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憲法13条

(社会)
けんぽうじゅうさんじょう

第13条〔個人の尊重〕
 全て国民は、個人として尊重される。
 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限の尊重を必要とする。

 

(一) 憲法13条の法的性格

日本国憲法は、14条以下において、詳細な人権規定を置いている。しかし、それらの人権規定は、歴史的に国家権力によって侵害されることの多かった重要な権利・自由を列挙したもので、すべての人権を網羅的に掲げたものではない(人権の固有性)。

社会の変革にともない、「自律的な個人が人格的に生存するために不可欠と考えられる基本的な権利・自由」として保護するに値すると考えられる法的利益は、「新しい人権」として、憲法上保障される人権のひとつだと解するのが妥当である。その根拠となる規定が、憲法13条の「生命、自由および幸福追求に対する国民の権利」(幸福追求権)である(生命権と幸福追求件とを分離して考える説もある)。

この幸福追求権は、はじめは、14条以下に列挙された個別の人権を総称したもので、そこから具体的な法的権利を引き出すことはできない、と一般に解されていた。しかし、1960年代以降の社会・経済の変動によって生じた諸問題に対して法的に対応する必要性が増大したため、その意義が見直されることとなった。その結果、個人尊重の原理に基づく幸福追求権は、憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利であり、この幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は、裁判上の救済を受けることができる具体的権利である、と解されるようになったのである。判例も、具体的権利性を肯定している。


*京都府学連事件
デモ行進に際して、警察官が犯罪捜査のために行った写真撮影の適法性が争われた事件。最高裁は、「個人の私生活上の自由のひとつとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する・・。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない」と判示して、肖像権(プライバシーの権利の一種)の具体的権利性を認めた(最大判昭和44・12・24刑集23巻12号1625頁)


(二) 幸福追求権の意味

幸福追求権は、個別の基本権を包括する基本権であるが、その内容はあらゆる生活領域に関する自由(一般的行為の自由)ではない。個人の人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利の総体をいう(人格的利益説)。また、個別の人権を保障する条項との関係は、一般法と特別法の関係にあると解されるので、個別の人権が妥当しない場合にかぎって13条が適用される(補充的保障説)。

『憲法』第三版 芦部喜信 高橋和之補訂 岩波書店P-114より


(1)「個人の尊重」とは、要するに、「一人ひとりの人間を大事にする」ということである。

人権とは、人間が人間として生きてゆくための不可欠な権利であり、人が生まれながらに当然にもっている権利である、とされるが、その根底にあるのは、「個人の尊重」の原理である。それは、人権保障の根本的目的とする近代立憲主義の基底的な原理でもある、日本国憲法は、こうした近代立憲主義の流れをくみ、13条で、「すべて国民は、個人として尊重される」として「個人の尊重」の原理を掲げる。「個人の尊重」は日本国憲法の基底的原理ともなっているのである。

●憲法13条は、人権の章にある規定であるが、「個人の尊重」原理は、人権保障にとっての基底的原理であるというだけでなく、日本国憲法が採用するすべての価値の基底に置かれるべきものとして理解されなければならない。平和・人権・民主主義(あるいは国民主権)が日本国憲法の三大原理だというのは、誰でも知っていることだと思うが、この三つの原理は、それぞれ別個のものというより、「個人の尊重」という同じ根っこから派生している原理としてとらえるべきである。




「個人の尊重」とは、一人ひとりの人間を、自立した人格的存在として尊重する、ということであり、平たくいえば、要するに、「一人ひとりの人間を大切にする」ということである。それは、一人ひとりがそれぞれに固有の価値をもっている、という認識にたって、それぞれの人が持っているそれぞれの価値を等しく認めあっていこう、というものである。だから、ここでは、人はみな、一人ひとり違う存在なのだ、というとらえ方が前提になる。違う存在だからこそ、たった一人であっても、その人の価値は、「代わり」のきかない、かけがえのないものであり、尊重されなければならない、ということになるのである。このことが、「人権」(=Human Rights=「人間として正しいこと」)における「正しさ」の基底的基準である。

『憲法学教室』浦部法穂 日本評論社P-40より


憲法13条の意味
憲法13条後段は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を保障するとともに、その「立法その他国政の上」での尊重に関し、「公共の福祉に反しない限り」という条件をつけている。

幸福追求権
支配的見解は、この条項が憲法の他の条項によって具体的に規定されていない権利を包括的に保障するものと理解しており、判例も、この条項を根拠に本人の承諾なしに容ぼうや姿態を撮影されない自由や、喫煙する自由を認めている。
しかし、「幸福追求に対する権利」という概念があいまいであることや、多くの利益がこの条項を根拠に憲法上の保障を要求すれば、「権利のインフレ」を起こし、憲法上の権利一般の価値の低下を導くことを理由に、この条項から裁判上保障される具体的な権利を導き出すことに懐疑的な見解も有力である(『憲法』伊藤正己 弘文堂P229)。とくに、個人の私的領域に属する事項についての自己決定権が、13条後段を根拠として保障されるとすると、それについても「公共の福祉に反しない限り」という限定が付されることになり、個人の自律を根拠とする権利は社会全体の利益を理由としても侵害されないはずだという疑問に答えることが難しくなる。

一般的な行動の自由

上述の議論と整合的にこの条項を解するひとつの道は、ここでいう「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」とは、個人の自律を保障するための人権ではなく、いわゆる一般的な行動の自由を指しているとするものである。このような一般的な自由は、広範囲にわたって相互に衝突する可能性があるため、裁判所を含む国政上の機関は、この衝突を調整し、対立と摩擦を最小化するためにさまざまな法令を社会生活のルールとして設定する必要がある。一般的な自由は、これらのルールの確立によって、はじめてその効用を発揮し、人々に正当な期待と幸福追求の機会を与えることができる。したがって、一般的自由に関する国政上の規律が公共の福祉と両立すべきことは明らかである。

憲法がこのような一般的な自由をとくに国民に対して認めた目的は、憲法上の権利について広く当てはまるように、国家権力の活動範囲を公共の福祉と適合する範囲内に抑えることにある。憲法13条後段は、国家権力が公共の福祉の許す範囲内でのみ行使されれるよう、国民に対して一般的自由を与え、国家権力の側にこの自由の制約を正当化すべき責任を課して、司法部にこの限定を監視する任務を与えたものと考えることができる。

個人の尊重

これに対して、個人の自律の核心のかかわる、公共の福祉による制限を受けない権利は、個人の尊重を規定する憲法13条前段によって保障されていると考えるべきであろう。同条後段と異なって、前段には、公共の福祉による制限が付されていない。

この解釈に従うならば、13条前段と13条後段は、それぞれ異なる権利について定めを置いていることになる。いわゆる『宴のあと』事件で、東京地方裁判所は、「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」としてのプライバシー権を、「近代法の基本理念の一つであり、また日本国憲法のよって立つところでもある個人の尊厳という思想」から導いている(東京地判昭和39・9・28下民集15巻9号2317頁)。13条前段は、個人の自律を保障する「切り札」としての権利の存在を一般的に宣言した原則的条文として受けとるべきである。
『憲法』第三版 長谷部恭男 新世社P-155より


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