ハーバード関連病院におけるコミュニケーション教育

医療現場では、医療者らが患者・家族とともにDifficult Conversationを行う場面が日々の臨床実践の中で起こっている。
ハーバードでは医療現場のチームに対し、どのようなコミュニケーション教育を、どのように行っているのか?

Program to Enhance Relational and Communication Skills(PERCS)は、終末期を迎える子どもをもつ家族との対話、治療方針に対する意思決定の支援の難しさ、心理ケアの重要性を痛感していた医師と臨床心理士(ともにチルドレンホスピタルボストン集中治療科)が立ちあげた教育プログラムで、現在は、Institute for Professionalism & Ethical Practice (IPEP)としてチルドレンホスピタルボストン内で組織化され、多岐にわたるプログラムを提供している。ハーバードリスクマネジメント財団からの支援を受けている。


当教育プログラムは、主にハーバード関連病院に勤める医師、看護師、臨床心理士ソーシャルワーカー、呼吸療法士、通訳らを対象に、

医師、臨床心理士、家族(病気をもつ子どもを実際に育てている家族)の3者が講師となり行われる。

俳優(患者・家族役)とのリアルな対話を通じて、参加者は単なるテクニックにとどまらない対話と議論を体験する。


PERCS では、例えば「医師は完璧でなくてはならない」という考え方ではなく、医師の心構えとして、ときには完璧ではないこと、あいまいな事柄もあること、自分自身がときに傷つきやすくなることをも受け入れていいと伝えている。また、たったひとつの正しい答えややり方があるわけではない、対話や選択にはいくつかのやり方があっていいという方針に立っている。


患者安全および医療の質向上からみたチーム医療コミュニケーション教育の重要性について、ハーバードリスクマネジメント財団のLuke Sato氏からの話を交えながら、IPEPに勤めている私の経験から、当教育プログラムが実際にどのように行われているのか、現場スタッフは日々の臨床場面の対話の中でどのような難しさを感じているのか、教育セッションの中でどのような議論が行われているのか、参加者は教育セッション後、日々の臨床場面で実際にどのような変化を試みているのか、具体的にお伝えする。

文化差のある日本において、当教育プログラムをどのように導入していけるのかについても皆さんと議論を深めたい。



Sanae Kishimoto, MHS, MPH (Harvard School of Public Health, 2008)
Program/Research Manager
Institute for Professionalism & Ethical Practice, Children's Hospital Boston

Luke Sato, MD
Chief Medical Officer & Vice President
CRICO/Risk Management Foundation of the Harvard Medical Institutions, Inc.
Assistant Professor of Medicine Harvard Medical School

ハーバード関連病院における医療安全の取組について

ハーバード関連病院における医療安全の取組について

近年、日本では、医療訴訟件数の増加に伴い、医療安全や医療の質の向上への取組が注目されています。アメリカでは、1970年代に医療過誤が社会問題となり、過去30年余りにわたって、関係者が医療分野のリスクマネジメントにつとめてきました。このうち、ハーバード大学附属病院では,自ら、医療保険過誤保険会社(CRICO)を設立し、医療過誤訴訟を予防するための機関(RMF)を設けて、病院組織におけるシステムの改善や安全面に関するリスクマネジメントに対応することにより、大きな成果をあげているところです。特に注目すべきは、事故が起きた後の事後行動として一つ一つのクレームを徹底的に調査分析して、その結果を、将来の事故防止のためのマネージメントに活かしている点です。今回の勉強会では、CRICO/RMFのVice President であるLuke Satoさんをおよびして、CRICO/RMFでの具体的取組やチャレンジについてお話をうかがうこととしています。

皆様、ふるってご参加ください。

講演者:Luke Sato, MD
Vice President, Chief Medical Officer
Risk Management Foundation of the Harvard
Medical Institutions

Assistant Professor, Harvard Medical School
日時:4月9日(木)18:00時〜(その後希望者で懇親会)
場所:ハーバード大学公衆衛生大学院 FXB-G12

# なお、昨年度も、当勉強会でルークさんに講演していただいており、今回も同様の内容となると思われます。また、講演は英語と日本語のミックスとなる予定です。

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参加お申し込みは
1.お名前
2.所属(日・米)
3.研究テーマ・興味のあるテーマ
4.今後の勉強会への希望(optional)

を明記の上、curiositykilledtomcat@hotmail.comまでお申し込み下さい。

HSPH勉強会幹事:松浦広明/まっぴ〜(ハーバード公衆衛生大学院)
JARAN幹事:小野智子(ハーバード公衆衛生大学院)

医療事故と刑事司法----刑事法学の観点から----

医療事故と刑事司法----刑事法学の観点から----

講演要旨:

医療の安全確保,そして患者や国民一般の医療に対する信頼の確保の観点から,
医療事故に関する公的な調査制度の創設が検討され,政治日程に上っています。
具体的な制度設計に際しては,事故調査と刑事司法の関係をどのように調整する
かが大きな課題となっています。

医療事故の法的な処理のあり方に関する法学界と医学界の間の対立は,相互の対
話を通じて一時期に比べればかなり解消されてきました。しかし,それでもなお,
相互の誤解ないし理解不足に起因する議論の混乱がなくなったとはいえません。

医療事故に対する刑事司法の介入に関して共通の土俵で建設的な議論をするため
には,医療従事者の側に,刑事法の仕組みに関する基本的な知識を持っていただ
くことが重要です。そこで,今回の発表では,医療事故に関して問題となり得る
ごく基本的な法律問題について,主に刑事法の観点から説明します。

具体的には,医療をめぐる基本的な法律関係,民事と刑事の違い,過失犯処罰の
基本的な考え方,刑事手続の基本的な仕組みのほか,都立広尾病院事件,福島県
大野病院事件などで問題とされた異状死体の報告義務,刑事免責の概念などに
ついて述べることにします。法律の専門知識のない方を念頭に,できる限りわか
りやすくお話しするつもりです。

その上で,厚生労働省の策定した医療安全調査委員会設置法案(大綱案)の内容
にも触れる予定です。

もとより,私を含め法律の専門家は医療に関しては素人です。法律専門家が,医
療に関する知識を吸収することに努める必要があることはいうまでもありません。
この機会に,発表者自身も,医療従事者の側の考え方を学びたいと思います。

※ この発表は以上のような趣旨のものですので,個別具体的な医療過誤事例を
取り上げ,あるいは,一定のシナリオを想定し,それについて過失犯が成立する
か否か,起訴されるか否か,有罪か無罪か,実刑か執行猶予かなどを検討する
「症例研究」を行うものではありません。

講演者:笹倉宏紀氏

Fulbright Visiting Scholar
East Asian Legal Studies
Harvard Law School

日時:3月10日(火)18:00時〜(その後希望者で懇親会)
場所:ハーバード大学公衆衛生大学院 FXB-G12


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参加お申し込みは
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2.所属(日・米)
3.研究テーマ・興味のあるテーマ
4.今後の勉強会への希望(optional)

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HSPH勉強会幹事:松浦広明/まっぴ〜(ハーバード公衆衛生大学院)
JARAN幹事:小野智子(ハーバード公衆衛生大学院)

薬剤性有害事象及び薬剤関連エラーに関する研究

薬剤性有害事象及び薬剤関連エラーに関する研究

医療現場において、患者さんの安全性は最優先事項であり最重要課題です。しかし、現在の日本では、医療行為に伴う有害事象が大きな社会問題となり、国民の医療不信は高まるばかりです。



では、実際に医療現場では、どれくらいの頻度で医療事故が起き ているのでしょうか? 日本の医療システムはアメリカやその他の国と比較して、安全なのでしょうか? 残念ながら、こういった問いに答えることのできる具 体的なデータは、日本にはほとんど存在していません。そこで我々は、薬剤性有害事象、潜在的有害事象及び処方関連エラーに関する臨床疫学的データを収集・ 比較検討し、入院患者さんの安全性向上に貢献する事を目的に、日本の入院患者における薬剤性有害事象の成立に関する研究を開始しました。



今回ご報告するのは一部の結果となりますので、結論的なことは いえませんが、高齢者への使用要注意薬剤に注目し、米国のBeers criteria に記載されている"65歳以上の高齢患者に使用を注意すべき薬剤"に対する実際の臨床現場における処方状況と、処方による薬剤性有害事象の発生頻度を中心 にお話したいと思います。



作間未織(Mio Sakuma, MD, PhD, MPH)
森本剛(Takeshi Morimoto, MD, PhD, MPH)
京都大学大学院医学研究科医学教育推進センター


日時:11月5日(水)18:00時〜20:30時 (その後希望者で懇親会)

場所:ハーバード大学公衆衛生大学院 FXB-G12

http://www.hsph.harvard.edu/about/files/Longwood_Campus.pdf

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JARAN幹事:小野智子(ハーバード公衆衛生大学院)

インフルエンザのABC+D / EMTALAと米国のたらい回し対策

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1.「インフルエンザのABC+D 2008 ー新型インフルエンザから 身を守る、私のために、家族のために、みんなのためにー」


今、米国では、国家戦略の一つとして、バイオテロに準じた形で新型インフルエンザ対策が進められています。さらに、いざワクチンを打つにも、人工呼吸器を付けるにしても、限られた資源を誰に優先すべきかという、現実的なそして倫理的な議論も進展していますが、まだ日本を含めた諸外国では議論が十分ではない状況にあります。一方、このような議論をする上で、話が全くかみ合わないこともしばしばですが、その最大の原因は、「インフルエンザ」「ワクチン」といった言葉のとらえ方が様々であり、言葉だけが一人歩きしているからに他なりません。今回は、正しい共通理解のための「最初の一歩(ABC)とDrug(タミフル・ワクチン)」について、臨床そして分子の眼から、具体的に解説させていただきた いと思います。是非、皆さんからの疑問・示唆をいただき、相互理解を深めることができればと願っております。


加藤善一郎 ハーバード大学分子細胞生物学




2.“Emergency Medical Treatment and Active Labor Act (EMTALA)について”-アメリカにおける患者のたらい回し対策-


ここ最近、救急患者のたらい回しが全国的に大きな問題となり、マスコミや新聞でも連日の様に取り上げられています。その中でたらい回し対策の一つとして米国の「緊急的診療・分娩法(EMTALA)」への関心が高まりつつあります。「なぜたらい回し対策の参考にアメリカ?」「アメリカって医師が無保険者の診療を拒否するような国じゃないの?」など、皆さん日ごろの実体験から様々な疑問があると思いますが、今回の勉強会ではアメリカ医療最後の砦と言われるこのEMTALAを日米間の医療制度・法の違いを踏まえながら、検討して行きたいと思います。


松浦広明  ハーバード大学公衆衛生大学院



※HSPH勉強会では、多様なバックグラウンドを持った参加者の自由な討論を奨励しています。気兼ねなくご参加下さい。

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参加お申し込みは

1.お名前
2.所属(日・米)
3.研究テーマ・興味のあるテーマ
4.今後の勉強会への希望(optional)

を明記の上、curiositykilledtomcat at hotmail.comまでお申し込み下さい。

HSPH勉強会幹事:松浦広明/まっぴ〜(ハーバード公衆衛生大学院)



「リスクマネージメントと患者の安全のトレンド(Medical Malpractice

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リスクマネージメントと患者の安全のトレンド(Medical Malpractice and Patient Safety)」

今回の勉強会では、ハーバードリスクマネジメントファンデーション(RMF)のバイスプレジデント・最高医療責任者である佐藤隆巧氏から、ハーバード関連病院での医療事故対応や医療過誤保険をひきうけるリスクマネジメントファンデーションの活動内容や、米国の医療過誤訴訟の実態や事故防止、患者安全などの最新知見についてお話と討議の機会を頂きます。(英語)大変貴重な機会ですので奮ってご参加ください。

日時:5月1日(木)17:30時〜19:30時 (その後希望者で懇親会)
場所:ハーバード大学公衆衛生大学院 FXB-G12
http://www.hsph.harvard.edu/about/files/Longwood_Campus.pdf

Luke Sato, MD

Vice President, Chief Medical Officer
Risk Management Foundation of the Harvard
Medical Institutions
Assistant Professor, Harvard Medical School

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2.所属(日・米)
3.研究テーマ・興味のあるテーマ
4.今後の勉強会への希望(optional)

を明記の上、curiositykilledtomcat at hotmail.comまでお申し込み下さい。

HSPH勉強会幹事:松浦広明/まっぴ〜(ハーバード公衆衛生大学院)

不眠が招く認知症?

第4回HSPH&JaRAN合同勉強会(第7回精神医学・メンタルヘルス・心理学勉強会)

日時:4月17日(木)18時〜20時 (その後希望者で懇親会)
場所:ハーバード大学公衆衛生大学院 FXB-G12
http://www.hsph.harvard.edu/about/files/Longwood_Campus.pdf
(ページ右下です。)

発表者: 朝山健太郎 先生 (精神科医
Research Fellow、McLean Hospital, Geriatric Psychiatry

「不眠が招く認知症?」

アルツハイマー型痴呆の患者数は世界で2,660万人、我が国では現在
200万人と推定されています。2020年には全世界で4,000万人、2040年
には8,000万人が世界で罹患すると推測され、毎年460万人が新たに
発症しているとされています(7秒に1人の割合で新たに発症して
いると言われている)。

家族、介護者の精神的負担は高いうつ症状出現率(48%)に現れ、
その経済的損失は治療、介護費用は実費以外の家族コストも含め
認知症身体疾患高齢者では約59,000ドルのところ、認知症高齢者
では約77,000ドルという報告が大手民間保険会社よりなされています。

現在はこのような介護者の様々な負担を軽減することも重大な課題
とされ、その中でも夜間徘徊を伴う睡眠障害の与える介護者への
負担を減らす方法に注目が集まっております。従来より認知症
伴う高齢者の睡眠覚醒リズムの障害は脳視床下部に存在する視交
叉上核の生物時計の神経変性に伴う機能低下によるもと考えられ
てきましたが、現在はそれに加え、外界の時間刺激の獲得能力の
低下なども指摘されています。人間の生理的time keeping system の
理解が深まるにつれ、睡眠を改善させる方法がより具体的に提示
できるようになって来ました。

また昨今の睡眠障害研究の成果の一つとして睡眠の質が記憶を強化
していることは健常者のあらゆる年齢層で確かめられています。
睡眠覚醒リズムの崩壊を最終段階とすると、その前段階の
軽度の睡眠障害、あるいは軽度の認知障害の段階で睡眠と認知機能
の間に何らかの関係が見えてくるのではいかと我々の研究グループは
考えるに至りました。

この認知症の一歩手前ではないかと考えられる状態は軽度認知機能障害
(Mild Cognitive Impairment;MCI)と呼ばれております。このMCI群の
有病率はアメリカでは60歳以上で5%、75歳以上で15%となると
報告されています。また、ここ数年では睡眠時無呼吸による低酸素負荷が
高血圧、脳血管障害、心血管障害などの症状を増悪させ、同時に神経
心理学的認知機能の低下、感情障害の危険因子にもなりうるという
見解も出されています。過去の調査では睡眠時無呼吸症候群は高齢者の
〜60%(軽度を含めて)に見られるのではないかという指摘もされており、
潜在的に認知機能障害の間接的ではあるが大きな危険因子ではないかと
言われることもあります。認知症・加齢により睡眠がどのように変化
するのか、さらには睡眠が破綻した結果起こる不眠・夜間徘徊などの問題も、
介護者の負担という点では深刻な問題でありどのように対処したらよいのか
といったことも含め、健康的な睡眠、精神状態と脳機能の低下との関係
についてもお話をしてみたいと思います。

参加お申し込みは

1.お名前
2.所属(日・米)
3.研究テーマ・興味のあるテーマ

を明記の上、natsuko.kuwahara at gmail.comまで4月16日(水)午後5時までに
お申し込み下さい。

JaRAN精神医学・メンタルヘルス・心理学勉強会幹事:
朝山健太郎(マクリーン病院)、桑原奈津子(ハーバード教育大学院)

HSPH勉強会幹事:松浦広明(ハーバード公衆衛生大学院)