2009年12月と2010年1月の読書メモ

kodamatsukimi2010-01-31


・いつものようにメディアマーカーのメモ(http://mediamarker.net/u/kodama/)をもと
 いろいろ書くの回。
 具体的にはライトノベルサイト杯TRPGリプレイについて。
 その他の本については長くなったのでまた次回。覚えていたらば。

2009年下半期ライトノベルサイト杯

・まずライトノベルサイト杯である。
 説明他は前回の投票を参照。
 前回の投票時 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20090731
 趣旨をひとことで書くと「これがオススメのライトノベル2009年下期」。
 データのまとまった支援ページはこちら http://ippo.dip.jp/lightnovel/lnsite2009last/vote/
 また一応の投票対象は以下の通り。
 新規作品 http://ippo.dip.jp/lightnovel/lnsite2009last/vote/books/?type=fresh
 既存作品 http://ippo.dip.jp/lightnovel/lnsite2009last/vote/books/?type=veteran
 新規と既存を分ける意味がいまひとつ良くわからない感じである。


・さっそく今回の投票。
 結果としてあまり新規作品に手を出していない感じであるので
 次回は今回の投票結果をおおいに役立たせていただく予定であります。


君が僕を~どうして空は青いの?~ (ガガガ文庫) 君が僕を 2 (ガガガ文庫)
 君が僕を どうして空は青いの?
 君が僕を2 私のどこが好き?【09下期ラノベ投票/新規/9784094511703】

ガガガ文庫は変な作品が目白押しである。
 これはライトノベルなのか、と疑問なのがたくさんあるので
 いかにも中高生向けだなという電撃文庫や、
 それより低年齢向けだなという富士見ファンタジア文庫や、
 電撃文庫とは別の意味でライトノベル的だなというMF文庫と違い、
 ライトノベルとはなんぞや、ひるがえって中高生が「読むべき」小説とはなんぞや、と
 いろいろ問いかけあって面白いのであります。

・『君が僕を』も同作者の『どろぼうの名人』もいわゆるライトノベルか、と問われれば
 ライトノベルっぽくないのでライトノベルではないんでなかろうか、だけれども
 では何か、といわれると分類に困る。
 恋愛小説。少女小説。青春小説。あるいはファンタジー小説
 レトリック、修辞技法を駆使した文芸小説。

ライトノベルの想定対象読者世代でないであろう私がこの作品を読んで思うのは
 ライトノベルの想定対象読者世代がこの作品を読んで
 どう思うだろうか、ぜひに読ませて感想をききたい、という意味で
 面白味を感じるところなのである。
 大人向けに書かれているならそれほど驚く所もないけれど
 出る場所が変なので目につく小説。
 ひねているけれど十二分に読みやすく書かれているので
 内容はライトノベル、中高生が読む向け風でないけれど
 中高生に読ませてみたい小説。としておすすめの一作。
 是非文部科学省は高校生の夏休み読書感想文課題図書にこれを挙げて欲しい。 
 いやこれこそ高校生くらいが読んでこそ面白がれると思うのだけれども、
 けれど、これこそ高校生ぐらいが読むと面白がれると思えるものなのかもしれない。
 

月見月理解の探偵殺人 (GA文庫)
 月見月理解の探偵殺人【09下期ラノベ投票/新規/9784797356717】

人狼BBSを下敷きにしたゲーム的ミステリ小説なのであまり内容には触れませんが
 あまり読んでいない新規作品の中でも一番に面白かった作品。
 小説としての完成度を求めるなら世界名作全集でも読んでいればよいのである。
 あまつさえミステリとして欠陥を指摘するなど本末転倒なんである。
 この作品のような荒削りだけど個性的な新しさこそ、読書の楽しみ。
 喚起されるものごとのつくり、異なる一面に気付かされることがミステリの楽しみ。
 これは立派な、ミステリを題材にした良い作品。


・ちなみにすごくどうでもよいことですが
 このイラストの制服はいかさまにありえたのだろうか。要求体型が高過ぎる気がする。
 二次元的には問題ないのかもしれないけれども。


円環少女  10 運命の螺旋 (角川スニーカー文庫) あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
 円環少女(10) 運命の螺旋【09下期ラノベ投票/既存/9784044267124】
 あなたのための物語

・『円環少女』はSF小説としてとても楽しい作品なのだけれども
 中身、文章ともひとを選び過ぎる作品である。
 嫌いだ読めないというのはとてもすごくよくわかる。
 特に主人公視点を取って作者が地の文で多くを説明してしまうさまは大変きつい。

・けれどこれはそういうもの、作者の個性、だがそれがいい
 それが何々クオリティ、何々だからしかたないな、と強引に飲み下せば、
 あとはひたすら面白い作品。
 様々な魔法を強引に理屈づけて設定するたぐいも疑似科学仕掛けで楽しいし、
 それを現実的世界にバトルものとして落とし込んで滅茶苦茶になるのを
 いちいち懇切丁寧執拗に追うありかたも楽しい。  

・SFは科学解説書ではなく、それを材料に遊ぶ読み物なのである。
 「Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic」
 SFのS、科学とは、自然体系から見出した既存のりくつでしかない。
 ひとは常にそこからさらに新しいものを想像する。
 『円環少女』はSF、サイエンスファンタジーとして、楽しい読み物なのであります。


・『あなたのための物語』は、何をどうしたってライトノベルではないと思うので
 この「ライトノベルサイト杯」の趣旨に合わないのは認めざるを得ないところ。
 ただ、『円環少女』が楽しく読めるなら、
 もしくは『円環少女』がライトノベル的で読めなくともSFが読めるのならば
 読んで損はない作品として、投票はしないけれども挙げておきます。
 イーガンに比べればそれはもう読みやすいので。
 題名から「あなたの人生の物語」をどうしても想起しますが
 それと異なる作風ではあるけれど、決して名前負けする作品ではありません。


翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス) 翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈下〉 (幻狼ファンタジアノベルス)
 翼の帰る処 ―鏡の中の空― 上
 翼の帰る処 ―鏡の中の空― 下【09下期ラノベ投票/既存/9784344817401】

・投票対象作品のなかから、おすすめしたい、を選んでいくと選ばれたわけだが
 正直なところを書くと、この作品は昨年9月に読んだので良く覚えていない。
 おすすめするからにはそんなあやふやなことではいかん、
 直前に読み返してまでするべき、かもしれないので
 次回以降はそうするよう努力したい所存である。すみません。

・というわけで自分が満足する推薦文を書けないので
 ひとさまの推薦文を推薦することでごまかすことに。
  なまくらどもの記録 http://d.hatena.ne.jp/psycheN/20100130#p2

・ちなみに。

 推薦
 人や物を、すぐれていると認めて他人にすすめること。
        http://dictionary.infoseek.co.jp/より

 なんて上から目線。申し訳ございません。

・それからまたどうでもよいことですが
 1巻上下のころと違い、幻狼ノベルズの特徴と名高き
 カバーの目に痛いキラキラが、いつのまにやらなくなっている。
 やはり不評だったのだろうか。それとも予算の都合なのかしら。



・さて、ここまでの4作と、最後に挙げる1作は問題なく決まったのですが
 残り5つが決まらない。
 むむむむ『15X24』は出来は良いけれどおすすめする気になれないし
 『ピアノソナタ』は1巻が完璧に素晴らしかったので以降読んでいないのに
 それでおすすめするのもどうかだし
 『僕は友達が少ない』はMF文庫てきライトノベル
 男子中高生の二次元ドリームとして文句ないけれど、すいせんの言葉が思いつかないし
 といろいろ迷う。

・結果として以下4作を選んだのですが、まだ1枠余る。
 よし『D-breaker』が入るなら『神剣アオイ』を入れても良いか
 いやならば『シュガ―ダーク』とか『末代まで』とかいれるべきか
 どうせなら『蒼海ガールズ』をネタとして入れるべきかと、
 いろいろまだまだ迷ったのですが
 結局、結論として今回は9枠使用でこの9作、が自分の仕様と相成りました。

・では続き。



耳刈ネルリと十一人の一年十一組 (ファミ通文庫)
 耳刈ネルリと十一人の一年十一組【09下期ラノベ投票/既存/9784047261969】

・『耳刈ネルリ』はなるほど失敗作である。
 1巻はいろいろ詰め込み過ぎで取りつきにくいし
 3巻は打ち切りで強引に青春物としてまとめた感ありありのご都合主義。

・けれどそれら差し引いても褒めるべきところ残る作品です。
 ライトノベルの特長である、個性大きいゆえに魅力際立つキャラクター描写を
 上手く活かした表現ができている作品であるので
 次回作には大いに期待したい。
 例えばファンタジーもバトル要素もない現代日本の高校生というものを、
 この作者が描いたらどうなるか、と想像すれば楽しみ。という作品でありました。


D-breaker (MF文庫J に 2-4)
 D-breaker【09下期ラノベ投票/新規/9784840131247】
・こちらについては、まず公式サイトの紹介文を見ていただきたいッ!
 MF文庫J オフィシャルウェブサイト http://www.mediafactory.co.jp/bunkoj/books.php?id=23929

《歪曲》とは世界の事象を悪意的に改ざんすること。歪曲に対抗する組織『重層世界調律機関』に所属する高校生の優馬は、歪曲師イーサン・ソルトウォーターの追跡を命じられる。任務の途中、優馬は銃身のない拳銃をかまえた銀髪の少女ノエルに狙われた。九九九人の絶望と引き換えに願いを叶える《混沌の柩》を巡り、異能者たちが激突する。無理やり片手袋となってしまった優馬とノエルの運命もまた交錯し……。「覚悟はあるか」「でも、僕は、助けたい」「牙を剥け」――。左手に魔剣“鮮血の深紅”を帯びる『調律士』見習い優馬と、龍騎士ノエルのガン&ソードアクション!

 酢薔薇しい薫り漂ひます。
 普通ではかれいにするーさせていただくかんじですが
 作者の前作『ナインの契約書』では、およそこういう作品を書きそうにはない、
 地味な作風であったのでかえって興味を引かれて読んでみました。


・結果。
 おおおおこれはぎりぎりだ。無理無理だ。バラバラだ。ガタガタだ。
 作風に合わない作品を書いている不協和音のガリガリ感がなんとも喉に残る一作。
 和音なのに喉。つまりそういう感じである。

・客観的冷静に見て、端的に言って、ようは駄目な作品だと思うのですが
 その駄目さ加減がとても印象に残って個性的な味わい、というか喉越しというか
 他にない新鮮さと「感じられてしまっている」作品。
 ああ続きが読みたい。すごく読みたい。
 そういう意味では間違いなく、より抜きに秀でた作品。

・そのような感想の作品を「2009年下半期おすすめ作品」に挙げるのはどうか、
 面白いのかもしれないが「おすすめ」なのか、というと確かにどうなのかですが、
 こういう作品を面白がっているひとが
 この作品も、このようにではあるけれど面白がっている例、として挙げておく次第。
 面白がっているのには間違いないので。
 作者さんを真摯に好意的に応援しているのも本当です。


白銀の城姫 (MF文庫J し 4-4)
 白銀の城姫【09下期ラノベ投票/新規/9784840131285】

・この作品もかなり迷いました。
 面白いか、といわれると胸を張ってもちろんだ、と答えられるかといえば微妙。
 しかし前作の『やってきたよドルイドさん』に比べれば作者の良いところが出ていて
 全体として見ても、地味だけれど、その割に1巻の敵が大物過ぎだけれども、
 そもそもシャト子が実用向きでないから本当に強いのかと疑問だけれども、
 まあとにかく無難に面白い作品ではある。

・次の投票機会には消えているかもしれない。今回しか機会がないかもしれない。
 そんなふうなところもあったりなかったりしなくもないですが
 つまりその程度には良いのでないか。
 あまり褒めていないですが、おすすめはしたい。しておきたい作品です。


無限のリンケージ 2 -ディナイス・ザ・ウィザード- (GA文庫)
 無限のリンケージ2 ―ディナイス・ザ・ウィザード―【09下期ラノベ投票/既存/9784797357097】

・感想にとても困る作品です。
 出来は安定しているのですが、地味。すごくとても地味。
 視点主人公が女性で、モータースポーツ風バトルのメカニックとして
 あこがれの戦う騎士を助ける話。
 堅実。1巻も2巻も工夫あり、欠点を投げかけるようなところ見つからないのですが
 眼を引かれるような突飛なところもなく
 かといって現実的なキャラクター描写に味わいがあるとかの類でもない。

・変な表現の仕方ですが、萌えとか燃えでなく、みていて良い意味で微笑ましい作品。
 主人公のサクヤに対して、自分の娘をみるように応援したくなる。
 ううむそういう意味では個性的な変わった作品なのかもしれない。

・どこを褒めたら良いかは困るけれども、応援したい作品。
 これ以上の上積みはないのかもしれないし
 優れた作品か、というとそういうわけではないけれど、良い作品。
 あまり大きな期待はしないで、という留保はつくけれどもおすすめしたい。


・そしてまたちなみに。本作の作品名は「無限の
 エンゲージ(engage:婚約)ではなく
 リンケージ(linkage:連鎖)である。ぷよぷよである。
 エン「ケージ」とかリン「ゲージ」と読む英単語はないようなので注意いたしましょう。
 
  


アリアンロッド・サガ・リプレイ(3)  殺意のエトワール (富士見ドラゴン・ブック)
アリアンロッド・サガ・リプレイ(3)殺意のエトワール【09下期ラノベ投票/既存/9784829145623】
・最後はこちら。TRPGリプレイより一冊。
 TRPGリプレイは、ライトノベルではない、というか小説ではないので
 そのあたりに関してはまず下を読んでいただきたい。
 その上で、2009年下半期のライトノベル枠から9冊選んだ内の一冊として本作を推薦。
 

・本作はアリアンロッドサガリプレイシリーズの7冊目。
 いきなりここから読むかたはいないと思いますが一応注意として
 アクロスはともかく無印とブレイクを2巻まで読んでから読むべき作品。
 1話目のシナリオひっくり返しから建て直すGMの芸もそれだけで素晴らしいですが
 やはり2話目のプレイヤーVSプレイヤーが最高の見物。
 TRPGコンピューターゲームの対戦ゲームに比べていささかも劣るところない、
 いや、RPGという、カードゲームと違い、戦力が一方向に制限つけて変更されうる
 条件下において
 これだけ高密度破綻するところのないゲームが成り立って既にいるのだということを
 知らなかったという点で驚嘆した作品。感服。
 それを教えてくれた作品として文句なく素晴らしいと挙げたい。
 
・ただ、「ライトノベルサイト杯」におすすめという意味では、もちろん異なります。
 アリアンロッドサガシリーズ自体が「ライトノベル」として面白い。
 そういう意味については、続けて以下を読んでいただきたい。


TRPGリプレイをライトノベルのひとつとして読む


・前回(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20091130)書いたように
 そういえば書店のライトノベルコーナーに置かれているTRPGリプレイというのを
 今まで読んでいなかった。
 試しに一冊読んでみたらなかなか面白かったので読んでみよう、
 ということでこの2ヵ月、リプレイだけで25冊ばかり読んでみました。
 こんな感じ。

アリアンロッド・サガ・リプレイ・アクロス(1)  天に月、地に剣 (富士見ドラゴン・ブック) ダブルクロス・リプレイ・ジパング(1)  戦国ラグナロク (富士見ドラゴン・ブック) ソード・ワールド2.0リプレイ 新米女神の勇者たち(1) (富士見ドラゴン・ブック) クトゥルフ神話TRPGリプレイ るるいえあんてぃーく (ログインテーブルトークRPGシリーズ) アリアンロッド・リプレイ・レジェンド(1) 貧乏姉妹の挑戦 (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・リプレイ銀の輪の封印 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック) アリアンロッド・リプレイ(2) 闇色の血の騎士 (富士見ドラゴンブック) ダブルクロス・リプレイ 闇に降る雪―Queen of Blue (富士見DRAGON BOOK) ノエルと薔薇の小箱―アリアンロッド・リプレイ・ルージュ (富士見ドラゴンブック) ダブルクロス・リプレイ・オリジン 偽りの仮面 (富士見ドラゴンブック) 聖雪のキャンパス―アリアンロッド・リプレイ・ハートフル (富士見ドラゴンブック) アリアンロッド・サガ・リプレイ(1)  戦乱のプリンセス (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・サガ・リプレイ・アクロス(1)  天に月、地に剣 (富士見ドラゴン・ブック) ノエルと翡翠の刻印―アリアンロッド・リプレイ・ルージュ〈2〉 (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・サガ・リプレイ・ブレイク(1)  ファントムレイダーズ (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・リプレイ3 金色の鍵の英雄 (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・サガ・リプレイ・アクロス(2)  狼の魂、竜の光 (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・サガ・リプレイ(2)  最強のフィアンセ (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・サガ・リプレイ・ブレイク(2)  フレイムレギオン (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・サガ・リプレイ(3)  殺意のエトワール (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・サガ・リプレイ・アクロス(3)  漆黒の刃、黄金の牙 (富士見ドラゴン・ブック) ノエルと白亜の悪夢―アリアンロッド・リプレイ・ルージュ〈3〉 (富士見ドラゴンブック) ソード・ワールド2.0リプレイ たのだん(1) (富士見ドラゴン・ブック) ノエルと蒼穹の未来―アリアンロッド・リプレイ・ルージュ〈4〉 (富士見ドラゴンブック) ノエルと白馬の王子―アリアンロッド・リプレイ・ルージュ+1 (富士見ドラゴンブック) アリアンロッド・サガ・リプレイ・デスマーチ  死んで花実が咲くものか! (富士見ドラゴン・ブック)

 メディアマーカーの個別リプレイ感想 http://mediamarker.net/u/kodama/tag1/リプレイ/?st=fin
TRPGリプレイというジャンルのごくごくはし一片をかじったに過ぎませんが
 現時点での感想ということで書いておきたい。


・まずTRPGリプレイというのは小説ではない。ゲームのプレイリポートです。
 複数人で遊ぶゲームをみんなでわいわい遊んで、
 その楽しく遊んでいるさまを文章にしたもの。
 それがそもそも、そのゲームを遊んでいるひと以外にとって面白いのか。

・例えば以前私が『三国志大戦』の全国決勝大会を見てきた感想を書きましたが
 『三国志大戦』を遊んでいないひとにとっては面白いだろうか。 
 『ドラクエ』のリアルタイムアタックを見てきた感想を書きましたが
 『ドラクエ』を遊んでいないひとには面白いのだろうか。

・いやこれは、いずれも質的にその時点で世界最高峰のものであろうから
 取材素材に文句付けようなく
 面白くないならば責任は主に私が書いた文章にある。
 というわけであまり例として良くない。

・もとい、私が遊んだことのないゲームについて、
 楽しげに遊んでいる様子をレポートした文を読んで、それを楽しく読めるか。
 とするならどうか。多分無理。


・けれどTRPGリプレイを読んでみたところ、
 私はTRPGをどんなゲームかおおよそ知っているし、
 それぞれのゲームルールについて興味があり、知ろうとしているとはいえ、
 遊んだことがないのにもかかわらず、読んで面白かった。
 おおかたが楽しく読めました。
 ライトノベルよりよほど当たりが多かった。

・多くは剣と魔法のファンタジー世界を冒険する作品だったのですが
 そういうファンタジー風冒険小説として、ライトノベルとして読んで
 ライトノベルと比較しても充分に面白く読める。
 むしろ、ライトノベルを読んでいる方々の多くが
 なぜこれらを読まないのか、面白い作品として楽しまないのか不思議です。



TRPGというのはさまざまな種類のゲームがあり、それぞれルールが異なります。
 ですがおおよその基本は、「テーブルトークRPG」、RPGとついているように
 『ドラクエ』とか、そういうRPGと同じく
 冒険を仲間と一緒に街で情報集めて迷宮を探索して敵と戦うことで表現しています。
 『ドラクエ』と違うところは、1人用でないところ。
 『FF11』とか『ラグナログオンライン』とかああいうのと同じ。
 オンラインRPGというものが、遊んだことがなくとも、
 だいたいどういうものかわかっていればTRPGもわからないというところはありません。


・違うのは「テーブルトークRPG」、トーク、会話だけで冒険が進行するところ。
 けれどこれも実際遊ぶのならば
 オンラインゲームよりさらに意識した演じる行為が求められるのかもしれないですが
 リプレイを読むだけならば、ライトノベルを読むのとなんら変わりわない。
 会話だけで進むライトノベル
 これぞライトノベルでない小説に比べて、ライトノベルの得意とするところです。
 例えば『生徒会の一存』シリーズ。
 キャラクターの会話で話がすすむ。というよりは、それだけしかない。

・小説的でないので、小説の1分野としてライトノベルを読むむきからは
 小説ではないとして未熟低俗認め難い、
 いや戯曲などと比べるまでもなく低品質なものだから評価に値せず、というよう
 見るのもまたひとつありますけれども
 作品を否定することと形式を否定することを混ぜてはいけない。
 簡単にいえば、読んでいない作品は誰がなんと言おうと
 自分が読むまで面白いかは決められない。


・会話だけで進む小説のような小説ではない読み物、としてTRPGリプレイの他に
 演劇の台本、戯曲と呼ばれる種のものがあります。
 例えばシェイクスピア。とてもとても有名なかたですが、書店で入手できるその作品に
 小説はなくみな劇の台本。会話文とナレーションと登場人物の出場退場を示すのみ。

TRPGリプレイも小説ではなく、会話文主体である形式としてその戯曲に近い。
 けれども同じではない。
 演劇の台本ではなく、その劇を行った結果を書いたもの。
 演劇を観劇したようすを文章で表現したもの。
 またTRPGは役者の台詞まで指定するものではない。
 『ドラクエ』のようなRPGと同じく、街のひとのしゃべることや迷宮の構造や
 敵の強さは決まっているけれども、そこでどんなことが起こるかは決まっていない。


・そのため、小説に比べて戯曲と比べても「完成度」が劣るのは間違いない。
 作者が演者の台詞ばかりか行動もまったく操作できない。責任を負わない。
 まさにキャラクターが立って、作者の手を離れて勝手に動き回る状態が常である。
 また役者は小説家と違ってそれを職業としていない。プロではない。無責任なのだ。
 おまけにリプレイ収録は一回限り。その場次第。
 あまり盛り上がらず失敗に終わっても、では撮り直しとはいかない。
 演劇のように毎日何度も繰り返さないし、もちろん練習なし。
 そして台本なしの一発勝負なのである。

・それで面白いものができるわけがない、すくなくとも後からいくらでも修正がきく点で
 小説に比べて劣るものしかできないように思える。
 けれどもリプレイ、ゲームのリポートを書くのは、あくまでプロの作家であるのが
 素人がゲームの観戦記を書くのと異なるところなのです。
 ゲームを遊んだようすをそのまま書きうつすのではなく、盛り上がる台詞は採用し
 失敗や停滞してしまった場面は手短に表現する。
 完全に失敗したTRPGを読んで楽しいリプレイとして仕上げるのは難しいだろうけれども
 楽しく盛り上がったTRPGのようすを、読んで楽しい読み物にする技術は既にあり
 その結果として出来あがったものは
 小説のライトノベルと呼ばれるジャンルに置いて
 遜色ない楽しい読み物と言えるものなのです。
 少なくとも、ゲームを小説化したもの、ゲームノベライズと呼ばれる類の作品と比べて
 TRPGはより楽しく読める水準に達している。

・ゲームをノベライズすることに関しては一概にいえず、
 また長くなるので詳細は省きますが、
 ライトノベルの、キャラクターの個性を際立たせることで話を転がす作法と、
 複数人でひとつのゲームを会話することで遊ぶ方法での表現と
 ゲームを小説化、作家という誰かひとりの視点で物語を再構成して完結させることとの
 それぞれの相性を比較すれば、ゲームはただ小説にすることができるなら
 ゲームである意味がないという点で、まだTRPGリプレイの方に分がある。


・そしてTRPGの特長として、作家ひとりによって作られないことによる話の広がりがある。
 どれだけ優れた作家でも、自分に描けないものは書けないが
 複数人製作作品はその限界を突破する。
 そのことは、必ず長所とはなりえませんが、
 1人用のゲームに対する対人対戦ゲーム、オンラインゲームとの違いのような
 面白さの種類の違いがある。
 TRPGリプレイは、普通の小説にないそれがある。



・さて、ここまでの内容をまとめると
 TRPGリプレイを何冊か読んでみたところ、
 りくつこねるなら小説ではないかもしれないが
 平均点として充分ライトノベルの平均点と同じ水準で楽しめるくらいの
 読み物である、といえる。が結論です。
 プロの作品としてお金を払うに値する。払ったお金ぶん楽しめる作品である。

・とりあえず自分がいまのところ読んで面白かった作品からおすすめを挙げるなら
 アリアンロッド・リプレイ 銀の輪の封印(ISBN:9784829143933)。
 アリアンロッドシリーズ最初の1冊。
 お試しにひとつ。面白いかどうかは読んでみるまで決まらないはず。 




・最後、おまけとしてその内容についてゲーマー的に書いておきたい。
 おもに読んだ『アリアンロッド』シリーズの内容についてで
 比較対象がない所からなので、TRPG全体からすれば的外れも大きいとは思いますが。
 ちなみにソードワールド、SNE系よりFEAR系が多いのは
 シーン制による入りやすさによってあずかるところ大きいです。初心者談。


・『アリアンロッド』シリーズは、わかりやすい剣と魔法のファンタジーワールド設定。
 『サガフロンティア2』みたいな舞台設定が大好きである私の琴線ふれまくりにつき
 注目を集めたことは確定的に明らか、もとい、そういう設定ものとして
 当初「トラベルガイド」(ISBN:9784829144664)を中心として期待していたのですが
 残念ながらそういう作品ではありませんでした。
 案外ハイファンタジー度が高くない。

TRPGでは当然なのかもしれませんが、ファンタジーとしての舞台設定は
 テレビゲームと違い、一通りのシナリオでのみ消化されるものではないからか、
 とも思いましたが、いや『FF11』などオンラインRPGと比較して違うのではないか。
 『トラベルガイド』は、意味のない設定など書いていないのです。
 ゲームのシナリオを広げるのに役立つ情報がまず第一にある。
 もうひとつ、TRPGの楽しまれ方として
 プロの製作による市販リプレイのような話を広げる物語作りは
 普通の限られた時間とGMに求められる費用対効果からまとまらないのでないか。

・つまり、TRPGというものはテレビゲームにおけるRPG
 なかでもオンラインRPGと並べた際に、両立するものでなくてはならない、
 俗なことを言えば市場規模が違うので、TRPG側が差別化を図らなければならない。
 その違いは、1人用RPGで楽しめるものと、
 オンラインRPGのそれとの違いにあるのではないか。
 つまり物語をすすめて読み解いて完結まとまるところが、
 TRPGに対して、市販のTRPGリプレイに求められているのでは、ということです。


・もうひとつ『アリアンロッド』作品を読んで驚いたのは
 その戦闘システムがとても複雑度合い高くできていること。
 基本段階で1キャラクターがいわゆる職業を2つ選択でき、
 レベル上昇ごとスキルを獲得、
 上級職に転職しても一度覚えたスキルは思い出すことで使用できる。

・といったことを書いてもそのゲームを遊ぶわけではないので
 実際リプレイからどんな感じか引用してみたい。

 カテナ:マイナーで《ランニングセット》!《エンハンスブレス:風》、《アーティラリィマジック》を使います。メジャーで《ダブルキャスト》使用、《サモン・リヴァイアサン》を二回撃つ!これに、《フォースブリンガー》と《デモンズウェブ》が乗って―――対象はベネット以外の全員!ベネットはもう無視する!(笑)
 アル:き、きたきた……っ!
 ―――翻訳しよう!
 マイナーアクションで唱えた《ランニングセット》とは、アルの使った《ファストセット》のように、続けて宣言する「タイミングマイナーアクション」のスキルをふたつ、同時に使用するスキルだ。
 これによって、武器の属性を〈風〉に変える《エンハンスブレス:風》、《エンハンスブレス》の効果中に装備している武器のダメージを魔法の攻撃力に上乗せする《アーティラリィマジック》を使用したのだ。
 《ダブルキャスト》は(以下略)
      アリアンロッド・サガ・リプレイ (3) 殺意のエトワール P317、318より引用

 こんな感じである。
 ただしこれは、低レベルで弱めモンスターと戦う際は簡単わかりやすくなっているが
 行き着くとこういう段階に達するという特殊極端な例。
 ちなみにこのプレイヤー対プレイヤーの戦いはこの調子で3時間近く続いたらしい。
 
・それでも成り立つところが凄い。ゲームとしてすごい。
 RPGのロールプレイング、ゲームのゲーム部分として
 ここまで出来るようになっているのが、知らなかった私には驚きの部分。


・それでなお、読み物としても面白い。のだから、ライトノベルとしてだけでなく、
 ゲーマーとしてもこれは面白い。いわざるを得ないでなく、面白い。
 ゲームを遊んだ様子をそのまま書いて読むに耐えるは
 『ファイナルファンタジー11 プレイ日記 ヴァナ・ディール滞在』(ISBN:9784757714274)くらいしか
 存在しないと思っていた蒙を開かされました。というと少し違うか。
 ともかく、これほど面白いゲーム読み物があったのに
 これまで気付かなかったとは不覚。
 気付けて良かった。
 以上長くなりましたが、これが今回TRPGを読んでみての結論です。