水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

平時のメリットと異常時のデメリット

ハイリスク・ハイリターンという言葉がありますが、平常時に大きなメリットを生むものほど、異常時には大きな反動のデメリットを生む側面もあります。
昨年、米メキシコ湾の海底油田が爆発する事故がありました。技術の進歩でかつては不可能だった深海での掘削が行われ、油井が正常に稼働している限り原油生産の中東依存を緩和して価格や生産量の安定に寄与してきましたが、一旦事故を起こすと深度1500mの設備を修復させる事が困難な為に甚大な環境被害を起こしました。サブプライムローンも、地価が上がり続けると言う都合のよい状況下では本来なら絶対家を買えないような低所得者でも豪邸に住めると言うマジックを可能にしましたが、一旦地価が下がり始めると世界中を恐慌の縁にまで追い込みました。人口ボーナスの恩恵を高度成長で享受した日本は、これからは急激に進む高齢化社会を背負わねばなりません。

今、世界中が日本に注目しているのは原発のメリットとデメリットでしょう。正常に稼働している限り化石燃料に依存せず稼働時にCO2を一切排出しない、新興国の電力需要急増を支える期待の技術でしたが、チェルノブイリから25年たって忘れかけていた原発のもう一つの側面、一旦事故が起きた場合のデメリットの大きさを思い出させています。大恐慌の経験から銀行業務と証券業務を分離させるべく1933年に成立したグラス・スティーガル法を、1999年に廃止した事がリーマン・ショックの原因の一つだと言う見解がある事にどこか似ています。
原発は怖いが、さりとて電力なしに経済発展などできず。世界はこれから悩ましい問題に直面します。

今、日本が限界ギリギリまでレバレッジをかけて利用している「正常時のメリット」は何でしょうか?。
一つは「東京と言う都市」ではないかと思います。阪神大震災では、人口わずか150万人の都市が震災に遭う事で6400名余の犠牲を出しました。東京は23区だけで880万の人口を抱え、通勤通学を含めた昼間人口は1100万人を超えます。ここが直撃された場合どれだけの死者が出るでしょう。先日の東日本大震災の際は鉄道が全面停止して多くの帰宅困難者が町に溢れていましたが、もし東京が被災地で、もし東京が長田区や気仙沼のような火災に襲われていたらあの人達はどうなるのでしょう。
東京の一極集中は、満員電車や慢性的渋滞を生みつつも正常時には様々な集積がシナジーを作りだして日本経済の活力を支えています。その集中が、異常時には致命的なデメリットを生むでしょう。アメリカなら、政治首都ワシントンが甚大な災害に見舞われても、経済都市ニューヨークは360km離れています(360kmという距離は皮肉にも東京〜仙台間に相当します)。中国の北京・上海は1300km離れています。日本は、政治行政首都も金融センターも主要企業の本社機能も何もかも東京にあり、ここが壊滅すると復旧を指揮する機関がもはや残っていません。

もう一つは、「国債」かもしれません。95%を自国民が買い支えているから低金利が維持され、低金利なんだからまだ大丈夫だという判断が新たな発行を消化させる。この循環が続いているから、GDP比で世界に例が無い巨額の残高が波乱なく達成されていますが、一旦信頼が崩れた場合には、これまで積み上げてきたメリット(発行残高)の大きさはデメリット(社会的混乱?、高インフレによる借金の帳消し?)に比例するだろうと思います。