『千々にくだけて』 リービ英雄・ 『八州廻り桑山十兵衛』 佐藤雅美



 

       



今日からは、当教室のメルマガ5月号で紹介された小説を2冊ずつ取り上げます。手前ミソのようで恐縮ですが、どれもこれも興味深い作品ばかりです。





まず、リービ英雄という作家をご存知でしょうか。ハーフのような名前ですが、アメリカ人です。つい先日取り上げた伊集院静氏と同じ1950年生まれ、“西洋人で初めての日本文学作家” といわれています。 あの万葉集を英訳し、全米図書賞という権威ある賞を受賞していますが、他の作品は日本語で書かれています。





これまで取り上げた中では、名作 “白いカラス” という映画にもなった 『ヒューマンステイン(フィリップ・ロス)』 や 『復讐する海(ナサリエル・フィルブリック )』 も全米図書賞を受賞しています。本書の『千々にくだけて』は大佛次郎賞を受賞しています。





K先生が書評を書いてくれました。





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日本語で著作を行うアメリカ人エドワードは母国に向かう行路、9.11のテロのためカナダのバンクーバーで足留めされ、肉親との連絡も取れずホテルの部屋でテレビに映し出された禍々しい映像を見ている。



芭蕉の句 「島々や千々にくだけて夏のうみ」 の 「千々にくだけて」という言葉が、平穏な松島の情景から切り離され、ある切迫感を伴って主人公の頭の中に英語で蘇る。 Broken into thousands of pieces….



全編を通して綴られていくのは、心理描写や劇的な展開ではなく、慣れ親しんだ日本語を押しのけるようにして英語が姿を現し、しかしそれを故郷の言葉として懐かしむことができない、いつまでも「途中」に留まることが強いられた主人公の屈折した言語意識です。



しかしながらこうした言語意識こそが、9.11という事件及びそれに引き続くアメリカによる中東への進攻について語られる真っ当そうな批判や観測、分析のどれにもまして、テレビ画面に見入っていた世界中の多くの人々が感じた、事の大きさに対する恐怖の一方、傍観者であることの安堵感をも直視させる稀有な強さを持っているような気がしてなりません。
 

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もう一冊、こちらは村井先生が取り上げた作品です。佐藤雅美氏も直木賞を受賞している大物作家ですが、歴史小説家のなかでも、経済面など他の作家があまり目を向けていない分野に光を当てているのが特徴だと言われます。



つまり今まで誰も書いていなかった側面を書く。しかもその歴史考証が非常に綿密なことで、そのユニークさが高く評価されています。吉村昭氏や海音寺潮五郎氏に近い感じでしょうか。



以下が、村井先生の書評です。



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5月から始まったテレビ朝日系ドラマ「八州廻り桑山十兵衛」の原作です。「八州廻り」とは江戸を除いた関八州(現在の関東地方)を廻村しながら悪事を取り締まる「関東取締役出役」の通称です。



この本では八州廻りの1人であ る桑山十兵衛が各地で遭遇したさまざまな事件が描かれていて、ある意味では水戸黄門のような感じですが、最大の魅力は十兵衛の人間味あるキャラクターと彼らしい事件の解決方法。



毎回キレイに一件落着できる黄門様と違って関東取締役出役は下っ端役人のため、上司に怒られることもしょっちゅうあるし、下手に大物に手を出せば復讐だって恐い。



そんな彼の一番の問題は、男やもめなうえに可愛い一人娘がどうやら自分の子じゃないらしいこと…。話の舞台が関東という身近な土地なので、その背景がより一層面白さを引き立てているのかもしれません。
 

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どちらも非常に評価の高い作品です。ぜひご一読を!







千々にくだけて

                                    

                                    講談社

                                    

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八州廻り桑山十兵衛

                                    

                                    文藝春秋

                                    

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白いカラス Dual Edition

                                    

                                    ハピネット・ピクチャーズ

                                    

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