ヘイトスピーチ論争

東浩紀氏の発言がきっかけで、ヘイトスピーチの法規制の問題について論争が起きています。

ヘイトスピーチを規制する動きは、ヨーロッパを中心に行われています。

特に、ドイツが有名ですね。ドイツでは反ナチス法が定められており、ナチス・ドイツを正当化する

言論や、「ガス室は無かった」という主張、ハーケンクロイツの掲揚などが禁止されている。

下手にドイツで右手をまっすぐに挙げようものなら、「ハイル・ヒトラー!!」と間違われ、

逮捕されかねないのです。卍もハーケンクロイツと形がほぼ同じなのでドイツでは掲揚できません。

ドイツ以外でもナチスに好意的な言論や、差別を扇動する言論を規制する国は多いのです。

「雑種路線でいこう」を見て、関心を持つ

私がこの問題に関心を持つきっかけになったのは、楠正憲(id:mkusunok)氏の

日本でヘイトスピーチが規制される可能性

http://d.hatena.ne.jp/mkusunok/20081216/hate

という記事です。この記事では、青少年ネット規制法の民主党案横書きに含まれていた、

「著しく差別感情を助長する情報」という内容*1を取り上げ、また、

歴史修正主義が差別感情を助長する情報に当たるかは議論を要するが」と前置きした上で、

日本でも誤った歴史認識を規制すべきとの主張が出てくる懸念があるとしています。

現に、中国や韓国は自国民に対し、言論の自由を制限しており、書き込んだ内容次第では検挙しています。

そのように、日本でもヨーロッパと同じようにヘイトスピーチを規制する動きが出てくる可能性、

およびそれに対する懸念が出ています。


その一方、以下のような反論もあります。

さて、ヘイトスピーチの違法化それ自体を(そして/あるいはヘイトスピーチ違法化の巻き添えを食って自由であるべきその他の言論まで規制されることを)懸念するなら、やるべきことはなにか? 最も重要なことの一つは、ヘイトスピーチ南京事件否定論などを市民(研究者含む)が自発的に批判することによってそれらを徹底的に周縁化し、無害なものにすること、そうやってヘイトスピーチ規制のための立法が必要ないと内外に胸を張れる状態をつくることである。したがって崎山氏は、“南京事件否定論者や嫌韓厨にネットで論争しかけても無駄”と主張する東浩紀をむしろ批判すべきなのである。あるいは、市民による批判抜きでヘイトスピーチや否定論を無害化できるような「設計」の具体的な構想を問うべきなのである。この意味でも、彼が「断固として東氏を」支持するというのは奇怪至極なはなしに思える。

http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20081217/p1

まあ、id:Apemanさんは、いわゆる「歴史修正主義」に対して非常に批判的で

さらに前々から人権擁護法案反対論を批判していましたので、Apemanさんがこのようなことを

おっしゃることは当然だと思います。

Apemanさんがヘイトスピーチ規制に賛成するのは至極当然といえるでしょう。

私の思い込みだったようです。失礼いたしました。



確かに、ヘイトスピーチ規制のための立法が必要ないと内外に胸を張れる状態をつくることが

理想なのは私も間違いないと思いますが、「嫌韓厨にネットで論争しかけても無駄」というのは

まさにその通りだと思います。そう言う点ではApemanさんとは異なる考えです。

日本でヘイトスピーチ規制は起こりうるのか?

では、日本でヘイトスピーチ規制は起こりうるのか?

私は現状では絶対ありえないと断言します。 崎山伸夫氏が、

楠さんが私のところを参照して言及したヘイトスピーチ規制の可能性についてなんだけど、少し考えてみたが、やはり、きっかけは人権擁護法案になるのではないかと思う。ただし、人権擁護法案が直接にヘイトスピーチ全般を法規制する、という話ではない。

http://blog.sakichan.org/ja/2008/12/17/possible_way_to_ban_hate_in_japan

とおっしゃっていますが、言わずもがな。

人権擁護法案は保守派の大反発にあい、

未だに再提出さえできていません!!

ヘイトスピーチ規制が議論されようものなら、

たちまち保守派が噴き上がり、あっという間に潰されます!!


人権擁護法案自体は欧州のヘイトスピーチ規制と比べれば相当に弱いそうですから、

人権擁護法案より強い規制を保守派(と一部の左派)が黙って通すことなど、

死んでもあり得ないでしょう!!

よって、当分日本でヘイトスピーチが規制されることはないでしょう。

規制の動きが出た途端、潰され闇に葬り去られることでしょう。


また、楠氏は前記の記事で以下のように言及していますが、

仮に児童ポルノに対するブロッキングのインフラが整った後、東アジアの外交問題日中韓の世論が沸騰して各国政府が対応に苦慮した場合、中韓が自国内で対立を煽る言論を規制し、相互主義で日本も国民に対してネット上でのヘイトスピーチを規制すべきと主張したとき、どこまで押し返せるか。

そんなもん、内政干渉だ!!」と突っぱねればいいだけです!! 以上!!

念のため、補足しておきますが、id:rnaさんが、

 正直これは妙な話に思える。これはつまるところ「中韓が筋の通らないことを言ってきたらどうするか」という話だ。なんでそんな話なるのか? 中国や韓国の言論統制ヘイトスピーチ規制ではない。単に国家の秩序を乱す言論を規制しているのだ。中国は共産主義国家であり、韓国は現在も戦時下に準ずる国家体制だという事情がある。

 ヘイトスピーチ規制は市民が弱者を傷つけるのを抑止するために自らの手足を敢えて縛る行為だ。強者たる国家が弱者たる市民の手足を縛る昔ながらの言論統制とは趣旨が全く逆なのだ。だから、中国や韓国が「ウチと同じように規制しろ」と言ってくるならそれは単に出鱈目なのだ。


re日本でヘイトスピーチが規制される可能性 - 児童小銃 より

http://d.hatena.ne.jp/rna/20081217/p1

と言っているのと、基本的には変わらない考えだと思います。


なんだかんだ言って、共謀罪は左派*2が中心になってはねのけて、5年以上法案が成立しない状態が

続いていますし、単純所持規制も10年以上も前から規制すべきとの声が上がっていますが、

規制反対派の抵抗もあり、今のところは成立の見込みは立っていません。

(だからこそ、規制推進派がやかましくしているのではないか!!)


結局、法案に反対する人々は一度食いついたら離れないんですよ。

抵抗はしぶといので、法案の反対論が巻き上がった時、法案を推進する立場の人は

注意した方がいいですよ。


とにかく、私は正当な批判がヘイトスピーチと十把一絡げに規制されてしまう

可能性について懸念しています。

そもそも、ヘイトスピーチはその対象に対する批判を含有しているのであって、

批判と中傷を見分ける7つのポイント。 - Something Orange

http://d.hatena.ne.jp/kaien/20081216/p1

で書かれている方法で見分けるのは困難だと思いますし、ヘイトスピーチの対象になっている側が

正当な批判とヘイトスピーチを区別せずに十把一絡げにしてしまう恐れは

十分にあると思うのですがね…



ちなみに、歴史認識問題についての私の個人的な見解を申し上げなければなりませんね…

私は南京で残虐な行為があって大勢の一般市民(数万人規模)が殺されたのは事実だと思います。

もっとも、30万人が殺されたというのは、誇張されたプロパガンダだと思いますがね…

いずれにせよ、本当のところは私にもわかりません。タイムマシンがあれば真相を確かめられるでしょうが、

「あった派」と「なかった派」が歴史を文字通り改変しようとするでしょうね…

少なくとも、例えそれが不愉快な言論であっても、その言論行為自体は許容すべきだというのが私の考えです。

補足


Apemanさんから直接こちらにコメントをいただきました。

私の思い込みで、Apemanさんはヘイトスピーチ規制に賛成していると書きましたが、

Apemanさんはヘイトスピーチ規制に賛成したことはないとのことです。

参考:http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20081202/p1

Apemanさんには、大変失礼な発言をしたことをお詫び申し上げます。

*1:楠氏は、自民党案の取りまとめ役である萩生田光一議員が人権擁護法案に強く反対していることを見越し、交渉材料として入れた可能性を指摘している。

*2:保守派の櫻井よしこ氏も『報道2001』で人権擁護法案を引き合いに出して批判していたように、言論弾圧につながりかねない法案だと思います。