基礎教養の不足という「陰謀論」

しかし天下りの合理的分析も、公共選択論的分析(官僚や政治家も利益最大化で動く)も、ジャーナリズム的匿名記事もすべて「陰謀論的」と表現したり解釈する、いまの一部のネットの意見には開いた口がふさがらない。それでいて、産業政策(政府が成長分野をみつけてそれを育成するなどというもの。グリーンニューディールとか成長戦略とかいわれるものや、もっと身近ではアニメ・マンガの国際戦略なんかもその類)みたいな官僚の能書きだけの中味のない政策はころっと支持。基礎教養がないのか?

見舘好隆『「いっしょに働きたくなる人」の育て方』

 献本いただきました。ありがとうございます。

 簡単な企業側へのアンケート調査をとれば、おそらくどの大学の就職担当者も知っているように、採用側が学生のアルバイトやサークル活動に対して与える評価は想像以上に低い。例えば10項目、企業側に採用で考慮する点をあげさせたら、アルバイト経験やサークル活動の評価はおそらく最下位を競う水準だろう。ボランティア活動もしかり。対して、学生側が就職活動において自分のアピールポイントとしてあげているのが、アルバイト経験、サークル、クラブなどの活動と成果などだ。実際に学生たちに自己分析やエントリーシートなどを書かせると、バイトとサークルは普遍の首位打者的話題であろう。

 僕は自分の本『偏差値40から良い会社に入る方法』では、この学生と採用側のミスマッチは、おもに学生側の修正すべき点であると考えた。なぜなら企業側にはそういう採用基準を変更する有効なインセンティブの設計が難しいからだ。企業の立場に立てば、サークルやバイト活動に熱心で、学生の本業である専門的な勉強やまたゼミで取り組んでいるものが、学生の側から話題にでないということは、単純に、その学生が本業を軽視して、余技にふけっている人物と判定して差支えない。例えば、拙著でも書いたが、専門ゼミの指導教官の研究テーマや業績を知らない学生などいたるところで見聞するが、そういう人材を本気で企業が採用するだろうか?

 ところで本書は、拙著とは問題の前提(採用側と学生とのミスマッチ)は同じだが、本書全体では、学生に異なるタイプの人間との協働を行う場としてバイトを有意義に活用し、さらに勉学を含めてバランスのとれた生活設計、そこからの就職活動戦略の構築を説いている。そして有意義なアルバイト経験都は何かを、いくつかの企業の実際から紹介している。

 僕個人は、そのような理想的なバイト経験を否定するつもりはないが、残念ながらそのような理想的なバイト場所を探すコストは学生側には高すぎると思う。むしろ学生の本業である専門勉強やゼミでの活動を丁寧に考えた方が、学生も大学(教師)もそして採用側もよほど安上がりである。

 残念ながら本書の基本的姿勢には、根本的な疑問を抱かざるをえない。

偏差値40から良い会社に入る方法

偏差値40から良い会社に入る方法

山形浩生「岡田靖を悼む」in『LIBERTINESリバティーンズ』創刊号

 山形浩生さんの『経済成長って何で必要なんだろう?』の書評。岡田さんの活動の意義と追悼を兼ねた内容です。

「なぜ日本では不景気が続いているかについては、すでにもう日本以外のところでは結論が出ている。バブルを過度に恐れる日銀のデフレ的な金融政策と、明確な政策方針を出せない政府や財務省のせいだ。だから諸外国では「いかにして日本の失敗を避けるか」といった論文がいくらも見られる。日本の知識人たちが少しでもまともな経済常識を持ち、諸外国の知見と伝えていれば、もっと有効な経済政策がうたれていただろうに。

 略

経済はある程度は成長しないとみんな困るんだ、という(橋本治すら認める)常識すら日本の多くの知識人は持っていない。本書を読み、岡田靖の発言を読んでそれを身につけよう。その「みんな」といいのは、日本国内で就職氷河期に苦しむ若者、既得権にしがみつく年寄りにとどまらない。世界のすべての人々のことだ」

経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

 なお、この雑誌の創刊号の内容は、Twitterについてで、非常に面白い。へえ、という豆知識を多く手にいれることができた。特に津田大介氏のフォロワー増加法とまったく逆のことをしている自分がとても貴重な存在に思えた 笑 

荻上チキの「新世代リノベーション作戦会議」×片岡剛士

サイゾー』6月号の荻上チキさんの連載に片岡剛士さんが登場しています。「民主党は“官僚のオルタナティブ”を在野に求めよ」とのこと。片岡さんと荻上さんの対話を読んでいると本当に希望が持てる。

 リーマンショック後の政策対応の国際的視点の重要性、積極的な緩和政策の効果、構造問題説の限界、政策決定過程における政治家の判断ミス、民間シンクタンクの可能性、若手研究者への期待など、片岡さん自身の経験と知見を踏まえた対談は、いまの経済問題を考える上で格好の素材です。また荻上さんとの話が、人文系の諸課題ともわりと連結しているので、経済問題に普段は関心のない人でもすんなり読めるつくりですね。何気に中川大地さんが構成しているのも注目。

 特に荻上チキさんが片岡さんの『失われた20年』の所論の中で注目している経済政策決定までの、認知ラグ、決定ラグ、実行ラグの問題は、日本の政治的体質とも絡んで、いまのユーロ危機の下にある日本経済にとっても何度も繰り返し考察されるべき視点だと思う。

日本の失われた20年 デフレを超える経済政策に向けて

日本の失われた20年 デフレを超える経済政策に向けて