『素晴らしき日々〜不連続存在〜』レビュー


手放しで褒めることはできないが良くできた大作。一部の場面は本当に素晴らしかった。
終ノ空』と、その後10年間に発売されたエロゲたちがあったからこそ完成した作品。




いや、長い作品でした。
ケロQの新作『素晴らしき日々』は全体的に見ればよくできた作品程度ですが、一部のルートは凄い所に到達していました。
以下詳細。


まず『素晴らしき日々』は『終ノ空』のリメイクなのか?
答えは、『終ノ空』が『素晴らしき日々』のプロトタイプ的位置づけと考えてください。
素晴らしき日々』では『終ノ空』で使用されたのと同じ文章・展開が肉付け・再配列されて用いられます。ざっと見た感じ『終ノ空』の8割方は転用されていると言えるんじゃないでしょうか。『終ノ空』をプレイ済みの人は見たことある文章・展開を何度となく見せられることになるでしょう。
じゃあ『終ノ空』をプレイしていたら『素晴らしき日々』はやる必要がないのか?
やったほうがいいでしょう、シナリオは別物です。但し『終ノ空』やっていない人のほうが新鮮に楽しめておすすめではある。
終ノ空』と『素晴らしき日々』の関係を漫画に例えると読み切り漫画と連載漫画みたいな感じです。『終ノ空』が読み切り、『素晴らしき日々』が連載。
終ノ空』もよくできていてまとまった作品ではあるものの、『素晴らしき日々』のほうは『終ノ空』を原型・踏み台として膨大な肉付けと複雑化が施されています。


さて、『終ノ空』を原型として膨らませた『素晴らしき日々』ですが、その膨らませ方に他のエロゲの影響を見て取ることができるでしょう。具体的に作品名あげるとネタバレっぽくなるのであげません。
他のエロゲがあったからこそ、あれほど引用の歪だった『終ノ空』を、同じ雰囲気を漂わせながらも整った作品である『素晴らしき日々』に作り直すことができたに違いありません。


で、面白いかどうか。
シリアス部は流石。特に『終ノ空』で書ききれていなかった(と『素晴らしき日々』を見た後では思える)部分は、もともとキれていた『終ノ空』のテキストを転用しつつ上手い肉付けがされており、『終ノ空』の最高瞬間風速を振り切っている。
しかし日常描写があまりおもしろくない。
読めないという程ではなかったが、ちょっと茶番感の強い場面が多くて微妙め。これで日常描写も手放しの楽しさがあれば傑作の一つとして名乗りを挙げていたかなという感じだが微妙なので一部が傑作レベルの良作かと。


シナリオ。
場面の積み重ねが上手いのであって、全体構造などの構成が突出しているわけではない。それでも『終ノ空』がこうなった、と考えるとやっぱり突出しているかもしれない。


声。
けっこう良い。卓司役が上手いが、個人的にはざくろがおもしろかった。やや演技に?がなくもないが、大きい声を出そうとしても出せないような非力さが感じられて良かった。


音楽。
全体的にレベル高い。曲数も多め。メロディーは聞いたことあるような曲が多かったが、アレンジと打ち込みがどれもしっかりしていて良い印象。『終ノ空』のBGMアレンジ曲もあり。


・まとめ
傑作とは言いかねるが質の高い大作。良い意味で成熟した作品。
終ノ空』未プレイならこれをやれば問題なし。プレイ済みでもやってOK。『終ノ空』の先にあるものを見せてくれる。




http://www.keroq.co.jp/suba/index.html


『素晴らしき日々〜不連続存在〜』で引用された本と音楽

ネタバレ注意。






素晴らしき日々〜不連続存在〜 3より引用

286 :名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 01:08:04 id:grvjJoys0
ついでに作中に出てきた本もまとめてくれると嬉しいな
いつか読んでみたいから


386 :名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 21:34:10 id:EQYMwd0s0
>>384
まったくだw


>>286
まとめてみた


作中でキャラクターが読んでいた書籍
純粋理性批判
シラノ・ド・ベルジュラック(原書も)
猫と共に去りぬ


作中でキャラクターが引用していた書籍
論理哲学論考(草稿もだったら全集の一巻)
エミリ・ディキンスン詩集
阿房列車
不思議の国のアリス
鏡の国のアリス


作品のモチーフ?になった書籍
ドグラ・マグラ
銀河鉄道の夜
らき☆すた
かんなぎ


387 :名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 21:36:47 id:mOvUTUk50
>>386
シラノは光文社古典新訳文庫のやつだってば
CGにうつってるのと文庫の表紙と同じだからw


388 :名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 21:37:42 ID:0bPzp4h50
>>386
クトゥルー神話体系」はモチーフ?に入れておいてもいいんでは。


389 :名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 21:55:12 ID:3gsEfjobO
>>386
読んでいた本に「学識ある無知について」も追加で


390 :名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 22:02:22 id:h5V9p4F20
>>386
猫去りも新訳文庫だね。
「(シラノと)同じシリーズで、紙が厚めで裏写りしなくて読みやすいよ」
とか言ってたし。


391 :名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 22:15:36 id:nNDdh3XoO
ドグラマグラを参考に含めるなら、
うろ覚えだけれど、終ノ空での卓司の状態について、
小林泰三の『酔歩する男』をすかぢが挙げてたような
あと、埴谷雄高の『死霊』も


392 :名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 22:19:42 id:KI0o+V5l0
1章で由岐が屋上で読んでた
「空飛ぶ二十面相」


2章冒頭
「ルイ・ボナパルトブリュメール18日


3章でざくろが読んでた
予告された殺人の記録


4章冒頭の「ジャバウォックの詩 沢崎順之介訳」は
ちくま文庫の「原典対照/ルイス・キャロル詩集」かな?


皆守が4章はじめに読んでた「リス檻」って「リスの檻」てやつかな?


あとは「フラットランド」「ブラックスワン」とか?


こちらで挙げられている本の一部は『終ノ空』でも引用されていましたが、随分と引用書籍が増えたものです。個人的には「シラノ・ド・ベルジュラック」「フラットランド」「リスの檻」あたりは読んでみたい。「リスの檻」ってトマス・M・ディッシュの作品なんですね。
また上で挙げられている以外にもイムレ・ラカトシュブッツァーティ、「神聖モテモテ王国」も作中に出てきました。ラカトシュの書名は忘れましたが、ブッツァーティ光文社古典新訳文庫だったと思うので、となると「神を見た犬」だったでしょうか。


シラノ・ド・ベルジュラック (光文社古典新訳文庫)
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猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)
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20世紀SF〈3〉1960年代・砂の檻 (河出文庫)
アーサー・C. クラーク ロジャー ゼラズニイ ハーラン エリスン サミュエル・R. ディレイニー J.G. バラード
河出書房新社
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こちらに「リスの檻」が収録されている。




音楽のほうでは、サティ作曲「ピカデリー」「夢見る魚」とバッハ作曲「主よ人の望の喜びよ」がBGMとして使用されていました。サティの曲は作中でキャラクターが耳コピしたと言っていますが、少なくとも「ピカデリー」は原曲とはかなり異なるアレンジが加えられているのを確かめています。

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「夢見る魚」が収録されている。


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「ピカデリー」が収録されている。




「主よ人との望の喜びよ」は元はカンタータなのでピアノ曲ではありませんが、ピアノアレンジというならリパッティの演奏が名演とされているので聴くと良いかと。

夭折の天才リパッティによる演奏。



原曲はこういうふうです。






またBGM使用はありませんでしたが、ヨハン・シュトラウス2世作曲「観光列車(Vergnügungszug)」やムラヴィンスキーについても言及されました。



ニューイヤーコンサートでの「観光列車」の一例




ムラヴィンスキーは評伝もCDもたくさんあるので、興味のあるところから手を出せば大丈夫かと。
エフゲニー・ムラヴィンスキー - Wikipedia