ソースを明示し、確認せよ

愛・蔵太さんが冷静な指摘をなさってます。今まではヘンなこと言う人だなぁと思っていたので、こんな風にお考えなのかとちょっと意外でした(SWCの件で反省なさったのかなと思ったら次のエントリでまたちょっとヘンになってるので前言撤回)。
アインシュタインの予言にしてもそうですが、私はあの「予言」が捏造だとは確信していない、もしかしたら「予言」原本が見つかるかもしれない、でも私は「予言」のあるなしではなくて、それがソース不明のまま伝えられ、信じられていることの方がよっぽど問題だと思うんですね。もし「予言」が本当に存在していたとしても、ソース不明示で語られている時点でアウトなんですよ。ソース出せと言われてあわてて調べはじめるのはすでに負け。

【愛・蔵太の少し調べて書く日記】
2ちゃんねるで流れている、ソースが曖昧な怪情報」について、ぼくが今まであまり言及してきてなかったのは、まさかそんなものを信じる人間がそんなに多いとは思わなかったからです。
朝日新聞アメリカの××が小泉の○○を批判してました」→ソース調べる→出てくる→ネット者「また朝日か!」
2ちゃんねる福島瑞穂がこんなこと言ってたよ」→ソース調べる→出てこない→ネット者「福島ならあり得る」

朝日新聞に対しては自分のリテラシーを働かせるのに、2ちゃんねるの怪情報には全く無防備になってしまうというご指摘です。しかし、本当は、そういう人はメディアの違いによって態度を変えているのではなく、伝えられる情報が好ましくないときだけ疑い、好ましいときは鵜呑みにするということでしょう。

  • 風聞「朝鮮人が井戸に毒入れたよ」→ソース調べる→出てこない→みんな「朝鮮人ならあり得る」→ヤッチマエー!

愛・蔵太さんのところのコメント欄にもありますが、○○ならあり得る、もしなかったとしてもあり得ると思わせた○○の方に責任がある、という論法は、関東大震災朝鮮人を殺した人々と変わりありません。うん、こういう人たちなら確かに、自分の思い込みで人を殺すこともあり得ると思った(←冗談)。

(同日記コメント欄で)
ひどいことをいうひどい人なんだったら、別に捏造しなくても実際に言ったひどいことを引用すればいいのでは、と思いました。

そうなんですよね。あり得る発言ではなく、実際にあった発言を批判すればいいわけです。そのためにはソースの確認が必要ですし、ソースを明示しないものは怪情報として斥けるのが当然です。

とはいえ、ソースが明示されていたとしても、それを確認せずに鵜呑みにはできません。

ちょっと前に、Yahoo!ニュースなどで「中国の学者が張飛曹操が親戚だとする新説を発表した」というニュースが流され、三国志ファンから「そんなことは日本ではよく知られている。それを新説だなんて中国の学者はレベルが低いなあ」などと笑いものにしたことがありました。しかし、私がそのニュースソースとされる天府早報という中国の新聞を調べてみたところ、実態は全く違っていました。

天府早報の元記事は学者とのインタビュー記事で、その学者の書いた本に「曹操の従弟夏侯淵の姪が張飛の妻になった」とあるのを、学者にとっては驚くべき発見でもなんでもないけど、記者にとっては驚くべき発見だったのでしょう、記事に「学者が驚くべき発見をした」と書きました。しかし、それでも新説を発表したなどとはどこにも書かれていません。そして、時事ドットコムや中国情報局などの日本のメディアが、その記事を誤読して新説発表と書いたのです。ところが日本の三国志ファンときたらニュースソースの確認もしないもんだから、中国の学者はレベルが低いなどと中傷するわけです。天府早報の記事は大げさだけど間違いではないし、時事ドットコムなどの日本のメディアは間違いだけど悪意はない。でも中国の学者を中傷した日本の三国志ファンを、私は擁護できない。

また、近ごろではこういうこともありました。読売新聞の上海支局より「上海紙文匯報によると、南京事件を題材とする映画が制作されている。クリント・イーストウッドが監督する」というニュースが届きました。そこで文匯報(香港紙)を調べてみると、ジェラルド・グリーンを制作者として南京事件を題材とする映画が制作されているのは事実ですが、イーストウッドが監督するというのは文匯報記者の推測でした。ところが、読売記事はイーストウッド監督を決定事項のように書いている。おそらく読売記者の誤読でしょう。誤読だけれど悪意はありません。

ところが、産経新聞(ワシントン支局)はイーストウッド代理人から監督の予定がないことを聞き出し、「中国側の政治プロパガンダ、あるいは政治謀略的なディスインフォメーション(故意の虚報)として広められた可能性も高くなってきた」と言っています。これはおかしい。ニュースソースである文匯報を確認すれば、イーストウッド監督が文匯報の推測に過ぎないことくらいは簡単に分かるし、またグリーンを制作者として南京事件を題材とする映画が制作されているのが事実であることも簡単に分かるはずです(それに映画製作が事実ならばプロパガンダでもなんでもない)。おそらく産経記者は元記事の文匯報を確認していません。イーストウッド監督説を誤信したのはニュースソースを確認しなかった自分のせいなのに、中国政府の謀略と決め付け、中傷しています。これはかなり悪質です。

というわけで、

  1. ソースを明示しない情報はデマとして斥ける
  2. 論評するのはソースを確認してから

という、当たり前すぎる前提を再確認しておきます。