物語 スペインの歴史

高柴です


ちょっとスペインの歴史を勉強したいなーと思って、岩根圀和さんの「物語 スペインの歴史」を読みました。

物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)

物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)

物語、とわざわざ断ってある通り、歴史をなぞりつつも文章は物語風。
作者が特に述べたかった、カトリック両王による国土回復運動からフェリペ2世の華々しいレパント海戦と屈辱の“無敵艦隊”の敗北を中心に書かれています。カルロス1世についてほとんど語られていなかったのは意外でしたが、だいたいの流れはわかりました。
作者の興味を反映しているのか、宗教について詳しく書かれていたのもわかりやすかったです。キリスト教(カトリック)とイスラム教とキリスト教(プロテスタント)の壮絶な争いは、読んでいて心が沈みました。人間はこれほど非情になれるのかと恐ろしくなります。日本の戦国時代なんて、まだ可愛らしいもんだったんじゃないかと思ってしまうほどです。
後半は、あのドン・キホーテの作者セルバンテスが主人公。これがめちゃくちゃ面白かった。セルバンテスってこんなにドラマチックな人生を歩んでいたんですね。作者は大学教授ということで、学者らしく淡々と史実を忠実になぞり、大衆好みの噂や俗説はあっさり否定しています。そこがとてもよかったです。こういう、淡々とした冷静な文章が好きなので読んでいて気持ちよかったです。ときどき入る皮肉や軽い冗談が文章によく合っていました。
一番面白かったのはイギリスと無敵艦隊の海戦かな。無敵艦隊っていうのは、イギリスが半分本気半分嫌味で言い始めた呼称で、スペインはそんなずうずうしい名乗りはしていなかったそうです。実にイギリスっぽい!
なぜ負けたのかがものすごくよくわかってスッキリしました。教科書では、トルコを破った無敵艦隊が、海賊崩れのドレイクたちに負けました。としか書いてありませんがこれを読むと、そりゃ負けるよな…と、納得できます。
フェリペ2世の好感度が上がる本書、ヨーロッパの歴史をおさらいしたい人にオススメ。
あと、作者の最後の文章にちょっと感動しました。
私たちはスペイン人というと能天気なお昼寝する民族というイメージだけど、それは違うと述べた上で、スペイン人は
“もっと真摯で寡黙、そして働き者である”
と結んでいます。これまでスペインとスペイン人を突き放すような淡々とした文章を書いてきたのに、最後の最後で作者がスペイン人を擁護した!知ってる。こういうの、ツンデレって言うんだよね!
というわけで、最後の一文で岩根さんのファンになりました。