JIMA-DON

ニシジマオさん(自称日曜音楽家)の日常と散文駄文

必殺仕事人2015の感想

 いやあ、もちろん「必殺」としては粗雑な作りでしたよ。必殺仕事人IV辺りの明らかに設定作りにやる気のないステレオ型の悪党。見られまくりの殺しシーン。もっとやれただろう、竹中直人

 しかし、前期必殺を体験した業の深いものには十分楽しめた。殺し屋の業の話が本当のメイン。もうそういう華やかなシーンはすっ飛ばして、ずーっと今回のゲスト仕事人・瓦屋の甚八郎・お京コンビの末路を追ってましたとも。
 おそらく知念君LOVEな多感な女子たち、後期必殺が好きな「必殺!仕事人」な方々には全くもって「何独りよがりの上から目線してんのさ」と言われてもしょーがない。

 ツイッターでさんざ書き散らしたが、この回は「必殺仕置屋稼業」のオマージュをふんだんに取り入れている。孤児となり裏稼業者の鳶辰(津川雅彦)に拾われ、殺人マシーンとして意図的に育てられた市松(沖雅也)。彼は本物の殺し屋で厳密な「仕置屋」ではなく、作中ではやくざ者から外道殺しを受けてる描写も見受けられるほど。仕置屋には偶々主水に仕事を見られた、主水のほうが腕前は格上である以上チームに属しているに過ぎなかった。

 10話「一筆啓上姦計が見えた」にて、主水の同僚一家が殺され孤児が出てくるのだが、その孤児を無理に引き取ろうとする市松。他のメンバーにもあっさり懐くその子。もちろんその回の殺しはその同僚の仇。
 殺しのシーンが終わって主水が引き取り先を見つけた旨を告げる、渋る市松の目に映ったのは、知らないところで見ていたのか。子供がやっていたのは市松の殺し技・竹串を使った刺殺。見事な腕前で蜘蛛に突き刺さった竹串。主水がこう告げる。
 「門前の小僧、習わぬ経を読むってやつだ」
 ぎょっとして手放す事を了承する、という苦いラストだった。

 信州で握り飯一つ持った少女を、捨て切れなかった瓦屋の陣八郎。泣きぼくろのお宮はその子に重なってしまう。そしてそのお宮の最期は、「これで裏の仕事は最後」と決めた仕事で陣八郎を庇って死ぬという、裏の仕事師として至極真っ当な巡り巡った人殺しという罪の業が呼んだ皮肉な結末。

 悪い事をやったら巡りめぐって自分に降りかかる、たとえそれが正義に基づいたものとはいえ。必殺は危ないコンテンツなんですよ、本来は。現代社会で当て嵌めてみたらテロリズムの礼賛なのですから。
 思えばかつて「必殺商売人中村主水も、わが子がいったん産声を上げながらも死産に終わった。それはまるで天罰のように思えたに違いない。

 思えばこの2015、やたらと仕置屋稼業を意識したフレーズが二人のエピソードから散見される。最終回で奉行所に捕まる市松、しかし中村主水がへまをやるというアシストで逃亡。逃亡先で主水から渡されたおにぎりを口に入れると中から一両小判が。それを見て、人間らしい笑顔を見せる市松。次作「必殺仕業人」は信州で市松と組んで殺しをやった赤井剣之介が、中村主水を頼ってやってくるところから話が始まる。そして何より、屋根。仕置屋稼業といえば屋根だ。もう一人のメンバー・印玄の殺し技は「必殺屋根落とし」という非常に単純かつエキセントリックな殺し技だった。仕置屋のエンタメ性を高めたのはあの「屋根」だった。

 ・・・とまあ、過去作を見た人だとこれだけ語れるくらい深い話だったんです。あ、そういえば思い出した。中村主水はその仕置屋の最終回ので「少しでも市松が裏切るそぶりを見せたら、殺せ」とうどん啜りながら平気で吐き捨て、そこでタイトル画面へと切り替わる。
 最後のお菊の「裏稼業を知られたら?当然、殺すだろうね、二人を」って台詞。綺麗に掛かってます。 

 そしてこの文章を読んで必殺2009を見返してみるときっと、あーこんな深い話だったんだ、と思える若い子が増えたらなあと思うのです。

 いやーおじさんねー、必殺シリーズ2時間スペシャルがリアルタイムであってた頃を思い出すわけですよ。あー、またこういうストーリーか、こいつ殺される、ゲスト仕事人来たら絶対死ぬなーとか。で、やっぱりその通りでガッカリして。悪乗りに辟易して。

 若い子は羨ましいよ、2015は、当たりだった。
 あ、そうそう知念君は必殺のキャラ的にアリでした。古参のおじさんも認めざるを得ない。