袴田事件、検証結果で各紙「誤報」 弁護団が見解「DNA鑑定結果は

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袴田事件、検証結果で各紙「誤報」 弁護団が見解「DNA鑑定結果は揺るがず」
週刊金曜日編集部


本田教授によるDNA鑑定の有効性を強調する袴田巌さんの弁護団。(撮影/小石勝朗)
6月上旬の報道を見て、裁判の行方を心配した方も多いだろう。「再審決めた鑑定『信用性ない』」(『朝日新聞』6月6日付夕刊)といった見出しが各紙に躍っていた。
1966年の「袴田事件」で死刑判決が確定した元プロボクサー袴田巖さん(81歳)の再審請求審。東京高裁(大島隆明裁判長)の審理の焦点になっているDNA鑑定手法の検証実験で、検察推薦の鈴木廣一・大阪医科大学教授(法医学)が最終報告書を提出したことを伝える記事である。
検証実験の目的は、静岡地裁弁護団推薦の鑑定人を務めた本田克也・筑波大学教授(法医学)の「選択的抽出方法」が有効か確認すること。皮脂、汗、唾液などが混じった血痕から血液のDNAだけを取り出す手法だ。本田氏がこれを使って犯行着衣とされてきた「5点の衣類」の血痕を鑑定した結果が新証拠の一つと認められ、再審開始決定の拠り所になった。
これに対し、検察は「本田氏独自の手法で有効性はない」と反論。高裁に検証実験を求め、認められた経緯がある。
6月上旬の新聞各紙は、鈴木氏が最終報告書で「『DNAを検出できなかった』と指摘」し「本田教授の鑑定を否定」(『毎日』6月6日付夕刊)といった書きぶりだ。事実なら再審開始決定の有力な支えが崩れることになりかねない。
だが、決してそうではなかった。
袴田さんの弁護団によると、鈴木氏は最終報告書で、本田氏が血液細胞を集めるために利用した「抗Hレクチン」試薬がDNAを分解すると主張。その点に依拠して、選択的抽出方法が「結果的には不適切な方法論」と結論づけた。
しかし、検証実験ではDNAの検出量が「極端に減少」「アンバランス」などと分析しているものの、対象とした新しい血痕、20年以上前の古い血痕ともに血液のDNA型自体は検出されていた。その際、鈴木氏は判定の最低ラインを、国際標準に従った本田氏よりも厳しい数値に設定し、「検出をあえて難しくしている」という。
弁護団でDNA鑑定を担当する笹森学弁護士は6月29日の記者会見で「本田鑑定を否定できず、その結果は揺るがない、というのが客観的なデータに基づく結論だ」と強調した。鈴木氏の論理に対しては高裁に提出した意見書で「レクチンを使うべきではないとの信念を証明するために実験を行なっているようだが、そのような実験は裁判所に求められたことではないし、その解釈に科学的根拠(実証)もない」と批判した。

【マスコミの責任重い】
最終報告書の提出を受け、東京高裁は同日開いた検察、弁護団との3者協議で、鈴木氏と本田氏の尋問を9月に実施する方針を示した。弁護団は「尋問は不要」としているが、高裁は今後、実施方法を詰める見通しだ。
検察は同日までに鈴木氏の最終報告書についての意見書を提出していない。本田氏の鑑定データをすべて出させるよう高裁に申し立て、別角度の議論を提起して「審理を引き延ばす姿勢」(弁護団)を見せている。
しかし、高裁は「年内に弁護団、検察双方が最終意見書を提出する」との日程も示唆したといい、今年度中にも再審開始の可否を判断する可能性が出てきた。
それにしても、なぜ各紙そろって「誤報」になったのか。
弁護団によると、6月6日夕刊の記事が報じられた段階で、最終報告書は弁護団にはもちろん裁判所にも届いていなかった。このため「鈴木氏周辺が情報源ではないか」と推測しており、本田鑑定を貶めるための「印象操作だった」との見方も出ている。
そうであっても、死刑をめぐる裁判で、おそらくは報告書の中身も確認しないまま一方の当事者の話だけを鵜呑みにして記事にしたマスコミの責任はきわめて重い。
弁護団の小川秀世事務局長は6月29日の会見で「重大な事案でいい加減な報道はしないでほしい」と語気を強めた。袴田さんが死刑判決を受けた背景には「異常な犯人視報道があった」と指摘されていることを忘れてはならない。
(小石勝朗・ジャーナリスト、7月7日号)


こちらも隠蔽体質まっしぐら

PKO日報保管 会議2日前、稲田氏に報告 陸幕幹部が事前説明
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2017年7月19日 13時55分
 南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報の隠蔽(いんぺい)問題で、稲田朋美防衛相が、非公表方針が決まった二月十五日の緊急会議の二日前にも、陸上自衛隊側から、電子データが保管されていた事実などについて報告を受けていたことが十九日、複数の政府関係者への取材で分かった。二回にわたり報告を受けていたことが判明し、説明責任を果たすよう求める声が一層強まりそうだ。 稲田氏は十九日、自身も出席した二月十五日の緊急会議に関し「隠蔽を了承したとか、非公表を了承したとかいう事実は全くない」と述べた。 複数の関係者によると、二月十三日の報告は十五日の会議の「事前説明」との位置付けで、陸上幕僚監部の高級幹部が行った。昨年十二月二十六日に統合幕僚監部で電子データが見つかったのとは別に、陸自でもデータが保管されていたことを報告した。 陸自では岡部俊哉幕僚長に一月十七日、データが見つかったことが報告され、事実関係の公表の準備を始めた。しかし同二十七日、陸海空三自衛隊の運用を担う統合幕僚監部の防衛官僚が「今更陸自にあったとは言えない」と陸幕の担当者に伝えていた。稲田氏への事前説明では、こうした経緯も報告したとみられる。 二月十五日の会議には、稲田氏や岡部氏、事務方トップの黒江哲郎事務次官ら関係する幹部が出席。事実関係を公表するか、対応を協議し、陸自のデータは隊員個人が収集したもので公文書に当たらないなどとした上で「事実を公表する必要はない」との方針を決定。稲田氏も了承した。 陸自に日報が保管されていた事実が報道で表面化したのは一カ月後の三月十五日。稲田氏は翌十六日の衆院安全保障委員会で、民進党議員から一連の報告を受けていないのか問われ「報告はされなかったということだ」と否定し「徹底的に調査し、改めるべき隠蔽体質があれば私の責任で改善していきたい」と述べた。(東京新聞
記者団の質問に答える稲田防衛相=19日午前、防衛省
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