古本屋 月の輪書林

 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で四冊。大江健三郎『宙返り(上・下)』講談社1999年初版帯付、高橋徹『古本屋 月の輪書林晶文社1998年4刷帯付、C・S・ルイス『別世界にて』みすず書房1991年改版1刷、計420円。

 『古本屋 月の輪書林』の帯、山口昌男の推薦文が目を引く。以下全文。

《 世の中には真剣師という言葉はあるが、古本屋の世界にこうした人種を求めるとすれば月の輪・高橋徹をおいて他にない。》

 拾い読みをしていたら、ついつい全部読んでしまった。自家目録作成までの「日録」が面白い。

《 ぼくが死ぬとき、店にはろくな本がない状態が望ましい。本を買うことに執着はあるが、一冊も手元に残したくはないのだ。》39頁

《 バカだと思いつつ、我を忘れて今日も入札する。買えなかった悔しさより買って金に苦しむほうを選んでいる。》 87頁

《 本は自分を通過していくもの。ぼくの役廻りは身銭を切ってくれる人へ渡す中継地点。そう割り切らなければやっていけないほど本にさわった、売った。売ってきました。》88頁 

《 古本屋は書評を書かざる真の書評家。ぼくは、ひそかにそう信じているのだ。》178頁

《 「出会い」とは偶然の産物なのでは決してなく、まちがいなく必然のなせる業だと確信します。》198頁

《 「買うは天国、払うは地獄」の日々は死に至るまで続きそうであります。》198頁

 古本を好きではあるけど、古本屋を開業しようとは思わなかった。開業しなくてよかった。

 昨日ネット接続機器がオシャカに。昼前に交換。やれやれ。

9月 7日(水) 翼鏡

 昨夕帰りがけに本屋で渡辺温アンドロギュヌスの裔(ちすじ)』創元推理文庫2011年初版帯付を購入。1575円。新刊だって買う。それからブックオフ長泉店で三冊。岩本素白東海道品川宿ウェッジ文庫2008年2刷、桜庭一樹推定少女』角川文庫2008年初版、多田富雄『独酌余滴』朝日文庫2006年初版、計315円。

 小中英之『わがからんどりえ』を再読した勢いで、第二歌集『翼鏡』砂子屋書房1981年初版を読んだ。一昨日引用した《 韻律の力と独自の文体を確立した『翼鏡』》だ。さて、どうだったか。『わがからんどりえ』がミラーボールに反射する、砕片のきらめきのような情調を与えたのにたいし、『翼鏡』は落ち着いてしまった男の気持ちに全編貫かれている。私には掬すべき歌がほとんど見つからなかった。

  さまざまの想(さう)をひとつにひきしぼり海ゆ謐けく月は昇りぬ

  かきつばた咲くきはまりの濃むらさき水に映るを境(さかひ)に生きむ

  霧ふかく真木立つ夜を壮年の奥ひとつなる意思の鳴りいづ

 小中英之の歌に松平修文の歌集『水村(すいそん)』の歌をあわせてみる。上が小中、下が松平。

  さみだれの雨の激しき日の果てに「白樺派」といふひびきかなしむ
    ×
  あなたからきたるはがきの「雨ですね」さう、けふもさみだれ

  水門を春のひかりは砕け落つわが額の傷かつて凄まじ
    ×
  少女らに雨の水門閉ざされてかさ増すみづに菖蒲(あやめ)溺るる

 お昼前、安藤信哉のご遺族から電話。いい本ができました、と感謝される。ほっ。

 『安藤信哉画集』K美術館刊行は好評。昨日さっそく二冊売れ、きょうは五冊お買い上げ。印刷部数はたった250部。A4版72頁オールカラー、ソフトカバー装。頒布価1500円。「安い! 3000円はする」「センスがいい! 印刷がいい!」と評判。いい人たちに恵まれていい画集が出来た。ご遺族が出費され、私たちが知恵を絞って制作。二度と出来まい。