駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

IMPホール昼夜興行

突如勃発した、西日本ボクシング界12・10興行戦争。大阪IMPホールでは、昼の部に日本ランカー・坪内達哉出場のランキング戦、夜の部に内藤大助×吉山博司のOPBFタイトルマッチを据えた昼夜興行。そして大阪から公共交通機関利用で約2時間という微妙な距離で隔たれた高砂では、三谷将之×川端賢樹の日本タイトルマッチが昼に実施された。まったく、ファン泣かせもいい所というか、地域・国内タイトル戦ではIMPホール1つを埋めるのが精一杯な特定少数のボクシングファンを食い合ってどうするんだよと問い詰めたくもなる、いと悲しい“偶然のバッティング”である。
中には「高砂で日本タイトルマッチ観戦→IMP夜の部の途中に入場してOPBFタイトルマッチ観戦」というハシゴをこなした剛の者もいらっしゃったようだが(高砂でジャッジを務めた洲鎌栄一氏も、IMP夜の部に私服で来場していたw)、駒木の選択は「IMP昼夜・全試合観戦」とした。高砂の興行は、追ってスカイAで中継された映像が入手できるまでお待ち頂きたい。


※先に結果を更新、その後に観戦記を追記してゆきます。
※駒木の手元の採点は「A」(10-9マスト)「B」(微差のRは10-10を積極的に採用)を併記します。「B」採点はラウンドマスト法の誤差を測るための試験的なものですので、(特に8回戦以上のスコアは)参考記録程度の認識でお願いします。公式ジャッジの基準は「A」と「B」の中間程度だとお考え下さい。

第1部・ドラマチックボクシング(大阪帝拳主催・大鵬ジム試合提供)概要&雑感

IMPホールの昼夜興行ではお馴染み、大鵬ジムの定例興行。8月末の前回興行で日本バンタム級王座決定戦に敗れた健文・エスプロシボトーレスセミに控えてタイ人相手の調整戦。メインはここ数ヶ月で充実著しい中井五代が、同じく昨年来から充実一途の日本ランカー・坪内達哉[大阪帝拳]に挑むチャレンジマッチ。まさに通好みと言うか、痒い所に手が届くマッチメイクである。大鵬ジム興行は試合・ラウンド数のバランスといい、日本人選手中心のラインナップといい、地味ながらコストパフォーマンスが高い時が多い気がするのだが。

第1部第1試合・ライト級契約ウェイト(60kg)4回戦/●人見真太郎[大鵬](2R0分51秒TKO)瀧波大佑[千里馬神戸]○

両者戦績は人見1勝(1KO)無敗、瀧波1勝(1KO)1敗。人見は今年8月デビューだが、瀧波は02年8月以来、実に4年4ヶ月ぶりのリングとなる。
1R。人見が頭低く突進して来るところ、瀧波はジャブを細かく放って迎撃し、更に右ストレートに繋げてゆく。だがブランク故かスタミナが早々に切れ、人見の圧力攻めに屈する。フック、アッパー中心に手数を浴び、更には右フックをクリーンヒットされて形勢をひっくり返される。
2R。前ラウンド前半と同様の展開。瀧波がジャブ中心に細かくワン・ツーを交えた攻勢でペースを掴むと、右ストレートからの左右連打が次々とクリーンヒット。人見堪らず後ろ向きで崩れ落ち、ロープにアゴを乗せる壮絶なダウンシーン。これには半田レフェリー、ノーカウントでストップしTKO扱いの決着。
瀧波が4年余ぶりの再起戦に快勝。細かいジャブ連打からストレート、フックに繋げる回転力が強力。しかし今日はスタミナ難が顕著だったし、頭の位置が変わらないボディワークも実力者相手となると咎められそうな気もする。実戦勘を取り戻しつつ、更なる飛躍を。
人見は典型的なファイタースタイル。今日は相手の手数に飲み込まれて後手に回ってしまった。1R後半の攻勢は4回戦中位クラス相当で、現況のままなら、これからも勝ち負けを繰り返してゆく事だろう。

第1部第2試合・Sフェザー級契約ウェイト(57.5kg)4回戦/○木村憲吾[大鵬](3R1分04秒負傷判定3−0)岸根誠一[井岡]●

木村はこの試合がデビュー戦、岸根は9/3に岡山でデビュー、負傷判定勝利で1勝(0KO)無敗の戦績。ちなみに2人ともサウスポー。
1R。両者頭の中が真っ白になったような感じで、プロテストで求められるものとは真逆の乱打戦に。共に左のストレート、フック、アッパーを振りかぶって放つが、やはり雑な印象。ラウンド後半から木村が左をクリーンヒットして勢いに乗り、追撃を放ってこのラウンド優勢。
2R。このラウンドも乱打戦。両者動き堅く、技術無視で気合と拳と頭までぶつけ合う。ぎこちない右ジャブに、左右のフック中心の連打を交えた攻防で一進一退だが、要所で有効打浴びせた木村がこのラウンドも優勢か。
3R。相変わらずの乱打戦。木村が先手で左中心の強打攻勢だが、岸根も途中からやや盛り返してゆく。だが木村が1Rに偶然のバッティングで負った傷が悪化してドクターストップとなった。
公式判定は藤田30-27、新井30-27、原田30-28の3−0で木村。駒木の採点は「A」30-27「B」30-28で木村優勢。
経験の浅い両者とは言え、技術水準の極めて低いドツき合いに終始。力量的には2人とも4回戦下位クラスと言わねばならないが、今日のところは木村が気迫の差で勝ち運を引き寄せて負傷判定ながらフルマークで勝利した。だがもう少し冷静に、練習した内容を試合に反映させなければ次戦以降は苦戦を免れまい。

第1部第3試合・フライ級4回戦/○中澤翔[大鵬](判定3−0)福留宏行[井岡]●

両者戦績は中澤2勝(0KO)2敗1分、福留1勝(1KO)3敗。中澤は4月の新人王予選で敗退、8月の再起戦もドローと、勝ち星に恵まれない近況。福留も6月、9月と連敗しており近況冴えない。共に現状打破を図る一戦。
1R。福留が頭低く単発フックを振るいながらの圧力攻め。しかし中澤はステップを使って右ジャブから左ストレート、右クロス、左アッパーでヒット連発。やや守勢に回っているようにも見えるが、有効打数で大差。
2R。このラウンドも前進する福留に対しアウトボクシングで対抗する中澤が左ストレートを絶妙に合わせてヒット数大差。福留はジャブ、フック中心に反撃狙うが、これも見切られ距離を外されて不発。圧力かける攻勢点はアピールするが……
3R。中澤は福留の大振りを捌いて概ね不発に終わらせつつ、左ストレート、右クロスを着実に合わせてヒットを重ねる。頭を絶えず上下させるディフェンスも好感。福留は攻めが単調で反撃の糸口を見出すことも出来ない。
4R。このラウンドも完全な中澤ペース。キレある動きと左上下のストレート中心にヒット数と主導権支配の観点で大差優勢。福留は強振と前進でアグレッシブさをアピールするが、それが明確なヒットに結びつかないまま試合を終えた。
公式判定は半田40-36、原田40-36、宮崎39-37で中澤。駒木の採点は「A」「B」いずれも40-36で中澤優勢。
中澤がアウトボックスで4ラウンドを見事に凌いだ。やや相手に恵まれた感もあるが、4回戦上位級のパフォーマンス。あとの課題はスピードとパンチ力か。
福留はファイター型に転向したが、雑で一本調子の攻めに終始。ガードも低く、それをカバーするブロッキングも拙かった。いずれのラウンドも同じパターンで劣勢に陥っており、もう少し戦い方に工夫が欲しかった。

第1部第4試合・Sフェザー級8回戦/○川波武士[大鵬](7R終了TKO)小林克也[正拳]●

両者戦績は川波7勝(4KO)2敗1分、小林6勝(2KO)2敗。2人とも前回の試合は8/27で、川波は8回戦初黒星となるTKO負け、小林はA級昇格を決める快勝と明暗分かれている。
1R。近距離での打撃戦。小林が先手で手数を振るうところ、川波が左ジャブ、右アッパーで有効打を連発。小林もヒットを返しつつ圧力かけて小差まで挽回したが、体格とリーチで川波に劣っている分だけ苦戦を強いられている。
2R。小林は圧力かけて密着しつつ左フック、右ストレート。川波は右ストレート、アッパーで迎撃するが、ボディワークが鈍い上に真っ直ぐ後退する悪癖があり、ロープに詰まって被弾して見栄えが悪い。
3R。このラウンドも小林が体を密着させていってショート中心の手数攻め。左フック、右ストレートの攻めがここでも有効。川波も右フック、アッパーで有効打奪って見せ場を作るが、ラウンド通じて全ての時間帯で守勢に立たされた。
4R。密着距離での乱打戦。小林の圧力攻めに対し、川波はフック連打で豊富に手数を浴びせて対抗。守勢の印象はやや薄れたが、それでも小林の渋太い手数攻めに根負けしてロープを背負う場面があり、印象度では微妙に。
5R。小林はこのラウンドも愚直に右ストレートにボディ交えた攻勢を畳み掛けるが、川波もボディフックで小林の足を止め、右ストレート、左ジャブなどでヒット、有効打を連発。ここで遂に形勢が逆転した。
6R。主導権を取り戻した川波がラウンド前半から距離を支配。ジャブからストレート、アッパーで着実にヒット数を稼ぎリード。小林は終盤に再び圧力攻めを展開し、ワン・ツー中心にヒットも返したが、ビハインドを埋め切れず。
7R。このラウンドも淡々とした打撃戦が続いていたが、やがて川波の右アッパーがクリーンヒットして試合が大きく動く。効かされた小林は懸命のクリンチで危機を脱し、右アッパー、フックで有効打を返して反撃するが、川波が再び攻勢に出て手数をまとめていった。
必死の奮戦でKO負けの危機を乗り切ったように見えた小林だったが、ダメージの蓄積が大きくここでギブアップ。8Rのゴングの代わりに試合終了のゴングが鳴らされた。
川波は実質1階級上の体格差を活かし、ジャブとアッパー中心の攻撃で的確に有効打とクリーンヒットを量産してTKO勝ち。しかしボディワークの乏しさ、サイドステップ不足など以前からの課題は積み残したまま。素質の高さで8回戦まで上がって来たが、ここからが正念場だろう。
小林は8回戦緒戦を懸命に戦い抜いたが、やや一本調子。試合中盤には圧力攻めで主導権を握っていったが、そこから決定的な場面を作る所まで持っていけなかった。相手の動きに対応し、抜け目無く致命傷を与える術を持つに至らない所が現在の限界でもあるだろう。8回戦ではその辺りの対応力・技術を身に付けなければ今後黒星ばかりが増えてゆくかも知れぬ。

第1部第5試合・フェザー級8回戦/○上原裕介[大鵬](判定3−0)川野正文[大阪帝拳]●

両者戦績は上原11勝(6KO)3敗1分、川野7勝(2KO)4敗1分。この試合は今年8/27からのダイレクト・リマッチ。前回は形勢互角の接戦を小差判定で上原が制している。
1R。両者ジャブ、ワン・ツー、単発右ストレート、左フックを主体にした重厚な打撃戦。リング中央、中間距離でのクリーンファイト。上原の速いワン・ツーがビシビシと決まってヒット数でリードするが、川野も手数は負けず劣らず。
2R。上原のジャブ、ストレートがこのラウンドも効果的。河野もジャブからワン・ツー、フック、アッパーと正攻法で手数を返すが、こちらは上原の堅守に阻まれてヒット数が稼げない。前回はスピードで見劣りした上原だが、今日は動きが素軽い。
3R。川野は右ストレートで先制も、上原すぐさまジャブ、ワン・ツーにスイング気味の左右フックを交えた多彩な攻めでヒット、有効打連発。川野も左カウンター2発で追いすがるが逆転までは?
4R。ジャブ中心の牽制で様子窺いつつ、ワン・ツー中心にアッパーを交える打撃戦へ。重厚さの中にA級らしいバックボーン感じさせる繊細な技術も感じさせる好勝負。上原がラウンド前半に右ストレート2発の明確なヒットで先行するが、終盤には川原がハッキリと攻勢に出てほぼ互角の形勢。
5R。川野が左フック、右アッパー交えてワン・ツーを度々有効打してリード。しかし上原も上下に打ち分ける左トリプルからの右フックなど印象的な攻勢で有効打を返して互角まで挽回。
6R。上原が左ボディから右ストレート、左フック、そこから更に左上下フック、アッパーのダブル・トリプルから右強打へ繋げるコンビネーションでヒット数優勢。しかし河野もフック、アッパー中心に攻め立てて抵抗する。
7R。上原の左フック、右ストレートが十分な精度・パワーで有効打に繋がる。これにコンビネーションで手数と攻勢点も稼いで優勢。川野も右ストレート中心にフック、アッパーを上下に集めてヒット返すが苦戦否めず。
8R。上原が左ジャブ連打からの右ストレートで先制すると、左上下フックを捨てパンチに使って右ストレートでヒットを奪うなど自在の攻めで圧倒。河野もフック、ストレートで反撃狙うがこのラウンドは不発が目立った。
公式判定は原田79-73、半田79-74、宮崎77-75の3−0で上原。駒木の採点は「A」79-73「B」80-74で上原優勢。
クリンチの殆ど無いクリーンな打撃戦。上原が懸念材料だったスピード面でも互角に渡り合い、8回戦らしい多彩なコンビネーションでほぼ全てのラウンドで優勢を勝ち取った。有効打で効かせた後にダウンを奪えるだけの決定力が身に付けば日本ランキングも現実的になるだろう。
川野は前回互角に渡り合った相手に主導権を握られ、その苦境を脱しきれないまま8R重ねてしまった。噛み合った展開になっただけに、攻守の地力の差がモロに出てしまったか。総合的に見て、8回戦としては平凡な実力と言わざるを得ない。

第1部第6試合・Sバンタム級契約ウェイト(54.5kg)10回戦/○健文・エスプロシボ・トーレス[大鵬](3R1分05秒KO)プラモド・ソーウォラピン[タイ国]●

日本王座決定戦に挑むも三谷将之[高砂]に完敗を喫した健文Eトーレスの再起戦。
健文は8勝(6KO)2敗の戦績。タイトル戦の敗北で世界ランクから陥落して現在は日本バンタム級5位。やや力量差のある相手を迎えてのリスタートとなったが、これを持ち前の決定力を活かして快勝で飾りたいところだろう。
対するプラモドはタイ人ノーランカー。今回が2度目の来日で、前回は昨年10月、川端賢樹[姫路木下]を相手に比較的粘り強い戦い振りを見せるも敢え無くKO負けを喫している。
1R。健文はジャブ連打で牽制しつつ、時折ボディへのストレートとフック、顔面へワン・ツーと自在の攻め。ラウンド中盤のプラモドのアグレッシブな反攻を捌く余裕も。
2R。健文はジャブから右ストレート、アッパー、左フック、アッパーに繋げる攻勢で一方的展開に。プラモドは打ち終わり狙いの連打中心に抵抗。力量平凡だがイヤ倒れせず相変わらず高い戦意を窺わせる。
3R。このラウンドも健文は好き放題の攻勢で圧倒。最後は右→左ボディクリーンヒット一閃、プラモドは一瞬後、遅れて来た激痛に堪らずダウン。10秒間キャンバス上で悶絶する見事なKO決着となった。
健文が実力差のあるタイ人相手に無難な再起を飾った。目新しい点は無いものの、魅せる所はキッチリと魅せたプロの試合振り。観客席のシビアなマニア連も納得の内容だった。

第1部第7試合・Sバンタム級10回戦/●中井五代[大鵬](判定0−3)坪内達哉[大阪帝拳]○

メインイベントは、新進気鋭の日本ランカー・坪内に、ハンドスピード豊かな鋭い強打で台頭しつつある大鵬ジムの中堅・中井五代が挑むランキング争奪戦。
実績下位ながら赤コーナーに立つ中井は7勝(5KO)3敗2分の戦績。6回戦を2連勝(1敗)でクリア後、今年3月にはタイ遠征で世界ランカー・ナパーポンと戦うなど貴重な経験も積んだ。前回8/27では6回戦を1RKOで圧勝し、成長振りをアピール。今回が国内A級緒戦。
対する日本Sバンタム級10位の坪内は7勝(3KO)1敗の戦績。アマチュアでは全日本選手権ベスト8などの実績を残し、B級デビュー。昨秋には日本1位の玉越強平[千里馬神戸]と互角の好勝負を演じ、今年に入ってから6月、9月と連勝して待望の日本ランク入りを果たした。
1R。坪内はガードを固めつつ、左ボディから右フック、左アッパー上下ダブルなど高速かつタイミング絶妙な攻勢でヒット数リード。中井は攻めの起点を作れず苦戦。ラウンド終了直前に右ストレートを有効打するが……
2R。中井はアグレッシブに手数を出すが、坪内の機敏なブロッキングでヒット数は僅少。坪内はこのラウンドも精度の高い攻撃を見せ、ボディ攻めから高速連打での追撃で優勢。攻撃からブロッキングへの戻しの速さも見事で、高いポテンシャルが完全に開花した感。
3R。坪内のハイセンスなパフォーマンスが炸裂。鉄壁のブロックで中井の攻勢をボディへのヒット1発にとどめ、攻めては相手の一瞬の隙を見逃さずボディ中心にフック連打、ストレートを浴びせて優勢確か。
4R。攻守で勝る坪内がこのラウンドも主導権。ボディフック、右ストレート、左アッパーでヒットを量産。中井もラウンド後半には右ストレートやワン・ツー・スリーでグラつかせたが、最終盤には坪内が左カウンターをクリーンヒットして再び突き放す。
5R。このままで終われない中井、右ストレートやショートアッパーで不完全ながらヒット奪い打たれ弱い坪内を効かせる。しかし坪内もすぐさま反撃、アッパー、ボディブローから右ストレートカウンターで遂にノックダウン。ラウンド終盤にはロープに詰めてTKO寸前の猛攻を加える。
6R。中井はガードされるも構わずボディブローを打ち込んで手数攻め。これに対し、坪内は狙い撃ちで右ストレート、左ボディフックを浴びせてヒット数で優位に立つ。圧力では両者一歩も引かず、このラウンドは微妙な形勢。
7R。坪内はややスタミナ切れ気味か、中井のパワー攻めが機能し始める。明確なヒットこそ少ないが、坪内後退して攻勢点では中井が明確な優勢に。しかし坪内も的確なジャブ、ストレート、ボディブローでヒット重ねて“クリーンヒット”の観点では譲らない。
8R。坪内は中井のパワー攻めに苦しみつつも左ボディからの右フックで突破口をこじ開けると、左アッパー、ジャブ、右ストレートで明確なヒットを連発。中井は圧力、攻勢こそ目立つが有効打が奪えず。
9R。中井がこのラウンドも圧力攻めで坪内を後退させ、強引な攻勢でダメージを与えてゆく。だが坪内はカウンター気味の左強打が絶妙で、そこへ右ストレート、ボディ、左フックなどの有効打を追加して互角以上の内容にまとめる。
10R。最終ラウンドとあって、坪内もアグレッシブに出て乱打戦。坪内がボディへのジャブ、ストレートで細かいヒットを奪い手数でもリード。中井はショート連打で坪内の鉄壁ガードを崩す場面も作ったが、いかんせん支配している時間が違いすぎる。
公式判定は原田98-92、藤田97-92、北村98-94で坪内。駒木の採点は「A」99-90「B」100-92で坪内優勢。
「中井の高速ブローが打たれ弱い坪内の顔面を打ち抜けばあるいは?」と思われたこの一戦だったが、終わってみれば坪内がセンスと格の差を見せ付ける好パフォーマンスで完勝を収めた。懸念材料は以前積み残したままだが、地力そのものは日本ランク上位〜中位級。全日本新人王との兼ね合いで12月ランキングではランク外に陥落したが、1月期あるいは早期での再登載が望まれる。
中井は持ち味のハンドスピードも相手の堅守の前には全く通用せず、逆に自分の守備網の穴を目ざとく突かれて被弾の山を築かされた。今日は如何なるフォローも許されぬ完敗。

第1部総括

「終わり良ければ全て良し」の典型例とも言うべき興行。とにかく坪内の大活躍に尽きる興行だったと言える。今日のパフォーマンスなら日本タイトルマッチに出場しても恥をかかされる事は無いはずだ。また健文も、力量差がある相手の場合はいつもそうであるように、鮮やかなKO勝ちで会場の空気を引き締めて良い仕事。チケット代3000円の元を取って余りある興行であった。

第2部・第9回「南国奄美HABU FIGHT」(ヨシヤマ&大阪帝拳共催)概要&雑感

夜の部はヨシヤマジムの定例興行。メインは、ジムの軽量級エース・吉山博司が、フライ級2冠王者・内藤大助[宮田]を招いて、彼の保持するOPBF東洋太平洋フライ級王座に挑むタイトルマッチ。この他にも、内藤に帯同して来阪した宮田ジムの日本ライト級3位リッキー・ツカモトが、中日本から遠征の島田峰尚[松田]の挑戦を受ける8回戦がセミにラインナップされるなど、まるで後楽園ホールがそのまま大阪にやって来たかのような充実したマッチメイクとなった。
これだけのものが用意されれば、当然ファンの足も動く。指定席券が残って札止めまでは行かなかったようだが、立見客が会場に溢れんばかりの大盛況で、熱気の余りホールの空調は暖房から冷房に切り替えられた程だった。後述するように吉山の挑戦資格が疑わしいタイトルマッチではあったが、内藤を大阪まで引っ張り出したプロモーターの手腕、そして不利を承知で敵地に堂々と乗り込んで来た内藤本人の心意気に拍手喝采を送りたい。

第2部第1試合・フライ級4回戦/△加藤毅[ヨシヤマ](判定1−1)石井秀明[ウォズ]△

両者戦績は加藤3勝(1KO)1敗、石井2勝(0KO)3敗1分。加藤は新人王戦不出場も5月、9月とオープン戦で連勝中。石井は新人王予選で初戦敗退後、10月に再起戦を勝利で飾っている。
1R。ロングレンジ、ジャブとフェイントで牽制し合う静かな立ち上がり。加藤が右ストレートで先制も、石井も連打で反撃して互角の展開。
2R。共に連打や手数に乏しく、半ば様子見の展開が続くが、やや距離が詰まって左ジャブからの右フックでヒットを奪い合う。このラウンドも形勢はほぼ互角。
3R。ジャブからストレート、フックのカウンター合戦など打撃戦模様に。石井が機先を制してヒット数で先行し、要所の打ち合いも優勢にこなしていった。加藤も反撃を試みるが持ち前のパワーを活かす展開に持っていけない。
4R。左右連打中心の乱打戦へ突入。加藤がワン・ツーを繰り返す形で先手を獲るが、石井も右アッパーをクリーンヒットさせて一気に逆転。石井はその後の打ち合いでも互角に踏ん張り、更に右アッパー、ワン・ツーでヒットを追加して逃げ切った。
公式判定は藤田39-37(加藤支持)、半田39-38(石井支持)、北村38-38の三者三様ドロー。駒木の採点は「A」39-37「B」40-38で石井優勢と見た。
加藤は持ち前のパワーを活かす展開ではなく、技術先行のボクシングでじっくりと戦ったが、勝手が違うのか決め手に欠けた感も。その分スタミナ不足のフォローには成功したが、今日の戦い方では短所と一緒に長所まで削がれてしまったようにも思えた。
石井はスピード不足ながら足を止めた展開に持ち込んで優位に立ち、最終ラウンドもアッパー中心の攻勢で攻め立てたが、際どい判定で勝ち星を逃した。今日の試合で勝ちを貰えなかったのは少々辛いだろう。

第2部第2試合・バンタム級4回戦/○安本裕太[尼崎亀谷](3R2分53秒TKO)島田惇輝[明石]●

両者戦績は安本3勝(1KO)4敗、島田2勝(0KO)無敗1分。安本は新人王予選を2回戦で敗退後、8月に再起成功して3勝目。この試合にB級昇格を賭ける。島田は今年3月にデビューして早くもこれが4戦目。新人王戦レベルの選手との初顔合わせとなる今回は試金石的一戦となる。
1R。両者ジャブ中心の牽制から、安本は右ストレート、左アッパーをカウンターでヒットを奪う。島田もワン・ツーをガードの上にぶつけるように放って手数を稼ぎ、時折ジャブをガードの隙間にこじ入れて微差劣勢〜互角の形勢に押さえ込む。
2R。島田がジャブからワン・ツーで先制しペースを握るが、安本もラウンド終盤にはカウンターから右→左の連打で島田を効かせ、小差ながら逆転か。
3R。島田が頭から突進してくる所へ安本は右ストレートを合わせ、更にショートアッパー連打などで追い打ちをかけ、強引過ぎて無効と判断されるがダウンも奪ってみせる。島田はあからさまに効いた素振りを見せてしまい、ラスト10秒の拍子木が鳴った後も粘りを見せられずストップされた。
やや散漫な印象残る打撃戦に終始し、4回戦中位レベルの内容。本来の地力はそれより若干上の安本が、島田の動きに合わせて効果的にカウンターを奪い、最後は一方的展開まで持っていった。
島田はジャブ中心に手数で勝る勢いも見せたが、相変わらずの単調な攻めが災いした。新人王予選1勝級の相手となると、これまで通用したものが通用しなくなって来る。

第2部第3試合・ライト級4回戦/●安田竜成[岐阜ヨコゼキ](判定0−3)細川バレンタイン[宮田]○

両者戦績は安田2勝(2KO)2敗、細川1勝(1KO)無敗1分。大阪では珍しい、他地区所属同士の4回戦。細川はナイジェリア生まれ宮崎育ちという異色の経歴で、リングネームは(正式ではないが)本名との事。
1R。細川がハンドスピードのある左を前面に出し、ジャブとカウンターでクリーンヒット含むヒットを連発。時折右ストレートも交えて圧倒的優勢を築く。安田もワン・ツー、フックで手数振るうが、細川のスピードに翻弄される。
2R。このラウンドも細川が左中心にボディへワン・ツー、更に右ストレート、フック、左フックと繋げてクリーンヒット連発。安田も必死に喰らいつき、ロープへ詰めて攻勢に出る場面もあったが、その度に細川が猛打を振るって押し戻していく。
3R。細川のパワフルな左右強打がこのラウンドも有効。しかし単調かつ単発気味なのが玉に瑕か。安田は戦意衰えず強打中心に反撃するが、手数とヒット数で届かない。
4R。細川はこのラウンドも強烈な左を中心にした攻撃で、安田の顔面を度々跳ね上げる。だが強弱のメリハリに欠ける攻めだと逆に耐え易いのか、必死に3分間粘った安田からKOは奪えず。
公式判定は藤田、新井、半田の三者とも40-36で細川を支持するフルマーク。駒木の採点も「A」「B」いずれも40-36細川優勢。
細川はハンドスピード豊かで鋭い左を中心に据えて主導権を完全に支配。全てのラウンドで優勢に立って完全フルマークを達成。パンチ力、スピード、精度と三拍子揃ったパンチは今後も期待を持たせてくれるが、今日はコンビネーションが余りにも少なく、また無闇な大振りも目立った。4回戦は素質だけでクリア出来るだろうが、昇級の壁に苦しむ前に地力をキチンとつけておきたい。
安田は相手のリードブローに全く対応出来ず為す術なし。戦意高く、反撃の場面も作ったが勝ち負け云々といった場面を作る事は叶わず、完敗の体。

第2部第4試合・フライ級4回戦/●藤原雄也[SFマキ](1R1分23秒KO)西沢辰彦[北陸イシマル]○

両者戦績は藤原1勝(0KO)3敗、西沢1勝(0KO)無敗。藤原は03年9月以来3年3ヵ月ぶりの復帰戦。西沢はアマチュアで全日本実業団選手権2連覇の実績を持つ。B級デビューも可能な実績だが、新人王戦も見据えてか4回戦からのデビューとなっている。
1R。藤原は頭から突っ込んで行ってショートブローで手数攻めするが、西沢はこれを捌きつつ自分得意の距離を確保すると、スムーズなフォームからワン・ツーでクリーンヒットを連発。更にコーナーに詰めて強打一撃で鮮やかなノックダウン。赤コーナーからすかさずタオルが飛んでKO裁定となった。
実業団連覇の実力発揮、西沢が圧倒的な力量差を見せて完勝。サウスポースタイルのストレートはパッと見では威力を感じさせないが、被弾した相手の効きっぷりはイメージ以上か。
藤原は、負け越しの実績で3年ぶりの再起戦にこの相手では明らかにミスマッチ。試合内容以前にこのマッチメイクそのものが可哀想。

第2部第5試合・Lフライ級6回戦/○松下泰士[ヨシヤマ](判定3−0)一ノ宮茂樹[北陸イシマル]●

両者戦績は松下9勝(3KO)1敗1分、一ノ宮6勝(2KO)9敗4分。この試合はプログラム編成上6回戦となっているが、両者A級ライセンスを保持している。松下は昨年の新人王予選敗退後、1つのドローを挟んで3連勝中。一ノ宮は00年の中日本新人王で、最近ではWBA世界Sフライ級王者・名城信男[六島]のデビュー戦の相手を務めた事でも有名。近況は冴えないが、6回戦時代には本日メインに出場する吉山博司に勝利した実績もある。
1R。両者ジャブと大振りフック連打を併用する攻防戦。共にガード、ブロッキング手堅く有効打は皆無。松下が回転力を活かして手数で小差リードだが、明確な差は無し。
2R。このラウンドもジャブ連打に強打を交える打撃戦。松下は左フック、一ノ宮は右ストレートでヒット、有効打を奪取してゆく。ラウンド終盤にも松下のワン・ツー、一ノ宮の右ストレートがそれぞれ有効となり互角の攻防戦。
3R。松下が上下に散らしたフック、アッパー中心の手数攻めで主導権を支配。共に守備巧者ぶりを発揮するが、松下がヒット数で優位に立つ。一ノ宮は右ストレートを1発クリーンヒットさせてダメージ量の観点では互角以上だが、ジャッジの判断はどうか?
4R。松下は左上下の連打に的確な右ストレートを交えて手数、ヒット数で優位に立つ。一ノ宮は相変わらず右ストレートを効果的に機能させるが、ダメージングブローが少なくやや劣勢。
5R。松下が軽い左連打で主導権をガッチリキープ。一ノ宮の動きを封じ込めておいて右ストレートでヒット数を稼ぐ。一ノ宮はやはり右ストレート頼みの試合運びだが、リズムを見失ったままでは攻勢も空回り気味。
6R。このラウンドも松下が細かく手数、手数で主導権。ヒット数としてカウントされるかどうか微妙なほどの軽い当たりながら、“アグレッシブ”“リング・ジェネラルシップ”の要素では有利。それでも一ノ宮も粘り強く応戦し、右ストレートを3発、4発と決めて、こちらは“クリーンヒット”の観点で小差優勢。ジャッジ的には主観に委ねられる微妙なラウンドとなった。
公式判定は宮崎58-56、藤田58-56、北村58-57の3−0で松下。駒木の採点は「A」58-56「B」60-57で松下。
松下が軽打中心のテクニカルな試合運びで小差ポイントアウト。試合時間の大半で主導権を掌握したが、“クリーンヒット”の観点では五分以下に持っていかれて結果的には随分な接戦となってしまった。このパンチ力不足はA級上位勢との試合では大きく不利に働きそうだ。
一ノ宮は右ストレート一本で健闘したが、相手の手数攻めに屈して後手後手に回る試合展開に甘んじた。もう少し試合運びに工夫すれば、あるいは逆転もあった内容だけに残念。

第2部第6試合・Sライト級8回戦/○松本憲亮[ヨシヤマ](判定3−0)モンテ・カルロス[インドネシア]●

ヨシヤマジム中量級部門のエース格・松本憲亮がここで登場。今日は東南アジア人相手の調整戦。
その松本は17勝(13KO)3敗2分の戦績で、日本ライト級10位。ここしばらくは東南アジア人との調整戦と、日本ランキング下位級の選手との冒険マッチをほぼ交互に繰り返している。なかなかタイトルマッチへの道筋を作る事が出来ないでいるが、1戦1戦大事に実のある内容と結果を出して行きたいところ。
対するカルロスは9勝(2KO)4敗2分とのアナウンス。元インドネシアライト級王者の肩書きを持ち、今年10月にも来日して安達寿彦[岐阜ヨコゼキ]に8R判定負けを記録している。
1R。松本が左ジャブで遊ぶ展開。カルロスは消極的で淡々とパーリングで松本のジャブを弾くばかり。
2R。松本は左ジャブに右ストレート交えてヒット数で着実に優勢を固めるが、左フック、アッパーは決められずKOに繋げられない。カルロスはやや手数が出るようになったが、間合いを外されて完全に不発。
3R。松本の攻撃はカルロスに見切られ気味。逆にカルロスのストレートがヒットし始め、左アッパーからのフック連打が有効打となり、これがこのラウンドのハイライトシーン。松本の反撃はガードの上を叩くばかり。
4R。このラウンドは再び松本のジャブ中心の攻めが機能し始め、細かいヒット多数。しかしフック、アッパー系の連打を狙うと、逆にカルロスの左アッパーを浴びせられてヒヤリとする場面も。松本が拙い試合運びで自滅気味、という印象。
5R。松本のジャブ、ストレートが着実に決まるが、KOを狙う余裕はなくポイント確保で手一杯の戦況。このラウンドもカルロスは打ち終わりにアッパーをクリーンヒットさせて「あわや」の場面を作った。
6R。松本が距離とってジャブ中心の慎重な試合運び。カルロスの反撃は無難に捌き、このラウンドもポイント確保には成功するが、日本ランカーがこのクラスの相手にこの試合内容では……
7R。松本は、このラウンドもジャブ中心に引き気味の試合運び。カルロスは右ストレート狙いも捌かれて不発。単調な展開の中で、松本のヒット数優勢だけが明確となる。
8R。松本はやはりジャブ中心。最終ラウンドとあって、ややアグレッシブな攻勢を見せるが、打ち合いでは逆にやや劣勢となる始末。それでも松本は左ボディを効かせてロープ際に追い詰めて猛攻を加えるが、カルロスはTKO寸前の劣勢から必死の抵抗で試合終了まで粘りきった。
公式判定は半田80-72、北村80-74、原田79-74で松本。駒木の採点は「A」79-73「B」79-74で松本優勢。
松本は格下相手ながら自身の拙攻拙守が仇となってダルファイトに甘んじた。最終ラウンドこそTKO寸前の場面を作ったが時既に遅し。試合中盤には打ち終わりにガードの下がる悪癖を突かれて危険な場面もあった。この試合後発表された12月期ランキングでは9位にランクを上げたが、その地位相応のパフォーマンスを早く見せてもらいたいところ。

第2部第7試合・ライト級10回戦/●島田峰尚[松田](1R3分09秒KO)リッキー・ツカモト[宮田]○

セミファイナルは、またしても他地区所属の選手同士による試合。
島田は7勝(2KO)2敗2分。04年の中日本新人王だが、6回戦での2勝はいずれもタイ人相手、10月のA級昇格緒戦も判定負けを喫しており、やや伸び悩みの現状。しかし今回は降って沸いたような日本ランキング挑戦のチャンスに恵まれた。
対するツカモトは25勝(7KO)3敗の戦績で、現在日本ライト級3位。下位ランクが新設されたOPBFランキングでは15位となっている。99年にSフェザー級で全日本新人王を獲得。01年のA級トーナメントでは決勝で敗退するが、02年9月以降は4年以上負けなしでランキングを上げて来た。今日はスッキリと勝ってメインを戦う内藤に華を添えたいところだろう。
1R。両者A級らしい、フェイントを交えたジャブ中心の手数の応酬と、これを互いに捌きあう守備力比べの展開からスタート。やがて島田が先手、先手で攻め立てるが、ツカモトはこれを落ち着いて捌きつつ、右ストレートを合わせにかかる。ラウンド中盤にまず1発、そしてラウンド終了直前にワン・ツー2連発の形でクリーンヒットを奪って鮮やかなノックダウン。そのままカウントアウトで試合終了となった。
ツカモトが上位ランカーの“格”を見せ付けた。落ち着いた試合運びの中でパワフルな強打を炸裂させたのは流石の一言。
島田は大金星を狙って手数豊富に攻め立てたが、見事な狙い撃ちを喫してKO負けを喫した。

第2部第8試合・OPBF東洋太平洋フライ級タイトルマッチ12回戦/○《王者》内藤大助[宮田](判定3−0)吉山博司[ヨシヤマ]《挑戦者・同級10位》●

メインイベントは、フライ級の東洋&日本二冠王者・内藤大助に、ヨシヤマジムの軽量級エース・吉山博司が挑むタイトルマッチ。
王者・内藤は29勝(20KO)2敗2分の戦績。現在WBA6位、WBC5位の上位世界ランカーでもある。98年にフライ級全日本新人王を獲得後、01年には当時坂田健史[協栄]の保持していた日本タイトルに挑戦するもドローで王座獲得ならず。翌02年には敵地に乗り込んでポンサクレックの保持するWBC世界王座に挑戦するも、記録モノの秒殺KO負けを喫して大きな挫折を味わう。それでも地道に再起ロードを歩み、04年には中野博[畑中]の保持していた日本タイトルに再挑戦。これを6R負傷判定ながら完勝で制すると、初防衛戦では日本記録となる最短タイムKO勝利を収めて強豪王者の地位を確かなものとする。05年の世界再挑戦失敗で生涯2度目の敗北を喫したものの、今年6月には小松則幸[エディ(=当時)]の保持していたOPBFタイトルとの統一王座戦を敢行。これに6RTKOで完勝して国内フライ級戦線の頂点を極めた。意外にも今回が西日本地区初見参。
対する挑戦者・吉山は15勝(7KO)4敗の戦績。最近では日本下位ランク相当の相手には無難に勝利を収められる地力が備わった印象があり、Sフライ級で7位の日本ランキングも納得である。
但しこの試合に関わっている東洋ランキングの方は、このタイトルマッチが内定した時点ではノーランク。試合直前のランキング会議で10位に滑り込んだものの、吉山は9月の前哨戦でLフライ級の韓国人OPBFランカーに完敗を喫しており、これは正当性が極めて疑わしいランクインと挑戦権付与と言わざるを得ない。以前から「タイトルマッチ内定後の新規ランクイン」が横行しているOPBF戦線だが、直前の試合に負けてランクが上がり、王座挑戦まで果たされるのでは無茶苦茶である。この12月から「実力と実績を反映させるため(提案者のジョー小泉氏談)」15位まで拡充されたOPBFランキングだが、このような無法が横行している限り、改革の意義も早晩有名無実と化すに違いない。
1R。いきなりの“内藤ム−ヴ”全開。試合開始早々にバッティングで受傷するも、トリッキーなフェイントから右ストレート、フック、左フックを自由自在のタイミングでヒットさせて悠々と数的優勢を確保。吉山の大振り気味の反撃は冷静に捌かれた。
2R。内藤の超変則なムーブと独特のタイミングから放たれる右が再三ヒット、有効打。吉山は焦って拳の前に頭をぶつけてしまうなど、自分のリズムを完全に狂わされている。内藤のバッティングで負った傷は悪化の一途だが、このタイミングでは試合のストップもままならぬ。
3R。内藤が左フックで先制攻撃を決めると、その後も攻守にわたって変幻自在の試合運びで完全に優勢。吉山は圧力かけつつ連打を放つも、これもスルリと躱されて変則的な右を決められてしまう。左ストレート1発有効打して一矢報いたが、形勢逆転には遠く及ばず。
4R。内藤が自分の距離を支配。死角を突く右連打や、クリンチに向かいながらの右ショートなど、まさにやりたい放題。吉山も左カウンターを1発決めて望みを繋ぐが、フック連打は不発に終わって攻め切れず。
5R。完全なる内藤のペース。自分の距離から全く読めないタイミングで右ストレート、フック、左フック。逆に吉山のパンチは完全に見切られてしまい、ジャブ、ストレートの射程外の距離に封じ込まれる。
6R。内藤の左フックがいきなりジャストミートしてノックダウン。吉山は何とか立ち上がるが、試合は完璧に内藤の支配下。右、左のトリッキーな強打が吸い込まれるように次々とヒットしてゆく。
7R。内藤のペースが続く。やはり右ストレートと左右フック中心の攻めがビシビシと決まり、吉山の強打は見切られてしまう。ラウンド終盤に内藤は右フック有効打でダメ押し。
8R。やはり内藤ペース。吉山の攻撃を空転させつつ、左右の有効打で優勢確保。ややクルージング気味の試合運びながらも要所をキッチリと押えるのは流石。
9R。内藤はフルラウンド勝負を意識し始めたか、マイペースかつ慎重な組み立て。吉山の攻撃を阻止する一方で、ラウンド終盤には吉山の隙を突いて右フック、ストレートで有効打。圧倒的優勢のままラウンド終了のゴングを聞くと、吉山に向かって「どうだ」とばかりに仁王立ち。
10R。内藤の思うがままに試合が進む。左アッパーに見せかけての右ストレート、サイドステップを使いながらビンタのように放つ左フック、かと思えば正調の左フックも決めて、次には右を放つタイミングから打ち込まれる変則の左。吉山は逆転を左カウンターに賭けるが、1発のみでは如何ともし難い。
11R。内藤が横殴りの左右フックで先制するが、このラウンドは吉山もボディ中心にパワー押しで攻めて抵抗する。だがラウンド終盤には内藤が左フックから右ストレートの連打を決めて再び突き放す。
12R。やや距離が詰まって、吉山のジャブ・ストレートが当たる距離に。内藤は流石にやり辛そうにしていたが、それでもクリンチ状態からのオーバーハンドフックや右アッパーのクリーンヒットで最後まで“クリーンヒット”要素の優勢を手放さなかった。
公式判定は、北村[副審]119-109、宮崎118-109[副審]、原田[主審]117-110の3−0で内藤がOPBF王座初防衛を果たした。駒木の採点は「A」「B」いずれも120-107で内藤優勢。ジャッジが各選手のホームタウンから派遣され、レフェリーは中立または異邦人が務めるのが通例のOPBF戦だが、今回は審判を務めた3者とも西日本所属のレフェリー。両者の大き過ぎる実力差もあって目を覆わんばかりの地元贔屓は見られなかったものの、それでも117-110のスコアには首を傾げざるを得ない。高砂の日本タイトルマッチには東日本と西部日本から助っ人レフェリーを呼んでおいて、どうしてこちらは“純・西日本”、しかも何かと曰く付きの面々がこの試合を裁いているのか理解に苦しむ。考えられるのは「IMP夜の部だと最終の新幹線に間に合わない」というパターンだが、折角の晴れ舞台、ケチくさい事言わずにちゃんと体裁を整えてやれよとお節介も言いたくなってしまった。
さて、試合内容は「内藤の内藤による内藤のための試合」と言うべきワンサイドゲーム。彼一流かつ独特の試合運びを12R徹底し、吉山に何もさせずに終わらせた。当日会場で観戦のマニア連に言わせると、これでも04年の日本王座奪取時と比べると低調なパフォーマンスだと言うから呆れる他無い。こんな面白い試合をしてくれる選手を独り占めしていた後楽園のボクシングファンに嫉妬を覚えると共に、始めて内藤が12R戦った現場を見られた喜びを噛み締めた一夜となった。
試合後、観客席からの「亀田とやってくれ!」との声には「いつでも! 向こうが逃げてるんでね」と即答。バッティングの傷も痛々しい顔を笑顔で染めながら、試合後もファンからの写真撮影やサインに応じていた。王者たるものこうでなくては。
一方の敗れた吉山は、自分の距離を完全に外されて何も出来ず痛烈な被弾ばかりを繰り返した。左カウンターで大逆転を予感させる場面は作ったが、その予感も空振りに。地力面での確固たる差を見せ付けられて完膚なきまでの敗北を喫した。

第2部全体の総括

メインの内藤をはじめとする宮田ジム勢3名が全て持っていってしまった興行。“聖地から直輸入”のボクシングを堪能出来た我々ボクシングファンは大満足だったが、庇を貸して母屋をジャックされたヨシヤマジム側にとっては悔恨の一夜となったことだろう。完敗を喫した吉山は勿論、凡戦をメイクしてしまった松本も、この日の屈辱的な内容を受けて何も思わないわけが無いはず。是非とも臥薪嘗胆・捲土重来してもらいたい。