ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

もう一つの種明かしを

では、もう一つの種明かしとして(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140707)、ご参考までに、二年半前から今日までのウェブに掲載された計427本のパイプス拙訳(別の訳者による4本+『中央公論』掲載の2本を除く)の中で(http://www.danielpipes.org/languages/25)、どの訳文ないしはトピックが最も人気があるか、データベースから上位三つをご披露しよう。これは、四桁のアクセス数を誇っており、抜群によく読まれているものである。繰り返すが、ウェブ上の「like」数は必ずしも実情を反映しておらず、不正確である。

第一位:「トルコ首相としてのエルドアンの10年」(http://www.danielpipes.org/12656/
第二位:「女性の自爆テロ者を理解する」(http://www.danielpipes.org/12227/
第三位:「デンマークで何かが腐っている?」(http://www.danielpipes.org/12578/

訳す側としては、(1)世界で今注目を浴びている話題(2)日本でも報道されているニュース(3)日本で知られていない角度からの分析(4)マイナーなようだが盲点を突いているか、将来的に重要になるかもしれないだろうと予測される話題(5)私自身がよく知っているか、興味深いと思ったテーマ、などに分類しながら、あまり話題が偏らないように選別しているつもりである。上記の結果は、データベースを4月に渡されて初めて知った傾向で(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140508)、これだけでは結論を導くことはできないが、訳せるうちに訳しておいてよかったと思う。

1.トルコは親日的だと言われている反面、「イスラーム色が強い」と日本でも言われているエルドアン政権の動向は(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130628)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130911)、左翼がかった大学や扇動ジャーナリズムのレベルならともかく、実務でトルコと関わる日本人にとって、パイプス分析(訳文)が一つの情報源として捉えられているのかもしれない。まさに、そこが肝心要のところで、あくまでトルコはムスリム国なのだという歴史的特徴をしっかりと把握した上で、現在はどうなのか、を見極める必要がある。
パイプス先生は、若い頃にイスタンブールで勉強した時期があり(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130313)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130718)、トルコ軍の上級将校とも親しくしていて、トルコへの訪問回数も多い(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130214)。アメリカ主流派の権益と照らし合わせ、主にイスラエルとの関係を基本として、トルコおよびシリアやイランなどとの関連を観察するという機軸をしっかりと保持しつつ、毎日のように相当のトルコ発の複数メディアをチェックしている。もちろん、情報の照合としては、アメリカのみならず、イスラエル発の主に保守系メディアを複数、利用する。なぜ、イスラエル発メディアを参照するのか。それは、エルドアン以前のイスラエルにとって重要なムスリム国だったのがトルコであり、両国の経済交流も盛んだったからだ。つまり、現実感覚に基づく国の存続を賭けてのジャーナリズムとして、中東で唯一の高度に民主主義的で言論の自由が保障されているイスラエル情報は、非常に信頼が高いことを裏付けているのだ。
これは、直接パイプス先生にお尋ねして知った手法の暴露ではない。訳文をつくっていく過程で、数多くのハイパーリンクを自分で確認し、東京外大のトルコ語新聞の解説も参考にしつつ、得られた感触である。
このように、トルコの専門ではない私が、本や論文を読んで理解を深め、インターネットで情報確認し、自分であれこれと模索しながら、時にはいろいろな質問やコメントを添えて訳文を送っているので、パイピシュ先生は本当に嬉しかったようだ。4月のニューヨークでは、ふと気がつくと、いつもぴったりとそばに付いていてくださり、娘さんもお父さんから聞いた話をそのまま信用しているようで、初対面なのに、安心して開けっぴろげな感じだった(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140508)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140510)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140702)。

2.アナト・ベルコ博士の著作に序文を書かれたパイプス先生(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130105)。独特の重たい内容に、これほどアクセスが集まるとは、予想外だった。性的な動機による女性の自爆テロという、通常の社会では信じがたい行為について、イラクアラビア語を話すイスラエルの女性研究者だからこそ可能となった、勇気ある稀有な研究。そこを評価されているので、パイプス先生は序文を書いたのだ。
是非とも、序文だけにとどまらず、原書を手に取って読んでいただきたい(http://www.amazon.co.jp/The-Smarter-Bomb-Children-Suicide/dp/1442219521/ref=sr_1_2?s=english-books&ie=UTF8&qid=1404901034&sr=1-2&keywords=anat+berko)。ヘブライ語からの英訳なので、論理構成としては、少しわかりにくいかもしれないが、情緒的な日本語文に慣れている我々には、それほどでもないと思われる。

3.これを訳した時期は、共著者のラース・ヘデゴー氏の頭部を、配達人を装ったムスリム移民らしき者が狙い撃ちにした事件発生当日と、偶然にも重なっており(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130207)(http://www.danielpipes.org/12620/)、地球は丸くて相互につながっていることを改めて実感させられた、思い出深い訳文である。
この事件直後は念のために入院されたものの、その後、ヨーロッパのみならず、アメリカにも招かれて気丈に講演されていたヘデゴー氏。残りの生涯は、ずっと警護付き人生となったそうだ。欧州の移民政策問題は、日本でも賛否両論、話題になっている上、研究論文もあるようだが、これほどまでに読まれるとは思っていなかった。
恐らくは、(1)デンマークという高度福祉社会で発生した事例(2)日本の移民政策提議との兼ね合い(3)ニューヨークの新聞に掲載されたデンマーク事例の論考文に対して、なぜかカナダの新聞宛にデンマークの政治家が投書で反論するという、地域的な広がりを持った討論に拡大したこと(4)欧米における左派とイスラーム現象との親和性ないしは協働関係を具体的に指摘した追記事項などが、日本での話題に刺激や深みを添えているのかもしれないと想像する。

日本の読者は、伝統的に受け継いでいる活発な知的好奇心を、是非とももっと発揮して、パイプス・ワールドからもっと幅広く、刺激を受けていただければと願っている。中東情勢に多少は興味を持つのみならず、応用編として、日本はいかにあるべきかと発展して考えられれば理想的である。