「木下晋展 表現の可能性」2017【追記】

標記個展を見た(6月1日 ギャラリー枝香庵7・8F)。木下は鉛筆のみで対象の実存に肉薄する特異な画家である。最初見たときはその濃密さに、鉛筆で描いたとは思えなかった。いわゆるデッサンではなく、鉛筆が表現手段として選ばれている。真っ黒な画面は、線の堆積。油だと一刷毛のところを、何十時間もかけて描き込んでいく。その見た目のシンプルさと、使ったエネルギー量のアンバランスは、描くことが一種の修行なのだと思わせる。木下の絵が並んでいる空間が静かで清潔なのは、その絵が修行の結果である(に過ぎない)からだろう。いつも思うのは、舞踏と似ているということ。木下は即身仏で有名な山形県朝日村湯殿山注連寺の天井に、巨大な合掌図を描いている。出会ってすぐに意気投合した故元藤菀子が、その下で土方巽十三回忌供養の踊りを踊った。また大道舞踊家ギリヤーク尼ヶ崎も木下のモデルの一人。
描く対象は、最後の瞽女 小林ハルハンセン病回復者の詩人 桜井哲夫、『痴人の愛』ナオミのモデル 和嶋せい、ホームレスの人々、実母、妻、娘、愛猫など。今回は夫人の足が、メインだった。その創作過程の一コマが、「日曜美術館」(NHKEテレ)で放映されている。夫人は「(脚のモデルになることを)嫌ですよう」と言っていたが、その姿はマリア像のように神々しく美しかった。

他には、夫人の眼差しを描いたもの、桜井氏を描いたもの、和嶋せいさんの絵、様々な合掌図、カラス、愛猫、パンダなど。ギャラリーは7Fから始まり、8F、さらに階段を上って、ぐるぐると螺旋状に見ていく構造。これまで見たギャラリーの中で、最も木下に似合った空間だった。

会期は6月8日まで 11:30〜19:00(最終日は17:00)
アクセスは地下鉄「銀座」駅C8出口から徒歩1分
(出口を出て、向かい側右斜め方向に工事中ビルあり、その隣のビルの7・8階)
ギャラリー枝香庵 Tel 03-3567-8110

【追記】
木下は今年開催されるヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」(会期:2017年8月4日〜11月5日)の参加アーティストに選ばれている。夫人の足を描いた『起つ人』(190×125㎝)も出品されるとのこと。