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2008-11-16-Sun

国籍法改正について語るための基礎知識(2):裁判官たちは何を争い、何を国会に託したのか

前回国籍法改正の前提となった国籍法3条1項違憲判決について図解した。まだ読んでいない(そして読む気がおきない)人のために少しまとめておこう。

国籍法は基本的に、子が出生したとき父または母が日本国民なら子も日本国民にするという「父母両系血統主義」を採用している(国籍法2条1号)。したがって、日本国民である母が産めば、父が外国人であっても、出生時点で子は日本国籍を取得できる。

でも、父が日本国民である場合はちょっと複雑になる。両親が結婚していて嫡出子であるときや、胎児のうちに認知されていれば、(たとえ遺伝上の事実とは異なっていても)法律上の親子関係が生じているから、子の出生時に父が日本国民であると言え、子は日本国籍が取得できる。

生後に認知された場合でも、両親が婚姻関係を結べば(これを準正という)、国籍法3条1項の規定によって日本国民として認められる。しかし、生後認知されたのみでは日本国籍が取得できないから問題になった。

このことをまとめたのが下図である。


f:id:inflorescencia:20081115143111:image:w300


ここでのポイントは、国籍法3条1項が実際上、準正子のみに日本国籍を認め、生後認知されたけれど両親は結婚していない子は対象外にしている点である。

以上のまとめでぴんとこなかったら、違憲判決の図解を参照して頂きたい。


裁判官の間でも見解が分かれる事案

では本題に入ろう。この裁判では、主として2つの争点があった。

  1. 国籍法3条1項は、憲法14条の平等原則に反するか?
  2. 国籍法3条1項が違憲であるとしても、裁判所が原告国籍を確認してしまって良いのか?三権分立からするとまずいのではないか?

最高裁判所には最高裁判所長官を含む15名の裁判官がいて、違憲のおそれがあると考えたときは15名総出で事件にあたるのだが*1、まず第一の争点で違憲派と合憲派で割れ、さらに第二の争点でも意見が分かれた。つまり、最高裁も一枚岩で違憲という見解を示したわけではないのである。

今回は第一の争点だけに絞って話を進めていきたいと思ので、そこだけ取り上げて結論だけ先に言うと

  1. 国籍法3条1項は憲法14条違反である … 12名
  2. 国籍法3条1項は憲法14条に反しない …  3名

だった。

法廷の多数派の意見が上記のようだったので違憲となったわけだが、もちろん少数意見にも頷けるところが多い。しかも、同じ違憲という判断であっても、裁判官によっては微妙に理由付けが違っていたりして、補足意見も出たりしている。

賛成意見・反対意見はそれぞれどのようなものだったのだろうか、そして互いにどのような批判をしていたのだろうか。


最高裁の多数派は、なんで違憲にしたの?

まず、メインである法廷意見から説明していこう。

法廷意見では、国籍のハードルをどれくらいのものにすべきかは立法府(国会)の裁量だが、合理的な理由なく差別すれば憲法14条1項違反だとして、

  • 「区別」をすることが正当かどうか
  • 国籍法3条1項の立法目的とその「区別」の関係が合理的であるのかどうか

この両方を満たさなければ違憲だとしている*2


ここでいう「区別」というのは、生後認知された準正子と生後認知のみされた非嫡出子の間にある「区別」である。そして、

  • 準正子は「父との生活の一体化が生じ、家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付きが生ずる」だろう
  • 諸外国も同様の立法をしていた*3

から「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得」するという準正要件を設けたことは合理的だったと述べている。ここで重要なのは、血統主義の補完として「日本との密接な結び付き」という判断基準が提示されている点である。

したがって、国籍法3条1項は

日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて、これらを満たす場合に限り、出生後における日本国籍の取得を認めることとしたもの

だから、その目的を達成するために準正要件を設けたのは合理的な根拠があったとした。つまり、法廷意見も目的の正当性と、目的と手段の合理的関連性を一度は認めているのである。


しかし法廷意見は、家族生活や親子関係の実態が変化・多様化しているし、国際交流の多様化しているから

その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない

と続けている。さらに、諸外国でも法改正が行われているとか国際人権条約・子どもの権利条約でも差別が禁止されていることなどを指摘して

前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっている

ため、現在では差別になっているとの見解を示した。父母の婚姻というのは、子にはどうすることもできないことだから、そのような要件をもって日本国籍という基本的な法的地位が奪われることは看過できないということも触れられている。


では反対意見はどんなものだったの?

それに対して、反対意見では法廷意見が述べるような家族生活や親子関係の実態が変化・多様化が本当に起きているのか、を問うている。

非嫡出子の出生数
昭和60年14,168(1.0%)
平成15年21,634(1.9%)
父が日本国民・母が外国人とする子の出生数
昭和62年5538
平成15年12,690

このような統計を提示した上で、国民一般の意識に大きな変化がないと見ることもできるのではないかと言うのである。また、安易に諸外国の動向を合憲性の考慮事情とすべきでないと批判している。


それらに加えて、非準正子には簡易帰化国籍法8条1号)により国籍を取得することもできると述べている。これについて多数意見である法廷意見は、帰化は法務大臣の裁量行為だから、準正子と非準正子の間の「区別」は存在していると反論している。


反対意見は仮装認知(偽装認知)のおそれについても言及しており、「日本との密接な結び付き」がないような場合でも国籍取得を認めることになるのではないかと危惧している。仮装認知について法廷意見は、そのようなおそれがあるにせよ、準正要件と仮装認知防止との間において合理的関連性があるものとは言えないと反論している。

この問題について近藤補足意見では、防止策として準正要件を設けることに合理性があるとは言えないとしつつ、

例えば、仮装認知を防止するために、父として子を認知しようとする者とその子との間に生物学上の父子関係が存することが科学的に証明されることを国籍取得の要件として付加することは、これも政策上の当否の面とは別として、将来に向けての選択肢になり得ないものではないであろう。

このように、本判決の後に、立法府が立法政策上の裁量を行使して、憲法に適合する範囲内で国籍法を改正し、準正要件に代わる新たな要件を設けることはあり得るところである

と述べている。


裁判所は何ができて、何ができないのか

以上のように、裁判官同士の意見の対立の一部をおおまかにではあるが、確認してきた。今回の国籍法改正に反対するにせよ賛成するにせよ、最高裁の見解はとても参考になると思う。

しかし注意していただきたいのは、近藤補足意見にも見られるように、これはあくまで裁判所の議論であるということだ。「国籍法3条1項が違憲であるとしても、裁判所が原告国籍を確認してしまって良いのか?三権分立からするとまずいのではないか?」という第二の争点とも関わるが、裁判所は、あくまで法律を解釈し適用し個別の法的紛争を解決するための機関である。

したがって、新しい政策を打ち出すということはできない(せいぜいが可能性に言及するくらいのものである)。立法論は国会でやらなくてはならない仕事なのである。そしてこれは選挙権を有する国民の仕事でもあるだろう。


というわけで、国籍法改正について理解の一助となってくれれば幸いであるし、あなたが何か良い政策を考え出したのであれば僥倖である。



【追記】

このエントリー中の図はクリエイティブコモンズ・ライセンスのby-nc(表示-非営利)で提供しています。クレジット(今回であれば「inflorescencia」という著作者名)が入っていて、なおかつお金を取らないなら、どなたでも(この問題についてどのような立場をとっていても)、勝手にコピーしたり手を加えたりしても良いということにしています。

なお、上記のことをライセンスしたからといって、フェアユースなどあなたの権利が影響を受けることはまったくありません。引用や私的な使用のための複製などもご自由にしていただけます。教育目的の利用なども歓迎します。詳しくは利用許諾条項をお読みください。

画像はinflorescencia's fotolife の国籍法フォルダからダウンロード可能です。ご活用頂ければ幸いです。

*1:これを大法廷と呼ぶ http://www.courts.go.jp/about/sihonomado/houtei62.html

*2:「立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差別として、同項に違反する」

*3:届出による準正子の国籍取得が認められた昭和59年国籍法改正当時、父母両系血統主義を採用する他国では、準正の場合に限って国籍取得を認めるケースが多かった

冥王星冥王星 2008/11/19 15:04 実は今回の司法判断においては若干裁判官の法律論議の欠如がある。
国際法に関する整合性と国籍法という視点の判断が存在していないことにある。
同時に、今回の司法判断の価値はやはり、司法の擬似的立法行為の正当性に大きな価値があるだろう。
三権分立の視点で
国政調査権に関する「浦和事件」判断
統治行為論
などの問題も含めて司法権は比較的消極的立場を堅持している。
法治主義の正義に対しての懐疑心もあるが、法的整合性の論題について民意の意識が低いと思えてならない。
 本件の司法判断に関して詳細の解説をしているサイトも少ないのは、やはりインターネットメディアの「適当さ」「あいまいさ」「軽薄さ」の証左だと思っていたが、
このサイトのように判例を見つめるサイトがあったことは非常に嬉しく思っている。

市村市村 2008/11/23 17:08 国籍法_裁判所が立法の仕事をした!_異常なる判決!
http://jp.youtube.com/watch?v=svG6K7_PKFw

りんごりんご 2008/11/30 16:07 大変に詳しい解説をしていただき、ありがとうございました。ネット上でここまでビジュアルな解説は見たことがありません。国籍法違憲判決に関しては私も法科大学院でかじりまして、少々思ったところを記載したいと思います。

さて、国籍法違憲判決においては2つの重要なポイントがあります。
1 違憲審査基準論
2 違憲という判断を行うとして、現在の実質的当事者訴訟(行政事件訴訟法4条 訴えの提起時は行政事件訴訟法改正前でしたので無名抗告訴訟ですけれども)においてどのように判決を出すか。
という2点です。
 そのうち、1については2つの「基礎知識」を通じて明快にご解説をして頂きました。判決の言う通り、国籍法を純粋に適用した場合のもっとも明白な問題点は胎児認知が行われた場合と出生後に認知された場合の差異にあると思います。判例のとる目的の正当性と手段の必要性・合理性という審査基準においても、厳しく判断することが求められます。もっとも、憲法14条1項から国籍法3条1項を違憲と判断するにしても、どのようにして原告の求める「原告の日本国民たる地位の確認」を実現するのかは問題です。
 そこで、「裁判所は何ができて、何ができないのか」という点に関連しまして、2点目の行政法的視点及び法令の一部違憲について論じたいと思います。そもそも、本件においては尊属殺重罰規定違憲判決のように条文そのものを違憲とすることはできません。なぜなら、3条1項をなくしてしまえば、今まで両親の準正によって日本国籍を得ていたケースにおいて、日本国籍を得られない状態となってしまうからです。これは原告の意思に反します。そこで多数意見は国籍法3条1項の「婚姻」要件を削除することで、残りの要件に該当すれば日本国籍を得られるとしました。ただ、この解釈には問題もあります。というのも、国籍法2条は血統主義を原則としており、3条1項は立法過程において、その例外として政策的におかれた経緯があるからです。つまり、国籍法はベースラインとして日本国籍を持つ両親との法的な関係があることを要求しており、その例外として3条1項を定めたと考えれば、3条1項を上記のように一部違憲として確認判決を出すことは新たな法規範の創出であり、憲法41条の立法の限界を超えてしまうのではないかという批判です。実際に反対意見はこれを意識して合憲判断を導いています。
 もっとも、ここで注目すべきは反対意見と同じ論理に立ちながら違憲判断を導いた藤田裁判官の意見です。藤田裁判官は国籍法3条1項が創設的規定であることを認めます。したがって、国籍法3条1項の一部を違憲とする多数意見の手法には組することができないとします。しかし、ここからが大事なのですが、国会の立法意思を持ち出して司法権の逸脱にならないと説明するのです。『立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており、また、その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば、未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合において、著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲』で司法府が合理的な解釈を展開することは許されるとします。その上で非準正子と準正子との差別が合理的でない以上、その差別状態(立法府作為状態)を憲法14条の想定する範囲にするため、司法府が「立法府の意思にしたがい」日本国民たる地位を原告に認めるべきだという結論に至るのです。これにより、国籍法の条文には手を付けずに原告の日本国民たる地位の確認をすることが可能となります。
 ちなみに、原告の訴訟形式ですが、国籍を認めるか認めないかは単なる事実の通知であり、行政によるその判断に関しては処分性が認められない以上、抗告訴訟(行政事件訴訟法3条)として扱うことはできません。したがって、当事者訴訟の機能をフル活用しているわけです。在外投票違憲判決も当事者訴訟(改正前は無名抗告訴訟)でしたが、最高裁が重要な権利の侵害については確認判決を利用することで積極的に権利保護に動いていることは、まさに国民の権利保護の拡大という行政事件訴訟法の改正の趣旨からしても正当であると思われます。

以上、大変に長くなってしまい、申し訳ございませんでした。

inflorescenciainflorescencia 2008/12/04 01:37 コメントありがとうございます。
私事にてお返事が遅れましてすみません。


>冥王星さん
お褒め下さりありがとうございます。
この記事では、冥王星さんが指摘するような統治行為論に関わる部分は、読者が混乱するかなと思ったこともあり、第二の論点であるとして省きました。
しかし、折を見て論ずべき問題であると考えています。

>市村さん
情報提供どうもありがとうございます。
動画タイトルにも表れている問題意識は、冥王星さんやりんごさんがご指摘下さっている点とも関わってくるものです。


>りんごさん
行政法の視座から、この記事の至らない点を補完するような解説をして下さって、どうもありがとうございます。特に訴訟形式の点についてはほとんど検討してなかったので興味深く拝読しました。

りんごさんが仰る通り、多数意見は準正要件を「過剰な」ものとして法令違憲の判断を下している一方で、藤田補足意見(と甲斐中・堀籠反対意見の当該論点部分)は、「不十分な」要件であるとして立法不作為違憲を導いています。その上で、藤田裁判官は「立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で、司法権が現行法の合理的拡張解釈により違憲状態の解消を目指」して、現行法規の拡張解釈を行っていましたね。
甲斐中・堀籠反対意見と比べますと藤田補足意見の議論は、司法積極主義的というか若干アクロバティックな気もしましたが、なかなか説得的だと感じました。
ただ、国籍法3条1項を立法不作為とするのは論理的妥当性はともかくとして、少し難しいのではないかと思っています。というのも、最高裁は既に類似の事例について合憲の判断を下していたからです。たとえば、最小判平成14年11月22日では、日本人の父から生後認知されたことで国籍法2条1号により出生時に遡って日本国籍を取得したとの主張を退けていました(憲法14条1項違反の疑いが極めて濃いとの補足意見もあったのですが)。もちろん本件においては遡及を主張していないので別の事例ではあるのですが、しかし立法不作為であれば平成14年の段階でも救済が可能だったとも考えられます。何か「国内的、国際的な社会環境等の変化」などの理由で説明できれば別ですが、最近の話で難しいのではないかと思います。
その他の過去の判例も度外視すれば、個人的には、胎児認知を受けた準正子と生後認知を受けた非準正子との間の区別の合理性について問題として論じれば、血統主義と国籍法3条1項と簡易帰化制度の整合性がとれる形で法令違憲が導けると思うのですが、りんごさんはいかがお考えですか?

MORMOR 2008/12/04 14:44 この違憲判決は不法行為を犯しています。
それは司法による立法という重大な不法行為(憲法第41条に違反)です。
その行為は2つあります。

まず1つ目。国籍法第3条1項の改変。
最高裁は、違憲と判断した条文の一部を改変して違憲状態を解消し、 その改変された条文をそのまま法として適用して国籍を付与したこと。

2つ目。憲法14条1項の改変。
憲法14条1項の全文はご理解でしょうか?
「 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」
「すべて国民」とは日本国籍を持つ日本人のことです。
原告の子供はまだ国籍を持っておらず、この「すべて国民」の対象から
外れます。ということは、法の下に平等を犯したことにはならないのです。

こちらに詳しい情報がありますので、ご確認をよろしくお願いします。
それについてどう思われるか意見をお願いします。

国籍法違憲判決の問題点
http://tamacom.com/~shigio/defend/nationality-j.html

りんごりんご 2008/12/04 18:29 >inflorescenciaさん
丁寧なご返信をありがとうございます。
「立法不作為であれば平成14年の段階でも救済が可能だったとも考えられます」というのは、非常に説得的だと感じております。やはり、類似の事例で異なる趣旨の判決が下されている場合、何らかの事情の変化が見られないと説得的ではありませんし、何より説明に窮してしまいます。
 これにつきましては、平成16年に当事者訴訟の原告適格が拡大され、その他国民の権利を保護する趣旨から行政事件訴訟法が改正された点が大きな変化なのではないかと考えております。在外邦人違憲判決の際にも改正行訴法の趣旨から国民の権利利益の保護の拡大が判決文中で指摘されましたが、立法関係の大きな変化として挙げられていると考えます。

 次に、「胎児認知を受けた準正子と生後認知を受けた非準正子との間の区別の合理性について問題として論じれば、血統主義と国籍法3条1項と簡易帰化制度の整合性がとれる形で法令違憲が導けると思うのです」というお話ですけれども、「法令違憲」をどのような形で導けば、もっとも原告の主張に沿うことができるかは悩ましいです。抗告訴訟の場合、例えば「本件営業許可取消処分を取消す」という取消訴訟、あるいはより進んで「被告は原告に営業許可を与えよ」という義務付訴訟を提起し、請求が認められることで原告の勝訴となります。これは判決により直接、法に基づき効果が発生する形成訴訟ですので、要件と効果が比較的はっきりとしています。この場合の訴訟物は違法性全般です。
 しかし、当事者訴訟に典型的な確認訴訟の場合「原告に日本国民たる地位の存在することを確認する」という主張を導くことが必要となります。通常の民事訴訟における確認訴訟の要件を具備することが必要ですが、本件でのより大きな問題は根拠法規が直接には存在しないことです。憲法14条に基づき合理性を審査して法令違憲を出したとしても、そこから原告の日本国民たる地位は直接には導かれません。憲法10条が国籍法に日本国民たる地位の決定を委任している以上、やはり多数意見のように国籍法3条1項の一部違憲をするか、藤田裁判官のように立法不作為を指摘した上で国籍法の不作為を埋めるという作業をしないことには、憲法10条→国籍法→日本国民たる地位という仕組みに反してしまうはずです。これにより日本国民たる地位そのものを訴訟物とする確認訴訟が適法になるのではないかと考えました。
 この点、憲法29条3項の趣旨から直接に損害賠償を導く可能性について言及した河川附近地制限令事件とは異なるものといわなければなりません。
 というような感じで論じてみました。

> MORさん
 「不法行為」の意義が明らかではありません。民法709条が規定する不法行為は「権利侵害」が判例上必須の要件とされていますが、司法による判決は公法上の法律関係である以上、類似の制度としては国家賠償法1条1項が問題となります。しかし、法律上の争訟(裁判所法3条1項)として「適法に」判断された以上、「不法」は問題とはならないと考えます。
 ちなみに、国会の立法不作為による国家賠償責任に関しては前掲の在外邦人違憲判決が論じていますので、一読をお勧めします。結論を述べますが、非常ーーーに特殊な場合しか成立しません。

りんごりんご 2008/12/04 19:47 > MORさん
 上記の記述のみでは不十分だと思いましたので、念のため付け加えることといたします。
 1つ目。国籍法第3条1項の改変につきましては、憲法10条に委任された国籍法が無制限に国籍要件を定めることができると考える前提に立てば、MORさんのお話も成り立つはずです。しかし、一切の法律が憲法の条文の全てに適合性を要求されるところ、国籍法も憲法14条の実質的平等の趣旨に反することは許されません。こう解釈しない限り、違憲立法審査権は制度として機能しないはずです。
 2つ目。憲法14条1項の改変の点につきましては確認訴訟の意義を誤解されているのではないかと思いました。そもそも原告の選択した確認の訴えとは現在の法律関係の確認を求める訴えの形式のことです。ここでいう現在の法律関係が認められるためには、原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在し、この危険や不安を除去することが有効かつ適式であること(即時確定の利益)、かつ、給付訴訟といった執行力の伴う他の手段が存在しないこと(補充性)の存在が必要です。
 「原告の子供はまだ国籍を持っておらず、この「すべて国民」の対象から外れます。」というのは国籍法の違憲判決により新たに国籍が「創設」されると考えているのではないでしょうか。この考え方は判決により直接に法定の効力が発生するという点で形成訴訟を前提とした場合に該当するものです。しかし、本件での確認訴訟は現在原告が「日本国民たる地位」にあることを前提に、原告の主張の妥当性を審査するものです。
 この点、確かに判例上「将来の地位の確認」を求める訴えは認められません。例としては自己が相続人たる地位にあることの確認を求める訴えがあります。この場合、被相続人の死亡により権利が発生しますから、未だ被相続人が死亡していない場合は将来の権利関係を確認していることになり、即時確定の利益を満たさないからです。しかし、日本国民たる地位は出生により生じるものですから、その地位は現在の法律関係にあたります。2つ目の議論はよく誤解されているのを見かけますが、訴訟論の立場から考えるとよくわかると思います。

モコモコモコモコ 2008/12/04 20:45 はじめまして。
皆様のコメント欄は正直、専門家やそれを目指す方達でないと理解が難しいです。>< でも、勉強になります。^^
今日、参議院で採決・可決しましたが、少なくともニコニコやようつべで懸念されているような事態が起きるとは思えないんですね。
ただ、対策が不十分なのは分かりますが…。
なぜ、こんなにも誤解されたまま広まってしまったのか…。
一番ショックなのはこういったことに精通している人が未だに誤解した内容を訂正もせずにいたりしているのが…。
議論レベルに合わない書き込みすいませんでした。
あと、このような分かりやすいビジュアル付の内容を書いてくださってありがとうございます。
勉強になりました。

ギロロギロロ 2008/12/05 14:21 はじめまして。

多数意見についてですが、これはこの事件の地裁判決が取った結論(可分性の理論による合憲限定解釈)に乗っかったのではないかと思います。とすれば、少なくとも形式的には、最高裁が法を創造したことにはならないはずです。(もちろん、これに対する批判は可能ですが。)

もっとも、技術的な話は置いて、多数派の意図したところが、「実質的な救済の手を差し伸べるべき」であったことは見逃すべきでない、と思います。

それと、法律論をちょっと離れて、「そもそも、血統主義自体が今の社会に妥当するのか?」ということも重要なことだと思います。
立法的には、属地主義の方向へ舵をとることもできるからです。
親の国籍によって、日本で育ったのに日本人でない人と、ペルーで育って大統領にまでなったのに日本人であるフジモリ氏のような人がいる、という現実をどう考えるか。

もう一点、仮装申請を危惧する人は、安易にDNA鑑定を主張しますが、プライヴァシー侵害が問題となります。
もし、父が日本人で非嫡出子で準正がない子にDNA鑑定を義務付けるなら、我々も「本当に日本人の父と母の子か」DNA鑑定しなければ平等ではない、ということになります。

inflorescenciainflorescencia 2008/12/06 19:22 MORさん、コメントありがとうございます。
MORさんが問題提起していらっしゃる「憲法14条1項の改変」について、同様のご質問もありましたので別途記事にしてみました。お読みになってみてください。
http://d.hatena.ne.jp/inflorescencia/20081206/1228553959

また、もうひとつの「国籍法第3条1項の改変」問題につきましては、上記でもコメントしましたように統治機構に関わる部分として後日書きたいと思っています。
りんごさんが的確かつ丁寧なご指摘をして下さっているので、もしかしたら不必要かもしれませんが、書き上げた折にご覧くださればと思います。


りんごさん、再度のコメントありがとうございます。
上記URLにあるエントリーでりんごさんのコメントを引用させていただきました。りんごつながりでアナロジーにも登場していただきましたが、悪意はありませんw
また、私の不躾な質問にご回答頂き、ありがたく思います。

なるほど、当事者訴訟の原告適格拡大を「立法関係の大きな変化」と捉えて立法不作為の結論を導くということですか。それは一理あるような気がしてきます。特に「日本国民たる地位そのものを訴訟物とする確認訴訟が適法になるのではないか」という指摘はとても面白いですね。そういうアプローチは思いつきませんでした。
りんごさんの指摘なさっているように、「どのような形で導けば、もっとも原告の主張に沿うことができるかは悩ましい」ですよね…。判決にも苦渋の跡が伺えますし、何より私自身がうまく整理しきれない部分があります。
しかし、行政救済法や訴訟形式に注目する形での解説ができるというのは良いですね。つい華やかな論点(?)を伴う憲法や実体面に目が行ってしまいますが、りんごさんのご指摘でもう少しいろいろなアプローチのできる事案だと見直せるようになりました。


モコモコさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
私も勉強中の身ですが、「ニコニコやようつべで懸念されているような」ことのなかに、明らかな誤解といいますか誤った情報があったりしたので、「問題意識を持つことはとても良いことなのに、誤った情報で判断していくのは何だかもったいないな」と思ったことがきっかけで、こうした記事を書きました。ですから、モコモコさんに参考にして頂けたようでとても嬉しいです。読んでくださってありがとうございます。
モコモコさんがショックを受けている件についてですが、例えば「いしけりあそび」というブログを書かれている弁護士の方は、この判決の訴訟代理人を務めていらっしゃいました。
http://blogs.yahoo.co.jp/isikeriasobi/56046895.html
そして、いしけりあそび先生はかなり詳細に「内容を訂正」しようと努力をなさっていました。他にもこうした努力を行っている方はたくさんいらっしゃいます。
ご興味がありましたら、はてなブックマークの「国籍法」タグ一覧を通読していただければ、国籍法改正の賛否や検証、内容訂正の当否とその評判などにアクセスできると思いますよ。
http://b.hatena.ne.jp/t/%E5%9B%BD%E7%B1%8D%E6%B3%95


ギロロさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
「最高裁が法を創造したことにはならないはず」という意味がよくわかりませんが、たとえば仮に地裁で終局判決が出ていたとしても、統治機構上の論点を含むことになると思うのですが、それはギロロさんの意図するところと違うでしょうか?
また、「属地主義の方向へ舵をとること」についてですが、立法論としては確かにありえますね。ただ、現在でも簡易帰化制度などによって、属地主義と血統主義の実質的な差は縮まりつつあると言えるでしょうから、ギロロさんが仰っているような「現実」に少しずつではありますが、属地主義の方向へ舵をとらずとも対応できるのではないかと思います。
DNA鑑定の導入には、まさしく仰る通りの問題があると思います。その点につきましては、
http://d.hatena.ne.jp/inflorescencia/20081205/1228492409
で私の見解を詳しく述べてみましたが、前半部分はギロロさんの問題意識と重なる部分となります。

molmol 2011/11/16 13:09 大学の授業で画像使わせていただきます。 使わせてくださってありがとうございました。非常に助かりました。

molmol 2011/11/16 13:22 連投申し訳ない。コメントも非常に参考になるもので助かりました。参考にさせていただきます。

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