『舞曲扇林』入手

午後、アキバ経由で神保町。
先日郵送されてきた浮世絵のカタログを頼りに、役者絵を買おうかと思い、いつもの古書店へ行ったのだが、休み。仕方がないので、歌舞伎関連の店に寄る。
以前に来た時見つけた、長十郎の『舞曲扇林』がまだあった。紐で括られ、一冊欠けたセットで2万円という値段もそのまま。
前回は見送ったのだが、買うとそれ以上の出費となるはずだった錦絵を買わないで済んだことを考えると、その予算をこれに使えというお告げなのだと勝手に判断、買うことにした。店のおじいさんは、一緒に買った別の2冊の歌舞伎関連の古書はタダにしてくれた。(合わせて1,500円だったが。)
すぐに帰って中を確かめる。
冊子は、全部で29冊あり、最終号は第43号。号数が冊数と合っていないのは、途中から2号続きの合併号が多くなるため。(もともとは隔月刊だったが、だんだん年3回程度しか発行されなくなっている。)購入時に一冊欠けていたのは、第33・34合併号のようだ。これがあると、全部でちょうど30冊になる。
創刊号の発行が1970年6月で、最終号は1981年5月。長十郎はこの年の9月に亡くなっているので、まさに、最後までこの雑誌に命をかけていたともいえる。
創刊号の表紙は、勝川春章の「暫」の役者絵と縦書きの「舞曲扇林」のタイトルの他に、河原崎長十郎編集 演劇創造研究誌」というサブタイトルがついている。それが号を重ねるにつれ、「日中平和友好条約早期締結!!」とか、カンボジアベトナム人民の勝利をたたえる!」などのスローガンが加えられている。(ちなみに最終号は、「『屈原』訪中公演記念特集号!!」。)これだけでも、当時の長十郎の政治的立場が容易に伺える。
パラパラと中味を眺めてみると、中国の文革礼賛をはじめ、政治的プロパガンダは相当あるものの、杉村春子との対談や、千田是也大島渚戸板康二井上靖らの寄稿があり、また長十郎自身が『鳴神』についての研究論文を掲載、他にも、依田義賢が映画『元禄忠臣蔵』についての雑記と、「豊沢団平聞書」を連載していたりで、割合と読み応えがありそうである。
前進座関連で今最も関心があるのは、1967年の長十郎除名事件とその後の長十郎の足跡であったので、自分にとってこの雑誌との出会いは、まさに運命的であり、2万円なんて安いものだ。(ちなみに、当時の値段で29冊を合計すると、1万2,100円だった。)
と思ったら、ネットオークションで、6冊100円で落札されていたのを発見してしまった。しかもその6冊の中に、欠けている33・34合併号が含まれているではないか。おまけに落札日は、自分がはじめてこの雑誌を見つけて日記に書いた日の翌日である。
もしかして、運に見放されていたのかもしれないな。
 

↑オークションに掲載されていた写真の一部。真ん中が33・34号。これだけもう一度オークションに出ないかな。