなっちゃったから、ず〜〜〜〜〜っとインド関係の本をマーカー片手に読んでいたってことですね。もう50もとっくに過ぎてんのにいったいなにやってんっすかね。まあ好きなことばかりず〜〜〜〜〜っとやってた、ってことでいいんじゃないでしょうか。

それと年とって体が衰えてきているのが如実に自覚されてきた年でもありますねえ…。ああ!若さがうらやましい!若さが妬ましい!オレももう一度若くなって!そして…もっとバリバリブログを書きたい!(結局それかよ)

さて長々とお付き合いありがとうございました。今年のブログの更新はこれで終わりです(といっても今年もあと1日だが…)。来年は適当に始めます。それまでどちらさまもご機嫌よろしゅう。それではよいお年を!

20141229(Mon)

[][]今年面白かったインド映画10選+1 (2013年公開作まで) 今年面白かったインド映画10選+1 (2013年公開作まで)を含むブックマーク 今年面白かったインド映画10選+1 (2013年公開作まで)のブックマークコメント

今年は自分にとって「インド映画元年」ともいえるようなインド映画にはまりまくった1年でした。本当に衝撃的な出会いでしたね。詳しくはここのエントリーで書きましたが、もうほとんど毎日、朝から晩までインド映画を観ていましたよ。この間ざっと観た本数を数えたら、100本に迫る勢いでした。そしてそのどれもが面白く、また興味深い作品だったんです。しかしそれでも、まだまだ観るべき作品を観ていないような気がしてならず、まだまだ知識が浅いものであるように思えて、インド映画探訪の旅はどうにも終わりが見えません。

そんな今年観たインド映画の中から、心に残った10作を選ぼうと思いましたが、並べてみると新しい作品、分かり易い作品が多くなりました。この辺はにわかインド映画ファンの選びそうな作品ということで生暖かく傍観してあげてください。また、「あれが入ってない」「100本観てこの程度か」「ヒット作ばっかりじゃん」等の意見もあるかとは思いますが、この辺も初心者の至らなさということでご容赦ください(SRKの超有名作も何本か観て、これも凄まじく感銘を受けたのですが、王道すぎるのであえてランキングに入れないことにしました)。

ただ逆に、インド映画に馴染の無い方でも、ここで選んだ作品は面白く見られるものが多いのではないでしょうか。ある意味このランキングが、これからインド映画を観ようとされている方のガイドになればいいかと思っています。そうそう、自分のよく利用させてもらっているインドDVDのネットショップを紹介しておきますので、「そんなに面白いって言うんならDVD買ってみようか」と思った方は参考にされてください。最新インド映画DVDの入荷がとても早く、対応も発送も早い、という素晴らしいお店です。

インド映画DVD・CD販売 Ratna - Bollywood Style Shop ラトナ ボリウッド ショップ

なお、面白かった作品がとても多かったものですから、今回は2013年公開作までということで絞らせてもらい、2014年公開作に関してはまた後日まとめてみようかと思っております。なにしろ2014年インド公開の話題作はまだ全て日本じゃ観られませんからね。そんなわけで行ってみることにします。

1位:Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela (監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー 2013年インド映画)

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インド版ロミオとジュリエットとも言えるこの物語は、美しくもまた凄惨なラブストーリーとして大いに心に残り、自分がインド映画を観始めるきっかけともなった作品でした。まず最初に1本、といえばこれしか考えられません。

二人の出会い、高まる気持、人目を忍ぶ密会、結婚を誓う二人、そして駆け落ち。映画は二人の切ない恋の行方を、インド映画らしい躍動感溢れる踊りと美しい歌で盛り上げてゆくんです。そこに目の痛くなるほどの原色に彩られたインドの神々が踊る艶やかな祝祭シーンが盛り込まれ、その高揚はいやが上にも高められていきます。しかしそれと並行して、対立する二つの家の抗争が、町全てを巻き込みながら次第に血生臭いものへと化し、暴力と死がじわじわと画面を覆うのです。そして物語は、鮮烈で幻惑的な色彩美、匂い立つようなエキゾチシズム、熱狂と陶酔、そして死と生のコントラストに彩られながら、運命のクライマックスへとひた走ってゆくんです。 《レヴュー》

2位:チェイス! (監督:ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャーリヤ 2013年インド映画)

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ひたすらゴージャスなアクションとダンスに魅せられました。輸入DVDで観たときは日本でも公開しなきゃおかしい!とブログで書きましたが、実現してしまいましたね。

オープニングが凄い(渋い)!バイク・アクションが凄い!ダンス・シーンが凄い!アーミル・カーンが凄い!とにかく全部凄い!2013年末に公開され、インド映画史上最高の興行収入を叩き出し、世界的にも稀な記録的興行収入を上げたという大ヒット・ボリウッド・ムービーがようやく日本でも公開されることとなりました!『きっと、うまくいく』のアーミル・カーンが主演のド派手なアクション、ということは予告編で知ってはいたのですが、実際観てみるとこれが!大ヒットもうなずける、ひたすらハイテンションで突っ走る最高にエキサイティングなノンストップ・アクション・ムービーだったのですよッ! 《レヴュー》

3位:Bhaag Milkha Bhaag(邦題:ミルカ) (監督:ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ 2013年インド映画)

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実在するアスリートの数奇な運命を描いた、どこまでも熱く感動に満ちたスポーツドラマでした。そして2015年、『ミルカ』というタイトルでいよいよ日本公開されます。是非ご覧あれ!

この作品は、様々な苦難を体験しながら、それを乗り越えて頂点へと立つミルカーという一人の男の姿が描かれるが、その彼の持つパキスタンへの遺恨とその克服は、そのままインドとパキスタンとの遺恨を克服することへの願いに重なっていくのだろう。映画が表現しうるあらゆる要素を詰め込みながら、夢と希望とその大成を描くこの物語は、まさしく映画の中の映画と呼ぶに相応しい堂々たる完成度を持って観る者の胸に迫ってくるだろう。しかもこういったストーリーにもかかわらず、歌と踊りもきちんと盛り込まれ、楽しませることを忘れていない。スポーツにまるで興味のない自分ですら、この作品には十二分に感銘を受けた。これは見事と言っていい作品だろう。 《レヴュー》

4位:チェンナイ・エクスプレス〜愛と勇気のヒーロー参上〜 (監督:ローヒト・シェッティー 2013年インド映画)

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シャー・ルク・カーン、ディーピカ・パドゥコーンというインド2大スターが共演したアクション&ラブコメディ。南インドの風光明媚な風景が素敵でした。日本語版DVDがリリースされています。

映画そのものもコメディらしく非常にテンポがよく、合間合間に「チェンナイアイアイエクスプレース♪」なんていうノリのいい歌が入ってポンポンとシーンが移り変わっていくんですね。主人公ラーフルはいつも途方に暮れているかジタバタしているかのどちらかで、ミーナーはいかにも気の強い娘さんという感じで、二人は最初ツンツンしあっていますが次第に打ち解けていくんです。そしてこの二人を気持の高まりを象徴するかのように劇中挿入される南インドの極彩色の祭りが、これがもう、もんの凄く美しく、そしてエキゾチシズムたっぷりなんですね!こうして主人公ラーフルの目を通し、最初「南インドこええ!南インド野蛮!南インド田舎!」と描かれていたものが、「南インド綺麗だなあ。南インドの人たち優しいなあ。南インド素朴でいいところだなあ」と変わってゆく様子、それを観客が追体験してゆくんですよ。 《レヴュー》

5位:Kahaani(邦題:女神は二度微笑む) (監督:スジョイ・ゴーシュ 2012年インド映画)

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超絶的な展開を迎えるサスペンス・スリラーの一級品とも言える作品です。来年『女神は二度微笑む』というタイトルで日本公開予定ですので、これも是非ご覧になって下さい。

映画はヴィディヤーと警察官ラナが、少ない情報から一人の男を探し回るという、探偵推理物語として進行してゆきます。しかし探索を経れば経るほど謎は深まり、国家ぐるみの不可思議な陰謀・隠蔽工作がそこに関与していることがほのめかされ、遂には殺し屋までが登場して冷酷な殺戮が進行してゆきます。さらに冒頭で描かれる地下鉄毒ガス事件がヴィディヤーの夫探索とどう関係してゆくのか殆ど描かれず、観る者もまたヴィディヤーと一緒に事件を推理してゆくことになるんです。果たしてヴィディヤーの夫はどこにいるのか、ミラン・ダムジーとは誰か、国家諜報部はなぜ捜索を中止させようとしているのか、そしてヴィディヤーはなぜ命を狙われるのか。コルカタで今、何が起こっているのか。謎が謎を呼び、サスペンスはいやが上にも高まってゆきます。 《レヴュー》

6位:Singham (監督:ローヒト・シェッティ 2011年インド映画)

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正義の警官が大暴れを演じる笑っちゃうぐらい物凄いバイオレンス・アクション映画です。ここまでやられると拍手喝采するしかありません。

この『Singham』の面白さのひとつは、正義一直線のスィンガムが繰り出すド派手なアクションです。ワイヤーアクションとスローモーションを多用し、人はクルクル宙を舞うわ車はボンボン吹っ飛ぶわ、まるで重力なんか存在しないかのような奇想天外なアクションが描かれます。この限りなく誇張の甚だしいアクションが実にマンガチックで、爽快感たっぷりであると同時になんだか思わず「ぷっ」と笑ってしまいそうな馬鹿馬鹿しさがあり、そこがまたよかったりするんですよ。 《レヴュー》

7位:Delhi 6 (監督:ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ 2009年インド映画)

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アメリカからインドにやってきた青年が目にするインドの美しさ、そして彼の直面する様々なインドの問題。アビシェーク・バッチャン、ソーナム・カプールの好演はもとよりA・R・ラフマーンの音楽が素晴らしかったです。

美しいインドと醜いインドの狭間の中で、主人公ローシャンもまた自らの抱えるアンビバレンツに悩まされることになる。それはアメリカ人として育った合理的なアイデンティティと、自らの中に流れるインドの血という気質との葛藤だ。さらにローシャンは、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の父母を持ち、そのような異教徒同士の駆け落ちの中で生まれた男だったのだ。アンビバレンツはローシャンの恋した娘ビットゥーにも存在する。露出度の高い服を着、「TVタレントとして活躍したい」と夢見るビットゥーは、インドの現代的な女性であるが、その彼女は親の決めた相手との結婚、というインドの古い因習に心を引き裂かれてゆくのだ。そして、ローシャンの抱えるアンビバレンツ、ビットゥーの抱えるアンビバレンツは、実はそのまま、5000年の歴史と著しい経済成長の狭間にあるインドそのものが抱えるアンビバレンツを描くものだったのだ。 《レヴュー》

8位:Agneepath (監督:カラン・マルホートラ 2012年インド映画)

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幼い頃父親を眼前で殺された男の、マグマのようにドロドロと熱く煮えたぎる復讐の物語。血と暴力との応酬が描かれるその合間に、夢のように挿入される歌と踊りがまた素晴らしいんです。

もう冒頭から怒涛の展開の連続です。悪鬼のような形相の敵役カーンチャーの登場、狂気に駆られ暴徒と化した村人、豪雨の中目の前で殺される父、ボンベイ黒社会の恐ろしい人身売買の描写、心身喪失状態のまま警官を殺してしまう主人公少年、黒社会に足を踏み入れたばかりに母や妹と離れて生きる主人公の孤独、その家族との絆、娼館の娘カーリー(プリヤンカー・チョープラー)との切なくささやかな愛、陰謀と殺戮、突然襲い掛かる悲劇、そして年月を経てもなお決して消えることのない、父を殺した男への深い憎悪。物語はこうして、ただただ復讐だけを誓って生きる一人の男の、嵐のように揺れ動く数奇な運命とその行方を、圧倒的なまでの情感で描いてゆくのです。そしてそれらに、インドならではの土俗と自然、文化と宗教が荒々しくもまた鮮やかな色調を加えているのですよ。 《レヴュー》

9位:Lootera (監督:ヴィクラマディティヤー・モートーワーニー 2013年インド映画)

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ベンガル地方の長閑な田舎町で出会った男女の恋が、衝撃的な事件を迎えることにより、疑惑と不信に満ちた憎しみの物語へと変わってゆきます。文学的な雰囲気がたまらなくよかったです。

物語は後半から切なくもまた悲しい男女の愛と業との物語へと様変わりしてゆく。柔らかなベンガルの自然を描く前半から後半は冷たく厳しい冬山の別荘へと舞台を移す。それはヴァルンとパーキーの二人の関係の変化を表しているかのようだ。しかし緊張感は一気に増すものの、この後半でも文学的な薫りが全編を覆っているのだけは変わらない。実はこの物語、誰もが知るある有名な短編文学を基にしているそうなのだが、タイトルだけで内容がバレるので書かないでおこう。誰もが知る作品だけにクライマックスで陳腐化しないか心配な部分があったが、これは前半でもきちんと伏線が張ってあり、上手く物語の中に消化していたように思う。美しく静かに愛の残酷を描くこの物語は、しかしそれでも、愛は愛であり続けることを謳い上げるのだ。これは存分に打ちのめされた作品だった。 《レヴュー》

10位:マッキー (監督:S・S・ラージャマウリ 2012年インド映画)

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殺されてハエに生まれ変わった男が復讐を誓う!?という荒唐無稽すぎる物語ですが、その荒唐無稽さがとんでもない面白さへと繋がってゆく傑作コメディです。

いやあ笑った笑った!そのあまりにとんがった「有り得なさ」具合に笑い転げて観ていました。人間から転生したハエの復讐劇、というお話だけでも「なんじゃそりゃ?」というキワモノ感満載なんですが、これを本当に成り立たせちゃってるところが凄いんですよ。「いやしかし、ハエでしょ?しかもたった一匹で、いったいどうやって復讐するの?」と思われるでしょうが、そこがこの映画の見所なんです。ブンブンまとわりついて鬱陶しがらせ、夜も眠れないほど消耗させるなんてまだ序の口。商談中の社長の邪魔をして破談に持ち込んだり、運転中の社長を苛立たせて大事故に持ち込んだり、しまいにはブチキレた社長が部屋中で銃をぶっ放し部屋をメチャクチャにさせたりするんだからオソロシイ! 《レヴュー》

マッキ― [DVD]

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とまあ10本選びましたが、やっぱり2014年作がないのも寂しい、ということで、「暫定:今年面白かったインド映画2014年公開版」を置いときます。この時点で『Happy New Year』も『Haider』もまだ観てません!

Bang Bang! (監督:シッダールト・アーナンド)

Ek Villain (監督:モーヒト・スーリー)

Hawaa Hawaai (監督:アモール・グプテー)

Hasee Toh Phasee (監督:ヴィニル・マシュー)

2 States (監督:アビシェーク・ヴァルマン)

Queen (監督:ヴィカース・ベヘル)

Highway (監督:イムティヤーズ・アリー)

Filmistaan (監督:ニティン・カッカル)

Khoobsurat (監督:シャシャンカー・ゴーシュ)

…さて、あれこれ書きましたがなんか忘れてませんか、と。そう、あの暴力警官映画です!だってこれ、別格なんだもん!

別格:ダバング 大胆不敵 (監督:アビナウ・シン・カシュヤップ 2010年インド映画)

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ベルトくいくい!!

チュルブルは跳ぶ、重力など存在せぬかのように。チュルブルは駆ける、世界で最も早い獣のように。彼の剛力は全てのものをなぎ倒し、石壁さえも破り、敵を高々と宙へ放り投げる。鬼神の如く、という言葉があるけれども、この時チュルブルはまさしく活殺自在の鬼神なのであり、それはヒンドゥーの破壊創造神シヴァそのものだ。そう、インド映画は、その画面の中で疾風迅雷の活躍を見せるヒーローに、ヒンドゥーの神を重ね合わせているに違いないのだ。この時、一介の警察官でしかなかったチュルブルに、鬼神が宿るのである。神であり鬼神であるチュルブルは無敵であり、ゆえに「恐れるものは何もない(=Dabangg)」、そして悪を成すものは徹底的に叩き潰す、なぜならその勧善懲悪こそが神意だからである。 《レヴュー》

20141228(Sun)

[]2014年・オレ的映画ベストテン 2014年・オレ的映画ベストテンを含むブックマーク 2014年・オレ的映画ベストテンのブックマークコメント

さてさて、年末恒例の「映画ベストテン」となりましたが、…ええと、今年オレ、あんまり劇場で映画観てません。春頃から殆ど、インド映画漬けになっていて、ハリウッド話題作とか全然観る暇がなかったんですよ。暇がなかった以上に、ハリウッド映画に興味が失せた、というのもあるんですけどね。さらに、たまさか観たハリウッド話題作がどれもこれもうんざりさせられるような作品ばっかりだった、というのもありますね。

なんて言うんですかね、もうホント、「殺してばっかり」とか「壊してばっかり」とか、どうでもよくなってしまいましてね。もうオレもいい歳なんで、生かすこと・生み出すこと・幸福であること、そういったことのほうに価値を感じるんですよ。もう「観ていて何も考えなくていい作品」に耐えられなくなってしまったんです。まあなにしろ年寄りの言ってることなので、若い方はどんどん殺してばっかりとか壊してばっかりとか超人ヒーローの映画観るといいんだと思います。オレも若い時そうだったし。

そんなことを考えながら、今年観た数少ない非インド映画の中で面白かった作品を並べてみたら、やっぱりハリウッド作品が少なかったなあ。どちらにしろ、数観てませんので相当偏った選考になっておりますが、どうぞ悪しからず。なお、インド映画に関しましては別枠ということにして明日やります!

1位:リアリティのダンス (監督:アレハンドロ・ホドロフスキー 2013年チリ・フランス映画)

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カルト映画監督アレハンドロ・ホドロフスキー、23年振りの新作!もう今年観た映画の中でぶっちぎりの最高傑作、今年どころかオールタイムベストテンに入れてもいいほどに胸を打つひたすら素晴らしい作品でした!

では『リアリティのダンス』は何が描かれていたのか。それは少年アレハンドロと彼の一家とを、自伝という形式を取りながら再構築する、といったものだった。実際のホドロフスキーの父はただ抑圧的な親だったという。しかしその父は映画の中で苦難に満ちた彷徨の未に自らの心の裡にあるデーモンと対峙し、遂に家族への真の愛に目覚める。そして実際の母はオペラ歌手に憧れながらも親の反対で平凡な売り子として生きることを余儀なくされていたが、映画ではその母はいつもオペラを歌い、慈愛の中で神と交信する聖母として描くことになる。そして少年アレハンドロは、これら再構築された両親の間で、最終的に大きな愛に包まれることとなるのだ。すなわち『リアリティのダンス』は、自伝の形に見せながら過去を救済し、幸福の中で完結させようとした物語だったのだ。 《レヴュー》

2位:天才スペビット (監督:ジャン=ピエール・ジュネ 2013年フランス・カナダ映画)

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夢があり、冒険があり、驚きがあり、楽しく、美しく、そして救済がある。これはジュネ監督のキャリアの中で、新たな地平を切り開いたと言っていい傑作ではないでしょうか。

理解できなかった父が、抜け殻だった母が、自分のために体を張って大立ち回りを演じる。それは息子へ愛ゆえだったが、スピヴェット君はこれまで、こんなに自分が愛されている存在だったということを知らなかった。両親の強い愛情を目の当たりにして、スピヴェット君は、自分は、ここにいていいんだ、ということを改めて知る。スピヴェット君は、旅を通じて、自分を知ることになる。そして旅路の果てに、両親の愛を知ることになる。またその両親は、スピヴェット君の家出とも言える一人旅により、今自分たちにとって、最も守らねばならないものはなんなのかを知る。そうして最後にお互い同士が、失いかけていた家族の絆を取り戻すことになるのだ。全てに対して、乗り越えるべきことが乗り越えられ、救済があり、幸福が待っている。これはなんと素晴らしく、心豊かになることのできる映画なのだろう。ジャン=ピエール・ジュネの『天才スピヴェット』は、そういった部分で、現在最強の映画であるかもしれない。 《レヴュー》

3位:ぼくを探しに (監督:シルヴァン・ショメ 2013年フランス映画)

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奇妙な登場人物たちと奇抜な映像、摩訶不思議な世界観とユーモラスであると同時にどこかブラックな物語。ジャン=ピエール・ジュネミシェル・ゴンドリーの系譜を継ぐフレンチ・ファンタジー監督の誕生です。

この作品のテーマを一言でいうならやはり「記憶についての物語」ということができる。映画はフランスの文豪マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の引用から始まるが、ポールの記憶を呼び戻す役割を担うのがマダム・「プルースト」という名前なのは当然意識してのことだろう。そしてポールは蘇った記憶を辿るが、そこには当然悲惨な過去の事実が存在する。しかしその悲惨の記憶をもう一度幸福の記憶に読み変えようと試みるシナリオは、なんと先ごろ公開されたホドロフスキー監督の『リアリティのダンス』そのものではないか。こうしてショメはノスタルジックな映像の中にマジカルな一瞬を挟み込み、幸福の過去を未来の幸福へと繋げるのだ。 《レヴュー》

4位:グランド・ブダペスト・ホテル (監督:ウェス・アンダーソン 2014年ドイツ・イギリス映画)

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ウェス監督らしい様式美と色彩美、それが舞台となるヨーロッパの情景に巧みに溶け込み、非常に素晴らしい世界観を表出させていました。

もう一つこの映画を楽しめた理由には、主人公グスタヴ・Hが実直で誇り高い、ある意味古風かつストレートな性格であり、そのシンプルさが理解し易かった、という部分があった。キャラクターとして生き生きとし、魅力に満ちているのだ。さらに物語は殺人事件のサスペンスとアクションがふんだんに盛り込まれ、物語それ自体への興味が最後まで尽きない。ある時はハラハラし、ある時は拍手喝采の物語展開。素敵ではないか。 《レヴュー》

5位:オンリー・ゴッド (監督:ニコラス・ウィンディング・レフン 2013年デンマーク/フランス映画)

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非常に生々しいバイオレンスが全編を覆う作品でしたが、レフン監督はそのバイオレンスを通して東洋と西洋の神話性が邂逅するさまを描き出していたのです。

映画の異様さは、神経症的なシンメトリー画面の多用と、暗い闇の中で躍る毒々しい赤と青のライティングと、重低音の強調された電子音が鳴り響くBGM、さらに、何の説明も無く突如挿入される幻覚シーンとで、いやがおうにもその不気味さを高めているのだ。それはどこまでもドラッギーであり、むしろこの映画の主役が、このドラッギーな音楽と映像にこそあると思い知らされる。そしてその不気味な映像効果の中で、苦痛に満ちた暴力が花開く。それは果てしなく狂気めいており、にもかかわらず、背徳的な荘厳さに溢れ、神の祭壇における贄の儀式のようですらある。それはあたかも、キューブリックの霊に取り憑かれたデヴィッド・リンチが、過剰投与した薬物の幻影に狂いながら、北野武のバイオレンス映画をリメイクしたような作風なのだ。 《レヴュー》

6位:ホビット 決戦のゆくえ (監督:ピーター・ジャクソン 2014年ニュージーランド・イギリス・アメリカ映画)

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LOTR』から続いてきたトールキン映画3部作もこれがラスト。有終の美を飾る哀惜に満ちた作品として幕を引きました。

その中で、あくまでも友情と信頼を第一義とするホビット族、ビルボ・バギンズの身を挺した行動が何よりも胸を打つのだ。葛藤と困惑の中で、彼はそれでもドワーフ王に正しい心を戻してもらうために尽力し、その非力な肉体に鞭打ちながら活躍する様は、無私である者の輝きに満ち、この物語でなぜ彼が主人公なのかをあからさまにするのだ。それはやはり同時に、LOTRにおいて圧倒的に非力な存在でしかないはずのホビット族フロドが、結果的に世界を救う者として行動したのとよく似ている。非力な者、目立たぬ者、市井の者が最終的に世界を救い、世界を守る。これがトールキンの描く『ホビット』と『指輪物語』に通底するテーマであり、だからこそ、強力な力を持つ者だけが世界を切り開く英雄譚には無い、独特の妙味を持つ物語として世界に愛され続けてきた理由なのだろう。 《レヴュー》

7位:ホビット 竜に奪われた王国 (監督:ピーター・ジャクソン 2013年ニュージーランド/イギリス/アメリカ映画)

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しかし1年の内にトールキン映画が2度も公開されるなんて考えてみれば凄いことですよね。

この『ホビット』、毛があるか無いかが善悪のバロメーターになった、「毛の多い者と毛の無い者との戦い」ということが出来ると思います。即ち「《毛が多い:味方/善》ドワーフ御一行様、ガンダルフ、ビヨルン>《ほどほど毛が生えている:中立/どっちかというと善》ホビット、エルフ、人間>《毛が無い:敵/悪》オーク、ゴブリン、ドラゴン」という図式です。このセオリーで申しますと、窮極の悪であるネクロマンサー/サウロンは、作品ではもやもやした光とか甲冑の姿でしか現れませんが、《まるで毛が無い》という結論に達することになろうかと思われます。そう、あのサウロンはツルッツルのズルムケオヤジだということになるんですね!多分相当テカッてると思うな!ではゴラムはどうかと申しますと、あいつちょっとだけ毛があるんですね。だから《悪/敵に限りなく近いが善の心も持ってる》ということになるんですよ。「一つの指輪が全てを総べる」のが『LOTR』の物語でしたが、こと『ホビット』に関しましては「毛の量が全てを総べる」物語だったんですな!いやはやなんとも! 《レヴュー》

8位:ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う (監督:エドガー・ライト 2013年イギリス映画)

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負け犬野郎がビールを飲んで飲んで飲みまくるハシゴ酒の途中、侵略宇宙人が現れてさあ大変!というドタバタですが、そのテーマは非常に重いものを孕んでいました。

それではこのハシゴ酒はなんだったのか?映画ではそれは描かれないけれども、多分彼は、そこでもう一度人生の頂点を再現して、そして、死にたかったのではないだろうか?彼は、全きの破滅こそを希求していたのではないだろうか?ゲイリーは、ハシゴ酒貫徹という"有終の美"を飾ってその人生を終えたかった。ゲイリーのこうした破滅願望が、全ての危機よりも優先したからこそ、彼は頑なにパブを回り続け、そこで酒を飲み続けたのだ。しかし、そんなゲイリーを破滅願望から救ったのは、皮肉にもこの異星人の侵略である。ゲイリーは、このロボットたちと相対することにより、自分自身が、己が自由さをまずその人生の第一義として生きてきたことに気づくのである。自分が決して負け犬でも落伍者でもなく、自らの欲することに忠実に生きてきた人間であるということを。そう、映画『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う』は、死と破滅の願望に取りつかれた男が、自らの人生の意味に気づく、再生の物語だったのである。 《レヴュー》

9位:ウルフ・オブ・ウォールストリート (監督:マーティン・スコセッシ 2013年アメリカ映画)

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ある意味アメリカという国の最先端の既知外を描いた作品だということもできるでしょう。公開時は面白く観ましたが、今観たら単にうんざりさせられるだけかも。

物語はとことん下衆であり、気違いじみており、それと同時に、甘く危険な法悦に満ちている。ここで描かれるのは、強大なパワーと莫大なカネと止まる所を知らない欲望に操られ、着弾地点を見失ったまま大気圏外を邁進するICBMのように破滅へとひた走る男の生き様である。だが、スコセッシがこの作品で描こうとしたのは、欲望に囚われた男のデカダンスではない。盛者必衰のアイロニー、社会悪を糾弾するモラリズムでもない。歪んだ資本主義の果てのカリカチュア、アメリカ史の暗部を記述するジャーナリズムでもない。確かにそれらの要素はこの物語に存在するだろう。しかし映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の本質はそこではない。この映画の本質、それはぐつぐつと煮え立ち、暗く赤々と燃え盛る【熱狂】と【狂躁】なのである。 《レヴュー》

10位:誰よりも狙われた男 (監督:アントン・コービン 2013年アメリカ・イギリス・ドイツ映画)

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巨大で無慈悲なシステムと個人との拮抗、というテーマは、この作品のような国際諜報の世界だけではなく、どのような人の周りにも存在する問題なんですよね。

「大きな主語」の中に、往々にして人は取りこまれてしまう。そしてその"主語"の為に奉仕することになってしまう。奉仕するもの、それはロボットだ。ロボットであり、人間性を剥奪されたもののことだ。この非人間的なシステムの中で、人はいかにして【人間的要素】を持ち続けられるか。諜報作戦の中で人間的であろうとしたバッハマン、人権の名の元にテロ容疑者をかばう女性弁護士アナベル、気高くイスラム的であろうとして道を踏み外すアブドゥラ、そして国際社会の中でその人生を蹂躙され続けてきたイッサ。映画『誰よりも狙われた男』は、国際情勢という大きな物語の中で、小さな一個人の抱える【人間的要素】の在り処を探り出そうとするドラマだったのだ。《レヴュー》

aq99aq99 2015/01/14 20:21 今年のブロガーベスト10ができました。いつも通りの結果ですが、個人的には自分の好みと違う部分が散見して、感覚がズレてきたのかと驚いております。

20141227(Sat)

[]今年面白かったエレクトロニック・ミュージックいろいろ 今年面白かったエレクトロニック・ミュージックいろいろを含むブックマーク 今年面白かったエレクトロニック・ミュージックいろいろのブックマークコメント

■ALUBUM

Abaporu / Gui Boratto
Abaporu

Abaporu

ブラジルを代表するテクノ・アーティスト、Gui Borattoが3年ぶりにリリースしたニューアルバム。カラフルでメロディック、ポップ・センスの溢れる極上のテクノ・サウンド。彼のこれまでの最高傑作かも。 《試聴》

Sleepygirls / Yagya
Sleepygirls

Sleepygirls

オランダの名門テクノレーベルDELSINからリリースされたアンビエント/ダブテクノDJ、YAGYAのニューアルバム。浮遊感溢れる美しいアンビエントダブ・サウンドにたゆたうような女性ボーカルが乗る。そしてこれが日本語の女性ボーカルで、予想外にいい。 《試聴》

Satellite / Sam Paganini
Satellite

Satellite

80年代から活躍するイタリアのテクノ・プロデューサーSam Paganiniが満を持してリリースした1stアルバム。パッキパキにフロア仕様のテクノ・トラックが並ぶ良作。 《試聴》

Someday World / ENO・HYDE

Brian EnoとUnder WorldのKarl Hydeがタッグを組んだコラボ・アルバムが堂々のリリース。かつてのソロ時代を髣髴させる音作りがオールド・ファンとしては大変嬉しくて、最近のEnoのアルバムではピカイチである。今作ではEnoのヴォーカルが大幅にフィーチャーされているのだが、これがまた生気に溢れ、元気いっぱいで頼もしいのだ。そしてそんな若々しい風をEnoにもたらしたのがKarl Hydeということなのだろう。 《試聴》

ltering Illusions 1/3 / CV313
Altering Illusions 1/3

Altering Illusions 1/3

2012年に限定盤LPでリリースされていたレーベルコンピレーションのCD版、ということなのだが、基本的にはCV313による幾つかの別名義ユニットの曲が収められており、要するにズブズブドロドロウワンウワンということにおいては全て一緒のようなものである、と言っていいかもしれない。2枚組、2時間半たっぷりズブズブドロドロウワンウワンな音に陶酔できるというわけである。極楽である。 《試聴》

Clark / Clark
Clark

Clark

今やWarpレーベルの看板アーチストとなったClark、待望のニュー・アルバム。メロディアスなサウンドの中に不穏な音像をまぶし、ささくれ立った抒情の美しい絶妙なアルバムとなっている。 《試聴

Reincarnations, Pt. 2 - The Remix Chapter 2009 - 2014 / DJ Koze
REINCARNATIONS PART 2

REINCARNATIONS PART 2

ドイツ、ハンブルグのテクノアーティスト、DJ Kozeによるリミックス作品集。 メランコリックなヴォーカル曲と眩惑的なサウンド、テクノの枠内だけに収まらない情感豊かなエレクトロニック・ミュージックを展開する。。 《試聴

American Intelligence / Theo Parrish

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デトロイト・アンダーグラウンド・ハウスの重鎮Theo Parrishによる最新アルバムが2枚組で登場。アブストラクトなサウンド・ループと無機的なビートを基調としながら、そこにジャズとファンクのテイストを加味し、さらにはジューク/フットワークまでもが視野に入れられる。Theo Parrishの音はマシンとソウルがせめぎ合うその中間で揺れ動きながら、ディープでブラックなグルーヴを展開してゆく。彼が稀有なDJ/プロデューサーなのはそこにあり、この相反するものの拮抗が抜群の緊張感を持ったダンス・ミュージックを生み出すのだ。オススメ。 《試聴》

■SINGLE

Wedding Bells EP / Cashmere Cat
Wedding Bells EP

Wedding Bells EP

2012年にデビュー・シングル『Mirror Maru』をリリース、この2月に待望の4曲入りニュー・シングル『Wedding Bells』をリリースした。そしてこれが実にリリカルでチャーミングな曲ばかりなのだ。ピアノやハープをフィーチャーし、ダブステップの中にR&B要素も加味しながら、ポップで力強いをエレクトロニック・ミュージック完成させている。表情豊かで時としてユーモラス、なによりも希望と幸福感に満ちた曲調が素晴らしい。 《試聴》

Pathfinder / Throwing Snow
Pathfinder

Pathfinder

Throwing Snowはロンドンのベース・ミュージック・プロデューサー、Ross Tonesのユニット。Ross Tonesは2010年にALEXANDER NUT主宰の注目の新興レーベルHO_TEPでデビューして以来、Gold Panda, Kidkanevil、Greymatterらのリミックスを手掛け、Gilles Peterson、Benji B、Sindenのラジオ番組をサポートしていたらしい。2011年に自身のレーベルLeft_BlankとSnow Fallを立ち上げ、以降精力的にシングルをリリースしている。音はダブステップ、UKファンキー、ハウス、ポストロックを網羅的に横断しつつ、繊細で美しく、そしてドラマチックなメロディと、先鋭的なポスト・ダブステップ・ビートに彩られている。 《試聴》

■MIX

FXHE 10 YEAR COMPILATION MIX Part.2 / Omar-S
Fxhe 10 Year Mix Compiltion Mix#2

Fxhe 10 Year Mix Compiltion Mix#2

デトロイトの鬼才Omar-S率いる"FXHE"レーベルが10周年を記念してリリースするミックス・シリーズ第2弾。今回はOmar-SのトラックのみでMixされ、デトロイトテクノでもデトロイトハウスでも無い独自の「モータウンミニマル」サウンドを展開。そしてこれが、滅法イイ!! 《試聴》

Pinch B2B Mumdance / Pinch/Mumdance/Various
Pinch B2b Mumdance

Pinch B2b Mumdance

ブリストルのベース・ミュージック・プロデューサーPinchと若手DJ・Mumdanceがタッグを組み、バック・トゥ・バック形式(2人で左右のターンテーブルを交互に担当)でMixしたアルバム。ポスト・ベース、テクノ、ロウ・ハウス、インダストリアルなど先鋭的なダンス・ナンバーがソリッドかつアグレッシブに展開する様はスリリング。 《試聴》

Fabric73 / Ben Sims
FABRIC 73

FABRIC 73

人気コンピレーションFabricの73番はハードコア・テクノの御大Ben Simsが遂に登場!矢継ぎ早にミックスされた44曲にのぼる直球ど真ん中のテクノ・トラックが疾走する、全編むせかえるようなフロアの熱気に包まれた傑作! 《試聴》

Fabric 77 / Marcel Dettmann
Fabric 77: Marcel Dettmann

Fabric 77: Marcel Dettmann

Fabricの77番はベルリン・ミニマル・シーンのベテランDJ、Marcel Dettmann。彼の運営するMDRレーベルから未発表作を含む作品がセレクトされ、さらにデトロイト・テクノの傑作曲もフィーチャー、最新フロア仕様のミニマル・テクノ・ミックスを聴くことができる。 《試聴》

Eamon Harkin and Justin Carter: Weekends and Beginnings / V.A.

ブルックリンを拠点とするMister Saturday Nightを主宰し、パーティ・オーガナイザーであり、DJでもあるEamon HarkinとJustin Carterによるライブミックス。ディープハウスからテクノまで解放感と躍動感に満ちた選曲が素晴らしい。 《試聴》

■COMPILATION

Defected Presents House Masters / Henrik Schwarz
Defected Presents House Masters Henrik Schwarz

Defected Presents House Masters Henrik Schwarz

DefectedレーベルのHouse Mastersシリーズ新作はドイツ・テクノ界の知性派DJ、Henrik Schwarz。彼のオリジナル・Remix曲で構成された2枚組。 《試聴》

Aphelion / V.A.
APHELION

APHELION

ベルギーのアンダーグラウンド・テクノ・レーベルTokenからリリースされたニュースクール・ミニマル・テクノのアーチストを集めたコンピレーション。ガツッとフロア仕様のミニマル&ハードな曲がてんこ盛りです。 《試聴》

M-Print 20: 20 Years of M-Plant Music / Robert Hood
M-Print: 20 Years of..

M-Print: 20 Years of..

URの元メンバーであり、デトロイト・ミニマル・テクノのパイオニアとして君臨する重鎮Robert Hood。彼が設立したレーベルM-Plant Musicの20周年を記念してリリースされた3枚組のコンピ。リマスター、未発表曲、エディット、リミックスが含まれ、Robert Hoodが残してきたデトロイト・ミニマル・テクノの神髄に触れることができる。これもオススメ。 《試聴》

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20141226(Fri)

[]今年面白かったコミックあれこれ 今年面白かったコミックあれこれを含むブックマーク 今年面白かったコミックあれこれのブックマークコメント

ヘルボーイ 疾風怒濤 / マイク・ミニョーラ、ダンカン・フィグレド

クトルゥ神話や世界各地の神話を元に、超自然的な存在と戦う「地獄の悪魔の子」ヘルボーイを主人公とした作品です。そしてこの『ヘルボーイ 疾風怒濤』は『ヘルボーイ:闇が呼ぶ』『ヘルボーイ:百鬼夜行』に続く三部作の壮大な完結篇になっているんですね。

完結編であるこの刊では、世界を滅ぼさんと異形の軍団を結集させた血の女王ニムエと、ブリテン正統王となり騎士たちの亡者を率いるヘルボーイとの最終決戦が描かれます。そしてこの戦いの背後には宇宙を再び混沌へ還そうとする邪神オグドル・ヤハドの凶悪な意志が働いていたんですね。ここではまたしてもイギリス・ロシア民話、北欧神話、黙示録、クトルゥ神話の要素が絡み合った複雑な世界観を根底としながら、【世界の終り】のその光景を壮大なイメージで描き切るのです。いやあしかし、神話・民話だけではなく、かの永井豪の傑作黙示録マンガ『デビルマン』すら彷彿させるではないですか、人の心を持った悪魔だけに。そしてこれまで刊行された『ヘルボーイ』の物語の中でも最もスペクタクルに富み、最も破滅的な情景が次々と描かれてゆき、物語の大団円を予感させる醍醐味に溢れているんですよ。 《レヴュー》

■ヒットマン2 / ガース・エニス

生活感溢れるハードボイルド・マッチョな殺し屋を主人公とした『ヒットマン』第2弾。なにしろダメダメヒーロー軍団「セクションエイト」の脱力感に満ちた超無能力ぶりが凄い!

どれもメチャクチャなお話ばかりで楽しいことこの上無いが、やはり特筆すべきなのはダメダメヒーロー軍団「セクションエイト」が集結する「エース・オブ・キラーズ」だろう。一部でかなり話題になった「犬溶接マン」を擁する「セクションエイト」はこの辺とかこの辺のまとめとかにその存在を知った人々のパニックの程がうかがわれるが、なにしろ「酔って酒瓶で頭を殴るマン」だの「窓から投げ捨てるマン」だの「誤射マン」だの「変態性欲ソドムマン」だの「フランス人マン」だの「貧乏揺すりマン」だの「痰吐くマン」だの、「いやそれヒーローじゃなくて単なるキチ〇イとか可愛そうな人とかその辺のオッサンだし」という方々がヒーローを名乗って大活躍しちゃうのである。 《レヴュー》

■フォトグラフ / エマニュエル・ギベール(著)、ディディエ・ルフェーブル(原案・写真)

国境なき医師団(MSF)」に随行してアフガニスタンに向かったフランス人写真家のルポルタージュ。グラフィック、内容とも圧巻でした。

この旅を通してディディエは、アフガニスタンに住む人々がこうむる現状の、そのあまりの痛ましさにくずおれ悲嘆と無力さに打ちひしがれる。しかし彼は思い出す、悲嘆している場合ではないと、彼が随従した医者たちが人々を救うためにこの地にいるように、彼は写真を撮り、写真を撮り続けることでこの惨禍を世に知らしめる役割を負ってこの地にいるのだと。それがカメラマンである自分の仕事であるのだと。そしてその旅の工程において様々な困難があったにもかかわらず、ディディエは「(アフガニスタンに)また行きたい」と呟くのだ。実際、ディディエはこのルポルタージュでの旅の後も8回アフガニスタンに旅立ったのだという。なぜならディディエは打ちのめされたからだ、このアフガニスタンという国の真の美しさに、そしてこの厳しい国で生きる人々の笑顔に。 《レヴュー》

チェルノブイリの春 / エマニュエル・ルパージュ

バンドデシネ作家エマニュエル・ルパージュが、チェルノブイリに滞在した2週間の間に体験し感じたことを描いたコミック作品。死の世界と思われていたチェルノブイリは、実は生命に溢れた場所となっていたんです。

放射能による死の世界である筈のチェルノブイリは、今、百花繚乱の植物が生い茂る、自然の宝庫と化していたのだ。ルパージュは戸惑う。人類の愚かさ、原子力産業の危険さを描こうと意気込んでチェルノブイリに入ったルパージュが見たものが、目を奪うような自然の美しさだったからだ。そして、チェルノブイリの周辺で生きる人々が、危険と絶望的な状況の中にあるにもかかわらず、生き生きとして明るく柔和に生きていたからだ。その戸惑いは、美への追及が人よりも秀でる画家の目とその感受性からである、ということもできるだろう。事実チェルノブイリとその周辺は永劫として人の立ち入ることのできる土地ではなく、その周辺で生きることに生命の保証は何もないのは確かなのだ。美しい自然の背後にある"死"を描くべきなのに、「描くことは「ものの表皮をめくること」」である筈なのに、ただただ美しい自然に、ルパージュは打ちのめされるのだ。 《レヴュー》

デッドプール:スーサイド・キングス / マイク・ベンソン、アダム・グラス、カルロ・バルベリー、ショーン・クリスタル

「不死身のハチャメチャお調子者ヒーロー」デッドプールの活躍を描いたコミック。肩の力の抜けた軽快さがよかったですね。

物語はとある陰謀に巻き込まれ絶体絶命のデッドプール!といったもので、さらにデアデビル、スパイダーマンパニッシャーの客演もあり、物語を賑やかせてくれる。あとデッドプールというキャラにはあまりしがらみがないのがいい。実際の所、その誕生については結構陰惨なドラマがあるのらしいのだが、そういった部分にこだわらず、あくまでアホを貫き通す、という吹っ切れ方もいい。そしてこのコミック、なにより薄くて安いのがいい。いやー最近の海外コミックって分厚い上に高くてさあ…。それにしてもデッドプール、頭を吹き飛ばされても復活するって、インチキを通り越した不死身振りがなんとも凄まじいな。 《レヴュー》

■テクノプリースト / アレハンドロ・ホドロフスキー[作] ゾラン・ジャニエトフ[画]

アレハンドロ・ホドロフスキー原作のスペースオペラ・コミック。どこまでも野蛮で残酷な運命を、めくるめくような華麗さで描いた作品であると同時に、ホドロフスキーの自伝的側面も併せ持っているんですね。しかし自伝がスペースオペラって、さすがホドロフスキー

「ゲームにより支配された宇宙」というとどこかP・K・ディックの描くSF作品のような不条理めいた世界を想像するが、この物語がホドロフスキーの自伝的色彩の濃厚な作品であることを考えると、その暗喩されているものが理解しやすい。すなわちこの『テクノプリースト』、物語における"ゲーム"を、"映画"と読み変えると、たちどころに物語の描こうとするものが見えて来るのだ。人々の精神性を高めるためのゲームを作ろうという野心に燃えた青年が戦うのは、宇宙を支配するテクノ教団が製作する即物的で享楽的なゲームだ。これはそのまま革命的で深くスピリチュアルな映画を撮ろうとしたホドロフスキーと、彼を取り巻いていた映画産業の即物的で享楽的な映画製作態度との戦いということができるのだ。《レヴュー》

■KOMA - 魂睡 / ピエール・ワゼム、フレデリック・ペータース

現実世界を陰でコントロールするもう一つの世界。その異世界に足を踏み入れた少女の冒険を描く物語。

アディダスと彼女の父は煙突掃除人だ。懸命に働く父の背中に誇りを覚えつつも、アディダスにとってそれはきつく辛く、実入りの少ない仕事なのは確かだ。そして彼女の母は既にいない。これが運命なのなら甘んじて受け入れるしかないのかもしれない。しかしアディダスは知ってしまったのだ、この運命は悪しきものによって作られた運命だったということを。少女の冒険はこうして始まる。いわゆる現実世界とメタ世界を描く作品なのだが、一見現世と霊界のメタファーのように思わせながら、実はこの二つの世界が物理的に地続きになっており、そこを行き来できるばかりか、メタ世界を奪おうとする人間の勢力が存在する、といった部分で面白い作品となっている。さらにメタ世界には高次のメタ世界が存在することが描かれるが、時間と空間を超越したこのメタ・メタ世界(?)の登場により、物語は形而上的な様相さえ呈し始めるのだ。 《レヴュー》

■リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン / アラン・ムーアケビン・オニール

ビクトリア朝時代を舞台に、アラン・クォーターメン、ネモ船長、ジキル博士とハイド氏、透明人間、さらに吸血鬼ドラキュラのヒロインが主人公となり、大英帝国の繁栄を脅かす魔人フー・マンチューの陰謀を討つ!というスチームパンク・テイストの作品。傑作!

こうして、ありとあらゆるフィクションの要素が混然一体となりながら、産業革命によって異形の科学的発展を遂げたもうひとつの大英帝国の、琥珀色に染められた華麗な物語が展開してゆくという訳なんですね。そしてクライマックスは善と悪とが入り乱れ、ロンドン大空襲を思わせる凄まじい大戦闘へと突入し、恐るべきスペクタクルを見せてゆくんです!アラン・ムーアの作品は数々読みましたが、ひょっとしたらこれは最高傑作かもしれないですね。続編もあるらしいので是非読みたいです。 《レヴュー》

■監獄学園(プリズンスクール)(1)〜(15) / 平本アキラ

監獄学園(15) (ヤンマガKCスペシャル)

監獄学園(15) (ヤンマガKCスペシャル)

…とまあ、とてもカッコイイ海外コミックの後に下ネタ満載のとても下品でしょーもない日本のコミックであります。しかし下ネタも下品もしょーもなさもここまで極めればさすがとしか言いようがないんですよ。とにかく笑って笑って笑いまくったアホアホ作品、今年こんな下らない漫画に出会えてオレは幸せでしたッ!!

このように、『監獄学園(プリズンスクール)』はありがちな学園エロエロラブコメディに見せかけながら、その実態は学園エロエロ変態コメディとして成立しているのである。いやこいつら絶対おかしいって。そしてこの漫画のさらに凄いところは、そんなお下劣&しょーもない内容のコメディを、シリアスで非常に巧みな描線でもって描いている、ということなのである。要するに絵が上手いのよ!なにより女の子がみんな可愛い上にエロエロなのよ!なお今現在最新刊の14巻では既に《裏生徒会篇》が一応落ち着いて、今度は《表生徒会篇》でまたもや一波乱起こってるんだけど、若干ギャグのトーンが落ちてきていたのを徐々に盛り返してきている最中って感じかな。そういわけでこの『監獄学園(プリズンスクール)』、普通にドスケベな方も物凄いドスケベな方も、ドスケベならきっとゲラゲラ笑って読めるだろうから、早速アマゾンでポチるといいと思うんだよ! 《レヴュー》

■天国の魚(パラダイス・フィッシュ) / 高山和雅

天国の魚(パラダイス・フィッシュ)

天国の魚(パラダイス・フィッシュ)

知る人ぞ知るSFコミック作家、高山和雅がまだ活動していて、しかもこんな傑作を世に送り出している、というのはとても嬉しかったなあ。

この『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』は小惑星衝突により地球規模の大災害が起こりつつある日本のどこかの孤島から始まる。島に残された主人公たちはそこで過去に残された核シェルターに逃れ危機を回避しようとしていた。果たして小惑星は地球に衝突、激しく揺れるシェルターの中で気を失った主人公たちが目覚めると、なんとそこは1970年の新宿だった…というストーリー。こうして人類滅亡テーマと思わせながらタイムスリップSFとして始まるこの物語、実はこの後もさらに二転三転、〇〇が〇〇して〇〇が登場し、舞台は宇宙へと広がってハードSFの様相すら垣間見せる、というとんでもない展開を見せるのである。そうしたSF作品でありながら、物語の根幹となるのは決して結び付き合えない人と人の心の悲しさであったりするのだ。 《レヴュー》

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20141225(Thu)

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■白熱光 / グレッグ・イーガン

グレッグ・イーガンのウルトラスーパーハードSF。面白かった、というよりその科学的難解さと格闘しながら読んだ、という部分で思い出深い作品です。格闘して、そして負けた。

この『白熱光』、何が難解なのかというと、「スプリンター」に住む知的生命体たちが、物語全体のほぼ半分のページを費やして物理法則の実験を行っているのだが、この実験についての記述が、そこそこの物理学・幾何学の知識がないと読み解けないであろうものなのである。この異星人たちは、物理・幾何の理論や知識がほぼゼロの段階から実験を始め、仮説を立て、検証し、推論を行い、法則を見出してゆく、ということを延々と繰り返し、それは徐々に複雑なものとなっていく。ただ、物語の中でそれらは、地球人ならよく知るような物理学・幾何学の用語を一切使わずに行われるのだ(異星人だからね)。 《レビュー》

■市に虎声あらん / P・K・ディック

市に虎声あらん

市に虎声あらん

ディックがSF作家になる以前に書いた処女文学長編。非SFなのにもかかわらずディックのエキスがたっぷり詰まった問題作。

ではこの『市に虎声あらん』は、ディックが望まぬSF作家としてデビューする前の、単なる失敗した足掛かり、意味の無い駄作だったのだろうか。実はそうではないのだ。解説でも同様なことが書かれているが、「処女作にはその作家の全てが詰まっている」とよく言われるように、この『市に虎声あらん』には、その後のディックの、様々な要素がたっぷりと詰まっているのだ。幻滅と失意に満ちた人生を送る主人公、強大かつ眩惑的な(つまりは宗教的な)ヴィジョンを提供する絶対者の出現、その絶対者に対峙した主人公が至る認識の変容、そしてクライマックスに用意される、現象世界と認識世界の崩壊。これらは全て、『市に虎声あらん』の中に余すところなく網羅されているのだ。つまりはディックSF小説の【元型】が、この『市に虎声あらん』に既に花開いていると言えるのである。 《レビュー》

■レッドスーツ / ジョン・スコルジー

スペース・オペラならお手の物のスコルジーによる長編。

お話はスコルジーらしいコミカルな調子で進んでいきます。主人公は宇宙艦隊に配属された新人クルーたち。彼らは配属早々、この艦隊がなーんだか妙なことに気づきます。まず任務でのクルーの死亡率がやたらめったら高い。でも艦長や上級士官はなぜだか全然死なない。緊急時にはインチキ臭い謎の装置に問題を突っ込めばたちまち解決。なんなのこれ?と先輩クルーに話を聞こうにもみんななんだか気まずそうにするだけ。そして主人公らは徐々に、この艦隊と、そして自分たちの運命が「普通に考えたら有り得ないある法則」に支配されていることを知ることになるのです。「この"法則"通りだと俺らも今までのクルーと同じくあっさり死んじゃうことになっちゃうじゃん!?」かくして主人公たちの七転八倒の悪あがきが始まる!?というもの。 《レビュー》

■モンド9 (モンドノーヴェ) / ダリオ・トナーニ

イタリアのSF作家によるグロテスクな異形の未来。

肉と金属で出来た、意思疎通不可能の意識を持った機械が地上を走り、肉体を金属化する不気味な毒が大地を覆い、その人を拒む過酷な自然の中で、人々は文明の黄昏ともいえる没落した生活を送っている。その世界がなぜ、どうのように成立し、そこで人々がどのように生きているのか、肉と金属で出来た機械は誰がいつどのようなテクノロジーの元に作られ、それが何故何のために存在しているのか、物語では全く説明されない。高度なバイオテクノロジーが導入されているように見えて"生体船"の動力にはスチームが使われていたり、壁がブリキで出来ていたり、オルゴール式の音声装置があったり、紙に書かれる航海日誌があったり、どこか古めかしい様はスチーム・パンク的ではあるけれども、そこにさらにゴシック的でグロテスクな怪奇が横溢している。 《レビュー》

このレヴューを読んだ作者の方(出版社のほうで翻訳して伝えているらしい)から、ツイッターで感謝のメッセージが届いたんですよ。

■こうしてお前は彼女にフラれる / ジュノ・ディアス

ドミニカ共和国の生まれの作者による短編集。可笑しくてやがて悲しき悲恋のドラマ。これは胸に突き刺さりました。

収録作は9編、ユニオール君が主人公の作品とは別に浮気相手にされた女性視点の物語もある。そしてその多くは米国へのドミニカ人移民、という立場を持つ人々の物語だ。「愛の不在」を描くこの物語には「故郷の不在」、すなわち「故郷という寄る辺を喪うということの悲しみ」という背景が存在している。さらにそこには逃げた父親や病死した兄、といった「家族の不在」も存在している。その圧倒的なまでの「不在」と「喪失」が、ヤリチン浮気男のあまりにおマヌケな失恋騒動というドタバタに託されて描かれているのがこの物語なんだ。そしてユニオール君がおマヌケであればあるほど、喪った愛への身を切るような悲哀、といったペーソスが鮮やかに表現されてゆくんだ。 《レビュー》

■はい、チーズ / カート・ヴォネガット

はい、チーズ

はい、チーズ

カート・ヴォネガットの死後発見された没原稿集ですが、驚くほどクオリティが高い。

こうして書くとこの短編集がいかにバラエティに富んだものかわかるだろう。そしてそれぞれのジャンルを、どれも高い完成度で描けてしまう若き日のヴォネガットのその力量に唸らされることだろう。そしてまた、これらの作品の持つ軽妙洒脱なセンスは、半ば神格化されその著作を読むのに身構えてしまう多くのヴォネガット作品と比べ、ヴォネガットをよく知らない読者でもさらりと読み通すことのできるものだということができるだろう。これらの作品にはヴォネガット円熟期のニヒリズムや人間性への強烈な希求はまだ見出すことはできないが、「気軽に読める短編」といったとっつきやすさを兼ね備えているのだ。 《レビュー》

■火星の人 / アンディ・ウィアー

火星にたった一人取り残された男の究極のサバイバルSF。今年一番面白かったSFといえばこれです。

この知恵比べとも言える描写の数々が凄い。彼の持つ膨大な科学知識を生かし、空気、水、食料、電力を次々と生み出してゆき、さらに生存に適した環境を整えてゆく。科学知識の豊富な方なら「その手があったか」と膝を打つだろうし、オレの如き知識貧困な者にも、それらの描写は分かり易く、決して難解なSF作品という訳ではない。だが。どのように計算しても、それら物資は、4年持ちこたえることができない。さらに、次回の火星ミッションが行われる基地まで、3200キロの旅を敢行しなければならないのだ。この、次から次へと立ち現れる困難、そしてそれに、次から次へと立ち向かってゆき、解決してゆこうとする主人公の描写がなによりも素晴らしい。 《レビュー》

■神話の力 / ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ

神話学者ジョーゼフ・キャンベルが古今の神話伝承から人類の共通意識を探ろうと試みる対談集。

一読して、キャンベルのその博学多識ぶりにまず驚かされる。学者なのだから当たり前といえばその通りなのだが、対談という中で(多分)参考文献などを傍らに置くわけでもなく、ありとあらゆる神話伝承、宗教聖典、古典文学の膨大なタイトルや内容が次から次へと引用され、その繋がりを考察してゆくのだ。ここではジョイス『フィネガンズ・ウェイク』が、ダンテ『神曲』が、ゲーテファウスト』が、トリスタン伝説が、アーサー王の聖杯探究が、ヘブライの歴史が、カトリック教義が、ブッダの教えが、アメリカ・インディアンの伝承が、インド『ウパニシャット』が、さらには『スター・ウォーズ』が、たった数ページの中で引き合いに出され、その中から「共通となるもの」を見出してゆく、という離れ業を演じてゆくのである。 《レビュー》

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20141224(Wed)

[]今年面白かったゲームなどなど 今年面白かったゲームなどなどを含むブックマーク 今年面白かったゲームなどなどのブックマークコメント

セインツロウ IV

ヒップホップなチンピラがアメリカ大統領になった世界を舞台に、その大統領となって侵略宇宙人と戦っちゃう!というバカゲー、それがこの『セインツロウ IV』であります。ゲームの作りは『GTA』タイプのオープンワールドで繰り広げられるSFアクション、というか、初代『セインツロウ』は『GTA』に似すぎていて『GTA』販売元からもゲーマーからもクレーム来まくったらしく、それでこういうトンチキなお馬鹿ゲーへと方向転換したらしんですな。いやあ、バッタもんらしい心温まるお話だなあ。 《レヴュー》

Battlefield 4

このPS4版『Battlefield 4』、何が素晴らしいって、毎度毎度言うことで恐縮ですがなにしろグラフィックが素晴らしい。処理速度向上のせいもあってかフィールドが広く、そしてその広いフィールドが隅々まで見渡せ、さらに遠くのものまで細かく目視できるほどにグラフィックが精緻なんですよ。遠くまで精緻である分、彼方の敵がくっきりと見え照準を合わせられ易い、というのもFPSゲームとして心強いですね。当然広いフィールドを描写できることにより、戦場の広さも広大になり、これまでのFPSゲームのフィールドの広さとは違うプレイスタイルで戦略を進めなければならないんですね。 《レヴュー》

■メタルギア ソリッド V グラウンド・ゼロズ

それにしても今回の『グラウンド・ゼロズ』、リアルさが半端なくアップしていましたね。画像はPS4ということで綺麗だっていうのもありましたが、それだけではないんですよ。今回の敵はもっとしつこいし警戒をなかなか解かないし、リアルに作りこまれている分「ここは死角になるのか?」みたいな微妙なポイントばかりなんですよ。その分緊張感と見つかったときの危機感は今まで以上でしたね。敵のAIも賢くなっていると思いますが、GUIまわりも刷新されてるし、ゲーム中にできることも増えている、という印象でしたね。 《レヴュー》

■ディアブロ III リーパー オブ ソウルズ アルティメット イービル エディション

ハック&スラッシュ・ゲームの最高峰ではないかと思われる『ディアブロ』シリーズですが、最新作『ディアブロ III』の拡張パックが発売されました。これは既に発売されている『ディアブロ III(D3)』に新たなエピソードを一つ、さらに新キャラクター「クルセイダー」を加え、他にも様々な追加・変更点を組み込んで発売されたものなんですね。PS3版の『D3』もプレイしていたんですが、この『D3:RoS』、PS3からPS4にデータの引継ぎができるのが嬉しいですね(PS3同士も可)。PS4だと1080pの高解像度を60fpsでプレイできますから、より綺麗な画像とぬるぬる動くキャラを堪能できます。 《レヴュー》

ベヨネッタ2

待ちに待った『ベヨネッタ2』が遂に発売ですよ!いやー『ベヨネッタ』大好きだったなー、ボンテージ・ルックに眼鏡を掛けた10頭身美女が両手両足に銃を装着し時には黒魔術を使い獰猛な天使たちを狩ってゆく!というお色気魔女っ子アクション『ベヨネッタ』、そのセクシー描写があんまり度が過ぎてて半分ギャグに見えてしまったという「潜在的バカゲー」で、もうプレイしていてこんな楽しいゲームはなかったですよ。 《レヴュー》

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20141223(Tue)

[]アラン・ムーアとマイク・ミニョーラの作品を同時期に読めるなんてなんたる幸せ!〜『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』『驚異の螺子頭と興味深き物事の数々』 アラン・ムーアとマイク・ミニョーラの作品を同時期に読めるなんてなんたる幸せ!〜『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』『驚異の螺子頭と興味深き物事の数々』を含むブックマーク アラン・ムーアとマイク・ミニョーラの作品を同時期に読めるなんてなんたる幸せ!〜『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』『驚異の螺子頭と興味深き物事の数々』のブックマークコメント

■リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン / アラン・ムーアケビン・オニール

リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン

海底二万里」「吸血鬼ドラキュラ」「ジキル博士とハイド氏」「透明人間」「ソロモン王の洞窟」、19世紀末のビクトリア朝を舞台に、かの名作の主人公陣が縦横無尽に織り成す怪奇英雄譚、今、ここに堂々の復活成る!時は1898年。21世紀を間近に控え、ビクトリア女王を戴く大英帝国は栄華の極みにあった。そんな中、キャンピオン・ボンドなる怪しげな人物が、さらに怪しげな面々を呼び集める。ウィルヘルミナ・マリー、アラン・クォーターメイン、ネモ船長、ヘンリー・ジキル博士、ホーレイ・グリフィン。倫敦某所に集められたこの面妖なる五人の素性とは?そして、英国は彼ら怪人連盟に何を求めているのか?今、大いなる空想冒険絵巻の幕が聞く!『吸血鬼ドラキュラ』から『ポリアンナ』まで、あらゆる古典を題材にアラン・ムーアがその奇想の翼を拡げた代表作、ここに推参!

うぉっ、これは大傑作。ビクトリア朝時代を舞台に、アラン・クォーターメン、ネモ船長、ジキル博士とハイド氏、透明人間、さらに吸血鬼ドラキュラのヒロインが主人公となり、大英帝国の繁栄を脅かす魔人フー・マンチューの陰謀を討つ!というとんでもない物語なんですが、それだけではなく、作品全体を覆うスチームパンクのテイストが堪らなく素晴らしいんです!

さらにさらに、物語のそこここに、当時のイギリスを彷彿させるSF・推理・怪奇小説の小ネタがとどまるところを知らぬ量で散りばめられ、それを堪能するのがあまりにも楽しい!なにしろ主人公である「怪人同盟」以外にも、「ジェームズ・ボンドの祖父」が出てきたり、シャーロック・ホームズの兄マイクロフト・ホームズと思しき人物が出てきたり(ということはあの強敵も…)、H・G・ウェルズ宇宙戦争』にまで言及していたりするんです!

こうして、ありとあらゆるフィクションの要素が混然一体となりながら、産業革命によって異形の科学的発展を遂げたもうひとつの大英帝国の、琥珀色に染められた華麗な物語が展開してゆくという訳なんですね。そしてクライマックスは善と悪とが入り乱れ、ロンドン大空襲を思わせる凄まじい大戦闘へと突入し、恐るべきスペクタクルを見せてゆくんです!アラン・ムーアの作品は数々読みましたが、ひょっとしたらこれは最高傑作かもしれないですね。続編もあるらしいので是非読みたいです。

なお、この作品はショーン・コネリー主演で『リーグ・オブ・レジェンド 時空を越えた戦い』としても映画化されていますが、はっきり言って別物ですので、映画を観てがっかりされた方も、決して敬遠せずにこの作品をお手に取られることをお勧めします!あ、あと、久正人のコミック『ジャバウォッキー』とかのお好きな方にも勧めたいですね!

■驚異の螺子頭と興味深き物事の数々 / マイク・ミニョーラ

驚異の螺子頭と興味深き物事の数々

ヘルボーイ』のマイク・ミニョ-ラが織り成す奇想の数々。今を去りし19世紀の半ば、時の大統領アブラハム・リンカーンの密命を帯びた"螺子頭"は、邪悪なる皇帝に敢然と挑戦する!頭が螺子になっている「驚異の螺子頭(スクリューオン・ヘッド)」。異形のヒーローが活躍する表題作から、アイズナー賞を受賞した「魔術師と蛇」など、著者独特の奇想が迸る珠玉の6編を収録した、マイク・ミニョーラの魅力溢れる短編集。【収録作品】驚異の螺子頭、アブー・グングと豆の木、魔術師と蛇、魔女とその魂、火星の虜囚、興味深き物事の礼拝堂にて 巻末にはマイク・ミニョーラによる各作品の解説、スケッチブックも収録

おおっと年の瀬も押し迫ったこの時期にマイク・ミニョーラの新作が読めるなんてなんたる幸せ!マイク・ミニョーラ、みんな大好き『パシフィック・リム』監督であるギレルモ・デル・トロ監督作品『ヘルボーイ』の原作者といえばピンと来る方もいらっしゃるでしょうか。

今作はそのマイク・ミニョーラが自由な発想で創り出した中編コミック「驚異の螺子頭」と短編「興味深き物事の数々」その他が収められた作品なのであります。そしてその内容はと言いますと、マイク・ミニョーラお得意の、暗く妖しくほんのりユーモラスな怪奇譚なのでありますね。

まず「驚異の螺子頭」は"大統領アブラハム・リンカーン"の密命を帯びた魔術的ロボット"螺子頭"が、"ゾンビイ皇帝"の陰謀を追う、というもの。とはいいつつそこはマイク・ミニョーラ、決して連想されるようなFアクションでもなんでもなく、オカルティックでどことなくシュールな、そして物語の定石をことごとく外した奇妙なテンポの物語として完成しているんですね。それがマイク・ミニョーラのえもいわれぬ描線とカラーリングで読める一級のアートコミックなんですよ。

「興味深き物事の数々」は太古の昔を舞台にした少年と悪魔との駆け引きを描いたものですが、「螺子頭」と同様、魔術的世界の中にナンセンスなユーモアが散りばめられた作品です。ミニョーラの7歳の娘の原案を基にした「魔術師と蛇」「魔女とその魂」などの掌編も味わい深くて素晴らしい。

どの作品も非常に力を抜いて作られた、ある意味"私的"と言ってもいい程にささやかな作品なのですが、だからこそ逆に読む側も力を抜いて作者の稚気溢れた奇想の世界に遊ぶことができるのですよ。こんな作品が日本できちんと翻訳されて読めるって快挙だよなあ。

20141222(Mon)

[]バカ男とクソ女の泥沼〜映画『ゴーン・ガールバカ男とクソ女の泥沼〜映画『ゴーン・ガール』を含むブックマーク バカ男とクソ女の泥沼〜映画『ゴーン・ガール』のブックマークコメント

ゴーン・ガール (監督:デヴィッド・フィンチャー 2014年アメリカ映画)

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  • デヴィッド・フィンチャーが『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)以来久々に監督したサスペンス作品『ゴーン・ガール』を観た。
  • 劇場で観るまで内容をなるべく知ることの無いようにしていたが、予告編からは「これはハメられた男の話なのだな」ということは予想できた。
  • だからこの映画の興味の中心は、「男はなぜどうしてどのようにハメられたのか?」ということになる。
  • もうひとつはハメられた男が嘘つきだった、ということも考えられる。いわゆる「信頼できない語り手」というやつである。
  • そんなことを考えながら映画を観ていたが、実際観てみるとこれは実にフィンチャーらしい「神の如き完璧な計画を練りそれを神の如く完璧に遂行する人間のオハナシ」というものだった。
  • それは例えばフィンチャー作品の『セブン』『ゲーム』に顕著なテーマだ。ただ、それだけなら「またこの手か」と思わせるが、この『ゴーン・ガール』がそれら作品と違うのは、その完璧な筈の計画が中盤から頓挫し、思いもよらぬ乱調へと突き進む、といった点だろう。
  • その乱調が見せるものは、あまりに常軌を逸しているばかりに、ブラック・ユーモアの領域にまで突入している。前半だけでも相当な哄笑を孕んだ物語だったが、さらに後半から勢い付く「凍り付いたような黒い笑い」がこの作品の真骨頂となるだろう。
  • さてこの作品を一言で言うなら「バカ男とクソ女の泥沼の諍い」ということになるだろう。ベン・アフレック演じる夫ニック・ダンはどこまでも愚鈍で、ロザムンド・パイク演じる失踪した妻エイミーは頭が切れ過ぎるばかりにキ印になってしまった女として描かれている。
  • この愚鈍な男とキ印の女、即ちバカ男とクソ女は、客観的な描写をされているがために、観客には感情移入する部分が存在しない。どちらも共感できないのだ。
  • 彼らは愚か者であり、その愚かさゆえに観る者を心胆寒からしめる。愚かさゆえに滑稽で、そして恐ろしいのだ。
  • しかし、共感を廃したこれら登場人物たちの物語は、実に作り事らしい在り得ないような愁嘆場を見せるにせよ、同時に観る側にとってはどうでもいい、カンケー無い話になってしまっており、畢竟、バカとクソで勝手にやって欲しい気分にさせられる。
  • この物語は言うなれば結婚や男と女の心の暗部を描いたものなのだろうが、なにもかにも暗部ばかり、愚かさばかりクローズアップさせたがるこの物語の話者は「性格くれえな」と思えてしまうのだ。
  • 作品の質は一級で、きっと楽しめるものだろう。だが、こういったテーマの作品は、個人的にもういらないな、と感じた。
  • そういった部分で、この物語もまた『ソーシャルネットワーク』の如きフィンチャー一流の技で作られたどうでもいい話、ということが出来る。

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20141221(Sun)

[]それはスカイツリーハラミだったッ!! それはスカイツリーハラミだったッ!!を含むブックマーク それはスカイツリーハラミだったッ!!のブックマークコメント

先日はネットの有志の皆さんと共に錦糸町にある焼肉店「とんつう」へ【スカイツリーハラミ】を食しに行きました。

スカイツリーハラミ】とは、これです。写真だとスケール感が伝わり難いでしょうが大変デカイです。

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そして七輪を3つ用意して並べます。3つ並べないとお肉が焼けないんです。

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なぜなら、伸ばすとこんなにデカイから!!

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そしてこれをジュウジュウ焼いて、鋏で切って食べるわけです!

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焼けた後は食うのに夢中で写真どころではありませんでした!美味かったなあ!この日集まった皆さんも大変楽しい方たちばかりで大いに盛り上がりましたよ。主催者の方、皆さんどうもありがとう。

◎錦糸町 炭火焼肉・ホルモン とんつう

〒130-0012 東京都墨田区太平3-3-2 喜月ビル1F

ぐるなび / http://r.gnavi.co.jp/p656800/

20141220(Sat)

[]最近聞いたエレクトロニック・ミュージックその他 最近聞いたエレクトロニック・ミュージックその他を含むブックマーク 最近聞いたエレクトロニック・ミュージックその他のブックマークコメント

■Space Ibiza 2014: 25th Anniversary / Carl Cox/Kevin Saunderson/MYNC/Various

Space Ibiza 2014-25th Anniversary

Space Ibiza 2014-25th Anniversary

1989年にオープンしたクラブSpace Ibizaの生誕25周年を記念して制作されたミックスCD。3枚組になっており、それぞれCD1: Carl Cox、CD2: Kevin Saunderson、CD2: MYNCがミックスを担当している。基本的に十分フロア向けに機能したオーソドクスなハウス・トラックが並び、ある意味10年前も変わらず似たようなダンス・ミュージックをプレイしていたのだろうなあと思わせる点では新味こそないのだけれども、気軽に聴ける安心感は確かにあり、実は結構楽しく聴いていたりする。そしてなによりデトロイト・テクノ/ハウスにおける重要メンバー、Kevin Saundersonだ。ここでKevin Saundersonは徹底的にクラシック・ナンバーを選曲し、それこそ十年一日の如き印象があるのだけれども、お馴染のデトロイト・テクノ/ハウス・トラックが次々と繋がれてゆく様はもはや伝統芸の域に達しており、新しくなくたっていいからずっと聴き続けていたくなってしまうのだ。 《試聴》

■American Intelligence / Theo Parrish

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デトロイト・アンダーグラウンド・ハウスの重鎮Theo Parrishによる最新アルバムが2枚組で登場。アブストラクトなサウンド・ループと無機的なビートを基調としながら、そこにジャズとファンクのテイストを加味し、さらにはジューク/フットワークまでもが視野に入れられる。Theo Parrishの音はマシンとソウルがせめぎ合うその中間で揺れ動きながら、ディープでブラックなグルーヴを展開してゆく。彼が稀有なDJ/プロデューサーなのはそこにあり、この相反するものの拮抗が抜群の緊張感を持ったダンス・ミュージックを生み出すのだ。オススメ。 《試聴》

■M-Print 20: 20 Years of M-Plant Music / Robert Hood

M-Print: 20 Years of..

M-Print: 20 Years of..

URの元メンバーであり、デトロイト・ミニマル・テクノのパイオニアとして君臨する重鎮Robert Hood。彼が設立したレーベルM-Plant Musicの20周年を記念してリリースされた3枚組のコンピ。リマスター、未発表曲、エディット、リミックスが含まれ、Robert Hoodが残してきたデトロイト・ミニマル・テクノの神髄に触れることができる。これもオススメ。 《試聴》

■Eamon Harkin and Justin Carter: Weekends and Beginnings / V.A.

ブルックリンを拠点とするMister Saturday Nightを主宰し、パーティ・オーガナイザーであり、DJでもあるEamon HarkinとJustin Carterによるライブミックス。ディープハウスからテクノまで解放感と躍動感に満ちた選曲が素晴らしい。オススメ。 《試聴》

■Aphelion / V.A.

APHELION

APHELION

ベルギーのアンダーグラウンド・テクノ・レーベルTokenからリリースされたニュースクール・ミニマル・テクノのアーチストを集めたコンピレーション。ガツッとフロア仕様のミニマル&ハードな曲がてんこ盛りです。オススメ。 《試聴》

■A Constant Moth / Lord RAJA

A Constant Moth

A Constant Moth

ニューヨークの実験的アンビエント・ビート・プロデューサーLord RAJAの、グネグネと奇怪なビートを刻むビーツ/フットワーク系1st。ラップもあり。これ意外と面白い。 《試聴》

■Knee Deep In Sound / Hot Since 82

Knee Deep in Sound

Knee Deep in Sound

イギリス出身のアンダーグラウンド・ディープハウスDJ、Daley Padley こと Hot Since 82。彼の立ち上げたレーベルKnee Deep In Soundからのミックス・コンパイル作品。 《試聴》

■Nothing Has Changed [Deluxe Edition] / David Bowie

ボウイのデビュー50周年を記念したオール・タイム・グレイテスト・ヒッツ。このベストのためにレコーディングされた新曲「スー(オア・イン・ア・シーズン・オブ・クライム)」収録の全59曲収録3CDデラックス・エディション。収録の仕方が面白くて、最新作から旧作へとリリース時期を遡りながら収録されている。また既出のコンピと差別化するためシングル・エディットの曲を中心にまとめている。ボウイのベストはついこの間も『Sound + Vision』を買ったばかりだったが、ファンであるなら出たらまた買うのである。なおこの3枚組デラックス・エディションの他に2CD39曲収録のスタンダード・エディション、1CD20曲収録のジャパン・エディションも同時発売。

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20141219(Fri)

[][]彼女はエキセントリック〜映画『Hasee Toh Phasee』 彼女はエキセントリック〜映画『Hasee Toh Phasee』を含むブックマーク 彼女はエキセントリック〜映画『Hasee Toh Phasee』のブックマークコメント

■Hasee Toh Phasee (監督:ヴィニル・マシュー 2014年インド映画)

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エキセントリック過ぎる女性に出遭ってしっちゃかめっちゃかにされた青年が、いつしかそんな彼女を気遣い心を寄せてゆく、というラブ・コメディです。でもそんな彼女は決して単なる変わり者なのではなく、心に重いものを抱えていたんですね。

主人公の名はニキル(シッダールタ・マルホートラ)。彼は資産家の娘で女優のカリシュマー(アダー・シャルマー)との結婚を控えていましたが、その彼女にムンバイからやってくる妹の世話をしてほしい、と頼まれます。しかしその娘ミーター(パリニーティ・チョープラー)は、仕草も言動も実に奇矯な変わり者で、取り付く島もありません。実はこのミーター、工学系の才女で中国に留学し研究所まで持っていましたが、家族とそりが合わず、さらに何らかの理由で精神的な疾患を抱えていたんです。そんな彼女を世話するうちに、いつしかニキルは彼女に惹かれていく自分に気付き始めるのです。

ヒロインのミーターは最初とても奇妙な女の子として登場します。早口でつっけんどんで落ち着きがなく、いつも昂奮しているかのように目を見開き下唇を噛み貧乏ゆすりを繰り返します。あー不思議ちゃんのお話なのかーそうだとしたら苦手だなあ、なんて思って観ていたんですが、話が進むうちにどうやらそういうことではないらしいことが分かってきます。実は彼女は、ある種のトラウマから精神疾患を抱えることになってしまった女性だったのです。奇妙な女の子として登場した彼女ですが時折普通に落ち着いていることがある。しかし何らかのストレスにさらされると経口薬を飲み、その後昂奮状態を見せる。つまり昂奮状態は抗精神病薬の副作用ということだったんですね。

こんな具合に、「ちょっと変わった女の子とのラブ・ストーリー」と最初思わせながら、実はその女の子が精神的な問題を抱えていると分かった段階で、物語は奇妙な哀切を帯びたものへと変わっていきます。物語では特定できるような疾患としては描かれませんが、それは疾患そのものをテーマにしているからではなく、心の傷を抱えることになった原因と、それがどう癒されてゆくかを描くのがこの物語のテーマだからなのでしょう。その心の傷とは、高い知性と理想を持ちながら、女にそんなものは必要ないと頭から否定した家族との諍いであり断絶です。ただしそのような状況を描きながら、この物語は決して暗くやるせないものではありません。それはそんな状況になんとしても抗おうとする負けん気とユーモアが彼女にはあったからです。そして負けん気とユーモアがありながらも時として心が折れてしまう、そんな彼女がたまらなくいじらしく描かれるんです。

そんな心折れた彼女を支えることになるのが主人公のニキルです。彼は最初ミーターの様子に面くらいながらも、とりあえず彼女の世話を焼いてしまいます。それは婚約者からの断ることのできない頼みであったことと、彼しか世話をしてあげられる人間がいなかったから仕方なく、という面もあったのでしょう。しかしそれよりも、ニキル自身が、その心根に善良なものを持った青年だったのでしょう。そして家族から疎外された彼女の事情を知るにつれ、なおさらミーターの力になってあげなければならないと思ったでしょう。ミーターをどうにかしてあげられるのは自分しかいない、こう思った時、既にニキルはミーターを愛し始めていたに違いありません。何故なら、往々にして、「この女性の力になってあげられるのは自分だけだ」と思った時、男はその女性に恋をしてしまうものだからです。相手の女性が辛いときは力になり、その女性が楽しくしているときは傍にいていっしょに笑っていたい。それは、愛であり、慈しむ、ということです。

しかしニキルには結婚を誓った女性カリシュマーがいたはずです。ではニキルのミーターへの気持ちは単なる移り気、そしてカリシュマーへの裏切りになってしまうのでしょうか。実はニキルの婚約にはどこか打算的なものがありました。潤沢な資産を持つ実業家の義父。女優業を営み誰にでも自慢できる美人の婚約者。そんな義父や婚約者に気に入られる為に、冒頭ニキルは、これまでたいした成果も挙げたことが無いのに自分は大きな仕事のできる男だと偽り、それを証明しなければならない、という窮地に立たされていました。結局、この婚約はニキルにとって分不相応のものであり、もし結婚に漕ぎ着けたとしても終生虚勢を張り続けなければならなかったでしょう。いわば本当の愛に目覚めたニキルは、それによりミーターに救われた、ということもできるのです。そしてニキルのミーターへの愛は、それが無私だったからこそ、より大きな愛となってミーターへと還ってきたのです。

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20141218(Thu)

[][]惚れた彼女は親の決めた相手と婚約済み!〜映画『Humpty Sharma Ki Dulhania』 惚れた彼女は親の決めた相手と婚約済み!〜映画『Humpty Sharma Ki Dulhania』を含むブックマーク 惚れた彼女は親の決めた相手と婚約済み!〜映画『Humpty Sharma Ki Dulhania』のブックマークコメント

■Humpty Sharma Ki Dulhania (監督:シャシャンク・カイタン 2014年インド映画)

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惚れた彼女は親の決めた相手と婚約済み、そんな彼女との結婚をなんとか認めさせようと奮戦するいたいけな男子を描くラブ・コメディです。主演はヴァルン・ダワンとアーリヤー・バット、当代インド映画界のフレッシュな二人が『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』に続き共演したことでも話題になった映画ですね。さらにこの映画、SRKが主演した伝説の名作『Dilwale Dulhania Le Jayenge』(DDLJ)をその設定に生かした作品でもあるんですよ。

主人公カヴヤ(アーリヤー・バット)は自分の結婚式で着る高級デザイナーズ・ドレスを探しにデリーに訪れていた。カヴヤはそこでハンプティ(ヴァルン・ダワン)という青年と知り合う。ハンプティは高価な結婚衣装を欲しがるカヴヤを笑ったが、資金集めに協力し、いつしか二人は恋に落ちる。しかしカヴヤの結婚は間近、そこでハンプティはカヴヤの父(アストーシュ・ラーナー)を説得しようと試みるが、かえって逆麟に触れ、挙句の果てにボコられてしまう。それでも懸命に取り入るハンプティに、カヴヤの父は「結婚までの5日間に何か一つでも優れたところを見せろ」と命令する。しかしそこに現れたカヴヤの結婚相手は、なにからなにまで抜群のスキルをもった男だった!

親の決めた結婚相手のいる女性と恋におち、その彼女と結ばれるために大奮闘する主人公、という物語はインドの恋愛映画の基本中の基本ともいえるもので、多くの傑作や名作が生み出されています。こんなにテーマとして取り上げられるということは、あちらの国では相当多くの結婚が「親の決めた相手とするもの」という慣習によって行われているということなのでしょう。それによる悲恋や別れがあるからこそ、このようなテーマの映画に共感が生み出されているのかもしれませんが、この慣習に対して不満がないとしても、「自由恋愛」というものに対する憧れがあったりもするのでしょう。

しかし個人的には、映画のテーマとしてはそろそろ食傷気味で、よっぽどひねってくれないと、なんだか「ああまたか…」としか思えなくなってきてるんですよねえ。そういった部分でこの『Humpty Sharma Ki Dulhania』、いったいどういうひねりを見せてくれるのか、と思っていたんですが、まずこの作品で打ち出した新機軸と思しき点は、SRKの傑作恋愛ドラマ『DDLJ』の持つモチーフを作品のあちこちに盛り込み、または換骨奪胎して、『DDLJ』を観ていないわけがないインドの観客に大いにくすぐりを入れる、ということだったようなんですね。

そういった前評判があったものですから、実はこの作品を観る前に、まだ観ていなかった『DDLJ』を先に観て予習していたぐらいでした(いやー『DDLJ』、噂通りの大傑作でした)。でまあ、感想はといいますと、「あーハイハイ確かに『DDLJ』しているねえ、あーここなんかは設定逆にしてるんだねえ、ナルホドナルホド」などと確認はできたにせよ、じゃあそれが物語を画期的なものにしていたかというと、これはさほどって感じで…。

まずこの映画、前半の、主人公二人が恋に落ちるまでエピソードがあまり面白くありません。いったい何がやりたいの?と思えたぐらいで、もうこの辺からシナリオの拙さが浮き上がってしまってるんですよ。中盤からは「完全無欠の恋の強敵登場!」ということでやっと盛り上がってくるんですが、これをどうやりこめるのか?という部分でひとひねりあるのかと思ったら、これがまた芸のない落とし方で、なんだか拍子抜けしてしまいました。結局「『DDLJ』ぽい」という部分しか見どころの無い新鮮さに乏しいシナリオの作品だったんですが、主演のヴァルン・ダワンとアーリヤー・バットは大健闘していて、ここにこそ見所のある映画だったといえるでしょう。

D

20141217(Wed)

[][]そっくりさんが3組!?インドのしょーもないドタバタ・コメディ映画『Humshakals』 そっくりさんが3組!?インドのしょーもないドタバタ・コメディ映画『Humshakals』を含むブックマーク そっくりさんが3組!?インドのしょーもないドタバタ・コメディ映画『Humshakals』のブックマークコメント

■Humshakals (監督:サージド・カーン 2014年インド映画)

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会社乗っ取りの陰謀を巡り、経営者とその友人のそっくりさんが3組あらわれて大騒ぎ、さらに女装までしててんやわんや、という果てしなくしょーもないドタバタ・コメディです。主演はサイフ・アリー・カーン、女装といえばこの人(?)のリテーシュ・デーシュムク。そして監督は人気コメディ・シリーズ『Housefull』のサージド・カーン。

主人公アショーク(サイフ・アリー・カーン)は心の友クマール(リテーシュ・デーシュムク)を頼りにしながら大会社を切り盛りしてました。しかしその会社を乗っ取ろうと、アショークの伯父ママジ(ラーム・カプール)は二人に「犬になる薬」を飲ませ、精神病院送りにしてしまいます。二人はなんとか退院できるようになりましたが、なんと同じ病院には二人のそっくりさんがおり、彼らが退院することになってしまうんですね。そしてそっくりさんを言いなりにして乗っ取り成功に漕ぎ着けようとするママジを阻止しようと、無理矢理病院を抜け出した本物のアショーク&クマールが迫りますが、ママジはさらにもう一組のそっくりさんを登場させアショーク&クマールを阻むんです!?

えー、インド映画といえば重力も力学もはなから無視した無茶なアクションをみせてくれちゃったりしてますが、こちらの映画『Humshakals』は「そっくりさんが3組登場!?」という思いついても普通はやらない無茶なシナリオを堂々と映画にしてしまったというある意味大胆な作品であります。粗筋紹介では「アショーク&クマールのそっくりさん」みたいな書き方しかしていませんが、実際はアショークの伯父ママジのそっくりさんまで登場し、要するに3人のそっくりさんが3組、計9名がてんやわんやの大騒ぎをする、という物語になっています。いやー、いくらなんでもそりゃありえないだろ!?…とは思いますが、ここまで無茶されると観てるこっちとしても逆に開き直って観てしまいますね。

さらにこの映画、主演3人の女装シーンを盛り込んで無理矢理お話を盛り上げます。本物の3人が偽物の3人をパーティ会場で拉致するため、本物たちがウェイトレス姿に女装して偽物たちを誘惑する…という計画だったんですね。しかし誘惑はしたものの眠り薬を嗅がせるのに失敗し、ギンギンにその気になった偽物たちに貞操を奪われそうになる!?という阿鼻叫喚の展開を見せるんですよ。いやー…ひどい…(半笑)。ここでやはり評価するべきなのはリテーシュ・デーシュムク君でしょう。リテーシュ君、『Apna Sapna Money Money』でも馨しいまでにお色気たっぷりの女装姿を見せてくれましたが、この作品でもそれに輪をかけてゴージャスな女装姿を披露してくれてます。いやん…ステキ…。

こんな具合に、この『Humshakals』はかなりベタといいますか分かり易すぎるといいますか、ちょっと安易なシナリオで進行していくんですが、こういった安易さからか一般には評価が低いようなんですね。インド映画はコメディ・ジャンルが非常に優れていて、しかも複雑なシチュエーションを堂々と成り立たせるものが多いのですが、それらと比べると確かにこの作品は力任せに過ぎる部分があるかもしれません。しかし、安易とはいえこの分かり易さというのは、ハリウッド・コメディと通じるものがあり、ある意味相当しょーもないハリウッド・コメディなんかよりも全然面白くできていますよ。これ、ハリウッド・リメイクしても面白いんじゃないかな。アダム・サンドラー、ケヴィン・ジェームズ、ロブ・シュナイダーの3人でやればきっとハマると思うんだけどなあ。

それと合せ、主演3人が3役を演じるということから、その演技の違いを見るのがまた楽しかったりします。なにしろ、いつもはニヒルな2枚目役を演じることの多いあのサイフ・アリー・カーンが、おバカなキャラクターを演じるばかりか女装姿まで見せちゃってくれてますからね。変な顔して喋っているサイフ・アリー・カーン、いい味出してたなあ。そして3組のそっくりさんが一堂に会するクライマックスは、ここはさすがのインド・コメディと頷かされる壮絶なドタバタぶりが展開しており、大いに笑わせてもらいました。

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20141216(Tue)

[]「SFマガジン700【海外篇】」読んだ 「SFマガジン700【海外篇】」読んだを含むブックマーク 「SFマガジン700【海外篇】」読んだのブックマークコメント

SFマガジン700【海外篇】 (ハヤカワ文庫SF)

1959年の創刊から、つねにSF界を牽引してきた“SFマガジン”の創刊700号を記念する集大成的アンソロジー“海外篇”。黎明期の誌面を飾ったクラーク、シェクリイら巨匠。ティプトリー、ル・グィン、マーティン、ウィリスら各年代を代表する作家たち。そして、現在SFの最先端であるイーガン、チャン、バチガルピまで。SF史を語る上で欠くことのできない作家12人の短篇を収録。オール短篇集初収録作品で贈る傑作選。編者・山岸真による「編集後記」も併録。

今は全然買っていないが、大昔、SFマガジンを何年かとっていた時期はあった。でもそんなに読んでもいなかった。本を読むのが遅いので、他に出ている小説本を読んでいると、おっつかないのである。ただ単に「自分はSFマガジンを購読しているSFファン」という、どうでもいいステータスに憧れていたのだ。

そんなSFマガジンが創刊700号と言われても別に感慨があるわけではないが、それを記念して刊行された『SFマガジン700【海外篇】』は、たいそう面白そうに思えた(ちなみに日本篇には全く興味が湧かなかった)。そして実際読んでみると、たいそうどころか、相当面白い作品が収録され、これには興奮させられた。編者は山岸真氏、あの傑作アンソロジー『スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選』を纏めた方で、なるほど、面白くないわけがない。

あとがきに書かれているが、このアンソロジーはSFマガジンに掲載されながらも「日本で出ている著者短編集に未収録に限定」し、「眠っている秀作であることには間違いないがSF史、日本SF史、翻訳SF史、SFマガジン史に欠かせない巨匠から新鋭までの超有名作家の作品ばかりを集めた「お祭り企画」」ということになっている。だから、短編集もあまさず読んでいたはずのお気に入りの作家でも、初めて読む作品であったりする部分が非常にありがたい。しかも未収録ながら面白い埋もれた傑作ばかりだ。これはアンソロジストである山岸真氏の快挙だろう。同時に、これからもこういった形で「埋もれた名作短編」をどんどんアンソロジーとしてまとめて欲しいような気がする(まあしかし、今まで企画はあったんだろうけど、そんなに売れないと判断されたんだろうなァ…)。

さてざっくり感想を。
・「遭難者」 アーサー・C・クラーク…1947年作って70年近く昔の作品なのに全然古びない面白さにびっくりした。
・「危険の報酬」 ロバート・シェクリイ…シェクリイが得意そうな話だよね。
・「夜明けとともに霧は沈み」 ジョージ・R・R・マーティン…マーティンは短編でもやっぱり重厚だなあ。
・「ホール・マン」 ラリイ・ニーヴン…当時マイクロブラックホール・ネタって結構流行ったような気が。
・「江戸の花」 ブルース・スターリング…うおお、これ、サイバーパンク版『帝都物語』じゃん!これは凄かった。
・「いっしょに生きよう」 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア…もうホント好きな作家。1988年作ってこれ、没後発表されたのかな。晩年を思わせる生への渇望が見え隠れしてオレはなんだか切なかったよ。
・「耳を澄まして」 イアン・マクドナルド…初期の頃はこんな荘厳な作風の人だったんだ。
・「対称(シンメトリー)」 グレッグ・イーガン…例によってゴリゴリのハードSF。いつも半分も理解できてない気が…。
・「孤独」 アーシュラ・K・ル・グィン…ごめん、ルグィン苦手なんだオレ…。
・「ポータルズ・ノンストップ」 コニー・ウィリスコニー・ウィリスも苦手。でもこれはすんなり読めたほう。
・「小さき供物」 パオロ・バチガルピ…この人らしいバイオ・ホラー。
・「息吹」 テッド・チャン…すまん、テッド・チャンも苦手な作家でなあ…。

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20141215(Mon)

[]遂に最終章。〜映画『ホビット 決戦のゆくえ』 遂に最終章。〜映画『ホビット 決戦のゆくえ』を含むブックマーク 遂に最終章。〜映画『ホビット 決戦のゆくえ』のブックマークコメント

ホビット 決戦のゆくえ (監督:ピーター・ジャクソン 2014年ニュージーランド・イギリス・アメリカ映画)

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ホビットたちの旅が終わる。しかし、旅の終わりに待っていたのは、欲望に目を曇らせた者たちの骨肉の争いだった。『ロード・オブ・ザ・リング』サーガの前日譚であり、2012年『ホビット 思いがけない冒険』、2013年『ホビット 竜に奪われた王国』に続く「ホビット3部作」の終章である。

物語は冒頭から既にクライマックスを迎える。前作で空に放たれた邪竜スマウグが人間たちの町エスガロスを強襲し、全てを火の海に変えるのだ。町は破壊され灼熱地獄と化す。逃げ惑う人々に生き延びる術はあるのか。それと並行して、ドル・グルドゥアに一人乗り込み死人遣い(サウロン)に囚われの身になったガンダルフ、オーク族の"穢れの王"アゾクの進撃、森のエルフであるレゴラスとタウリエルの活躍が描かれてゆき、そして中盤からは全種族を巻き込んだ【五軍の合戦】(映画原題)へとなだれ込み、それは壮大かつ悲壮な物語として展開してゆくのだ。

【五軍の合戦】とは人間、エルフ、ドワーフと、ドル・グルドゥアの軍勢、グンダバドの軍勢の、強大な力と力がぶつかり合う合戦なのだ。『ホビット 決戦のゆくえ』はこの【五軍の合戦】をハイライトとして凄まじい合戦の有様とその行方を描き、映画のスペクタクルを盛り上げてゆくが、それでは【五軍の合戦】はなぜ起こったのか。それはスマウグから膨大な量の財宝を取り戻したドワーフ族の王トーリンの変節にある。本来人間・エルフと分け合うべきだった財宝をトーリンが一人占めしようとしたのだ。それに対し、人間・エルフが戦闘も辞さぬ形で挑んできたという訳だ。ここに「ホビット物語」の真のテーマがある。

スリリングでスピーディーなアクションが盛り沢山だった1作目と2作目は単純明快な冒険譚だった。それは大人も子供も楽しめるエンターティンメント作品として完成していたが、この第3部に来て物語は突如欲望と猜疑の渦巻く政治劇に発展するのである。崇高な想いを抱き、数々の難関を勇気でもって乗り越え、滅び去った国をようやく取り戻したドワーフ王トーリンが、財宝に目がくらみ欲望と執着で醜くその魂を歪めてしまう。これまで心を躍らせながらドワーフ族と一人のホビットの活躍を見守ってきた観客たちに、これは大きな衝撃となって受け止められるに違いない。

この「財宝に心を歪められる王トーリン」は、LOTRにおける「邪悪な指輪に心を歪められるゴラム」と相似形を成す。しかしゴラムが指輪の魔力による抗えない作用により醜い化け物と化したのに対し、トーリンは「竜の病」という註釈は付くものの、結果的に己の欲望に飲み込まれる形で変節してしまうのだ。そして本来手を取り合い世界を守り築き合うべき種族同士が泥沼の抗争に引き込まれる。ここに「ホビット物語」の遣る瀬無さ、切なさがある。『指輪物語』が児童文学として始まりながら結果的に大人の物語になったように、この『ホビット』も同じく最後に来て大人の苦さを持った物語となるのである。

その中で、あくまでも友情と信頼を第一義とするホビット族、ビルボ・バギンズの身を挺した行動が何よりも胸を打つのだ。葛藤と困惑の中で、彼はそれでもドワーフ王に正しい心を戻してもらうために尽力し、その非力な肉体に鞭打ちながら活躍する様は、無私である者の輝きに満ち、この物語でなぜ彼が主人公なのかをあからさまにするのだ。

それはやはり同時に、LOTRにおいて圧倒的に非力な存在でしかないはずのホビット族フロドが、結果的に世界を救う者として行動したのとよく似ている。非力な者、目立たぬ者、市井の者が最終的に世界を救い、世界を守る。これがトールキンの描く『ホビット』と『指輪物語』に通底するテーマであり、だからこそ、強力な力を持つ者だけが世界を切り開く英雄譚には無い、独特の妙味を持つ物語として世界に愛され続けてきた理由なのだろう。

こうしてトールキン原作の一大ファンタジー・サーガは終わりを迎える。2001年の『ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間』から始まったこの大いなる冒険は遂にその円環を閉じるのだ。原作、映画と長きに渡ってファンだった者として、これは有終の美を飾る最終作として堪能することができた。

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ホビットの冒険〈上〉 (岩波少年文庫)

ホビットの冒険〈上〉 (岩波少年文庫)

ホビットの冒険〈下〉 (岩波少年文庫)

ホビットの冒険〈下〉 (岩波少年文庫)

20141214(Sun)

[]最近聴いたエレクトロニック・ミュージック 最近聴いたエレクトロニック・ミュージックを含むブックマーク 最近聴いたエレクトロニック・ミュージックのブックマークコメント

■Will I Dream During the Process / DeepChord + Yagya

Will I Dream During the Process (DeepChord Redesigns)

Will I Dream During the Process (DeepChord Redesigns)

アイスランド在住のYAGYAの2nd『Will I Dream During the Process?』をミニマル・ダブの雄DeepChordが再構築したアルバム。意外やキックの強いフロア向けのミニマル・ダブ。これは結構良い。 《試聴》

■Machine Conspiracy / Conforce

Machine Conspiracy

Machine Conspiracy

オランダ出身のBoris BunnikによるプロジェクトConforceが2010年にリリースした1stをDelsinが一部内容を変更してリイシューしたアルバム。浮遊感のあるディープ・ハウス〜テック・ハウス〜デトロイト・テクノ〜ミニマル・ダブ・テクノ。 《試聴》

■Theater Of A Confused Mind / Population One

Theatre of a Confused..

Theatre of a Confused..

デトロイトのベテラン・ミニマリストTerrence Dixonによる別名義プロジェクト、Popilation Oneのフル・アルバム。 《試聴》

■Beyond the Hypnosis / Jonas Kopp

BEYOND THE HYPNOSIS

BEYOND THE HYPNOSIS

ベルリンの名門テクノレーベルTRESORからリリースされたアルゼンチン出身のテクノ・プロデューサーJONAS KOPPによる1st。ストイックなミニマル・サウンド。 《試聴》

■Iffy / Recondite

Iffy

Iffy

ベルリンのLorenz BrunnerによるReconditeの2nd。アブストラクトなビートを刻むミニマル・テクノ/ハウス。Dixon率いるベルリンのモダンハウスレーベルINNERVISIONSからのリリース。 《試聴》

■Faith In Strangers / Andy Stott

Faith In Strangers

Faith In Strangers

Modern Loveからリリースされたポスト・インダストリアル・サウンドの立役者Andy Stottのニュー・アルバム。例によってひたすらダークに突き進むインダストリアル・ドローン。 《試聴》

■John Beltran Presents: Music for Machines / V.A.(John Beltran)

John Beltran Presents: Music for Machines

John Beltran Presents: Music for Machines

デトロイト・テクノ第2世代John Beltranによるアンビエントの名曲をコンパイルしたコンピレーション。ちょい甘め。 《試聴》

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20141212(Fri)

[][]インドの事をあれこれ勉強してみた インドの事をあれこれ勉強してみたを含むブックマーク インドの事をあれこれ勉強してみたのブックマークコメント

インド映画はとても面白いし、目も彩なインドの文化もそれはそれは楽しいのですが、実の所自分はインドについてまるで知りません。もちろんヒンディー語を始めとするインド言語は理解できませんし、インド映画を観るまではインドの主要都市がどこにどうあるのかすら全く知りませんでした。インドの歴史も経済も知らなかったし、ヒンドゥー教がどういったものであるのかも知りません。インドについて読んだことがある本は椎名誠の紀行本とねこぢるの漫画だけです。もっと言うとインドは遅れていて貧乏で不潔で無知蒙昧な人々の暮らす国とすら思ってました。インドの皆さん、本当にどうもすいません。遅れていて貧乏で不潔で無知蒙昧な人間はこの自分でした。

インド映画を観るようになって、インドのことをもっと知りたい、と思うようになりました。それは憧れとかではなく、「何かとんでもないものがありそうなのに全く掴めない」という戸惑いからでした。「何か物凄いものが存在しているのに全く無知だった」という焦りからでした。知見の狭い自分を恥じたのです。インドの美しさ素晴らしさは理解できます。しかしそれだけではないもっと複雑怪奇なものがインドには存在していて、手放しに「インドは素晴らしい!」と言えない部分がありました。その複雑怪奇な部分も含めて、「実際どうなっているのか」ということをきちんと知りたくなりました。インドという国は、多分自分には一生異質な国なのだと思いますが、その全容を知らずに意見や感想を持ちたくなかったんです。まあその全容だって、全て知ることは無理だとは思いますが、知ろうとする努力だけはしたかったんです。

そもそも自分には他の外国も異質だし、日本だって実はなんだか異質なぐらいに思っています。海外旅行も興味無いし、世界情勢もネットで流し見する程度で、国際感覚のコの字も存在しません。そんな自分に「知りたい」と思わせたインドは、やはりどこか特別な魅力というか魔力の存在する国なのでしょう。そんなわけでささやかながら勉強しようと思い何冊か本を手に取り、とりあえず読んでみました。インド通の方から見ればお粗末で噴飯ものの内容でしょうが、とっかかりということでお許しを。選択の際注意したのは「日本人がインドに行ってびっくりした」といった類の体験本には手を出さない、ということ、とりあえずヒンドゥー教ってなんだろう?という部分から始める、ということでした。

■ヒンドゥー教 インド三〇〇〇年の生き方・考え方 / クシティ・モーハン・セーン

ヒンドゥー教 (講談社現代新書)

ヒンドゥー教 (講談社現代新書)

インド人ヒンドゥー教徒によって書かれたヒンドゥー教入門書。「ヒンドゥー教に関して予備知識をもたない、一般の読者を対象に書かれている」ということから、最初のとっかかりに最適だと思って読んでみることにしました。200ページ程度の本で、これを読んだだけでヒンドゥー教が分るとは思っていませんが、あらましだけでも掴んでおこうと思ったわけです。第1部が「ヒンドゥー教の本質と教え」、第2部が「ヒンドゥー教の歴史」となっており、非常に要点を濃縮した内容で、キーワードと簡略化された説明がポンポンポン!と飛んでいき、これはこれで読み応え十分ですが「詳しく知りたかったらもっと勉強せえよ」という含みもあり、最初の1冊としてこれほど的確な本はないと思わせてくれました。それと、インド人著者だけにインドに対する誇りが透けて見えるのがよかったですね。そしてこの本でなにより目から鱗が落ちたのは、「ヒンドゥー教は多神教ではなく一神教である」という記述ですね。『ウパニシャット』では万物に遍在する「神」をブラフマンと呼びますが、ヒンドゥー教で礼拝される様々な神はこのブラフマンの人格化された化身の一つに過ぎず、全ての祭祀は実は唯一神ブラフマンを崇める行為に通じている、ということなんですね。『ウパニシャット』においては「自己」をアートマンと呼びますが、そのアートマンもまたブラフマンの一部であり(不二一元論)、神/人間の二元論で成り立つ他の宗教と違い、ヒンドゥー教はヨーガによって自らの裡にある神=ブラフマンを見出すことがその教義とされているんですね。

■ヒンドゥー教―インドの聖と俗 / 森本達雄

ヒンドゥー教―インドの聖と俗 (中公新書)

ヒンドゥー教―インドの聖と俗 (中公新書)

インド滞在経験の長い邦人インド研究者によるヒンドゥー教本。これなどはまさに日本人視点から「インドとかヒンドゥー教ってどういうものなのだろう?」という好奇心や興味に寄り添う形で書かれているのが面白かったですね。扱われる素材は広範で雑多、バランスもまちまちなので、主観的な記述も若干ながらあると思いましたが、そもそもたった1冊の本でインドの全てを説明することはできませんから、これでも結構詰め込んでくれているのではないでしょうか。ともかく2冊目としてはこれもいい本でしたね。

■インド神話―マハーバーラタの神々 / 上村勝彦

インド神話―マハーバーラタの神々 (ちくま学芸文庫)

インド神話―マハーバーラタの神々 (ちくま学芸文庫)

インドの神様って沢山いますが、なにがどれでどうなっているのかきちんと知っとこうと思い、読んでみることにしました。手に取るまで知らなかったのですが、著者はインド研究の日本における第一人者だった方らしく(故人)、厳密な記述に注意を置き、的確な比較が繰り返され、まるで講義でも受けているかのような身の引き締まる読書体験でしたよ。内容としては表題にあるように「マハーバーラタ」の神々を中心としており、つまりそれ以前の「ヴェーダ文献」にある神々はさわりだけに紹介といった形にとどめられています。そしてこれはまた、神々の名前を羅列して紹介する本ではなく、マハバーラタの物語を紹介しながらそこでどう神々が活躍したのかが書かれているのですよ。そしてこのマハバーラタの物語がまた面白い。つまりどういうことかというと、この本を読むとマハバーラタを読みたくなる、という危険な本でもあるのですよ…。

■バガヴァッド・ギーター / 上村勝彦

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)

ヒンドゥー教の聖典となるものは複数ありますが、全部読むわけにもいかないので、叙事詩『マハーバーラタ』の一部であり、重要な聖典の一つである『バガヴァッド・ギーター(神の歌)』を選んでみました。聖典といいつつ、この叙事詩はまず大戦争の真っ只中から語り始められます。これはバラタ族のクル王家・パーンドゥ王家という親族同士が領土の覇権を賭けて行われた「クルクシェートラの戦い」のことで、『マハーバーラタ』の中核的な要素でもあります。主人公となるパーンドゥ家のアルジュナは戦いに際し肉親同士で殺し合うこの戦争に疑問を持ち戦意を喪失してしまいます。しかしそこでアルジュナに仕える御者クリシュナがヨーガの秘説を説いて彼を鼓舞するのです。このクリシュナこそが実は最高神ヴィシュヌの化身(アヴァターラ)であったのです。ここでクリシュナは何故戦うのかということ、そして人として何を成すべきかを説きますが、それは同時に人としての義務を果たしながら解脱へと至る道を明らかにしたものでもあるのです。ここで「戦い」と「人の道」に齟齬があるように思われるかもしれませんが、これはアルジュナクシャトリヤ、つまりヴァルナ (いわゆるカースト) の第二位である王族・武人階級であり、そのクシャトリヤとしての務め、即ち現世での人としての義務を説いたものであるのです。この『バガヴァッド・ギーター』はさらにヨーガ修行の重要性、魂の不滅、神への帰依の在り方が述べられていきますが、それは篤い信仰の道の中にこそ人の生きる術があるのだという教えです。『バガヴァッド・ギーター』の根幹を成す教えは「(結果に)執着することなく、常に、なすべき行為を遂行せよ」ということです。それは、「無私」であること、そして常に行動すること、その二つです。「行動することの義務」が教義の中心である、という部分にヒンドゥー教、ないしインド民族というものの秘密が隠されているような気がしてなりません。

■バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 / 上村勝彦

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)

バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)

上記『バガヴァッド・ギーター』の解説書。『ギーター』だけだと難解なような気がしたので最初はこちらから読んでみました。著者は『バガヴァッド・ギーター』の訳者であり、『インド神話―マハーバーラタの神々』の作者でもある上村勝彦氏です。特に意識したわけでもないのにインド関連の本を購入したら3冊が同じ研究者のものだったことを知りびっくりしました。確かにこの解説書から読んだのは正解だったようで、『ギーター』に秘められたインド哲学、インド宗教の在り方を丁寧に説明しています。また、上村氏は浅草寺関係者でもあり、仏教との関連性・類似性を見出しながら説明してゆくスタイルは日本人にも分かり易いものでしょう。『ギーター』はインドの学校で「ギーター検定」なるものがあるというぐらいインド人の心象に密着したものであり、また、かのインド元首相ガンジーも熱心なギーター実践者であったという話などを聞くにつけ、いかにこの聖典が重要なものであるかが分かるでしょう。

■シャクンタラー姫 / カーリダーサ

シャクンタラー姫 (岩波文庫 赤 64-1)

シャクンタラー姫 (岩波文庫 赤 64-1)

これは「インドの事を知る」というよりは『インド神話―マハーバーラタの神々』で紹介されていたシャクンタラー姫のエピソードが面白かったので、『マハバーラタ』から戯曲化されたこの『シャクンタラー姫』を読んでみようと思ったという訳です。作者の名はインド古代戯曲作家の最高峰と言われるカーリダーサ(5世紀ごろの人物とされるが不明)。物語は仙人の隠棲所で出会ったドウフシャンタ王と天女の血筋を持つシャクンタラー姫との恋愛ドラマです。相思相愛となり周囲からも祝福され婚姻の目前にあった二人はしかし、とある仙人の呪いによりその想いを成就することができなくなります。クライマックスは天界の神々も登場し神々しくもまた稀有壮大な幕引きを見せるのです。読んでみてまず驚いたのは、七五調の音数律で訳された雅極まる詩文でもって物語が進行してゆくことでしょう。実際の原典もいわゆる美文体と呼ばれるもので書かれ、演劇ではそれを歌うか歌うかの如く美しくたおやかに表現したのでしょう。日本語の擬古体文で訳されたこれら文章は折衷案だとしても、訳者の方の並々ならぬ文学的知識と素養の賜物であることは間違いなく、その訳文の美しさを堪能するのも一つの楽しみです。この『シャクンタラー姫』は古代インド劇の中でも最高傑作と呼ばれ、古くからヨーロッパに紹介されてゲーテファウスト』の序文にも影響を与えたと言われます。また、巻末の解説では、古代インド戯曲の主な代表的作品とされるものの殆どは、「恋愛コメディー」と「英雄コメディー」に属するとされ、この辺りに現代インド映画との共通点があるのかもしれないな、と思いました。

イスラーム ― 回教 / 蒲生礼一

さてヒンドゥー教のことは多少なりとも学びましたが、インドにおいてヒンドゥー教と並び信仰されているイスラーム教のことも、オレは実はよく分かってなかったんですよ。インドにおける人口比ではヒンドゥー教80%に対しイスラム教14%弱の信仰率ですが、それでも1億6000万人のイスラム教徒がインドにいることになります。ボリウッド・スターにもイスラーム教信者はある割合で存在するでしょう。そんなわけで、イスラーム教について知るために手にした本が『イスラーム ― 回教』。実は古本で100円で入手。実はこの本、1958年という半世紀も前に書かれたものなので、現在のイスラム圏の状況は当然知ることはできませんが、イスラーム教のそもそもの概略を知るには別に古くても問題ないと判断したんです。そして実際、とても丁寧に書かれ、分かり易い本でした。マホメットの生い立ちとイスラーム誕生の歴史的背景、その後の歴史と文化が基本となりますが、読んでみて最も興味深かったのはイスラーム教が基本的に非常に民主主義的な宗教である、という点でした。後続宗教であるため逆に民衆に対して"こなれている"という言い方もできますが、これは例えば権威の名の元にヒエラルキーを形成したキリスト教と根本的に違う、ということなんですね。スンニ派とシーア派という派閥がなぜ発生したのか、というその理由も面白い。これはいわゆる教義解釈のみの話ではなく、アラブの遊牧民族と農耕民族の生活の違いからくる信教のありかたの違いであり、また、古代イランがシーア派をとったのもアラブ系イスラームに征服された際の牽制の意味があったのらしい。もう一つ、イスラーム神秘主義がイスラームの根本理念とどうにもかけ離れた主張(どちらかというとウパニシャッドの理念に近い)をしているといった点で、「別にもうイスラームじゃなくていいじゃん…」と思わせてくれる部分が面白かったなあ。

地球の歩き方 インド 2014〜2015 , 地球の歩き方 南インド 2014〜2015

D28 地球の歩き方 インド 2014~2015

D28 地球の歩き方 インド 2014~2015

D36 地球の歩き方 南インド 2014~2015

D36 地球の歩き方 南インド 2014~2015

旅行ガイドブック「地球の歩き方」のインド編と南インド編。もうオレ、インド好きすぎるからインド行くわ!インド旅立っちゃうわ!…というわけでは実は全然無く、インドの都市の所在地とその位置関係を知りたくて購入したんですね。このガイドではさらに遺跡の所在地やその写真が載っているので、インド映画に出てくるあの遺跡は何?と思ったらすぐ調べられるんですよ。さらに観光地や街並み、商店の写真もあり、インドの街の様子が多少ではありますがうかがえるのもいいですね。一応インド編にも南インドは含まれているんですが、もっと詳しく、ということで別に南インド編が設けられているようです。実際のところ、自分がインド旅行するかというとまあないだろうなあ、と思います。そもそも海外旅行に興味がないのでしたことすらないんですよ。このガイドブックも、旅行の心得を読んだだけで面倒臭くなってしまったぐらいでしたよ。ええ、相当ものぐさな人間なんです。でもいつかぷらっと行くかも(どっちなんだよ)。行くなら南インドかなあ(だから行く気あんのかよオレ)。

■インド・祭り―沖守弘写真集 / 沖守弘

インド・祭り―沖守弘写真集

インド・祭り―沖守弘写真集

インド映画にはお祭りの描写が多々ありますが、それが実際はどんなもので、いったいなんなのか、全然知らなかったんですよ。色付きの粉を掛け合うのがホーリーというのはなんとなく分かりましたが、ガネーシャ神が出てくるあれは何?シヴァ神を祀るこれは何?あの女神さまは誰?とずっと疑問に思ってたんですね。あと、映画で見るお祭りは撮影のためのものでしょうから、実際のお祭りはどんなふうに、どんな人たちが集まってやっているんだろう?とも思ってました。この『インド・祭り―沖守弘写真集』はそれらインドの主要な祭りを写真で紹介したもので、さらにどの祭りがどの地方でいつ行われるのか、それは何のための祭でどのように行われるのか、といった簡単な説明も入っており、ガイドブックとして非常に重宝します。中古品で相当安く手に入ったというのもポイント高い。なによりこの写真集でよかったのは、インドの普通の人たちの顔が沢山見られる、ということもありました。映画ばっかりだとその地で生きるリアルな人々の顔つきがわからないんですよ。そしてリアルなその人たちの顔を見て、ああ、この人たちの多くは今もインドで生活してるんだなあ、と想像するのがなんだか感慨深かったですね。やっぱりインド行こうか…(いや行かない人大杉)(だからどっちだとあれほど)。

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さてこれらの本を読んでインド映画は以前より理解が深くなったか?といいますと、結局思ったのは「むしろDVDの英語字幕ちゃんと理解するために英語勉強したほうがよかったんじゃないか?」ということだったんですけどね!まあ勉強は面白かったです!

20141211(Thu)

[]だから格ゲーは下手糞だとあれほど〜ゲーム『Killer Instinct コンボブレイカー パック』 だから格ゲーは下手糞だとあれほど〜ゲーム『Killer Instinct コンボブレイカー パック』を含むブックマーク だから格ゲーは下手糞だとあれほど〜ゲーム『Killer Instinct コンボブレイカー パック』のブックマークコメント

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オレは格闘ゲームが下手である。下手だったがとりあえずバーチャファイターあたりは好きでよくやっていた。それも対戦ではなく、家の据え置き機でCPU戦ばかりである。でもCPUにもよく負けていた。ストリートファイターとかになるともう訳が分からない。コマンドなんて入力できない。練習でさえ上手く入力できたことがない。向いていない、ということなのであろう。やらないほうがいい、ということなのであろう。オレには無理だった、できなかった。そんな青春の悲しみだけが格ゲーの思い出として残されたのである。

そんなうちに格ゲーブームも去り、格ゲーなどプレイしなくても幸せな毎日が送れていた今日この頃であったが、つい最近『Killr Instenkt』というXboxOne専用ゲームを発見してしまったのである。

なにか、禍々しい人外の者たちが、巨躯をしならせ咆哮しているではないか。なんだかよくわかんない稲光だの爆発だので画面がピカピカチカチカしまくっているではないか。それがXboxOneの、ハイレゾ画面でヌルヌル蠢いているではないか。ううむ、楽しそうだぞ、とても楽しそうだぞ。さらにソフトの価格は2000円前後、「ちょっと遊んでみる」程度にはお手頃の価格ではないか…。

そんなわけで久々に格ゲー『Killr Instenkt』を購入してしまったオレである。そしてやってみたのだが…嗚呼、ムズイ。嗚呼、勝てない。何度対戦に挑んでも敵のコンボコンボコンボの連発に身動き一つ出来ないまま瞬殺されてしまう。2000いくらの金を払ってオレが手にしたのは楽しみではなく絶望だったのである。これでは浮かばれない…。虚無と徒労でボロ雑巾のように床に転がっていたオレだったが、ふと画面を見ると難易度設定があるではないか。おお、これでなんとかなりそうだ…とりあえず最弱の難易度で肩慣らししよう…。

というわけで『Killr Instenkt』、イメージ的には『ヴァンパイアハンター』に『モータルコンバット』を足して『ストリートファイター』のエッセンスを加え3D化し、さらにド派手なエフェクトがキラキラ踊るような、なんかそーゆー感じのゲームである。と思う。多分。格ゲー沢山やってないから比喩がし難いのである。なにしろモンスター系の連中が楽しい。相変わらずコマンドはうまく入れられないが、ガチャプレーでもなんとか勝つことができるまでになった。練習が嫌いなので*1やりこむことはないだろうが、ちょっと時間が空いたときにガシガシやるにはいいゲームだと思う。なにしろ、プレイしすぎて親指の皮がむけた。

爽快なコンボシステムや特徴的なキャラクターたちと共に、『Killer Instinct』が新世代機のクオリティで Xbox One に登場。先行して本体発売と同時に配信されるダウンロード版に加え、パッケージ版『Killer Instinct: コンボブレイカー パック』が発売。Season 1 の全8 キャラクターに加え、Season 2 から「TJ Combo」を加えた全9 キャラクター を収録。お得に『Killer Instinct』を余すことなく楽しむことが出来ます。

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*1:練習など誰がするものか…ッ!!

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20141210(Wed)

[][]南北インドの無理解と和合〜映画『2 States』 南北インドの無理解と和合〜映画『2 States』を含むブックマーク 南北インドの無理解と和合〜映画『2 States』のブックマークコメント

■2 States (監督:アビシェーク・ヴァルマン 2014年インド映画)

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インド映画の面白さはその独特のエキゾチズムとインド映画ならではの物語テンポにある。そして自分には馴染みの薄い国インドの、日本とは違う文化、日常感覚に触れることの新鮮さがある。この人たちはなぜこのように考え、このように感じ、このように行動するのだろう?そしてその背景にはなにがあるのだろう?こういったことを考え、想像したり調べたりすることに興味を覚えるのだ。その異文化の在り方を体験することに面白さを感じるのだ。

この『2 States』は「インド南北でそれぞれ違う文化と違う習俗で生きてきた2つの家族が、息子と娘の【結婚】をきっかけにお互いの持つ偏見を露わにし衝突してしまう」といった物語だ。原作は名作映画『きっと、うまくいく』の原案となった小説も書いた人気作家、チェータン・バガトの同名小説であり、自らの体験を基にして描かれた物語であるという。確かに大学構内の描き方に『きっと、うまくいく』の片鱗を感じることができる。

アフダマーバードのインド経営大学院に通うクリーシュ(アルジュン・カプール)とアナニヤー(アーリヤー・バット)は恋人同士。二人は卒業を機に結婚を約束し合ったが、卒業式で鉢合わせた二人の親同士がいきなり衝突してしまう。それは二人の家族がパンジャーブ、タミルというインドの北部・南部に大きく離れた地方に住むことによる、お互いの文化の無理解と偏見からだった。二人の家族の不和により暗礁に乗り上げた結婚だったが、クリーシュはアナニヤーの両親を説得するために就職先を彼らの住むチェンナイに決める。

北インドと南インドの遭遇、といったテーマでは以前『Chennai Express』という作品を観たことがあるが、これはどちらかというとアクション&ロマンス主体のエンターティメント作品だった。しかしこの『2 States』はその対立の様がずっとシリアスだ。クリーシュの母親はアナニヤーの一家を「ベンガル人」と差別的に呼び、アナニヤーの母はクリーシュらを「野蛮人」と言い捨てる。お互いの親の心中にあるのは「あんな連中と一緒にされたくない」といった嫌悪感だが、しかしそれは自分には馴染みのない文化に対し単にイメージだけで優劣を付けているに過ぎないということなのだ。

そして親たちは「あんな家の者とは結婚させない!」と息巻くのだが、この物語で面白いのは「愛し合いながら障壁に阻まれる二人」というよくあるテーマを描きながら、その理由が経済格差や人種や宗教といったものでは全くない、といった点だ。二人の家庭は何不自由ない中流家庭で、それぞれに知的であり、本人同士もエリートなのだ。ただ「相手の生まれた地方が気に食わない」というほとんど言いがかりと決めつけだけから生まれた齟齬なのだ。

だからこそ、「それのどこが問題なのだ?」という可笑しさがこの物語にはある。そしてそれは、南北インドなど何も気にせず恋に落ちた二人ではなく、その親の世代といった形で現れている。つまりこの映画が描きたかったのは旧弊な価値観からの脱却、という部分もあるのだろう。

しかし、それがいかに旧弊な価値観だろうと、結婚を認められない二人にとっては切実だ。では二人はどうするのか?ここがこの映画の大きな見せ場となる。二人は、無理解な親を無視してしまおう、否定してしまおう、とは考えない。駆け落ちして二人だけで幸せになろう、とは思わない。二人にとって幸福とは、お互いの両親の幸福が含まれての幸福だからだ。こうして二人は、どうにかしてそれぞれの親に理解を得ようと粉骨砕身するのだ。

この、ある種の障壁に対して粘り強く地道に取り組んでゆく主人公二人のひたむきさに、自分は大きな感銘を覚えた。あきらめず、悲嘆に手を止めることなく、自分のできることを今やること。ヒンドゥー教の聖典『ヴァガヴァット・ギーター』には「常に行為を成せ、その結果を動機とすることなく、それは無為よりも尊い」といった教義が記されているが、この『2 States』にあるひたむきさには、そういったヒンドゥー的な心象が隠されているのかもしれない。素晴らしい傑作だった。

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20141209(Tue)

[]ヨーロピアンなウェス・アンダーソン〜映画『グランド・ブダペスト・ホテルヨーロピアンなウェス・アンダーソン〜映画『グランド・ブダペスト・ホテル』を含むブックマーク ヨーロピアンなウェス・アンダーソン〜映画『グランド・ブダペスト・ホテル』のブックマークコメント

グランド・ブダペスト・ホテル (監督:ウェス・アンダーソン 2014年ドイツ・イギリス映画)

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ウェス・アンダーソン監督作品が苦手だった。若干毛嫌いしている部分もあったかもしれない。ウェス・アンダーソンの名前を聞くと「ウェス・クレイブン?ホラーの人?」などと進んで勘違いし、存在自体を無視しようと努めていたりもした。全ての作品を観ているわけではないが、作品の出来自体はとても優れているとは思うのだが、技巧なり話法なりに、なーんかこう、鼻につくものを感じていたのだ。そもそも「鼻につく」なんて言い方は観る側の資質の問題だから、これはもう相性が悪かったとしかいいようがない。

しかし新作『グランド・ブダペスト・ホテル』の予告編を観たときには心が躍らされるものを感じた。ウェス監督が変わったのかオレの心境が変わったのかは分からないが、素直に「面白そう」と思えた。思いつつ「でもウェスだろ…」と警戒もしていたが。そしてこの映画、相方さんも観たがっていたので一緒に行こうかと考えていたが、あれこれ忙しくて結局劇場で観ることが叶わず、ソフト化してからの視聴になってしまった。そしてやっと観ることのできた作品は、これまでのウェス作品嫌いがなんだったのかと思うほど素敵な作品だった。

物語は第2次世界大戦の足音が近づく1930年代、ヨーロッパの架空の国ズブロッカ共和国が舞台。かの国にはヨーロッパ最高峰とも呼ばれる有名ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」が存在し、そしてここで采配を振るうコンシェルジュ、グスタヴ・H( レイフ・ファインズ)が物語の主人公となる。事件はホテルの顧客、マダム・D( ティルダ・スウィントン)が殺され、グスタヴ・Hに嫌疑が掛けられることから始まる。しかしそれはマダム・Dの息子ドミトリー( エイドリアン・ブロディ)の陰謀だったのだ。

この作品でウェス監督は相変わらずの様式美と色彩美でもって画面を覆い尽くす。これまではそれが鼻についていたのだが、この作品では素直に楽しく美しいものだと感じた。それはウェス監督の様式性と色彩感覚が、舞台となる近代ヨーロッパの、そのヨーロッパ的である部分に、非常にうまく溶け込んでいたからなのだと思えた。つまりウェス監督が作家として求めるスタイルに、舞台設定が綺麗に当てはまったのだ。ウェス監督はアメリカ・テキサス出身ではあるが、そもそもがヨーロッパ的な感性を持った監督だったのではないか。それがこの作品で水を得た魚のように開花したということではないだろうか。

もう一つこの映画を楽しめた理由には、主人公グスタヴ・Hが実直で誇り高い、ある意味古風かつストレートな性格であり、そのシンプルさが理解し易かった、という部分があった。キャラクターとして生き生きとし、魅力に満ちているのだ。さらに物語は殺人事件のサスペンスとアクションがふんだんに盛り込まれ、物語それ自体への興味が最後まで尽きない。ある時はハラハラし、ある時は拍手喝采の物語展開。素敵ではないか。これまでのウェス監督作品はどうも下手な文学臭が強く、エキセントリックな登場人物とか、いかにも作ったような物語構成に引っ掛かりを感じたが、これらが払拭されているのだ。

こんな具合に、ウェス監督に対するハードルと感じていたものが全てとっ払われ、監督自身が表現したいと思っているものと真摯に対峙できたのがよかったのだろう。それにより、オレはこの作品を存分に楽しめ、驚嘆し、美しいと感じることができた。そういった部分で、この『グランド・ブダペスト・ホテル』はオレがウェス監督の真価を発見でき、さらにその作品の素晴らしさを感じることができた傑作だった。併せて、ウェス監督の過去作品をもう一度見直してみるべきだとすら感じさせた。今年観た作品の中でも申し分のない出来の1作だろう。

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20141208(Mon)

[][]ウルトラ怪獣を描いた男、成田亨作品集 ウルトラ怪獣を描いた男、成田亨作品集を含むブックマーク ウルトラ怪獣を描いた男、成田亨作品集のブックマークコメント

成田亨作品集

いわゆる「おっさんホイホイ」と呼ばれるものにはなるべく近づかないようにしている。「おっさんホイホイ」とはいい歳したおっさんが、子供の頃に夢中になった何がしかの事柄、アニメや特撮や歌謡曲その他に、懐かしさからついつい再び手を出してしまう行為を言う。

オレの場合、それはウルトラマンやウルトラセブンなどの特撮ドラマである。さらに言うと、仮面の忍者赤影や、キャプテン・ウルトラなんかも入る。仮面ライダーが入らないのは、それはオレの田舎では仮面ライダーがTVでやっていなかったからである。なんたってオレの子供の頃、田舎じゃ民放が2つしかなかったんだぜ!?あとガッチャマンロボコンもやってなかった気がするなー。まあそうは言いつつ、仮面ライダーカードは田舎でも大ブームでオレもカードシコシコ集めてはお菓子捨ててたけどね!

話が逸れたが、オレがおっさんホイホイ物件に近寄らないようにしている理由は、基本的にボックスセット形式の高額商品になってしまうから、という経済的な理由がある。さらに、そんな高額商品を買ったとしても、今観て面白いかどうか、といった理由がある。思い出補正は掛かってはいるだろうが、思い出に金使うよりは、今現在にある面白いものに金使ったほうが新鮮さが違うだろ、と思う訳である。オレは新しいもののほうが好きなのだ。

さてそんなオレではあるが、この『成田亨作品集』をネットで目にしたときは速攻でポチッてしまったことを白状せねばなるまい。成田亨、上に挙げた書影を見れば明らかなように、かつて円谷プロのSF特撮ドラマで怪獣その他のデザインを手掛けた人である。詳しい略歴などはWikipediaをご覧になるといい。実際の所自分は成田亨の名前をこの本を見るまで知らなかった。だから成田氏の功績を一堂に会したこの本を見て、氏がどのようなデザインを手掛けていたか初めて知った程度の人間である。

成田氏の怪獣デザインは今見ても思い出補正など関係なく素晴らしいと思う。元は彫刻家だったと聞くが、アート全般に通じているであろうシュールさがデザインの中に横溢している。またこの本の中の成田氏のインタビューでは、氏がどのようなこだわりを持って怪獣たちをデザインしていたのか知ることができ、これは非常に興味深く読むことができた。

この本ではウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブン、マイティジャック、ヒューマン等お馴染みの円谷特撮デザインが収められているほか、氏が企画しながらも日の目を見なかった特撮ヒーローや怪獣のデザインも収録されている。ただしこれら後期の企画デザインは、やはり没企画だけあって氏の作品のセルフコピーとでもいうような悪達者な作品となっており、資料的には面白いもののデザインとして目を見張るものが無いのが残念だ。本ではその他、神話伝説上のモンスターを描いた「モンスター大図鑑」、さらに特撮怪獣を離れた美術作品、特撮美術などが収められている。また、この本で成田氏がメカデザインも手掛けていたことを初めて知り、その才能振りに驚いた。

どちらしろ一つの特撮史を知る上でも、またユニークな美術書としても楽しむことができ、5000円で400ページあまりという高額・大部な本ではあるが、買って損は全く感じ無かったし、これからもためすがめつ眺めることになるであろう本であろうと思った。というわけでウルトラファンの皆さん、あなたも買いなさい。

なお収録作品の一部はこちらでも確認することができる。

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20141207(Sun)

[]最近聴いたエレクトロニック・ミュージック 最近聴いたエレクトロニック・ミュージックを含むブックマーク 最近聴いたエレクトロニック・ミュージックのブックマークコメント

■Clark / Clark

Clark

Clark

今やWarpレーベルの看板アーチストとなったClark、待望のニュー・アルバム。メロディアスなサウンドの中に不穏な音像をまぶし、ささくれ立った抒情の美しい絶妙なアルバムとなっている。今回のイチオシ。 《試聴

■Reincarnations, Pt. 2 - The Remix Chapter 2009 - 2014 / DJ Koze

REINCARNATIONS PART 2

REINCARNATIONS PART 2

ドイツ、ハンブルグのテクノアーティスト、DJ Kozeによるリミックス作品集。 メランコリックなヴォーカル曲と眩惑的なサウンド、テクノの枠内だけに収まらない情感豊かなエレクトロニック・ミュージックを展開する。今回のイチオシその2。 《試聴

■Vapor City Archives / Machinedrum

Vapor City Archives

Vapor City Archives

Ninja TuneよりリリースされたMachinedrumのニュー・アルバム。ジャングル/フットワークを通過し、インダストリアルな風味を加味したハイブリッドなベース・ミュージックを展開する。これも良盤だな。 《試聴

■The Opening of the Cerebral Gate / Transllusion (Drexciya)

Opening Of The Cerebra

Opening Of The Cerebra

今は亡き伝説のエレクトロ/テクノ・ユニットDrexciyaの片割れ、James StinsonがTransllusion名義で2001年にリリースしたアルバムのリイシュー盤。Drexciyaのスピリットが生きる不穏なエレクトロ・サウンド。 《試聴

■Mind over Positive and Negative Dimensional Matter / Transllusion (Drexciya)

Mind over Positive and Negative Dimensional Matter

Mind over Positive and Negative Dimensional Matter

そのTransllusionによる『The Opening of the Cerebral Gate』と同時発売されたシングル。 《試聴

■Spanish Breakfast / Rone

Spanish Breakfast

Spanish Breakfast

フランスのDJ/プロデューサーのErwan CastexによるユニットRoneが2009年にリリースした1stアルバム。エクスペリメンタルなテクノからメロディラインの美しいアンビエントまでバラエティ豊かなアルバム。 《試聴

■Quixotism / Oren Ambarchi

Quixotism

Quixotism

オーストラリアを代表するサウンドアート・ギタリストOren Ambarchによる2年ぶりのフル・アルバム。同テーマが浪のように寄せては返す全5曲のミニマル・アンビエント。 《試聴

■Back In The Box (Unmixed) / Global Communication

BACK IN THE BOX ( UNMIXED )

BACK IN THE BOX ( UNMIXED )

Global Communicationが2011年にリリースした珠玉の初期デトロイト・テクノ・ミックス『Back In The Box』は非常に愛聴していたが、これのアンミックスはまだ聴いていなかったので購入。ミックス盤とそれほど曲がダブることなくデトロイト・テクノの名曲が並んでおり、これもまた良コンピレーションとなっている。

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20141206(Sat)

[]親の因果が子に報い!?因果・因果・因果鉄道の夜!〜映画『インターステラー親の因果が子に報い!?因果・因果・因果鉄道の夜!〜映画『インターステラー』を含むブックマーク 親の因果が子に報い!?因果・因果・因果鉄道の夜!〜映画『インターステラー』のブックマークコメント

インターステラー (監督:クリストファー・ノーラン 2014年アメリカ映画)

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  • クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』観たがオレにはまるでダメだった。
  • 以下ネタバレしまくりにてよろしく。
  • いろいろあるがまず「登場人物がドイツもコイツもメソメソしまくりやがっている」というのに神経逆撫でされた。
  • メソメソしてる暇あったら仕事しろよ仕事。人類は明日滅ぶかもしんねえんだろ。
  • 惑星探査プロジェクトが行き当たりばったり過ぎる。基地に忍び込んだ奴雇うなよ。現地着いてから揉めてんじゃねえよ。先発隊も惑星データちゃんと送れよ。仕事しろ仕事。
  • 地球を救う為に宇宙に出たくせに任務始まったばかりの段階でもう帰ることばっか考えてる主人公。お前はお母さんがいないから帰りたいって泣いてる子供か。
  • 決死の任務なのに覚悟ってもんが足んねえんだよ!男だろお前。あと仕事しろ仕事。
  • それと「時空を超越した父娘の情愛」、まあテーマはいいとしても最初っから最後までそれでゴリ押しじゃんかよ。
  • 湿っぽいんだよなー。で、最後は愛は地球を救うかよ。おめでてえな。
  • 主人公の隊を送って20年、いまだ普通に存続している地球ってどうよ。意外ともってんじゃん。滅亡するする詐欺かよ。で、この20年の間にテクノロジーの進歩も後発隊の出発もなかったのか?
  • 科学考証とかはどうでもいい。事象の地平線なんかに行ったら潮汐力で体八つ裂きだろ、とか言わない。なんとなれば全ての科学的疑問は5次元の連中がなんとかしてくれたからってことでいいんだろ。
  • それにしても5次元の連中ナニしたいんだか分かんない。ワームホールやるから居住惑星探せって、そんな科学力あるんなら最初から居住惑星連れてけ。放射能に侵された地球に波動エンジンの設計図は送るけどコスモクリーナーDの設計図は送らないイスカンダルみたいな連中だな。
  • お話の元ネタは旧約聖書出エジプト記だろう。安住の地である筈のエジプトに10の災厄が訪れ、モーゼが神の導きでエジプトの地を出でて約束の地へと至る、っていうアレ。エジプトは地球。10の災厄は作物の死。神様は5次元の存在。出エジプト=エクソダスは地球移住計画。ということは主人公はモーゼ。
  • 地球の終りが戦争でも資源枯渇でも小氷河期でも温暖化でもなく砂嵐だの作物の死であるのは10の災厄に則ってるから。砂嵐=雹、作物の死=疫病、イナゴ。
  • 後半の惑星探索はホメロスの『オデュッセイア』か聖杯伝説あたり。
  • それにしてもアメリカ人は相変わらず耶蘇教の呪縛から解けないんだな。あとノーランに作話能力がないことはよく分かった。
  • ハードSFとか謳ってるけど結局出来の悪いファンタジーみたいな話だったなコレ。
  • やっぱさあ、「辿り着いた惑星には自由の女神の残骸が!ここは滅亡後の地球だった!」ぐらいのことはやって欲しかったですね!

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20141205(Fri)

[][]インド映画史上最高の売り上げを記録したハイテンション・ノンストップ・アクション・ムービー『チェイス!』がとっても凄いんです! インド映画史上最高の売り上げを記録したハイテンション・ノンストップ・アクション・ムービー『チェイス!』がとっても凄いんです!を含むブックマーク インド映画史上最高の売り上げを記録したハイテンション・ノンストップ・アクション・ムービー『チェイス!』がとっても凄いんです!のブックマークコメント

■チェイス! (監督:ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャーリヤ 2013年インド映画)

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2013年末に公開され、インド映画史上最高の興行収入を叩き出し、世界的にも稀な記録的興行収入を上げたという大ヒット・ボリウッド・ムービーがようやく日本でも公開されることとなりました!『きっと、うまくいく』のアーミル・カーンが主演のド派手なアクション、ということは予告編で知ってはいたのですが、実際観てみるとこれが!大ヒットもうなずける、ひたすらハイテンションで突っ走る最高にエキサイティングなノンストップ・アクション・ムービーだったのですよッ!

《物語》

舞台となるのはアメリカのシカゴ、ここで大銀行を立て続けに襲う強盗事件が巻き起こる。巧妙にして大胆、並外れた身体能力と超絶的なバイク技術で金を奪ってゆく犯人の名はサーヒル・カーン(アーミル・カーン)、彼の表の顔はサーカス団団長だった。そして彼の真の狙いは金ではなく、子供の頃サーカス団団長であった父親を破産に追い込んだ銀行への復讐だったのだ。犯人がインド人であるとにらんだシカゴ市警はムンバイからジャイ(アビシェーク・バッチャン)とアリー(ウダイ・チョープラー)の二人の腕利き警察官を呼び寄せる。しかしそのジャイの前になんとサーヒルが現れ、「犯人を知っている」と撹乱戦法に打って出た。警察をあざ笑うかのように次なる強奪作戦を開始するサーヒル、それを追い詰めるジャイとアリー。そして物語は驚愕の新展開を迎える!

とまあこんなお話に次から次へとアクションと、そして歌と踊りが盛り込まれ、一時たりとも目が離せないんですよ。いやあ凄かったなあ。では『チェイス!』のいったいどこが凄いのか、ちょっと紹介してみましょう!

1.オープニングが凄い(渋い)

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大ヒットアクション映画だから、冒頭から荒っぽいギンギンのアクションが炸裂する!と思ってたらそうじゃないんです。逆に破産間近のサーカス劇場を舞台に、主人公の子供時代が美しくもまた悲しく描かれてゆくんですね。決して派手なものではないにしろ、しっかりとした美術でもって描かれるサーカスショウとマジックに、まず心を奪われちゃうんですよ。ここで既に掴みはOK!って感じですね。

2.バイク・アクションが凄い

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この『チェイス!』、中心となるのはなんといってもバイク・アクションなんですよ。主人公サーヒルとこれを追うジャイとアリーが、熾烈なバイク同士のチェイスを展開するんですね。そしてこの迫力に満ちたバイクアクション・バイクチェイスが、これでもかとばかりにひたすら繰り広げられてゆくんですよ!前半なんてほとんどバイクアクション(そして合間にダンス)だけで費やされるんじゃないかってぐらいアクションの連続、バイクの爆音と派手なサウンドトラックが延々鳴り響き、段々脳みそにヤヴァイ物質が流れてきそうになります!劇中ではBMW MotorradのK1300RとS1000RRを使用しているそうですが、バイク乗らないんでこれが凄いのかどうなのかよく分からんが…。そして主人公がサーカスをやっているという設定から、アクロバティックな曲乗りを見せて次々と危機を乗り越えてみせるばかりか、そのバイクが007みたいな秘密兵器ギミックを搭載してくれちゃったりしてるんですよ!そしてこれがもうあんまり無茶なギミックなんで嬉しくて笑ってしまうぐらいなんです!これを追う刑事二人も負けずに無茶してくれて、いやがおうにも盛り上がりまくるんです!

3.ダンス・シーンが凄い

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インド映画といえば歌と踊りです。この『チェイス!』でも沢山のダンスシーンが盛り込まれますが、これがどれをとっても素晴らしい!オープニングは重量感たっぷりのタップダンス、ヒロインを演じるカトリーナ・カイフが最初にピンで踊るシーンなんかはセクシーであると同時に、ダンスというよりも殆ど体操競技みたいな迫力ある踊りを見せてくれます!さらにサーカスステージでのパフォーマンスは、まさにダンスとサーカスの融合、「インド映画におけるダンスシーンの中でも最高の製作費を掛けた」といわれるだけあって、まるでシルクド・ソレイユでも見せられているような華麗で幻想的なステージを演じているんですよ。さすがに空中ブランコまではしませんが、もうアーミル・カーンカトリーナ・カイフも宙を舞いまくり、あんまり空飛んでるから「だ、大丈夫なのかぁ〜〜ッ!?」と心配しちゃうぐらいです!

4.アーミル・カーンが凄い

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アーミル・カーンが主演、と知った時は「『きっと、うまくいく』のあの秀才青年役が、派手なアクションなんてできるもんなの?」なーんてナメたこと思ってたんですが、全くの見当違いでした!↑の写真見てくださいよ、なーんすかこの筋肉!?アーミル・カーンってムキムキじゃないですか!?この肉体でアクションだダンスだやられたらそりゃあ見栄えもしますよ!しかしそんな話を一緒に観ていた相方さんにしたら「いや、「『きっと、うまくいく』の時からアーミル・カーンっていい体してるって分かってたよ?」なーんて言うじゃないですか。やっぱり女性だけあって男の体をちゃんと見てるなーと思っちゃいましたよ。もちろんアーミル・カーン、体だけじゃなくてしっかりと良い演技も見せてくれてますよ!ちなみに『きっと、うまくいく』は本当に素晴らしい映画ですので、またご覧になっていない方はこれを機会に観ちゃいましょう!

5.中盤の驚愕展開が凄い

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インド映画って結構長いので、中間で一回インターミッションが入るんですね。そして丁度この中間部分で驚愕の新事実が発覚し、後半物語は思わぬ方向へと突き進んでゆくんですよ!いやもうその驚愕の度合いときたら観ていて「ま、ま、まさかぁ〜〜ッ!?」と画面に絶叫しちゃったぐらい無茶すぎる展開なんですが、ネタバレしちゃうからこれ以上書けません!だもんですから後半の展開もあんまり明かせないんですが、前半のハイテンションぶりは一旦落ち着き、情愛の狭間で一人の男が自分を取り戻そうと苦悩する切ない物語として進みながら、しかし壮絶なクライマックスへと向けてまたしてもテンションを上げてゆく!という訳なんですよ。

6.とにかく全部凄い

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今までボリウッド・ムービーを観ていて「ハリウッド映画をよく研究してるよなあー」とか「追い付け追い越せの気概が伝わってくるよなー」なんて思ってましたが、それはやっぱりハリウッド映画とどうしても比べてしまうからなんですよね。莫大な製作費を湯水のごとく使って製作されるハリウッド大作映画には及ばないかもしれないけれど、物凄く頑張ってる、みたいな、「努力賞」っぽい観方をしていた部分がオレにはあったんですよ。しかしこの『チェイス!』は違う。ハリウッド作品と比べてじゃなくて、一つのエンターティメント映画作品として既にして最高の面白さを誇っているんです。アクション映画がお好きな方ならきっとハマること請け合い、大作映画のゴージャス感をひたすら味わいたい!って方にも是非お勧めしたい、ましてや「インド映画って結構面白いよね?」と関心のあるあなた、絶対『チェイス!』を観るべきです!!
おんもしろいぞ〜〜ッ!!

(※このエントリーは2014年5月30日の『Dhoom3』に間するエントリーを日本公開に合わせ少々内容を変えて更新しています)

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20141204(Thu)

[][]『チェイス!』公開記念!『チェイス!』に繋がる前2作『Dhoom』『Dhoom2』をご紹介! 『チェイス!』公開記念!『チェイス!』に繋がる前2作『Dhoom』『Dhoom2』をご紹介!を含むブックマーク 『チェイス!』公開記念!『チェイス!』に繋がる前2作『Dhoom』『Dhoom2』をご紹介!のブックマークコメント

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2013年に公開され、インド映画史上最高の興行収入を記録したアクション映画『チェイス!』がいよいよ12月5日に日本公開を果たします。オレは先に輸入盤DVDで観たんですが、大ヒットしただけのことがある実にテンションの高い作品なので皆さんも是非劇場に足を運ばれてください。

ところでこの『チェイス!』、原題が『Dhoom3』というんですね。『Dhoom』シリーズの3作目ということなんですが、主要人物が一緒なだけでお話自体には繋がりはそれほどないので『チェイス!』をこれから観られる方はご安心を。ただ、「1,2作目はどんな映画だったの?」と気になる方のために、その2作を簡単に紹介してみようかと思い、今回のエントリを書くことにしました。では行ってみよう!

■Dhoom (監督:サンジャイ・ガーンドヴィー 2004年インド映画)

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2004年に公開された『Dhoom』の記念すべき第1作です。『Dhoom』シリーズ3作共通に出演しているのは、警察官ジャイ・ディークシトとその相棒アリーなんですが、この1作目では二人の出会いが描かれています。2004年度インド映画興行成績第4位。

【物語】ムンバイで複数のバイカーによる現金輸送車襲撃事件が起こります。ジャイ・ディークシト警部(アビシェーク・バッチャン)はバイク関連の捜査を進めるためにバイカーでありメカニックでもあるアリー(ウダイ・チョープラー)という頼り無さそうな男をリクルートしました。一方、バイク強盗のカビール(ジョン・エイブラハム)は、そんな捜査をあざ笑うがごとくジャイを挑発し、次の盗みの計画を実行するのです。

冒頭からバイクバリバリの『Dhoom』1作目です。強盗チームのみならず、強盗たちを追撃するアリーもまた走り屋のバイカーとして登場するんですね。この両者の"チェイス!"が『Dhoom』の目玉であり見所となるんです。そもそも「Dhoom」っていうのは「轟音」って意味らしいのですが、これは『Dhoom』の中で暴れまわるバイクの排気音を表してるんでしょうね。物語は非常にシンプル、だからこそバイク・アクションの迫力が十二分に伝わってくる作品となっています。

この1作目から既に派手なバイク・アクションが繰り出され、非常にシアトリカルなダンス・シーンが挿入されます。さらに主人公二人が捜査するのは神出鬼没の大泥棒。この1作目で悪役を演じたジョン・エイブラハムはデビュー間もない頃だったのですが、『Dhoom』効果か現在は中堅演技派俳優として活躍していますね。即ち、「バイク、演劇的なダンス、敵は大泥棒」という『Dhoom』シリーズの骨組みがこの1作目で既に出来上がっていた、ということなんですね。

もう一つ付け加えると、ブサメンのアリーが出会った女性に光の速さで熱を上げ、妄想の世界に入って一人デレデレするという定番ギャグ・シーンもこの作品から始まってます。また、生真面目なジャイとお気楽なアリーの掛け合いの楽しさも、殺伐としがちな犯罪映画にメリハリを付けているんですね。そしていざ犯人追跡!ともなるとバイクでバリバリにかっ飛ばす!ブサメンなんて書いちゃいましたが、『Dhoom』シリーズはウダイ・チョープラーの人懐っこい笑顔がいい具合のスパイスになっているんじゃないでしょうか。

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■Dhoom2 (監督:サンジャイ・ガーンドヴィー 2006年インド映画)

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『Dhoom』のヒットを受け製作・公開された『Dhoom2』は前作の3倍の予算を掛け、内容・アクション共に大幅にグレードアップ、2006年度インド映画興行成績第1位に君臨する大ヒット作となりました。

【物語】世界を股に掛け、神出鬼没、大胆不敵な手口で金品を強奪するハイテク強盗犯A(リティク・ローシャン)。彼の次のターゲットがムンバイ博物館のダイヤであることを嗅ぎつけたジャイ・ディークシト警部(アビシェーク・バッチャン)、そして前作の功績で警官となったバイクレーサー、アリー(ウダイ・チョープラー)は厳戒態勢で挑むが、まんまとAにダイヤを奪われてしまう。

ムンバイを去ろうとしていたAだが、自分の模倣犯とみられる犯罪予告の報道に興味を覚え、予告された古城に隠れ潜む。果たして現れた模倣犯はスネーリー(アイシュワリヤー・ラーイ)と名乗る女性であり、対面したAに手を組むことを持ちかける。しかしそのスネーリーはディークシト警部が仕掛けた囮だった。

この2作目でなにより目を惹くのは強盗犯Aを演じるリティク・ローシャンの溢れんばかりの魅力でしょう。甘いマスクに筋肉美を誇り、演技よしアクションよし踊りよしと文句の付けどころがありません。彼は冒頭から華麗なアクションを繰り出し、そして観客はたちどころに物語に引き込まれるはずです。こういった形で悪役のキャラクターをどこまでも掘り下げ、物語の中心に据える展開はこの2作目から始まり、3作目のアーミル・カーンへと受け継がれることとなるのです。

もちろんアイシュワリヤー・ラーイの妖艶な魅力も忘れてはなりません。今作でアイシュワリヤーは非常に露出度の高い衣装に身を包み、挑発的な演技をこれでもかと繰り出します。美男のリティクと美女のアイシュワリヤー、この二人が危険な関係に発展しながら命を懸けた盗みに挑むその展開は、誰をも魅了して止まないことでしょう。

こうして『Dhoom2』はアクション映画の中に非常に濃厚なロマンス要素を持ち込み、リティク/アイシュワリヤーの揺れる心と、執拗に二人を追撃するアビシェークの執念、といった形で重層的な物語構成を成すのです。そしてその緊張をウダイのアホ顔が和ませる!もうこれは絶妙な配分を成したシナリオと言わざるを得ません。まさに傑作の誉れ高い作品であることに間違いないでしょう。

それにしても日本語検索を掛けるとこの『Dhoom2』のレビューの多いこと、当時のインド映画ファンの興奮ぶりが伝わってくるようです。なぜならこの『Dhoom2』はインド映画が世界スタンダードの檜舞台に堂々と立つべき作品であり、その予兆が長年インド映画を観てきた方たちを大いに沸かせたからなのだと思うのです。

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20141203(Wed)

[][]インド映画黎明期の情熱と失意を描く実話作品〜『Celluloid』 インド映画黎明期の情熱と失意を描く実話作品〜『Celluloid』を含むブックマーク インド映画黎明期の情熱と失意を描く実話作品〜『Celluloid』のブックマークコメント

■Celluloid (監督:カマル 2013年インド映画)

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I.

インド映画の呼称として知られる「ボリウッド」は北部インド・ムンバイにおける映画産業を俗称したもので、劇中では基本的にインドで最も話されているヒンドゥスターニー語が使われている。しかしボリウッドだけがインド映画ではなく、南インド・チェンナイを中心とするタミル語、同じく南インド・アーンドラ・プラデーシュ州のテルグ語を使用した映画産業もあり、それぞれコリウッド、トリウッドなどと呼ばれているという*1。その他にもインドにはマラーティー語、ベンガル語マラヤーラム語カンナダ語など様々な言語圏の映画産業が存在している。

この『Celluloid』はそんな映画産業のひとつ、マラヤーラム語映画の黎明期に秘められたある逸話を、事実に基づいて描いたものだ。インドには多数の言語があることが知られているが、マラヤーラム語は、タミル語テルグ語と並び、南インドで多く話されるドラヴィダ語族の一つである。そしてここで語られる逸話とは、20世紀初頭に、初めてマラヤーラム語の映画を作ろうとしたJ・C・ダニエルという男の、その人生の光と影の物語なのだ。こうして物語は、風光明媚な南インドの田園地帯から始まる。

II.

彼の名はJ・C・ダニエル(プリスヴィーラージ)。映画好きの彼は「僕が歴史初のマラヤーラム語映画を撮るんだ!」と意気込み撮影機材一式を購入、家族や仲間たちの協力を得ながら準備を進めていたが、ヒロインとなるべき女優が見つからず四苦八苦していた。そんなある日、祭りの舞台で踊る少女ロージー(チャンドニー)を見出す。ロージーはダリッド(カースト外の不可触民)の少女だったが、ダニエルは「映画にカーストなんかない!」と説得、こうして映画撮影に臨んだロージーは見事にダニエルの期待を叶えた。しかしいよいよ映画初公開のその日、観客たちは「映画にダリッドの女が出ている!」と騒ぎ出し、それは暴動へと発展し始めた。

映画が始まり、初のマラヤーラム語映画製作に意気揚々と挑む主人公ダニエル、彼を支える妻、そして仲間たちの姿にどこまでも心ときめかされる。お高くとまったボンベイの女優、資金難など障害こそあるけれども、夢と希望に満ちた彼らはそれらを乗り越え目標へと邁進する。映画黎明期ならではのこの熱気と、自らを信じて突き進む楽観主義は、この映画に眩しいほどの明るさを持ち込んでいる。そしてなにより、突然のヒロイン抜擢に、戸惑いと喜びで心の揺れる不可触民の少女の描写はどこまでも愛おしい。彼女が「私は月のように美しい?蓮華のように美しい?」という歌と共に田園で微笑むシーンには陶然させられてしまった。しかし彼女が不可触民なばかりに、悲劇は起こってしまう。

自分はこれまで、インド映画でこれほどあからさまにカーストが取り沙汰され、苛烈な低カースト差別を描いた作品を観たことが無かった。インドのカーストについては一般的なことは知っていたつもりではあるが、この作品のように悲惨なカースト差別の様子を改めて見せられると、その陰鬱さにやはり胸が痛む。そして不可触民の少女ロージーと彼女の家族が、実はキリスト教に改宗した不可触民であり、にもかかわらず差別を受ける、という部分に根深い陰湿さを感じる。

III.

この作品の主人公が、なぜ不可触民である少女を気にも留めずにヒロインに抜擢したかというと、主人公もまたキリスト教徒であったからだ。当然のことながらカーストはヒンドゥー教のものであり、非ヒンドゥーであるキリストにとってはカーストなど意に介すことは無い。インドではカーストから逃れるためにクリスチャンやムスリムになるものもいると聞く。また、南インドのキリスト教は実は非常に歴史が深く、一説では既に紀元52年、遅くとも2世紀から3世紀までには南インドにキリスト教コミュニティが作られていたのである。

これはどういうことかというと、南インドに伝わったキリスト教は原始キリスト教であり、その後ヨーロッパで異端排斥された後に成立し現行するキリスト教とはまた別のものである、ということができるのだ。南インドのキリスト教は15世紀前後にヨーロッパから渡ってきた異端審問の波にもまれながらも生き残り、まさにインド的といっていいキリスト教として存続しているのだという*2。こうした、インドならではの宗教事情を垣間見ることができるといった点でもこの『Celluloid』は興味深い作品であることは確かだ。

映画はこの中盤を挟み、失意の中で病に侵され余命幾ばくもない老年のダニエルを描いてゆく。光り輝く未来であったものがその芽を摘まれ、荒涼とした悲哀だけが残されてゆく。しかし映画を愛する者はいつの時代も存在し続け、後の世に繋げてゆくのだろう。そして少女ロージーの悲劇は、いつしか身分なき世界をもたらす礎になるだろう。この作品にはいつしか変わりゆくであろう世界への希望が、きっと込められているのだ。

◎参考:インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン 3日間14本のインド映画漬け記録 『セルロイド』 / ゾンビ・カンフー・ロックンロール

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20141202(Tue)

[]『神話の力』ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ 『神話の力』ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズを含むブックマーク 『神話の力』ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズのブックマークコメント

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

世界中の民族がもつ独自の神話体系には共通の主題や題材も多く、私たちの社会の見えない基盤となっている。神話はなんのために生まれ、私たちに何を語ろうというのか? ジョン・レノン暗殺からスター・ウォーズまでを例に現代人の精神の奥底に潜む神話の影響を明らかにし、綿々たる精神の旅の果てに私たちがどのように生きるべきか、という答えも探っていく。神話学の巨匠の遺作となった驚異と感動の名著。

古今の神話には人類がその原初から精神の裡に宿した「元型=アーキタイプ」とも言える【物語】が秘められているのではないか。そしてその【物語】の中にこそ人が人としてあるべき【規範】が隠されているのではないか。この『神話の力』はアメリカの神話学者、ジョーゼフ・キャンベルがジャーナリストであるビル・モイヤーズとの対談を通し、「神話の物語に隠されたもの」を検証してゆく、というものだ。

一読して、キャンベルのその博学多識ぶりにまず驚かされる。学者なのだから当たり前といえばその通りなのだが、対談という中で(多分)参考文献などを傍らに置くわけでもなく、ありとあらゆる神話伝承、宗教聖典、古典文学の膨大なタイトルや内容が次から次へと引用され、その繋がりを考察してゆくのだ。ここではジョイス『フィネガンズ・ウェイク』が、ダンテ『神曲』が、ゲーテファウスト』が、トリスタン伝説が、アーサー王の聖杯探究が、ヘブライの歴史が、カトリック教義が、ブッダの教えが、アメリカ・インディアンの伝承が、インド『ウパニシャット』が、さらには『スター・ウォーズ』が、たった数ページの中で引き合いに出され、その中から「共通となるもの」を見出してゆく、という離れ業を演じてゆくのである。

そこからキャンベルは「神話の復権」、即ち「失われた人間性の回復」を謳うのだが、『神話の力』と銘打っているように、その中心的な考えは「神話を持つ」=「神(ないし神性)に(再び)開眼する」ということを説く形になっている。つまり多分に宗教的であり(ただし特定宗教に依拠するものではない)、また倫理的な考えに即した結論へと導かれてゆく部分があることは否めない。キャンベル自身はカトリック教徒の家に生まれ、本人は既にカトリックの教義は捨てていると述べているが、それがカトリックではなくとも宗教的規範・倫理を基に推し進められた考察である、といったバイアスは所々に感じてしまう。

とはいえ、そうしたキャンベルの態度からは、学者というよりも一人の求道者が、膨大な文献からひとつの【真理】を導き出そうとする道のりを見出すことができ、その博覧強記に裏打ちされた模索の在り様を読み進める所にこの本の面白さがあるのではないか。その【真理】とは、古代から「種としての人類」が何を求め、何を拠り所にし、何を規範として生きてこようとしてきたかの考察であり、そしてそれは、「我々とは何であるのか」を考えようとすることに他ならないのだ。なにしろ文章の中にちりばめられた凄まじい数のキーワードに触れ、その内容の片鱗を知ることができる、という部分に非常に知的な興奮を覚えた。

20141201(Mon)

[]天才少年の孤独と救済の物語〜映画『天才スピヴェット』 天才少年の孤独と救済の物語〜映画『天才スピヴェット』を含むブックマーク 天才少年の孤独と救済の物語〜映画『天才スピヴェット』のブックマークコメント

■天才スピヴェット (監督:ジャン=ピエール・ジュネ 2013年フランス・カナダ映画)

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◆『アメリ』監督による天才少年の冒険譚

かつて『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』をマルク・キャロと共同監督し、単独監督作『アメリ』で大絶賛を博したジャン=ピエール・ジュネ監督が2013年に3D作品として発表した『天才スピヴェット』を観た。ライフ・ラーセンによる原作『T・S・スピヴェット君傑作集』は随分前に読んでいたが、これが大好きなジュネによって監督されると聞いた時は大いに驚いたし、どう映像化されるのかがとても楽しみだった。

◆物語

T・S・スピヴェット君(カイル・キャトレット)はアメリカ・モンタナの牧場で生まれた10歳の少年だ。カウボーイの父(カラム・キース・レニー)と昆虫博士の母(ヘレナ・ボナム=カーター)、アイドルを夢見る姉(ニーアム・ウィルソン)とに囲まれて生活するスピヴェット君は、実は天才的な頭脳を持つ少年だった。しかし彼の天才ぶりに周囲はまるで無関心だったが。かつてスピヴェット君には双子の弟(ジェイコブ・デイヴィーズ)がいた。その弟が銃の暴発事故で亡くなってから、家族の中にはぽっかりと大きな穴が開いたままだった。そんなスピヴェット君にある日、ワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館から電話が掛かってくる。彼の発明した「永久機関」に賞が与えられるので授賞式に来てほしいというのだ。しかし、行きたいと言っても周囲は誰も信じてくれないだろう。そこでスピヴェット君はモンタナからワシントンD.C.へ、大陸横断の一人旅を敢行することを決意した!

◆3D映像の素晴らしさ

最初に書いてしまうと、大いに感銘させられた。これはジュネ監督のキャリアの中で、新たな地平を切り開いたと言っていい傑作だろう。この作品には夢があり、冒険があり、驚きがあり、楽しく、美しく、そして救済がある。ああ、自分はこういう映画を観たかったんだな、と思いださせてくれるような映像体験。そんな、映画を観る喜びがたっぷりと詰まった作品として、映画『天才スピヴェット』には最大限の賛辞を送りたい。

小さな少年の冒険譚。大陸横断のロード・ムービー。旅を通して描かれる少年の成長、心の変化。そして、少年の失踪により再び強まる家族の絆。これらが、ジュネ監督らしい遊び心溢れる映像と、それを徹底的に具現化してくれる3D効果とで再現される。原作である『T・S・スピヴェット君傑作集』には、スピヴェット君の書き記した膨大な量の「科学的図像」が収録されているが、その図像が3Dとなって命を得たようにスクリーンを飛び出し躍る様は、映画のテーマと合致するばかりか、最初から最後まで物語に大きな驚きを用意し続ける。即ち、3Dであることに必然性があるのだ。この作品における3D映像の素晴らしさは、『アバター』、そして『ライフ・オブ・パイ』以来の成功例として記憶されることだろう。

◆思考と肉体

しかしこの物語は映像の斬新さのみで評価されるべき作品では決して無い。一人の少年の大冒険を描きながら、この物語にはもう一つのテーマが隠されている。それは思考と肉体との和合といったテーマだ。

スピヴェット君の家族は綺麗に二つのタイプに分かれている。学者である母と天才少年スピヴェット君は頭脳派。彼らは常に自らの思考の中だけに留まり喜びを感じるタイプだ。野外労働はお手の物のスピヴェット君の父、その父と仲の良かった亡き弟、アイドルという見てくれ勝負の世界に憧れる姉の3人は肉体派、ということができる。彼らはありのままの現実を享受しそれに喜びを感じるタイプだ。頭脳派のスピヴェット君は肉体派の父が苦手だ。さらに、そんな父の跡継ぎになったであろう弟の死により、肉体派でない自分に引け目を感じている。それは自らの肉体性の欠如に知らずと引け目を感じていた、ということなのだ。

◆肉体性の獲得

スピヴェット君は天才かもしれない。しかし彼は頭だけはいいけれども、自分の肉体性を理解できていない。それは彼が旅立つ時、とても子供一人では持ちきれない量の荷物を持ち、それを引き摺りながら歩き出す部分に顕著に表現されている。頭でなら何でもできるけれども、体は何もできない。思考に肉体が追い付けない。それは自分を取り巻く現実が理解できていない、ということだ。しかし彼は旅を通じて、これまで見たこともない広い世界を見、体験する。そうして現実というものを体感しながら、徐々に自らの肉体性とその限界に気付いてゆく。それは旅を続けるうちにどんどんと荷物が少なくなってゆくことに暗喩されている。彼は旅の途中怪我をするが、その痛みもまた、現実に肉体を持つ、ということを体感することであったのだ。

そういった意味で、この『天才スピヴェット』は、単純な「少年の成長譚」ではない。少年の成長は、それはすなわち大人になることだが、この旅を通してスピヴェット君は決して大人になったわけではない。しかし、大人になるのと同じように重要な、自らの思考と肉体を合致させること、観念性と肉体性を同居させることのきっかけを見つけることになるのだ。

◆スピヴェット君の孤独

しかし自らの肉体性を認識したからといって、全てが解決したわけではない。念願のスミソニアン博物館(おお、フーコーの振り子!)に到着しても、彼は心細いばかりだ。彼の不安の大元になるもの、それは彼と両親との離れた心だった。

スピヴェット君にとって、肉体派の父は理解のできない存在だった。また母は、弟の死によって抜け殻のようになっていた。そしてスピヴェット君自身は、そんな父母に自分はいなくてもいい存在なのだ、と思いこんでいた。この世に存在するべきだったのは、死んだ弟だったのだ、ということも。それは、スピヴェット君が劇中何度も「親はいない」「親は死んだ」と言っていることと合致するのだ。それは逆に、自分はいない方がいい、自分は死んだほうがいい、と思っていたということでもあるのだ。そしてこのスピヴェット君の一人旅は、スミソニアンで授賞式を受けるためではなく、そんな家族の中からいなくなってしまいたい、という家出でもあったのだ。すなわち、スピヴェット君は、孤独だったのだ。

その想いが吐き出されるのが、あの授賞式のスピーチだろう。しかし心情吐露は決して解決には結びつかない。では何がスピヴェット君の心を溶かしたのか。それはもちろん、彼の元へ駆けつけ、不安に塗れた彼を全身で守ろうとした父母の姿だったのだ。

◆再び家族になること

理解できなかった父が、抜け殻だった母が、自分のために体を張って大立ち回りを演じる。それは息子へ愛ゆえだったが、スピヴェット君はこれまで、こんなに自分が愛されている存在だったということを知らなかった。両親の強い愛情を目の当たりにして、スピヴェット君は、自分は、ここにいていいんだ、ということを改めて知る。

スピヴェット君は、旅を通じて、自分を知ることになる。そして旅路の果てに、両親の愛を知ることになる。またその両親は、スピヴェット君の家出とも言える一人旅により、今自分たちにとって、最も守らねばならないものはなんなのかを知る。そうして最後にお互い同士が、失いかけていた家族の絆を取り戻すことになるのだ。全てに対して、乗り越えるべきことが乗り越えられ、救済があり、幸福が待っている。これはなんと素晴らしく、心豊かになることのできる映画なのだろう。ジャン=ピエール・ジュネの『天才スピヴェット』は、そういった部分で、現在最強の映画であるかもしれない。

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