覚え書:「【書く人】【東京エンタメ堂書店】<小林深雪の10代に贈る本>祝!ご卒業 人生の大先輩が「贈る言葉」」、『東京新聞』2017年03月27日(月)付。
-
-
-
- -
-
-
【東京エンタメ堂書店】
<小林深雪の10代に贈る本>祝!ご卒業 人生の大先輩が「贈る言葉」
2017年3月27日
3月、年度末です。卒業のみなさん、おめでとうございます! お祝いに言葉の花束を贈ります。小澤征爾さん、黒柳徹子さん、手塚治虫さん。好奇心が強く感受性豊かな、人生の大先輩3人からの「贈る言葉」です。
これからなにをしよう?どう生きよう? どんな進路を、仕事を選ぶ? どんな大人になる? どんなふうに暮らす? そう迷った時は、自伝(的エッセイ)を読んでみましょう。そこにはたくさんの手掛かりがありますよ。
どんな偉人も最初から偉大だったわけではありません。誰でも、わたしたちと同じ、最初は初心者だったはず。では、どうやって、その人たちは夢をかなえ、その道を究めたのか? 今回は、日本を代表する三人の個性あふれる青春記をご紹介します。
◆いきあたりばったり 新しい世界へ!
<1>小澤征爾『ボクの音楽武者修行』(新潮文庫、四九七円)
世界的指揮者の小澤征爾さんがスクーターでヨーロッパを旅したのは、二十四歳の時。
一九六〇年代、海外旅行がまだ身近でなかった時代。神戸から貨物船に乗りこみ、二カ月もかけてフランスのマルセイユに上陸、そこからスクーターでパリまでたどり着く。「この先どうやって勉強しようとか、どのくらいヨーロッパにいられるだろうかなどという計画は皆無」、「フランス語もおぼつかない」、「お金もない」。そんな、いきあたりばったりの小澤青年は、指揮者コンクールを「棒振りコンクール」と言い、ホームシックになれば、「ああ、寿司(すし)がくいてー!」と叫ぶ。その飾らないストレートな言動がとても魅力的です。
軽々と境界を超えて、新しい世界と出会う。異文化と出会って、新しい自分と出会う。その行動し続けるバイタリティーに勇気がもらえます。
◆失敗、挫折…前向きに
<2>黒柳徹子『新版 トットチャンネル』(新潮文庫、七六七円)
インスタグラム(写真をシェアするSNS=会員制交流サイト)での独自のセンスが話題のトットちゃんこと黒柳徹子さん。個性的で可愛(かわい)い衣食住が紹介され、こんな八十代になりたいなとわたしも憧れてしまいます。そんなトットちゃんは、いかにして今のトットちゃんになったのか?
昭和二十八年、新聞広告で見たNHK専属俳優募集の広告に、ふとした思いつきで応募し、テレビ界に入ったトットちゃん。草創期のテレビ界でのドタバタや、自身の失敗や挫折も包み隠さずに素直にユーモラスに書かれていて、ついつい笑ってしまいます。
そんなトットちゃんが過労で倒れて入院。死に物狂いで続けようとした仕事が、自分がいなくても何事もなかったかのように楽しく進んでいる。病室で何も映っていないテレビを、ただただ眺める最後のシーンには胸を突かれます。
◆人生に迷ったら 本当に好きな方を選ぶ
<3>手塚治虫『ぼくのマンガ人生』(岩波新書、九〇七円)
最後は漫画の神様、手塚治虫さんの本。いじめられっ子だった少年時代に自己防衛手段として考えたのが、好きだった漫画。本気で描き始めるとぐんぐん上達し、いじめっ子たちも一目置くように。
医大に進学し、医師になるか漫画家になるかで悩んだ時、「本当に好きな方を選びなさい」と言ってくれたお母さん。
その医大と大阪大空襲の経験から、「生命の尊厳」が手塚漫画の大きなテーマになり、生と死を描いた『ブラック・ジャック』や『火の鳥』に込めた思いも語られます。この二作は、わたしにとっても大好きで特別な作品。ぜひ、併せて読んでみてください。
人生の選択に迷った時に、思い出してページを開いてほしい。そんな本です。
*毎月第四月曜掲載。
<こばやし・みゆき> 児童文学作家。最新刊は『作家になりたい!』(講談社青い鳥文庫)
−−「【書く人】【東京エンタメ堂書店】<小林深雪の10代に贈る本>祝!ご卒業 人生の大先輩が「贈る言葉」」、『東京新聞』2017年03月27日(月)付。
-
-
-
- -
-
-
http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/entamedo/list/CK2017032702000154.html