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Konstanz als Heimatstadt

竹中治堅・参議院とは何か

参議院とは何か 1947~2010 (中公叢書)

参議院とは何か 1947~2010 (中公叢書)

参議院の役割論に新しい知見を加えるとともに,その制度改革にも言及しています。


第10回大佛次郎論壇賞受賞作でもある本作は,前著『首相支配-日本政治の変貌 (中公新書)』と同じく鋭い分析力と壮大な構想力に圧倒される著作です。
参議院を巡っては「強い参議院論」と「カーボンコピー論」の対立がこれまでありました(本書・5頁)。本書は強い参議院論の立場に立ちつつ,参議院と内閣の関係に焦点を当てて戦後史全体を分析するアプローチをとっています。
1989年の参議院選挙(消費税問題)で自民党が敗北するまで,参議院に対しては衆議院カーボンコピーであるとの批判が一般的でした。しかし本書を読むと,必ずしもそうでないことが分かります。参議院が発足した直後に参議院は内部部局を政令で定める方針であった労働省設置法案や国家行政組織法案に反対の立場をとり,わが国における行政組織法律主義が確立する要因となりました(本書・40頁)。保守合同以降,参議院の多数を自民党が占めるようになって表面的には参議院の独自性は失われたように見えますが,実は自民党の内部で参議院議員の支持を獲得する作業は容易なものではなかったことも明らかにされています(本書・93頁以下)。当時の参議院衆議院とは独自の議院グループを形成し,中でも清新クラブは強い力を持っていました(本書・113頁)。こうした構図が崩れ,参議院議員衆議院議員と同じ派閥に所属するようになったのは,野党議員の支持をも得て議長になった河野謙三議長登場以降のことでした(本書・144頁)。このように,1989年以前でも参議院は,議院として法案の修正を行わなくても,党内調整の中で独自性を発揮していたと本書は分析しています。
さらに,1989年以降,参議院の政治的な独自性はより強くなります。連立の組み替えの要因になったのはほとんどが参議院における支持を獲得するためでした。また2001年に発足し,強いリーダーシップを発揮したとされる小泉内閣であっても,参議院の意向を重視したことは広く知られています。もちろん小泉内閣は,郵政民営化法案が参議院で否決された際に衆議院を解散して勝利し,法案を可決させてはいます。しかしこれは参議院の政治的な力が強いことの裏返しであると本書は指摘しています(本書・249頁)。また衆議院の2/3以上の賛成で再可決する手段についても,参議院が議決をしない場合にはみなし否決の60日ルールがかかってくるため,法案の成立を著しく難しくします(本書・276頁)。以上のような分析から本書は,参議院の役割は,衆議院との抑制均衡というより,内閣との抑制均衡なのであるとの視点も提示します(本書・333頁)。参議院は法案修正という方策をとらなくても,そもそも参議院の反対が予想される法案を内閣が出さないという形で影響力を行使してきたのであるとの指摘(本書・334頁)は非常に興味深いものです。
本書を読むと,改めて参議院憲法上の権限の強さが認識されるとともに,戦後の政治史において参議院はその憲法上のルールを最大限生かして政治的な影響力を行使してきたことが分かります。とすると,そのように強い力を持つ参議院において,一票の格差をはじめとする選挙制度がこのままでよいのかが問われなければなりません。この点についての改善案を示すのが本書の最後の部分になっています。本書は,二院制による抑制均衡そのものには賛成していますが,二大政党制の確立によって参議院の抑制効果が時に強く出過ぎることも問題であるとしています。そこで参議院に関しては二大政党化が進まないような選挙制度(例えば比例代表制の全廃と地域ブロックごとの大選挙区制度の導入)を提唱しています(本書・352頁)。これは一票の格差を是正するにも適する手段と言えます。
先の臨時国会においてもねじれの状態でのBlockadeが続き,再び連立の組み替えの議論が生じています。本書の示している解決策は,二院制のメリットを生かしつつ政治過程を機能させる方途を示しているもののように思います。