人生相談 「治安悪化」は印象操作では=回答者・立川談四楼 - 毎日新聞(2017年7月30日) 

http://mainichi.jp/articles/20170730/ddm/013/070/006000c
http://archive.is/2017.07.30-105321/https://mainichi.jp/articles/20170730/ddm/013/070/006000c

凶悪事件が起きるたびに「物騒な世の中になりましたな」と老人は言います。しかし、犯罪発生件数は減り続け、敗戦直後に比べれば殺人事件も激減しています。「安全・安心のために防犯強化が必要」と言い続ける人は、何らかの“印象操作”が目的でしょうか。「治安が悪化している」と宣伝したい人が増えていることに不安を覚えます。人々は本当に犯罪の不安におびえて生きているのでしょうか。(77歳・男性)
おっしゃる通り、犯罪発生件数は減っています。凶悪事件もです。それでも増えているように錯覚し、治安悪化を心配する人が一定数いるのも確かです。
私はそれをマスコミの発達の影響と考えます。新聞とラジオだけだったところにテレビや週刊誌が登場したのです。その情報量は半端ではありません。中でもテレビのワイドショーは、関係者の人権が懸念されるほどあおりにあおります。見なければブレることもないのですが、つい見てしまうのが人間というものではないでしょうか。
生前の談志が、よくこんな漫談をやりました。「悪いニュース、暗いニュースばっかりだと言うが、それが当たり前なんだよ。世の中が平和で、マスコミが健全な証拠なんだ。どこそこに親孝行の息子(娘)がいましたなんてのがニュースになったら、すでにその国はとんでもないことになってるんだよ」と。
とりこし苦労をする人がいて心配性な人もいます。事件の逐一が詳報されるせいでしょう。昔は犯罪が多くマスコミが少なかったため、大きな事件でないと取り上げなかったのです。どうぞ心配なさる方にそう説明してあげてください。
統制が取れ、検挙率の高い日本の警察は、世界に冠たるものと聞いています。ですから治安も大丈夫でしょう。ただ、あの「共謀罪」が人の心の自由を縛ることがあってはならないと、少しだけ心配しています。(落語家、作家)
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言わねばならないこと(96)9条と自衛隊 矛盾をバネに 京大名誉教授・福島雅典さん - 東京新聞(2017年7月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2017073002000132.html
https://megalodon.jp/2017-0730-1529-50/www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2017073002000132.html

憲法の前文と九条は戦後七十二年、朝鮮戦争で機雷除去にかかわった日本特別掃海隊の一人を除き、戦死者を出さなかったわが日本国の誇りで財産だ。しかし、安倍晋三首相は二〇二〇年までに改憲し、九条に自衛隊の存在を明記した条文を追加する考えを打ち出した。
事実上の軍隊である自衛隊を明記すると、国に憲法上の義務が生ずる。すなわち、国は紛争を抑止するに足る兵力と装備に責任を持たねばならない。自衛隊はすでに集団的自衛と称し、海外で米軍と行動を共にしている。九条に自衛隊を明記することで、この先、どれだけの兵力・装備が要るようになるのだろうか。そもそも自衛隊の人員は足りるのか。それどころか、志願者はほとんどいなくなることが想定される。
となれば、憲法一三条の「公共の福祉」に基づいて国民に応分の負担が求められることになるだろう。徴兵制だ。高等教育までの無償化を憲法に盛り込むこととセットで考えれば、自衛隊員として国を守るのは国民の当然の義務になる。
政府は集団的自衛権の行使を可能にし、武器輸出も解禁。特定秘密保護法に加え「共謀罪」法を成立させ、恣意(しい)的な捜査を可能にして治安維持を図ろうとしている。軍民両用研究という名の下に武器開発に大学を動員し始めた。残るは徴兵制だけだ。こうして官産軍学複合体ができあがる。
憲法前文と九条は高き理念であるがゆえに価値がある。この理念を失った瞬間に日本は大きく変質する。九条と自衛隊との矛盾をどうすべきか、護憲派は悩んでいるが、矛盾があるからこそ、政府は平和のための絶え間ない努力を続けねばならない。この矛盾をバネに世界に実効性ある平和的手段を提案、実践し続けることこそ、日本がすべきことだ。

<ふくしま・まさのり> 1948年生まれ。京都大名誉教授。専門は医療イノベーション創出学。先端医療振興財団臨床研究情報センター長。先端医療技術の軍事転用に警鐘を鳴らしている。