第169回  「歓迎 “壊し屋”小沢一郎」

  <民主党代表選を巡って20日、小沢一郎前幹事長を擁立する動きが強まった。出馬を促す声は小沢氏のグループ以外にも広がっている。これに対し、「非小沢」派は菅直人首相続投の支持固めを加速、両者の攻防は激化した>(毎日新聞 2010年8月21日)
  −−のだそうです。
  <両者の攻防は激化>ですって?政党というのはいったいどこまで愚かになれるものなのでしょうかね。
  政権を保持している民主党の党首交代というのは、言うまでもなく、首相交代を意味しています。いま菅首相を交代させる正当な理由がどこにあるのでしょう?政権交代から一年未満で三人目の首相を−衆院選挙も経ずに−抱く?そんなことをいま国民が望んでいると、民主党の一部党員=議員は本気で信じているのでしょうか?
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  昨年の衆院選で国民が民主党に政権を託した理由が同党には相変わらず分かっていないようです。単純なことでした。「自民党政権はもういやだ」「新政権には、これまで自民党がやってきたこととは違ったことを、違ったやり方でやってほしい」それが原点でした。自民党の頻繁な党首=首相交代にも国民はうんざりしていました。
  「苦言熟考」はもともと、小沢一郎氏を排除しなければ民主党は成熟しないと述べていました。小沢氏が自民党の体質と思考をそのまま抱え持っているからです。その考えにいまでもまったく変わりはありません。
  なのに、再び、小沢氏を党首に?悪くとも、小沢氏を党幹部に?
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  いまの小沢氏に何ができます?多数派工作などの“党内抗争”の活性化だけでしょう?長期政権を貪っていた自民党が党内にエナジーを保つために派閥抗争をつづけてきたのと同じ発想です。しかし、この発想に囚われている限りは、政策を勉強する意欲が党員のあいだに育つことはありません。党内に有能な政策立案集団は生まれません。民主党に明るい未来はありません。
  自民党が五十年間かけて進んできた途を民主党はわずか数年間で辿ることになるだけす。−−凋落。自滅。
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  小沢氏はいま「民主党の原点に帰ろう」「衆院選でのマニフェストを実現しよう」などと訴えているそうですね。これも、いかにも小沢氏らしい、ずいぶん短絡的で乱暴な主張です。あのマニフェストについては、民主党支持の国民からも、多くの方針について疑問視する声が上がっていました。そのことを無視しようというのですか?
  あのマニフェストを真剣に検討し直すこともなく、むしろ“聖典”として扱い、それに乗って党態勢を再構築しようという小沢氏は、思考停止状態にあるとしか思えません。
  あのマニフェストの中で変更してはならなかったのは、あえて言えば、<脱・官僚依存>と<行政の無駄の徹底的な排除>の二点だけだったと考えます。そこだけは、かつての自民党政権の政策と際立って異なっていたからです。なのに、この夏の参院選民主党はこの二点を事実上撤回してしまいました。最大の敗因だったはずです。残りの、新たな財政支出を必要とする、社民党でも公明党でも思いつく、いや自民党ですらが提案できる類の政策は、むしろ、すべて見直すべきです。国民の大半は見直しを支持するでしょう。
  見直しながら、民主党は、日本の財政をどう再建するか、経済をどう回復するかを、党を挙げて研究し、具体的な政策にまとめあげるべきなのです。10年後、20年後、50年後の日本をどういう状態にしたいのかを国民にしっかり示すべきです。それもいますぐに!
  いまが党内抗争を繰り広げているときではないことはあまりに明らかです。
  小沢氏に理解できているのは、数による党内政治力学だけのようです。昔はどうであったにしろ、政策を構想し、組み立て、実現していく能力がこの人にはもう欠けています。そうするために、党として何をするべきかという発想がこの人にはありません。
  個人の“豪腕”がすべてを解決できるという時代はとっくに終わっているというのに。
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  民主党が“転落”への途を進み始めています。“破し屋”小沢一郎の危険な顔が再び見え始めています。
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  ところで−−
  <みんなの党の渡辺代表は20日の記者会見で、民主党小沢一郎前幹事長が党代表選出馬を検討していることに関し「民主党の権力構造は小沢氏抜きには語り得ない。闇将軍化するのは良くない。堂々と表に出て勝負したらいい。傀儡(かいらい)候補の争いになったら国民はがっかりする」との考えを示した>(読売新聞 2010年8月20日)そうですね。
  みんなの党の渡辺代表という人物は、比較的には若い政治家ですが、なかなか強か者ですね。
  小沢氏が<堂々と表に出て勝負したら>どうなると思いますか?みんなの党の思う壷にはまってしまうでしょう。
  民主党への国民の支持率は急落します。万が一にも小沢氏が勝つようなことになれば、民主党は次の衆院選はおろか、次の通常国会まですら持たないかもしれません。
  小沢氏が後押しする候補が新党首=首相になっても、ほぼ同様の事態に陥るでしょう。
  「歓迎 “破し屋”小沢一郎
  渡辺氏が自らの背後にこっそりと掲げている横断幕にはそう書き込んであります。