8月第3週

寝ずの番 (講談社文庫)
中島 らも
講談社
売り上げランキング: 109966
(読んだのは単行本)
短編集。表題作は噺家の通夜の席で弟子たちがひたすら下ネタを飛ばすというもので、これがくだらないかといえば全然そんなことはなく、死の空虚を笑いで埋めようとする行為が、逆にくっきりと死を浮き立たせる。しかもそれが下ネタでとなれば、性の不毛さと相まってまことにしんみりとさせられる。他の話も埋められない空虚を別の何かで埋めるものばかり。かと思いきや、「ポッカァーン」のような空虚を提示して現実を脱臼させる話もあり、締めは子供の性の目覚めに重ねて誰かの空虚を埋めたいという純心を描く。しみじみと素晴らしい一冊。
 
キュビスム (アート・ライブラリー)
フィリップ クーパー
西村書店
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ルネサンス以来の写実主義に対し、対象を分析・断片的に描写することで写実の突破を試みるという、思っていたより知的な運動だということが理解された。印象主義(特にセザンヌ)からキュビスム、そしてダダその他の運動への流れを考え合わせると、キュビスムも近代における「革命」のひとつだったのがわかる。
気に入ったのはフェルナン・レジェ ”婚礼”
 二〇世紀メディア戦史。日露戦争からイラク戦争までを概観し、「戦力としてのメディア」の変遷を見る。真実を伝えるはずのメディアが国家的にコントロールされ、それぞれの陣営に都合のいいように利用されていく(日本についての記述はさほど多くない)。ちょっと衝撃的だったのがユーゴ内戦で、雇われのPR会社(!)が行ったプロパガンダによって国際世論が操作され、ほとんど戦局が決してしまう。イラク戦争などは「PRイベント」と見る認識があるそうで嫌な汗をかいた。
参考:wikipedia:民族浄化
 
人体解剖図
人体解剖図
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ベンジャミン・リフキン ジュディス・フォルゲンバーグ マイケル・J・アッカーマン
二見書房
売り上げランキング: 358710
ルネサンス時代のスケッチから現代のコンピュータ技術まで、人体解剖図の歴史を図版を用いて紹介している。歴史といっても統一的な流れは掴みづらいが、まあ図版を眺めているだけでも楽しいものである。ヴェサリウスはもちろん、ビドローの標本的解剖図、チェセルデンの清潔ささえ漂う骨格図(これ最高)、アルビヌスの細密で幻想的な解剖図あたりがたまらない。中には死体で作ったオブジェのようなとんでもないもの(フレデリック・ロイス)まで紹介されていて、奇異なものを求める向きにもおすすめです。
 
ロシア革命1900-1927 (ヨーロッパ史入門)
ロバート・サーヴィス
岩波書店
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世界史的な視点ではなく国内の状況から革命前後を描いたもので、無味乾燥な記述がいささかつらい。訳あってロシアの二〇年代には好印象を持っていたのだけど、ボリシェヴィキ政権下でそんないい時代なはずがないのだった。完全に勘違いしていた。