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2011-01-30 弁護士が賭博罪の限界を徹底調査〜賭け麻雀はいくらから捕まるのか

[][]賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜咲〜saki〜の「謎」解明にも示唆的な弁護士の研究 23:57 賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜咲〜saki〜の「謎」解明にも示唆的な弁護士の研究を含むブックマーク 賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜咲〜saki〜の「謎」解明にも示唆的な弁護士の研究のブックマークコメント

1.普通の弁護士の回答

  賭けマージャンはいくらから捕まるのか。このような質問は、弁護士にとってかなり答えにくい質問である。質問者の意図は99パーセント、「このレートまでなら大丈夫」との回答を求めて質問しているだろう。

 

 このような期待にも関わらず普通の弁護士であれば、

チョコレート賭けるとか、負けた方が食事を奢る程度なら(金額にもよりますが)問題はありません。しかし、お金を賭けてしまうと、幾ら低いレートであっても捕まる可能性は否定できません


といった曖昧な回答になるだろう。これは、刑法185条についての判例が影響している。

刑法第185条は、

 刑法第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

として、賭け麻雀を含む「賭博」を基本的に違法としている。

 そして、賭けの対象が「一時の娯楽に供する物」であれば大丈夫としているので、お菓子や高額でない食事であれば、娯楽の範囲内として適法である。

 もっとも、裁判所は、金銭はその多少に関わらず「一時の娯楽に供する物」に該当しないとする*1

 つまり、この理屈を推し進めれば、1000点で1円、いや、10000点で1円の麻雀でも「賭博罪」になりかねない*2

 普通の弁護士は、この判決があることから、レートについて「お墨付き」を与えるのを回避することだろう。


2.判例があることで思考停止をしない津田弁護士

 しかし、「判決でダメとあるからダメなんです」というのは、ある意味楽だが、ある意味思考停止でもある。

 この先を検討したのが、 松枝法律事務所の弁護士、津田岳宏先生である。

津田先生は、「今から80年以上も前の大昔」のこの判例は、「時の経過により事情が大きく変化した」としてもはや判例変更が相当ではないかと指摘する*3

そして、「社交儀礼の範囲なら、(現金を賭ける麻雀も)賭博罪に当たらない」、つまり、金額が少なければ「一時の娯楽に供する物」に該当するから賭け麻雀も適法という趣旨の後藤田正晴法務大臣国会答弁*4や、最近の警察の摘発事情等を綿密に取材し、限界を探る上で重大なヒントになる事実を知る。

*5検挙されたピンやテンゴの雀荘は検挙後も店は潰れていない。

(中略)

警察は、賭博開帳罪で検挙したにも関わらず、店に対して営業許可証を返している

津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」35頁

このような事実を積み重ねた上で、「お金の動くスピード*6」等の要素を元に、東風戦と東南戦等の違いや東京と関西の違い等を勘案して基準を導く。

  基準の具体的内容は本書をぜひ読んでいただきたい*7が、判例があるというだけで思考停止をしない津田弁護士が、緻密な調査を元に導き出した基準は、考慮要素が斬新かつ説得的であり、巷説の域を出ないインターネット上で囁かれる噂とは全く違う意味を持っている*8


3.自由民権運動抑圧のために「賭博」が禁止される

 本書は、このような基準を検討するにとどまらず、賭博罪の廃止をぶち上げる。もちろん、著者は弁護士であるから、自分が安心して麻雀をしたいといった単なる政治論を述べるのではない。公営ギャンブル等との比較やイギリス王室委員会報告書等、法律家らしい議論をしている。

 結論には賛否あるだろうが、個人的に「おお!」と思ったのは、取り上げて記事にした、近親相姦&ロリコン&強姦&監禁を公然と擁護したエピソードもあるが、もう一つある。


自由民権運動抑圧のために「賭博」が禁止された


のである。

自由民権運動は、明治時代、藩閥政府に対し、農民や没落士族が国会を開設して民主的政府になるよう求めた運動、いわば「民主化運動」というのが一般的理解であろう。それが賭博罪とどう関係あるのか?

政府からの強圧的な取り締まりの中で自由民権運動を全うするためには、武力が必要となる場面もしばしばあった。しかし、農民はもちろん没落士族も、西南戦争後においては組織的武装集団を持っていなかった。

(中略)

法の外で縄張り争いをしていた博徒は、当然ながら組織化された武装集団をもっていた。運動家(自由党員)たちは、政府に反抗するため、この博徒の武力をあてにした

(中略)

(国会開設という大義名分ある)自由民権運動自体の抑圧には大義名分が見出しにくい。しかし、一般庶民が恐怖を覚えるアウトロー集団である博徒の鎮圧なら、大義名分がある。そこで、政府は博徒に対し厳しい取締をすることにした。

津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」149頁〜151頁

なんと、近代国会日本における賭博罪は、自由民権運動の弾圧に端を発していたのである。


4.レート許可制度の提唱

 このように賭博罪全面廃止を訴える本書も、一朝一夕に廃止まで行くのは難しく、いろいろな検討が必要とする。そこで、法改正をせずに、(フリー雀荘の)麻雀を適法とする方法津田先生は提唱している。

 現時点で、フリー雀荘は風営法の規制を受け、公安委員会の営業許可を得ている。しかし、営業時間と遊戯料のみを申告して許可を得ており、レートは申告していない。そこで、

このやり方を変更して、レートも含めて営業許可を申請し、許可をもらうようにすればよい

津田岳宏「賭けマージャンはいくらから捕まるのか? 〜賭博罪から見えてくる法の考え方と問題点」163頁

 確かに、一定以下のレートであれば、娯楽の範囲と判断される可能性があるところ、公安委員会が当該娯楽の範囲のレートについて、フリー雀荘の申請を許可すれば、いわば「娯楽の範囲」というお墨付きを得、安心して麻雀ができるようになる。どのレートを許可するかといった難しい問題はあるものの、賭博罪全面廃止のような大きな問題はなく、法改正も不要という意味でより現実的な提案である。


5.咲〜saki〜の世界の謎解明に示唆を与える

 咲〜saki〜 の世界では、麻雀競技人口が数億人を超え、テレビ中継もされる等、麻雀から「違法な(可能性のある)賭博」というイメージが払拭されている。しかし、まこがRoof Top*9ノーレートだと「わざわざ」言い、競争が激しいため、メンバーがメイド服を着るサービスで差別化を図る必要がある*10。つまり、普通の雀荘は「賭け麻雀」をやっていると推測される。


 それにも関わらず、麻雀が極めてポピュラーになり、イメージが変わっている訳である。どうやって麻雀のイメージを変えたのか。これは、長らく咲に関する大きな謎となっていた*11

一つの説は、「日本国民の大部分が麻雀ファンになったから、法改正が実現したので麻雀が適法になった」というものであるが、「それでは、どうして日本国民の大部分が改正に賛成になる程麻雀の負のイメージを払拭できたのか」という疑問が残り、完全な回答にはなっていなかった*12


 しかし、本書のとおり、雀荘がレートを届け出て許可を得るようになれば、まさに麻雀は「公認の健全な娯楽」になる。そこで、健全な娯楽ないし知的スポーツとして競技人口が増えるのも当然である。

 本書の提示するアイディアは、咲の謎解明に大きな示唆を与えていると言えよう。

まとめ

 判例の存在で思考停止しない弁護士が綿密な調査に基づき賭博罪の限界を探った本書は、類書のない興味深いものであり、麻雀ファンはもちろん、法律家も読むべきである。

しかも、法改正なしでフリー雀荘を適法にする著者の提言は、実践されれば麻雀業界に大きなプラス効果を与えるばかりか、咲の世界で著者の提案が実現している可能性すら存在する。アニメファンも読んで損はないだろう。 

  ただ、本書で取り上げられている例やギャグが明らかに古く*13津田先生が五十代前後ではないかと想像していたところ、末尾のプロフィールに「昭和54年生まれ」とあって驚愕した。いずれにせよ、津田先生の今後の活躍に期待度大である。

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*1:大判大正13年2月9日

*2:なお、本書65頁が指摘するように、極めて低レートだと、加罰的違法性がなく無罪になる可能性もあるが、加罰的違法性というのは判断基準として極めて曖昧なので、レートの上限を画する助けにはいずれにせよならない。

*3:本書50頁

*4:本書57頁

*5:リャンピン東風戦の店が摘発後潰れているのに

*6:要するに、同じレートでも東風戦なら一晩で二倍の金が動く

*7:多分ここに書いても引用の範囲内なので適法は適法なのだろうが、要素が複数からんでいるものであり、また文脈が示されないまま基準が一人歩きするのも津田先生の本意ではないと思われるのでそのものズバリは、本書を読んでいただきたい。

*8:なお、気になるのが「逮捕されても翌朝に釈放されたのなら、仕事や学業にはほとんど支障はない。しかも、不起訴になったのであれば、実質的な不利益はほとんど何もないと言えるだろう。(本書20頁)」という著者の感覚であり、これに違和感を覚えるひ方は、本書記載の基準よりももう少し保守的に考えるのが望ましいだろう

*9:実家の雀荘。アニメ版では雀卓のある喫茶店

*10:原作第1巻第3局「雀荘」

*11:その他の謎としては、作者の小林立先生の性別とか、副議長(決して副会長ではない)の性癖の理由とかいろいろありますが、これが個人的には一番興味深い

*12:言ってみれば鶏が先か卵が先かという問題にぶち当たる訳だ。なお、龍門渕財閥が政界を牛耳ったとかの説もある。

*13:これは本当に好き嫌いが激しいと思われる。

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