25分の首脳会談

たった25分程度の日中首脳会談で、韓国朴政権が焦っている、という論調が日本では支配的ですが、実際どうなんですかね。

朴政権内で「日中接近」への焦り…首脳会談遠く

読売新聞 11月12日(水)7時13分配信
 【北京=高橋勝己、豊浦潤一】10日夜に北京市内で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の夕食会で、席が隣となった安倍首相と韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が意見交換し、いわゆる従軍慰安婦問題などの日韓間の懸案を協議する外務省局長級協議の継続で一致した。
 だが、今回の対話がすぐさま、一度も行われていない両氏による日韓首脳会談へつながるとの見方は少ない。
 首相は11日の内外記者会見で、「席が隣同士で大変近く、自然な形で対話が始まった。様々な事項について、胸襟を開いて話をすることがお互いにできた」と述べた。朴氏は時折笑顔を見せ、友好的だったという。
 日韓両国の外務省局長級協議は、今年4月の初会合から、9月までに4回開かれたが、議論は平行線をたどっている。韓国側が慰安婦問題で、日本側がまず解決策を示すよう主張し続けていることが大きい。
 韓国側は首脳会談を巡っても、慰安婦問題で「成果」がなければ応じられないとの姿勢だ。一方、日本側は首脳会談について「前提条件を付けずに行うべきだ」との立場だ。日本政府内では、韓国側に譲歩してまで首脳会談に応じる必要はないとの意見が目立つ。
 今回の会話が実現した背景には、困難とみられてきた日中首脳会談が行われ、朴政権内で「日中接近」への焦りが強まったことがある。韓国メディアからも、朴政権のかたくなな外交姿勢への批判が噴出しており、政権に近い朝鮮日報は10日付社説で、「日中関係の大きな流れを無視したまま、韓国だけの外交原則を強調してきた。突然の日中接近を見て、国民は不安でもどかしい」と論じた。
最終更新:11月12日(水)7時13分

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141112-00050001-yom-pol

日中首脳会談について言えば、会談そのものでの具体的な成果は極めて乏しい上に中国側から露骨に冷遇されていますし、「前提条件をつけない」という日本側の主張にもかかわらず事前合意という前提条件をつけるという譲歩を安倍政権は行ったわけですから、これをそれほど過大評価できるかというと、どうにもねぇ、と言う感じです。
少なくとも、FTAでの合意ができた中韓に比べると、安倍政権ははるかに見劣りする成果しか出せていません。朝日弾圧のおかげで安倍政権は国内メディアに対しては睨みを利かせ都合のいい解釈がまかり通っているようですが。

かといって韓国内で“焦り”のようなものがないのかというとそうではないでしょうが。
元々、韓国国内には、日韓関係を重視する勢力中韓関係を重視する勢力がいるわけ*1で、前者にとっては今回の日中首脳会談は日韓関係を改善すべきと言う主張の根拠として利用できますから朝鮮日報などでこういう意見が出てくるのは理解できます。
それ以外にも、国内問題で不人気の朴政権に対する批判として外交問題が利用されている側面もあり、その論調の中で“焦り”のようなものが表現されてもいるでしょう。

安倍政権による朝日弾圧に加担した読売は「日本政府内では、韓国側に譲歩してまで首脳会談に応じる必要はないとの意見が目立つ」などとして、韓国側に譲歩させろ、と言った論調ですが、いつまで夢を見てるのかな、という感じですね。
いやまあ、日韓関係改善の圧力などで環境的に拒否しにくい状況になれば韓国側も首脳会談くらい応じてくれるでしょうが、事務的、儀礼的なもの以上にはならないでしょうね。

慰安婦問題に関して言えば、日韓両政府と日本右翼勢力で誘導しつつある“全ての責任を挺対協に押し付ける方針”で韓国政府が妥協する可能性は無視できないレベルで存在しますから、そこに落とされる可能性はありますが、既に歴史問題だけの対立と言えなくなってきていますからねぇ。
日本国内で蔓延している韓国に対する抜き難い差別意識ヘイトクライムはかなり深刻なレベルで、それが結構韓国国内でも周知されつつあり、加えて韓国右翼勢力慰安婦問題では譲歩できても領土問題では譲歩できませんから日韓関係が改善される可能性というのは、このままではまあ期待できません。
被害者不在のまま両政府が手打ちするというのは慰安婦問題ではありうる話ですが、小泉政権時代に火をつけ安倍が煽った独島(竹島)問題などは今さら簡単には鎮火できないでしょう。

日本側は“韓国側が頭を下げてきたらつきあってやる”的な尊大な態度を崩すつもりが無いようですが、それは結局韓国内における対中重視の勢力を強化させるだけでしょうにね。
まあ、アメリカから韓国に圧力をかけてもらうつもりかも知れませんが。

*1:日本国内に、日米関係を重視する勢力とアジア関係を重視する勢力がいるようなものです。

韓国の司法は政府からはかなり独立している

軍事政権時代は論外にしても、今の韓国司法は日本と同レベルには独立していると思いますよ。

沈没船船長に懲役36年 韓国の司法、独立性示す 政府の意向反映したケースも

産経新聞 11月12日(水)7時55分配信
 【ソウル=藤本欣也】韓国の旅客船セウォル号沈没事故で、光州地裁は11日、船長が問われた殺人罪については無罪と認定した。韓国の司法は政府の意向や世論の動向の影響を受けやすいともされる中で、厳罰を望む国民感情などを前にしながらも、司法の独立を示した形だ。
 死者・行方不明者304人を出した今回の事故をめぐっては、朴槿恵(パク・クネ)大統領が4月下旬、乗客の救助活動に当たらず真っ先に船を脱出した船長を念頭に、「殺人に等しい行為だ」と激しく非難。その後、検察当局が殺人罪での起訴に踏み切った。このため立証の難しい殺人罪での起訴は、朴大統領の意向に沿った措置とも指摘されていた。
 昨年1月には、靖国神社に放火した後、在韓日本大使館に火炎瓶を投げて韓国で服役した中国人を、ソウル高裁が政治犯と認定。日韓犯罪人引渡条約に基づく日本への引き渡しを認めない判断を下している。
 このときは中国政府が韓国側に、日本へ引き渡さないよう要求していた。韓国司法が政府の意向に左右されやすいとされたケースだ。
 ソウル中央地検は先月、朴大統領への名誉毀損(きそん)で産経新聞の加藤達也前ソウル支局長を在宅起訴した。
 これも大統領府が民事・刑事上の責任追及を明言した直後に、検察が加藤前支局長に出頭を要請するなど政治的側面が指摘されている。
 27日に始まる公判では、韓国が法治主義に拠(よ)って立つ国家であるか否かを国際社会が見守っている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141112-00000099-san-kr

死刑求刑した時点で検察が政府の意向に沿っているという観は確かにありますが、裁判所がそれに乗っからないのは不思議でも何でもありません。少し違いますが、憲法裁判所が戦後補償問題で政府が日本側と交渉しないのは違憲と判決*1をくだしていますけど、こんなの韓国政府の意向でも何でもありませんからね*2。この判決のせいで朴政権は対日外交の方針をかなり縛られてしまったわけで、元慰安婦や支援団体にとっては好ましい判決でも政府にとっては苦々しい判決でしかありません。韓国は全て一枚岩の反日とか夢想している単純思考の人には理解できないでしょうけど。

産経は靖国に放火した犯人を日本に引き渡さなかった件を、政府の意向に沿っているとか言ってますけど、あの件もそもそも政治犯認定されても不思議ではない事例ですからねぇ(参照1参照2)。当時、日本ではこぞって韓国の決定を非難していましたが、あれを明確に根拠を挙げて政治犯ではありえないことを論証した人っていましたっけ?ほとんどが「日本に政治犯などありえない」っていう情緒的な感情論ばかりでしたが。

あと、産経が外国元首を性的侮辱する記事に対して名誉毀損が問われた事件についても書いてますが、これって検察が韓国政府の意向にそっているという指摘はできますが、裁判所の判断が出ていない以上、現時点では勇み足としかいえない記述ですよね*3
いやまあ、名誉毀損されたのが大統領であろうが一般人であろうが、法的に平等に扱うなら有罪判決が出る可能性は高いとは思いますけどね。首相であっても信教の自由はあると言って靖国参拝を擁護している連中には文句言う資格はないとも思いますが。

ちなみに、そもそも韓国は死刑執行をモラトリアムしている事実上の死刑廃止*4ですから、死刑判決が出たとして事実上は無期懲役なんじゃないですかね。判決が出たというだけでも死刑反対の立場からは指摘されうるでしょうけど。