三重県警の摘発件数不正操作の背景に「不送致余罪」

http://sankei.jp.msn.com/region/news/140715/mie14071502190002-n1.htm

A 「不送致余罪」と呼ばれる手続きが背景にあります。本来は警察の捜査の負担軽減を目的とした仕組みで、事件に関する資料を検察庁に送致しなくても、条件を満たせば警察内部で「摘発済み」として統計に計上できます。松阪署が大津北署に提供した事件資料は計上する前で、署内で保管されていました。
Q 必要な条件とは
A 容疑者が関与を認めた供述調書、被害届、検察送致しない理由を記した捜査報告書などをそろえ、署長が内容をチェックして決裁します。
Q 何のためにあるのですか
A 捜査の負担軽減のためです。刑事訴訟法では、警察が捜査を終えた事件は検察送致するよう定めていますが、窃盗事件など余罪が多い場合、全て送致することになれば裏付け捜査の作業が膨大になる一方で、裁判で被告の量刑に差は生じません。警察庁が平成元年に全国の警察に出した通達が根拠になっています。

窃盗事件で、私も検察庁時代に経験したことがありますが、起訴できた事件以外に、被害届以外に被疑者の自白程度しか証拠がないものが複数ある場合、警察が担当検察官の了承の下で、それらを事件として送致するのではなく、関係書類、という形でまとめて書類で送って来る、ということがあります(今でもあると思います)。そうした件は、起訴はせず、公判で、常習性や一般情状を立証する証拠として、例えば被告人の供述調書とか上申書などを請求していることもあります。元々、裏付けが困難、といった理由でそういう処理をしているわけですから、そういう処理をすることで、上記の記事にあるような、起訴ができないのに「裏付け捜査の作業が膨大になる」という弊害は回避できるはずです。
そういった形ですらなく、警察段階で、検察庁に何も書類も送らず右から左に処理しているのであれば、刑事訴訟法の趣旨にも反するもので(刑事訴訟法上、それができるのは微罪処理だけです)、やはり問題ではないかと感じます。署長決裁で終えるのではなく、書類は検察庁に送りそれで終結させるという方法も検討されるべきでしょう。このままでは今後も不祥事の温床になりそうな、悪い予感がします。

2014年07月14日のツイート

「捜査報告に虚偽」 覚醒剤事件で東京地裁が無罪判決

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140714/trl14071421230006-n1.htm

判決によると、男性は昨年9月、東京都内の路上で職務質問を受け、所持品を見せることを拒否したため捜索差し押さえ令状に基づく強制捜索を受けた。令状請求の際に提出された捜査報告書には「職務質問で警察官が『覚醒剤』という言葉を出すと(男性が)明らかに興奮した」と記載されていた。
江見健一裁判官は、公判で現場にいた警察官がこの記載の事実関係を否定したことを重視。「覚醒剤所持をうかがわせる事情がないのに令状請求し、約3時間40分も現場に男性を留め置いた」と捜査の違法性を指摘した。

最高裁判例で、採尿手続に重大な違法性があり鑑定書が証拠排除される場合であっても、それを疎明資料として発付された令状で差し押さえられた覚せい剤の証拠能力は否定されない、というものがあるのですが、上記の件の場合、令状発付という直接の目的のために虚偽報告書が使用され、その結果、おそらく覚せい剤が差し押さえられたという経緯であったものと見られ、「虚偽」と押収がダイレクトに結びついているところが、証拠排除、無罪という判断につながったものと思われます。
この分野には、いろいろな裁判例がありますが、新たな参考になるケースとして付け加えられることになるでしょう。

美濃加茂市長を収賄罪で起訴 名古屋地検

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2014071590202259.html

全国最年少市長の汚職事件は、舞台を法廷に移すことになった。藤井被告に辞職する意向はないが、有罪が確定すれば失職する。

収賄事件の捜査はいかに進むか
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20140705#1404544865

で、

収賄事件では、警察が(検察庁の独自捜査で立件する場合もありますが)警察だけの判断で強制捜査に踏み切る、ということは、100パーセントなく、その前に、検察庁との事前協議を重ねるものです。その際に、上記のような慎重な検討を検察庁でも行い、上級庁(高検、必要に応じて最高検)への報告、決裁も経て、強制捜査を了承する場合は了承します(了承しない場合もありその際は捜査は不発に終わることになります)。その際に、警察に対して「起訴する」という約束はしないものですが、上記の通り、現職の公務員(選挙で選ばれた首長、議員であればなおさら)を逮捕しましたが起訴できませんでした、では、検察庁も批判の矢面に立たされますから、警察、検察の間で、収賄側が否認して自白が得られなくても、強制捜査着手時の証拠関係に大きな変更がない限り、主要な被疑者は起訴、ということが、暗黙の了解になっていたのが従来です。

とコメントしましたが、おそらく、強制捜査着手時の証拠関係、証拠評価及びその後の捜査結果で有罪判決は得られる、という判断が検察庁によりされて、起訴されたものと思われます。しかし、それはあくまで起訴に踏み切ったというに過ぎませんから、今後、公判で、全面否認(金銭授受すらない)とする市長側が徹底的に争い、激しい攻防が繰り広げられることになるでしょう。端的に言って、贈賄側の供述(及び何らかの裏付けがあればそれも含めて)でどこまで立証できるかがポイントで、そこが崩れれば無罪、ということになります。

連絡ミスで保釈3日遅れる 大阪地裁

http://www.nikkei.com/article/DGXNZO74267190V10C14A7CC0000/

被告は5月に逮捕・起訴され、地裁が6月12日に保釈を認める決定を出した。被告は13日に保釈金を納付したが、地裁の担当書記官が担当の部に連絡せず、保釈金が納付されたことが地検に伝わらなかった。
保釈されないことを不審に思った弁護人が地裁に指摘し、手続きミスが発覚。3日後の6月16日に釈放され、地裁は被告に謝罪と経緯の説明をした。地裁によると、ミスをした書記官は内部調査に「気づかなかった」とだけ話しているという。

保釈金が納付されれば、事務手続に必要な時間がかかるのはやむを得ませんが、速やかに身柄は釈放されなければならないもので、納付後、数時間(短い方の)で釈放されるのが普通ですね。納付した日に釈放されない、ということはあり得ない(あってはならない)ことです。
カレンダーを見ると、6月13日が金曜日で、土日をはさんで、翌週の月曜日である16日に釈放された、という経緯になるようですが、弁護人としても、納付日中に、釈放されたことを何らかの方法で(本人に電話するよう言っておくとか家族に連絡してもらうとか)確認するべきであった、ということにもなると思います。その日の夜になっても釈放されていない、ということであれば、何らかの手続ミスがあったということは十分想定されますから、裁判所の宿直に電話をかけ、大変なことが起きていると告げて、速やかに釈放されるように動くべきであった(おそらく、そういう動きになっていないので翌週の月曜日になったと推測されます)、と感じます。こういうこともあるので、釈放の確認はきちんとやっておくことが、弁護人にも求められるということになるでしょう。もちろん、まずは裁判所、検察庁がきちんと手続きして処理することが不可欠なのですが。