児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童福祉法違反(淫行させる行為)との「併合の利益」

浜松支部の事件で説明します。

除霊と称し、わいせつ行為−地裁浜松支部など家庭教師初公判
2005.06.25 朝刊 静岡新聞
 児童福祉法違反罪については静岡家裁浜松支部で、児童買春・児童ポルノ禁止法違反罪は静岡地裁浜松支部で、それぞれ審理が進められる。

地裁求刑は7/9、家裁判決は7/15。

法廷=わいせつな写真を撮影した家庭教師に1年6月求刑
2005.07.09 朝刊 29頁 静岡 三社 (全352字)

家裁の判決が先行するとすると、執行猶予付きでも、確定してしまうと、地裁判決の時点では、「前に禁錮以上の刑に処せられたことが」ある者(刑法25条)になるから(最高裁昭和24年3月31日)地裁は、刑法25条2項の要件でしか執行猶予を付けることが出来ないことになりそうである。しかも、後の判決は1年以下であることはあまり期待できない。
 情状も共通なんだから、控訴して確定を延ばすしかないか?

第25条(執行猶予) 
次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

最高裁昭和24年3月31日
 所論は、先に懲役一年執行猶予三年間の判決の言渡を受け、判決確定し、執行猶予中の状態にあつた被告人が、さらに他の犯罪を行い懲役十月の言渡を受けた場合に、その刑につき執行猶予の言渡をすることが、法律上可能であるか否かの問題に触れている。そして、論旨は、刑法第二五条第一号にいわゆる「前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者」とは、「前に禁錮以上の刑の言渡を受けその刑の執行を受けたることなき者」という意味であるから、本件の場合においても刑の執行猶予を言渡すことは、法律上不可能ではないと主張するのである。
 しかしながら、刑の執行猶予の制度は、犯罪の情状比較的軽く、そのまゝにして改過遷善の可能性ありと認められる被告人に対しては、短期自由刑の実刑を科することによつて、被告人が兎もすれば捨鉢的な自暴自棄に陥つたり、刑務所内におけるもろもろの悪に汚染したり、又は釈放後の正業復帰を困難ならしめたりすることのないように、刑の宣告をする裁判所が、刑の宣告と同時に、一定期間刑の執行を猶予することを言渡すものである。そして、一方においては、執行猶予の言渡を取消されることなく無事に猶予期間を経過したときは、刑の言渡は終局的にその効力を失うものとして、被告人の改過遷善を助長すると共に、他方においては、被告人が再び犯罪を行つたごとき場合には、いつでも執行猶予の言渡を取消し実刑を執行すべき警告をもつて、被告人の行動の反省と謹慎を要請しているのである。すなわち、これによつて刑罰の目的を妥当に達成ぜんとする刑事政策的配慮を多分に加味したものであることは、言うを待たない。
 そこで、刑法第二五条について考えると、(一)前に禁錮以上の刑の確定判決を受けたことのない者、(二)かゝる確定判決を受けたことはあるがその執行を終り又はその執行の免除を得た日から七年間も謹慎生活を続け七年以内には再び禁錮以上の刑の確定判決を受けたことがない者に対しては、実刑を科さなくとも改過遷善の可能性ありと裁判所が認めた場合には、執行猶予の言渡ができるものとしたのである。かゝる確定判決を受けた者は、たとい刑の執行猶予中であるにしても、再び犯罪を行つた場合には実刑を科せずして改過遷善の可能性ありとは法律上認め難いのであつて執行猶予を附することはできないものと言わなければならぬ。さらに、刑法第二六条第一号によれば、「猶予の期間内更に罪を犯し禁錮以上の刑に処ぜられたるとき」は、先になされた刑の執行猶予さえ取消さるべきものである。かゝる場合に新犯罪の刑につき執行猶予を言渡すことができないと解すべきは、まさに理の当然である。また、刑法第二五条第二号をよく見れば、「刑に処せられ」というは、所論のごとく刑の執行を受けたることゝ関連がないことは、容易に理解されるであろう。論旨は、それ故にこの点において理由がない。

しかし、一括して審理してくれれば執行猶予かもしれないのに、これではそのチャンスを奪うというので、判例で救済されている。これが「併合の利益」。

最高裁判所大法廷判決昭和28年6月10日
 被告人は昭和二四年五月二四日東京地方裁判所で賍物故買により懲役一〇月(三年間執行猶予)及び罰金一万円に処せられ右判決は確定した。被告人の本件賍物故買は前記確定判決よりも前である昭和二三年一一月四、五日頃に犯したものであることは第一審判決の確定したところであるから、この二つの罪は刑法四五条後段の併合罪の関係に立つこと明である。かような併合罪である数罪が前後して起訴されて裁判されるために、前の判決では刑の執行猶予が言渡されていて而して後の裁判において同じく犯人に刑の執行を猶予すべき情状があるにもかかわらず、後の判決では法律上絶対に刑の執行猶予を付することができないという解釈に従うものとすれば、この二つの罪が同時に審判されていたならば一括して執行猶予が言渡されたであろう場合に比し著しく均衡を失し結局執行猶予の制度の本旨に副わないことになるものと言わなければならない。それ故かかる不合理な結果を生ずる場合に限り刑法二五条一号の「刑ニ処セラレタル」とは実刑を言渡された場合を指すものと解するを相当とする。従て本件のように或罪の判決確定前に犯してそれと併合罪の関係に立つ罪についても犯人の情状次第によつてはその刑の執行を猶予することができるものと解すべきである。それ故かかる場合においては刑法二六条二号にいう「刑ニ処セラレタル」という文句も右と同様に解し後の裁判において刑の執行猶予が言渡された場合には、前の裁判で言渡された刑の執行猶予は取消されることがないものと解するのが相当であると言わなければならない。以上の観点から原判決を見ると、原判決が「本件につき原審裁判言渡当時は勿論現在も尚猶予期間中であり被告人に対しては更に刑の執行を猶予すべき法定の要件を欠く」と判示したのは執行猶予の要件に関する法令の解釈を誤つた法令違反があるものと断ぜざるをえないのである。

池本裁判官も指摘している。

池本「児童の性的虐待と刑事法」判例タイムズ1081号
2 審理上の難点
前記の家庭裁判所の専属管轄の定めは、反面他の事件は家庭裁判所では審理できないのであるから、審理に当たって、事件の併合ができず、思いがけぬ不都合が生じることがある。同一の被告人が、例えば覚せい剤使用と淫行罪で逮捕された場合に、覚せい剤取締法違反事件は地方裁判所に、児童福祉法違反事件は家庭裁判所に起訴しなければならない。これら二つの事件は別々に審理され、それぞれに判決をするので、通常の地方裁判所での審理のように、審理をできる限り一括して行い、併合罪処理された刑を量走するというわけにいかない。先行する裁判所が当該事件での刑を決め、遅れた裁判所が刑法四五条後段の併合罪として同法五〇条によりさらに処断することになる。しかし、それにしても、蕃理期間も絶対的に長くなり、二つともに実刑判決を受けた被告人の場合は重罰感を感じることは往々にしてあり、かかる事情がしばしば控訴審での量刑不当で原審破棄の結果を招く。もちろんこのような事態は、確定裁判後に古い前の事件が起訴されたときに地方裁判所でもあることではある。
そのために刑法五〇条が存在し、地方裁判所でも、場合により主文二つの判決となることもあるが、家庭裁判所では、前後の事件がいわば見えているのに併合審理できないのはいかにも不自然でもどかしい。これがしばしば生じる不都合である。

 解決策としては、家裁の児童福祉法違反事件を地裁で引き取るか、その逆かしかなく、審理には別に支障はないのだが、移送の根拠条文がない。

追記
 既に児童福祉法違反(淫行させる行為)とは判例上「併合罪関係」にある児童ポルノ製造罪が「一罪として」係属してそのまま判決出している家裁もあるようです(奈良家裁H16.2.5、横浜地裁横須賀支部H17.6.1、東京家裁H16.10.25)。
 こういう時は、積極的に管轄違の主張をして、現場の裁判所に考えてもらうしかないと思います。
 被告人に有利にこそなれ不利になることもないし、
   奈良家裁H16.2.5、横浜地裁横須賀支部H17.6.1、東京家裁H16.10.25参照
って書くだけですから、お奨めします。
   児童ポルノ・児童買春法違反については、家裁でも地裁でも審理できる
という実務にできないかなあと考えています。

追記
静岡新聞によると、家裁は実刑静岡家裁浜松支部H17.7.15)。

追記7/20
静岡新聞買ってきた。
静岡家裁浜松支部児童福祉法違反(淫行させる行為)で懲役四年六月(求刑懲役五年)
静岡地裁支部児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪については懲役一年四月(求刑懲役一年六月)
足し算してみて!

3項製造罪の合憲性

名古屋高裁金沢支部H17.6.9
法が憲法に違反する旨の各所論について
(1)
所論は,法7条3項は,真剣な交際をしている者が,児童の承諾のもとでその裸体を撮影する行為,16,17歳で婚姻した夫婦間での撮影をも処罰の対象にする点で,過度に広汎な規制であるから,憲法21条に違反して違憲無効であるとする。
しかし,過度に広汎な規制で憲法21条に違反するとの所論は採用しがたい上,記録によれば,本作は,所論が指摘するような場合でないことは明らかであるから,本件に適用する限りでは何ら憲法21条に違反するものではない。

3項製造罪における被描写者の地位(共犯か被害者か?)

児童の被害者性を確認しました。

名古屋高裁金沢支部H17.6.9
所論は,本件においては,被害児童が児童ポルノ製造に積極的に関与しており,共犯者であるのに,撮影者である被告人のみを処罰するのは不公平であり,憲法14条に違反するとする。
しかし,本条の立法趣旨が,他人に提供する目的のない児童ポルノの製造でも,児童に児童ポルノに該当する姿態をとらせ,これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については,当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず,かつ,流通の危険性を創出する点でも非難に値するというものであることからすると,児竜は基本的には被害者と考えるべきである。そして,記録を検討しても,本件の被害児童が共犯者に当たるとすべきほどの事情は窺えず,また,被告人を処罰することが不公平で,憲法14条に違反するとも認められない。

3項製造罪における被害者の承諾は違法性阻却するか?

 違法性阻却される可能性はあるようですが、通常、同意がありますので、同意によって違法性阻却されない。同意無い撮影の場合は重いんでしょう。
 
 要するに、「ガキの浅知恵」で誘ってきたり承諾受けてたりしても、他人はそれに応じてはならないということですよ。

名古屋高裁金沢支部H17.6.9
2被害者の承諾による違法性が阻却されるとの所論について(控訴理由第6)
所論は,原判示第2の2の児童ポルノ製造罪について,被害児童の実勢な承諾・積極的関与があり,違法性を阻却するのに,児童ポルノ製造罪を認定したのは法令適用の誤りであるとする。
しかし,法7条3項は,児童に法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真等に描写することにより児童ポルノを製造した者を罰する旨規定しており,その文言からしても,強制的に上記姿態をとらせることは要せず,被害児童が上記姿態をとること等に同意している場合を予定していると解されるし,上記の態様によって児童ポルノを製造することが,当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならないとして児童ポルノ製造罪が創設された趣旨からしても,被害児童の同意によって,違法性が阻却されるとは解されない。また,記録を検討しても,被害児童に,違法性を阻却するほどの真筆な承諾,積極的関与があったとも認められない。

買春4罪の裁判例

 相談者から聞かれました。

 閲覧した裁判例をエクセルで集計していくとこんなことが出来るようになりました。
 3罪以下とか5罪以上とかを除いて抽出するとこんな感じでしょうか。
 あんまり細かく分類するとおおまかな傾向が見えなくなりますけど。

 刑期のブレは余罪とか、被害児童の年齢とか、態様とかで説明できます。
 間違っても罰金にはなりません。
 いずれも逮捕勾留されて正式裁判。在宅起訴はない。
 「2年6月」というのは、態様悪いとか被害者低年齢が加わると実刑も予想できる。
 

札幌地裁H16.8.25懲役1年6月執行猶予3年
大阪地裁h12.10.25 懲役2年6月執行猶予3年
札幌地裁H15.8.15懲役1年6月執行猶予3年

 弁護士の量刑予想が重すぎても、軽すぎても不都合があるわけですが、似たような裁判例を持ち出して、「これくらいです。悪質な事例は実刑の可能性がある。」と言うと無難でしょ。だって、裁判例がそういうんだから。