田島、西谷など

承前*1

安倍晋三靖国神社参拝を巡って。

田島正樹*2「安倍首相の反愛国的行動」http://blog.livedoor.jp/easter1916/archives/52352538.html


曰く、


靖国神社が、単なる戦争犠牲者の慰霊施設でないことは言うまでもない。そんな事は安倍を取り巻く連中にとっても自明のことであろう。むしろ、それを十分に心得たうえで、政治的スケジュールにおいているのである。彼の政治的スケジュールは、一貫して戦後レジームを根底的に変える方向を目指してきた。それは、ポツダム宣言に基礎を置き、ニュルンベルク裁判と東京裁判によって示された安全保障体制と国際法秩序の破壊を意味する。

我が国は、無謀な戦争を仕掛けた上、ついに自己のイニシアティヴのもとに収拾することさえできないまま、ポツダム宣言を受諾せざるを得なかった。ポツダム宣言受諾は、明治憲法において主権者とされた天皇自身の決断の結果であり、これを認めない者は、単に戦後秩序を認めないのみならず、そもそも明治憲法の権威を認めないし、天皇の決断も認めないということたらざるを得ない。

ポツダム宣言は、東京裁判の権威を基礎づけるものであり、したがってポツダム宣言を受け入れるということは、東京裁判の権威を認めることであらざるを得ない。(ただし、そのことは東京裁判を全面的に、無批判に肯定するということではない。裁判内容やその経緯に対する批判は、むしろその裁判自身の権威を認めることによって可能になるのである。さもなければ、批判そのものが意味を失ってしまうだろう。)東京裁判では我が国のアジア侵略が批判され、南京大虐殺も(それを放置した広田弘毅外相の戦争責任ともども)批判された。広田外相の戦争責任に対しては、裁判官の中にも反対少数意見が有ったのは確かだが、それは決して南京大虐殺の存在自体を否定したものでも、その非道性を無視したものでもない。かかる戦争責任の認定の上に戦後秩序が建設されねばならないことは、国際法上の前提なのである。

それは決して価値中立的な前提ではなく、ナチスドイツと戦った連合国の共有された価値に基づくものであり、国連の存立そのものの依って立つ価値基盤でもある。もちろんそれは、戦後一貫して変わらないものであったわけでもないし、変わるべきでないものでもない。むしろ、歴史の進展の中で絶えず見直され、批判的に継承されるべきものであり、深化・充実されねばならないものであり続けている。たとえば、スターリン・ロシアの犯罪は、東西冷戦の終結を受けて、あらためて批判にさらされつつある(カチンの森の虐殺の再評価など)。今後とも、これらの批判的見直しは、不十分ながらも続けられて行くだろうし、続けられて行かなければならない。

しかし、そのような「見直し」は、決して過去の犯罪や戦争責任を否定するようなもののでは有り得ない。もし、そんなことになれば、歴史上倒れていった無数の死者たち、恐るべき破壊には何の責任も問われないことになるばかりか、我が国が立ちいたった破局の時点にまで、立ちもどらざるを得ないことになるからである。それはちょうど、ナチス犯罪のすべてを否定するドイツの「修正史観」が、ヨーロッパの戦後秩序のすべてを御破算にしてしまうことと類比的である。

ところで、「レジューム」を鍵言葉とする拙blogへのアクセスは今でもけっこうコンスタントにあるのだった*3


西谷修*4「アベくん、アメリカさんが怒ってるよ!」http://www.tufs.ac.jp/blog/ts/p/gsl/2013/12/post_224.html


曰く、


だが今回、文句を言ったのは中国と韓国だけでなく、中国との肘の付き合い(sic.)で安倍政権が頼みにしている(いつでもその袖の下に駆け込もうとしている)アメリカもだ。アメリカ政府はわざわざ異例の声明を出して「失望」を告げた。この前、日米安保の2+2でケリー国務長官ヘーゲル国防長官が来日したとき、出来の悪い生徒の振舞いを心配して、わざわざ靖国ではなくて千鳥ヶ淵を参拝して手本まで示したのに、安倍はそれも無視して「軍神」を祀る靖国参拝をやったわけだ。アメリカは「失望」する。アホッ、まだわからんのか、と。アメリカ様(宮武外骨)は怒っている。

おさらいしておこう。まず、靖国神社が何か、ということ。これは単に戦争犠牲者を弔う施設というだけではない。安倍のような軍事オタクの指導者のやりたがる戦争のために兵隊にとられて、無理やり戦場で人殺しをやらされて、そのあげくに憔悴して飢えてのたれ死んだ人々も、みんな「お国のために喜んで身を捨て雄々しく戦った」兵隊として、国家がひとまとめに祀る祭壇だ。だからみんな合祀されると「尊い英霊」ということにされる。女々しいのや、いやいや死んだ者が、本当のことを言うと困るから(誰が?人びとを戦争に駆り出そうとする連中が)、ひとまとめに管理して、みんな「英霊」ということにする。そして、それを「国民の見本」として、できたら道徳教育で子どもたちに「お前たちもああなれ」、国家の尊い犠牲になれ、と教えようとする(今日、そのための中教審の答申が出た)。

 だから靖国は、単なる神社ではなく軍国のための国家的祭祀の場所なのだ。戦後はここは国家の管轄を離れて一宗教法人になったはずだが、復員や遺族年金を引き継いで管理する厚生省が密かに名簿を靖国神社に渡しており、その名簿で靖国は、本人や遺族の承諾もなく死者を合祀し、国家的役割をヤミで担っている。それは、日本国家のための死者の貯金箱と言ってもいい。どんな死者もみんな「英霊」ということにして、お国のために死ぬ「手本」にし、将来の国民の命の「浪費の時」に備えるのだ。

 それに対して千鳥ヶ淵は、あらゆる戦没者のための慰霊の場だ。そこでは、国家への回収とは関係なくあらゆる戦争犠牲者の死を弔い、その碑の前で二度と戦争は起こしませんと誓うことができる。

 その意味で靖国軍国主義霊場であり、中国や韓国からすれば、戦前の日本の悪霊が住む場所なのである。そこを日本の首相が特権的に参拝することは、日本が敗戦に至るアジア侵略の歴史を何ら反省していないということを示すことであり、それ自体が根本的な態度表明として政治的意味をもつ行為になる。

さて、「特定秘密保護法*5を巡って、藤原帰一*6の「特定秘密保護法案 ― 知られない権利も危機」*7をマークしておく。「特定秘密保護法案の第9条には、一定の要件の下で外国の政府または国際機関に特定秘密を提供できるという定めがある」。
それと主題的には繋がっているネタだが、独逸では旧東独の秘密警察組織Stasiが収集した個人情報のアーカイヴの管理にStasiの元スタッフを雇用していたことが発覚し、アーカイヴ設立当時の責任者だったJoachim Gauck大統領が非難されているのだった*8

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131226/1388057501 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131228/1388189308 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131228/1388192793

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060830/1156904686 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060905/1157462920 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061010/1160499009 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061021/1161451763 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070807/1186490802 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070829/1188385230 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080227/1204077862 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080502/1209698659 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100206/1265435465 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101021/1287629417 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101221/1292961164 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110217/1297882488 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110407/1302191011 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110609/1307650973 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110825/1314210338 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131010/1381431229

*3:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070906/1189082768 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070911/1189534747 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070918/1190119331 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120929/1348878964

*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100415/1271309817 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111128/1322451372 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120126/1327606307 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120204/1328324133 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120409/1333936632 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130313/1363141131

*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131018/1382023012 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131024/1382635810 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131112/1384279252 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131121/1385046451 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131126/1385478572 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131129/1385687379 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131201/1385861081 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131206/1386345428 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131212/1386781451

*6:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050606 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090528/1243466295 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091118/1258516583

*7:http://pari.u-tokyo.ac.jp/column/column102.html

*8:Philip Oltermann “Ex-Stasi staff still work at archives of East Germany's former secret police” http://www.theguardian.com/world/2013/dec/27/stasi-officers-still-employed-east-german-secret-police-archives