中島みゆき 独断ミニレビュー〜70年代編

冬はやっぱり中島みゆきを聴かないとね。
小さい頃、いつもの散髪屋さんで待ってる時に、ラジオから流れてきたのが「わかれうた」。だから「わかれうた」を聞くと、いつもあの散髪屋のおじさんとおばさんの顔を思い出す。
そのあと、親戚のおじさんに、中島みゆきのベストっぽいカセット(たぶんラジオから録音したやつ)をもらって、なんかよく聴いた。中島みゆきを何回も聴く小学生の男子ってどうよ。
そんなわけで、僕の小学生時代は布施明中島みゆき一色だったわけですが(さらにどうよ)、ま、こんな僕が中島みゆきをちょこっと語ってみましょう。


私の声が聞こえますか
記念すべき75年のデビューアルバム。かの有名な「時代」の別バージョンが入ってて、シングルよりもこっちの方が好き。歌い方が全然違っててこっちの方がさわやか(シングルの方はドスが効いてる)。デビューシングル「アザミ嬢のララバイ」も別アレンジで入ってるけど、これはシングルアレンジの方が好きだな。
とにかくまだまだアマチュアっぽさと初々しさが感じられて、いろんな意味で「YAMAHA」だなあと思わせるけど、そんなスタッフの思惑を吹っ飛ばすのが、1曲目の「あぶな坂」。この1曲だけで‘ただ者でなさ’が充満。この1曲のために針を落としてたと言っても過言ではないくらい。
私の声が聞こえますか


みんな去ってしまった
1stのYAMAHAっぽさが突然消えて、やけに泥臭くなった2nd.アルバム。キャロル・キングジャニス・ジョプリンの影響を直接感じられるのもこのアルバムの特徴。
どフォークや演歌っぽい曲に混じって、まっとうなブルースがあることに、彼女の音楽性の幅広さと奥深さを感じる1枚。あんまり人気のないアルバムだと思うんだけど(売り上げも悪かった)、曲数も多いし、なんだかんだでよく聞く1枚。
個人的に好きなのは「雨が空を捨てる日は」「冬を待つ季節」「03時」あたり。最近は「彼女の生き方」も好きになってきた。「夜風の中から」はシングルアレンジの方が好きだな。
みんな去ってしまった


あ・り・が・と・う
最も好きな1枚。聴いた回数もたぶん一番多い。このアルバムで中島みゆきのスタイルが確立されたという意味で、実質的なデビューアルバムと言ってもいいくらい。ジャケットもやっとカラーになったし。坂本龍一が参加するなど、アレンジも充実。曲の粒や完成度では後のアルバムに譲るけど、ちらちらと垣間見せる未完成さや過剰さが心に残る。
とにかく「店の名はライフ」が大好き。「まつりばやし」「朝焼け」「ホームにて」も、自分でベストを作る時には欠かせない。「ホームにて」はそのうちライブで歌おう。
あ・り・が・と・う


愛していると云ってくれ
初期中島みゆきの代表作にして最高傑作。万人にお勧めできる1枚。これを聴かない人間が人生や恋について語る資格はないと言っても過言ではない。1曲目(曲?)「元気ですか」から、ラストでかの有名な「世情」に至るまで捨て曲なし。大ヒットの「わかれうた」だけでなく、真ん中に‘あの’「化粧」まで入ってるんだから。
何気に心にしみるのが「お前の家」で、ミュージシャンならたまらないものがあるでしょう。
愛していると云ってくれ


親愛なる者へ
僕が自分の小遣いで買った初めてのLPレコード。中島みゆきにとっても初めてチャート1位を穫ったアルバム。ここから、中島みゆきの「メッセージ性」が発露。今にして思えば、とても‘熱い’1枚。サウンドはまだまだフォークだけど、スピリットは完全にロックですよね。買った当時はなんかピンと来なかったのは、小学生だったからだな。
裸足で走れ」「片想」「狼になりたい」「断崖-親愛なる者へ-」あたり、侠気があふれてます。
親愛なる者へ


おかえりなさい
他人に提供した曲のセルフカバー。この頃の‘濃い’アルバムに挟まれて、一服の清涼剤のような錯覚をするけど、それは錯覚。いや、確かに‘エグさ’はだいぶ少ないけど。「あばよ」「しあわせ芝居」「雨…」「この空を飛べたら」などの大曲、有名曲に挟まれて、何気に小品の「」と「強がりはよせヨ」が好き。この頃の歌い方が好きだけどなあ。
おかえりなさい

脱アイドル後の中森明菜を語ってみる。

歌手・中森明菜の歴史は、もちろん例の事件すなわち1989年を境に分かれます。
ではその全盛期の80年代を3つに分けましょう。


1.【アイドル期】
82年のデビュー曲「スローモーション」から83年「禁区」まで。
いわゆる‘歌わされている’時期です。だいたい16とか17才ですからね。自分の意見なんてまだないですわな。ここで良い曲、いいスタッフに恵まれるか、かなり運も左右するでしょう。
なんといっても「セカンド・ラブ」が光りますよねえ。「少女A」の路線だけで走らされなかったことが、まあラッキーでした。個人的には「1/2の神話」「トワイライト」はあまり好きじゃない。「禁区」は好きです。


2.【歌手期】
‘歌’に目覚め、大きく歌唱力が伸びる時期。84年「北ウィング」から85年「SAND BEIGE」まで。「北ウィング」の‘不思議なち〜から〜で〜〜〜’のロングトーンとか、自信にあふれてますよね。そして何と言っても「飾りじゃないのよ涙は」。ここでは彼女はついに‘等身大の自分の歌’に出会い、‘少女A’ではなくなるわけです。でも個人的には「サザン・ウィンド」だな。この曲を歌う時の可愛らしさは神の領域といっても過言ではない。そうそう、歌に力がつくと、アルバムも売れ出すんですよね。「Bitter and Sweet」は今でも名盤の誉れが高いし、僕が初めて買った彼女のレコードもこれ。


3.【アーティスト期】
セルフ・プロデュースを覚えて、楽曲制作に積極的に関わる時期。85年「SOLITUDE」から89年「LIAR」まで。楽曲そのものに、中森明菜自身の主張や世界観、想いがこめられます。
今回全シングルを聴き直して、語りたいと思ったのがここから。
なので、1曲ずついってみよう。



Solitude
地味ですよね。よくシングルにしたなあ、と。声も張らないし。でもこれ、明菜さんたっての希望でA面になったとか。なにか彼女の中に共鳴するものがあったのでしょう。この曲の良さは‘25階の非常口で 風に吹かれて爪を切る’明菜の姿がありありと目に浮かぶところ。そして、それがどんな恋でどんな想いでどんな結末を迎えたのか、歌詞を追わなくても伝わるところ。‘大人の女性’ファン層が一気に増えたと思います。あと、ここから一気にサウンドクオリティーが上がります。地味だけど(だからこそ)、アイドルポップスではなく、ロック的なサウンドアプローチ(特にドラムとベース)が取られ始めて、グッと厚みが増してます。最近のライブでもよく歌われるそうですが、年を取るたびに良くなってるんでしょうね。バラードベストに入ってるバラードアレンジでの歌唱も良いです。



Desire
山口百恵でいうところの「プレイバックPart2」にあたる曲、ロックスピリットを持った歌謡曲。まあ、解説は不要でしょう。曲・ボーカル・アレンジ・衣装・振り付け、何をとってもカッコいい。彼女は自分で振り付けも考えているのは有名な話ですが、そのせいかどうか間の取り方が独特で、例の‘夢中になれない な〜んてね さみしい〜’で斜めにしゃがむところ、完コピできる人はそういないんじゃないかなあ。あ、イントロで、チャッチャッに合わせて右足を上げるところがめっちゃ好き。
※ちなみに「横須賀ストーリー」にあたるのが「飾りじゃないのよ涙は」ですね。



ジプシー・クイーン
一気にロック度は下がって、割と普通の(フュージョンテイストの)歌謡曲。百恵ちゃんで言えば「しなやかに歌って」にあたるのかな。その軽さに肩すかしを食らうけど、悪くはない。つか、優しい歌声に癒されます。この曲、ジャケットがいいですよね、自然で。あと、テレビでは赤いドレスで歌ってて、儚い運命に弄ばれる王女のような美しさでした。



Fin
これまた地味な曲。タイトルだけではどんな曲か思い出せなかったり、歌を聴いてもタイトルが思い出せない人も多いのでは。帽子を被り、ロングコートをひらひらさせて、手でピストルを真似ながら歌う曲ですよ。やっぱり明菜さんの強い思い入れでA面になったんでしょうね。イントロのリムショットから、高いクオリティーのアレンジでもって行間の想いを伝えにきます。これ、レコードでもテレビでも、歌うのがとても苦しそうで、この頃ノドの調子が悪かったのかな、と思ってたのですが、絶好調の「EAST LIVE」を見てもこの曲だけ苦しそうなので、たぶんかなり歌いにくい曲なんでしょう。それを敢えて歌うところに、彼女のロック魂を感じます。あと、指で作るピストルも、わざわざ人差し指と中指をクロスさせるとか、爪の先まで気を抜いてません。



Tango Noir
「Desire」と並ぶ、明菜流ロック歌謡の名曲。タンゴとは名ばかりで、重い8ビートでグイグイ押すところがめっちゃカッコいい。歌ってる姿も素晴らしい。イントロで、くるっと後ろにターンしながら左足を蹴り上げて左手にタッチするところ、鳥肌もんです。目線までしっかり決まってるところもお見逃しなく。のけぞりやターンも奇麗ですよね。上から目線で高飛車ながら、愛に溺れようとする‘最高級にイイ女’を、この曲で僕たちは目の当たりにすることができるわけです。アートですよ、うん。



BLONDE
これ、タイトルのせいで地味な印象をもってません? ちょっとひねり過ぎというか、あまり歌詞にもビジュアルにも結びつかないんですよね。それを抜きにすれば、実はとてもインパクトのある曲。前曲は低い声で攻めてきましたが、この曲のキーはちょっと高めで、めちゃめちゃ色気があります。つか、詞がね、‘私より強い男を探してた その低い声に引きずられ 夜へ’ ですからね。まさにエロス。歌ってる姿も、ボディーコンシャスなスーツにピンヒール、そして髪をかきあげながら歌う姿の色っぽいこと。振り付けも、ほとんどアドリブだったらしいけど、バックの音とピタッと決まってて、とにかく絵になってました。明菜なら、何歳になっても等身大で歌える、イイ女にのみ歌うことを許された曲。




難破船
いきなり純愛ですよ。毎回涙を流しながら歌う様は、「悲しい酒」の美空ひばり状態。ちょうどね、近藤さんとのゴタゴタもあった頃で、悲痛さは鬼気迫るものがありました。失恋を経験した女性にとって、身につまされるものがあるんじゃないでしょうか。もともと女性ファンの多い明菜ですが、この曲でいっそう増えたのでは。こちらも、最近のアコースティックスタイルのほうが、ますますいいですよね。




AL-MAUJI
中森明菜お得意の‘異国情緒もの’。それだけでヒットは約束されたも同然・・・とはいかないのがね、この世界の奥深いところ。いや、もちろん1位を取ったんだけど、明菜陣営はもっと上のヒットを狙ってたらしい。なんだろうね、悪い曲ではないんだけど。ひとつは‘意外性’に欠けたかな、というのと、リキが入りすぎたってのがあるかも。とにかくドラムの音がデカく、ボーカルも吠えまくり。‘ぅゎあああああ〜〜’というロングトーンビブラートも炸裂しまくってて、う〜ん、もうちょっと切ない系でも良かったんじゃないかな、とか思えたり。あるいは、この時期せっかく浸透しつつあった、アーティストとしてのリアリティーが希薄だったかな、とか。別の時期に出してればもっと印象に残ったのかも、ね。




TATTOO
で、88年夏に、仕切り直しで勝負に出たのがこの曲。ボディコンミニ+網タイツですからね、インパクト抜群。曲調も、レトロなジャズにジャングルビートとサイバーで味付けして、ちゃんとロックしてます。カッコいいっすよ、ネエさん。この曲、例えばベストテンなどで歌前のトークの時、すっごく恥ずかしそうにするんですよね。それがまた可愛くて、でも歌い出すと一転して上から目線。つまりツンデレの元祖ですな。




I Missed The "Shock"
さて、この頃の明菜の一番の問題作。どう考えてもシングル向きではないですよね。詞、何が言いたいのかさっぱりわからん。よく覚えて歌えるなあ。これも、明菜のたっての希望でA面になったとか。いったい何が明菜の心を捉えたのか。
とか何とか言って、実はこの曲大好きです。イントロから、もうめっちゃカッコいい。ベードラ4つ打ちにぶんぶん流れるフレットレスベースですぜ。このリズムに乗って歌うのが快感。ボーカルなんて、サウンドの一部だと言わんばかりの、低くささやく歌。1コーラスやそこらでは簡単にイカせず、最後の最後でクライマックスにもってくる、まさにロックの組み立てです。
‘強がりを言いながら’も、‘強い男に激しく抱かれたい’という明菜の本性そのままの快感がこの曲のビートにはあるのでしょう。


LIAR
まるでこの後の悲劇を予感させるような、まるで明菜本人が書いたかのような、悲しい曲。
‘ただ泣けばいいと思う女と 貴方には見られたくないわ 次の朝は一人目覚める 愛は悪い夢ね’
もうね、まんま中島みゆきの世界。イントロのピアノがまた悲しげで、当時バイト先の有線でよく流れてたんだけど、なんつうか、夜の街に合う曲なんだな。
当時は、このあたりの曲をなんでシングルに切ったのかさっぱりわからなかったんだけど(それでも1位を取るあたり、恐るべきアーティストパワーなんだけど)、どうしてもこの曲を歌いたかったんでしょうね。それを押し切るあたり(そしてちゃんと商品に仕上げるあたり)、まさにアーティスト呼ぶにふさわしい存在だったと言い切れます。

「ABC殺人事件」アガサ・クリスティー

fm GIG 毎週木曜午後3時〜6時の生放送「トワイライト・ブレイク」は、僕、冴沢鐘己が担当しています。
70年代〜80年代のヒット曲をオンエアーしながら、ミステリーの紹介なども。

今日紹介したのはABC殺人事件アガサ・クリスティー
ミステリー好きなら誰でも一冊は必ず読むクリスティーですが、僕が子どもの頃、初めて自分の意志で手にしたクリスティーがこれでした。今なら完全にサイコスリラーとして処理される無差別殺人ものですが、きちんと本格ミステリとして謎解きしています。といっても、こんな動機で人を次々殺すなんて、その時点で異常なんですが・・・。「アクロイド殺人事件」「オリエント急行殺人」とともに、ひと言でネタが割れるシンプルなアイディアで、これだけの長編に仕立て上げられるのがクリスティーの筆力。初心者にもオススメです。


ABC殺人事件 (創元推理文庫)
ABC殺人事件 (創元推理文庫)


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「赤毛のレドメイン家」イーデン・フォルポッツ

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今日紹介したのは赤毛のレドメイン家/イーデン・フォルポッツ」
すでにイギリスでは文学の大家として地位を築き上げていたフィルポッツの、六十才を越してからの作品です。さすがの重厚さと文学的深みで、江戸川乱歩も自らのミステリランキング1位に推すなど大絶賛。その評価に違わない名作です。特に、大胆に恋愛を持ち込んだ叙情性がね、深い余韻を残します。


赤毛のレドメイン家 (創元推理文庫 111-1)
赤毛のレドメイン家 (創元推理文庫 111-1)


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「僧正殺人事件」ヴァン・ダイン

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いわゆる‘ペダンチック’な探偵の嚆矢‘ファイロ・ヴァンス’が登場した大ヒットシリーズの4作目にして、最高傑作の誉れ高い名作ですね。京極夏彦シリーズにも大きな影響を与えてます。そのペダントリーがうっとうしいという人もいるかと思いますが、なんのなんの、なかなかにモダンでスリリング。特にこの作品では、探偵ヴァンスと犯人との、頭脳対決にわくわくさせられます。


僧正殺人事件 (創元推理文庫)
僧正殺人事件 (創元推理文庫)

「エジプト十字架の秘密」エラリー・クイーン

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70年代〜80年代のヒット曲をオンエアーしながら、ミステリーの紹介なども。

今日紹介したのは「エジプト十字架の秘密/エラリー・クィーン」
あれは忘れもしない小学校5年生の頃、僕が初めて手に汗を握って、ご飯を食べるのも忘れるほど夢中になった傑作ミステリーです。
クィーンの作品は、冒頭がどうしても読みにくくて苦労しますが、そこをクリアすればあとは一気呵成。近代・現代日本のミステリ作家にも多大な影響を与えた、めくるめく論理のアクロバットと派手なチェイスを堪能して下さい。


エジプト十字架の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-16)
エジプト十字架の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-16)