▼安全保障は相互信頼と相互依存が肝要だが、具体的にはアメリカのパートナーとして積極的な役割を果たすための自己改革が必要

ちょっと無駄に近い時間を費やしてしまった。

新たな外交・安全保障政策の基本方針 国益地球益の未来最適を追求する

社団法人 経済同友会 2006 年9 月
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2006/060831a.html
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2006/pdf/060831.pdf

同友会の目指す世界平和

冷戦後の世界は国家だけでなく、多国籍企業NGOなどが国際的活動をしているので複雑になっているという。

冷戦体制の崩壊に伴い、国際社会の情勢は不安定化・不透明化・複雑化の度を深めつつある。戦後の日本社会ではグローバル化の進展や経済の成熟化と共に、個人の価値観の多様化が進み、国民の間では国のあり方や国と個人の関係等に対する認識は必ずしも一致していない。まして、外交・安全保障に関する認識は希薄であり、一国民として考える機会はほとんどないのが現状である。

 外交・安全保障委員会では、我が国の外交・安全保障政策の基本方針として、『国益地球益の未来最適を追求する』『日本と世界の「安全」「繁栄」「環境」に貢献する』の2点を掲げ、提言をまとめた。

 また、外交・安全保障を無関心・無責任に政治家や官僚任せにするのではなく、政・官・産・学・個人が一体となった「ALL JAPAN」つまり「全ての個人」こそが、今後の外交・安全保障を支える重要な役割を担っているという結論に至った。

日本の外交・安全保障政策を検討する際、米国との関係、中・韓・北鮮・露との関係、アジアとの関係ということどもが問題になろう。同友会はこれについてどのように提言するのだろうか。

ここで、日本国憲法の前文を確認しておくことは無駄なことではなかろう。というのも、後に同友会も「世界との相互信頼・相互依存関係を深化させることが(国益増進にとって)不可欠である」と述べ、日本の安全保障の基本もミリタリー・バランスではなく相互信頼(と相互依存)が基本であると述べているのだが、すでに憲法前文にはこうした理念がはっきり謳われているからである。

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
問題は、同友会の言う「相互依存」が「自国のことのみに専念」せず「他国を無視し」ないことを意味するのか、巨大な多国籍企業の跳梁するグローバル市場への世界の包摂をまで意味するのか、である。同友会のいう「相互依存」が「国際的秩序形成、
特に市場主義経済における秩序形成に向けて、積極的に貢献する国をめざすべき」ということで「相互依存」の内実を示しているようなので、後者であろう。このとき、多国籍企業は「自国のことのみに専念し」せず、自社グループのことのみに専念するであろうから、その意味では「平和」なのかもしれない。しかし多国籍企業の都合によって市場化された地球から「専制と隷従、圧迫と偏狭」が「永遠に除去」されておらず、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ」ていなければ、この「相互依存」に基づく「平和」ビジョンは日本国憲法とはそぐわないということになる。
もう一つの問題は、一方で「日米同盟・日米協調路線を深化」させながら、他方で「東アジア、オセアニア、インド、中東など諸国……各国との相互信頼関係を深める」ということが(国内のイデオロギー状況を別にしても)、どのように可能であると考えるのか。とりわけアメリカとの関係が険悪な諸国が中東には多いではないか。

以下、抜粋しながら見ていこうと思う。ただ、私はこの記事に限らず予め全部目を通してから書いているのではなく読みながらメモしている。くり返し・重複、ネジレなどは容赦。

平和のための国益と国家


1.めざすべき国家像

軍事面では核を持たないことをはじめとした大量破壊兵器の拡散防止に取り組む国家である。

また、非軍事面では自立した国家として自らの意思・判断によりアメリカに言われずとも?)、世界の諸課題に対して適切なタイミングと手段で積極的に問題解決に取り組み、国際的秩序形成、特に市場主義経済における秩序形成に向けて、積極的に貢献する国をめざすべきである。

(1)公正かつ安全・安心な国家

自立・自律した個人が個性や能力を発揮できる公正な社会と、治安の良い安全・安心な社会を構築する。

(2)経済的発展・繁栄により日本と世界の豊かさを実現する国家
(3)国際社会から信頼され、必要とされる国家

自らの意思を明確に発信し、世界に開かれた国として相互理解を深める。また、世界の人々が安全で豊かに暮らせる社会の構築に向けて、環境分野等の日本が貢献できる領域を主体的に構築し実行することで、結果として、国際社会からの信頼を得て、必要とされる国になる。

国として「自らの」「自立した」ということを強調したいらしい。
読み方によっては、世界の諸課題を「国際市場経済秩序形成」によって解決していくという、企業家的野心の宣言のようにも取れる。
外交・安全保障にとって「(1)治安の良いこと」がどのような意味があるかというと、テロ対策のことのようだ。また、観光立国が世界にどのように貢献するかわかりにくいが、経済的に衰退していないことが世界貢献への基盤だと理解して置いてあげよう。
世界にかわいがってもらえる日本になりたいと。

国家の体系(システム)は超人的な個人が司る

2.国家が備えるべき体系

今後の外交・安全保障政策を考えるにあたり、国家が備えるべき体系は、明治以降<--、力(強兵)-->の体系「力」と「富(利益……高坂正尭)」に加え「価値」と「人」の4つの体系をバランスさせることが重要である。

3.新たな外交・安全保障政策の基本方針
(1)「国益」と「地球益」の未来最適を追求する

諸外国との利益を分かち合う外交・安全保障政策を展開し、世界からの信頼を得ることが重要である。

また、国の富を増やすことだけを志向することが、地球環境の破壊や資源の一方的略奪を伴う危険性を顕在化させており、国益地球益の未来最適を追求する必要がある。

(2)日本と世界の「安全」「繁栄」「環境」に貢献する

日本と世界の「安全」「繁栄」「環境」に、政・官・産・学および個人の「ALL JAPAN」で貢献する。

①日本と世界の「安全」に向けた基本方針(力の体系)

戦後の日本は、日米安全保障条約自衛隊という米国の核の傘と、最小限の防衛力を有することで「安全」を確立してきた。しかし冷戦が終結してもなお、国内紛争、国家間紛争は終わることなく、また新しい脅威として国際テロ等の問題がおきている。こうしたリスク環境が変化する中で、米軍再編が始まり、日本の防衛も新たに見直すべき局面を迎えている。
日本は日米同盟をコアとしつつ、国際連合をはじめ国際社会の中で、多次元かつ多層的な関係を築いていく必要がある。相互依存関係と信頼関係の構築こそが、21 世紀の安全保障の基礎となる。

②日本と世界の「繁栄」に向けた基本方針(富の体系)

現在直面しているグローバリゼーションや人口減少問題を好機と捉え、自由経済、市場主義の下で、技術革新、経営革新等を行い、更なる経済成長を実現しなければならない。

また、それらを支える戦略的資源開発・調達も重要であり、国家の重要政策として取り組む必要がある。

③日本と世界の「環境」に向けた基本方針(価値の体系)

今後の外交・安全保障政策、ひいては国家のあり方・運営を考える際に、新たな座標軸として価値の体系の確立が必要である。我々は、従来から持つ平和、自由、民主、人権、国際協調等を大原則としつつ、新たに「環境」を価値の体系と定義した。
環境力は日本の魅力、誇れる力であり、力の体系と富の体系とをバランスさせながら、国際社会への貢献を実現する力である。更に、環境立国を掲げて日本の優れた技術・ノウハウを世界の平和と繁栄のために活用することは、日本としての国際的信頼とプレゼンスを高めることになる。

④日本と世界の「創造」に向けた基本方針(人の体系)

個人力は、「力」・「富」・「価値」の体系を司る21 世紀の国際社会の変化は、個人の意識改革と国際社会に通用する個人力の強化を必要としている。行動基準としては「挑戦と革新」と「失敗と再挑戦」から学ぶ姿勢であり、「地道な努力」、そしてライバルより「俊敏」な情報収集・意思決定・実行力が必要である。また意識としては、「パブリックマインド」と「多様性」の醸成であり、知識では歴史認識を含めた「未来観」が重要となる。

同友会の言う「国益」は、それ自身としては相互に不干渉・不侵略な関係の諸国の利害と相反するような内容ではないと思う。資源を搾取され・収奪される国の利害も「地球益」によって保護されると考えてあげましょう。
「力の体系」は安保と自衛隊とを肯定したとしても、なお歯切れの悪い文章だ。
「富の体系」はAll Japanが市場経済に奉仕せよという。
「価値の体系」に「環境」を組み入れたが、環境問題に関する危機感は論ぜられない。むしろ軍事と利益のバランスのもとに環境を考えるのだから、「環境はカネになる」という印象。
「人の体系」は、どんな失敗をしても再挑戦するような恐ろしく強化された個人が欲しいという話。そういう個人が軍事・経済・価値(イデオロギー)をつかさどる。彼は組織された集団ではなく超人的な個人であり、「地道」という地味ななりをしているが、地獄耳で利害に敏く、(軍事・利殖・プロパガンダと時に環境についての)行動は常に「ライバル」を蹴落とす勢いである。
それでも「いい奴」だと言われたい。
なお、必要な意識改革について、


また意識としては、「パブリックマインド」と「多様性」の醸成であり、知識では歴史認識を含めた「未来観」が重要となる。

とあるが、巨大企業に奉仕しながら実は「パブリック」で「多様性」というところが難しい。或いは、狭隘な民族性を排するという意味での多様性だろうか。また、アジア諸国でも問題になっている「歴史認識」については踏み込んだ言及はない。まさに「適切な歴史認識を持って未来を語りあうようにします」という小泉純一郎的な言説。


新たな外交・安全保障のための8つの提言

抜粋ではあっても必ずしも要約ではない。

提言1:「外交・安全保障会議」(仮称)を設置する

①総合安全保障政策の検討②迅速な推進機能の強化

戦略的に外交を展開し、危機や脅威の未然防止や被害の最小化、迅速な復興などを実施するために、情報収集・分析等の機能を強化する。

    • >④内政と外交の一体運用の強化

内政の安定は外交の要であり、重要な外交手段である。例えば、懸案となっているWTOFTA は、外交問題であると同時に内政問題でもある。経済財政諮問会議との連携を十分に図り、自由貿易体制の強化と日本の産業構造の高度化を早急に進めていく等、内政と外交の一体運用を強化する。

提言2:政・官・産・学・個人の「ALL JAPAN」で外交・安全保障政策を推進する
  • 特に緊張感の高まる国際情勢の中で、日本の自然や環境を愛する寛容さや和の精神を発信し、広めていくことは意義がある。
  • 国際社会に通用する人材とは、単に外国語に堪能であることだけではなく、適切な歴史認識に基づく「未来観」や「パブリックマインド」を持った人材である。そのためには、中等教育以降の歴史教育を現代から遡って教えることや、高等教育では「現代社会」に加え「近代史」を独立した科目にする等のカリキュラムの改正を検討すべきである。

先に挙げられた狡賢くてすばしこいスネオのような個人がどのように(鈴木善幸のような?)「和の精神」を発揮するのか。

提言3:日米同盟をコアにしたネットワーク型安全保障体制を構築する

 自ら非核三原則を掲げて核兵器の拡散防止に尽力し、軍事力の行使にも制限を加えてきた。このことは引き続き日本の平和主義国家の基本理念として残すべきである。

 我が国の安全保障の要である日米同盟を真に効果的なものとするために、まず日本が主体的に米国のパートナーとしての役割と責任を果たし得る自己改革と体制整備に取り組む必要がある。また、日米同盟をコアとしつつ、国際連合をはじめ国際社会の中で、多次元かつ多層的なネットワーク型の安全保障体制を作ることは、今後の複雑かつ不安定な国際環境を考えた場合に不可欠である。
 自衛力については、今後も抑止力を基本として強化すべきであるが、国際環境の変化に応じ、日本国民の安全が確保される自立した国家としての自衛隊のあり方を見直すべきである。

もっと主体的な忠犬となり、それが「自立した国家」の行動として世人の目に映るようになれと。日米同盟と世界各国との間の相互信頼とが背反的であるはずがないという楽天性を、これからの国際社会で活躍する超人スネオは持ち合わせていなければならない。
自衛力は「抑止力」というコンセプトで合憲的か、現在どうなのか、教養も責任感もない私には不明。


 また、日本の自衛隊はこれまで、「国際平和協力法」「テロ対策特措法」「イラク人道復興支援特措法」に基づき、国際貢献活動を展開してきた。こうした自衛隊の活動をより迅速かつ効果的に行うための法的基盤の整備が急務である。
そのためには、我が国の防衛・安全保障に関する基本原則を示した「安全保障基本法」(仮称)と人間の安全保障の考え方を併せた「国際協力基本法」(仮称)を制定し、日本の外交・安全保障が平和主義を柱とした政策であることを世界に示すことで、国内並びに周辺諸国の理解と信頼を得ることが必要である。

多国籍資本としては当然の要求である。しかし、ここで提言されている詳細不明だがイラク派兵の延長としての両法でもって「日本の外交・安全保障が平和主義を柱とした政策である」ということを理解させるというのは、なかなか困難なことだろう。

提言4:科学技術力強化に向けた取り組みを図る
提言5:エネルギー・食料安全保障を確保・強化する
  • 特に、海外依存度の高い石油については、石油供給の途絶というリスクへの対応も考え、主たる調達先である中東諸国との関係強化が必要
  • 核燃料サイクルを含む原子力発電の推進
  • 代替エネルギーの開発・活用
  • 豊富な水資源を活かした戦略的な食料自給力の強化
  • 1999 年制定の「食料・農業・農村基本法」を機に進められつつある農業構造改革を加速化し、食料自給の改善等に留意しながら、市場メカニズムの活用や大規模営農推進などを取り入れ、法人による経営を推進する等により、強い農業を育成すべき
  • 健全で競争力のある国内農業への転換

基本法についてはいつか勉強してみたい


提言6:環境、省エネルギー、公害対策等の技術・手法を積極的に活用する
提言7:環境アセスメントにリーダーシップを発揮し、国際的ネットワークを作る
提言8:「E-JAPAN」を官民協調で編成し、災害救援・開発支援・復興支援を行う

  • 自衛隊と民間の協力による支援の重要性が想定される。実効性の高い「日本型CIMIC( 民軍協力Civil-Military Cooperation)」の構築に向けた検討を早急に進めるべき

ダムを沢山作って干潟は干拓する。

感想

もうすこし変わったことを言うかとちょっとだけ期待して読んだが……。
日米安保自衛隊についての賛否はいろんな意見があろうけれど、同友会の人たちは国際社会の平和にとってアメリカがどのような役割を果たしているのか、アメリカが世界でどのような評価を受けていると認識しているのか、(同友会に限らないが)そういう文章を読んでみたいと思う。