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最近ご恵贈いただいた本の紹介

たまたま3月に本をいくつもご恵贈いただいた。すぐにすべての本について感想を書けないので、ひとまず紹介させていただく。

まずは、日経 BP の竹内さんから3冊ご恵贈いただいた。

yamdas.hatenablog.com

1冊目は、ノア・スミス『ウィーブが日本を救う 日本大好きエコノミストの経済論』である。

これは早速読ませてもらった。やはり、今回書下ろしとなる第1部「ウィーブ・エコノミー」が本書の肝になる。

ここでの主張は明解である。日本は経済大国でもなんでもないのだから、途上国としてのポジションを認め、海外からの対日直接投資(FDI)、グリーンフィールド投資をどんどん呼び込む必要がある。もちろん現在の円安を活かす必要もあるし、21世紀型の開発戦略国家として成功しないといけない。

「日本が未来を失った」のをバブル経済が崩壊した1990年でなく、2008年に見る著者が正しいかは経済学に疎いワタシには判断できない。しかし、やるべき方策は一つだけでなく、やれるべきことは複数やるべきというのはその通りに違いない。

ただ、50代のワタシは本書を読んで、自分の中にある日本は経済大国という観念にいかに自分が縛られてるかを再確認もさせられた。日本の現状についてはもう十分わかっているつもりだったのに。本書で日本が目指すべきモデルはマレーシアやポーランドと言われると、そうかーと思ってしまうのだ(というか一人あたりの GDP はいずれポーランドにも抜かれるらしい)。

本書のタイトルにもある「ウィーブ」とは「日本に特別な興味と関心を抱いている人たち」を表す言葉で、もちろん本書の著者もその一人だし、日本にどれだけ文化的な優位性を持っているかを力説してくれる本書を読んでいて、エコノミストとしての著者の当然と言える日本の現状指摘にうーんとなってしまうのだから、その呪縛の恐ろしさを思ったりした。

第二部はこれは収録されるだろうと予想していた既出の文章が収録されていて、それはよい。ただ第三部「ノーベル賞から見た経済学の現在」は、上記のように経済学に未だ疎い人間にはやはりためになる読み物だけど、「ウィーブ・エコノミー」と関係ないんじゃない? とどうしても思ってしまった。

著者の文章では、少し前に「日本が移民を受け入れるようになった理由」が経済学101で訳されていて、これなど本書に収録されるのにピッタリな文章なのだけど、さすがに本書の編集に間に合わなかったのだろうな。

yamdas.hatenablog.com

2冊目は、葉石かおり『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』である。

葉石かおり著、浅部伸一監修コンビの本を読むのは3冊目である。前2冊ともしっかりした内容であり、今回も同様に違いない。

前著はコロナ禍に書かれたのが大きく影響していたが、「飲酒は少量だろうと健康に悪い」というのがますますはっきりする中で、それでも酒を欲するというのはどういうことかについて書かれた本なのだと思う。

いずれにしろ、未だ酒飲みのワタシとしては読むべき本でしょう。

そして、3冊目は島津翔『NVIDIA(エヌビディア)大解剖』である。

今年は Nvidia 本の刊行ラッシュという予想はやはり当たるようで、訳書含め、いろいろ出るようだが、この本の場合、トップにも直撃するなど日本人記者で初の密着取材の結果書かれた本というのが一番のポイントに違いない。

これは読むのが楽しみである。ちょうどこの本から抜粋された「「俺の金を失ったら、お前を殺す」NVIDIAに出資した大物が放った一言」も公開されている。

topisyu.hatenablog.com

いつもブログを読ませてもらっている斗比主閲子さんから『ふつうの会社員が投資の勉強をしてみたら資産が2億円になった話』をご恵贈いただいた。

やはり、本書の場合、書名に目を剝くよね(笑)。

「2億円」と書名で釣って、これが実は実家が極太だったとか、実はロト6で一等当たりましたとか(参考)、実はシリコンバレー在住でスタートアップが当たってストックオプションが――とかだったらブーイング必至だが、本書の著者はそういうことをしない信頼がある。

ちょうど読み始めたところで、というか第2章の「収入編」までほぼ読んだあたり。

「富裕層になる方程式」はある!(しかも、それは持続可能なお金の増やし方)と最初に宣言しているが、この著者はもってまわったところがなく、謎めかすような書き方をしないので、読んでいて気持ちいい。それに例えば資格の取得を勧めるのにしても、ちゃんと物事の順序というか戦略性を意識させるのがうまい。

最初の章は著者の(資産2億円を達成するまでの)ライフストーリーなのだけど、著者に最初の開眼をもたらしたのが『ゴミ投資家のための人生設計入門』というのに同世代性を感じた。と書くと、ワタシもこの本についてよく知ってそうなのだけど、ワタシはこの本を買わなかったんですよ――と書いたところで、この本の Amazon ページを見たところ、「この本を 2002/3/11 に購入しました。」と書かれてあって、呆然となった。

ワタシ、この本買ってたんだ……しかし、読んだ記憶が、ない。そのあたりに未だお金に縛られ、首切りに怯えるワタシと資産2億円の著者との間の差を見ることができるし、この後読むうちにその差異を痛感させられることの連続に違いないのが予想される。

Hacker Newsで人気のある個人ブログトップ100

refactoringenglish.com

新山祐介氏の投稿で知ったのだが、Hacker News で人気のある個人ブログのランキングを作った人がいる。

昔取り上げたHacker Newsのコメント(投稿)で紹介される数の多い30冊と同様、Hacker News のコメント欄でリンクされることの多い個人ブログを集計したもので、このサイトで言及されるのだから、ほぼすべてテック系ブログとも言えるわけだ。

個人的には、下手すれば絶滅危惧種扱いされかねない「個人ブログ」にフォーカスしているのが嬉しいねぇ(Substack などニュースレター系も除外されているようだ)。あと単に人気順に並べただけでなく、ブログの著者、その肩書、ブログで扱う話題について簡潔に紹介してくれているのもいい。

情報ソースが Hacker News なので1位がポール・グレアムだったりするが、読んでるブログも当然いくつもある。というか、このランキングに入っている人の文章をワタシ自身訳しているのに気づいたので、それらをまとめておく。

以下、順位は本文執筆時点ね。

Aaron Swartz のサイトはつながらなくなっている? 思えば、↑の文章を訳した際に Twitter 上で許諾をとる短いやりとりをしてから半年足らずで、彼は26歳の若さでこの世を去ってしまった

セキュリティのヒューマンファクター研究はいかに欧米の考え方や慣習に偏っているか?

www.usenix.org

Schneier on Security で知った論文だが、これは面白い研究ですね。

Abstract をざっと訳してみる。

ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)や心理学といったヒューマンファクター分野において、研究者は参加者の多くがWEIRD(西洋、高学歴、産業社会、裕福、民主主義)の国の出身なのを懸念してきた。この WEIRD の偏りは、多様な集団とその文化的差異の理解を妨げる可能性がある。ユーザブルプライバシー&セキュリティ(UPS)分野は、ヒューマンファクター分野の研究から多くの研究の方法論を受け継いでいる。我々は、UPS の論文における参加者サンプルがどの程度 WEIRD の国から来ているのか、また、欧米または非欧米の参加者を募集している各ユーザー研究における方法論と研究テーマの特徴を理解するために文献調査を行った。その結果、UPS における WEIRD 諸国への偏りは、HCI におけるそれよりも大きいことがわかった。研究手法やリクルート方法における地理的、言語的な障壁が、研究者が現地でユーザー研究を実施する原因となっている可能性がある。さらに、多くの論文が参加者の属性を報告していないため、報告された研究の再現性が妨げられ、再現性の低さにつながっている可能性がある。地理的多様性を改善するために、我々は、再現研究を促進し、研究/リクルート方法の地理的および言語的問題に対処し、WEIRD 以外の集団を対象としたトピックに関する研究を促進することを含む提案を行う。

言われてみればそうなのだけど、これは確かに WEIRD な国の研究者はテーマにしようと思わないのかもね。

この論文の著者は、NICT長谷川彩子氏、やはり NICT井上大介氏、そして NTT の秋山満昭氏である。

秋山氏による発表動画もあるでよ。

毎日新聞「本を巡る場」連載と九州における本の現場について

mainichi.jp

見逃がしていたのだが、上村里花記者による不定期連載「本を巡る場」の新作がおよそひと月前に公開されていたんですね。

過去回は主に福岡の書店、出版社(の編集者)に取材した記事だったが、今回は長崎で出版活動をしている編集室 水平線を取材している。

この不定期連載に注目したのは、なんといってもワタシ自身が福岡に住んでいるからなのだが、やはり、自分の住んでいるところもそうだし、今回の長崎の場合は自分の出身地で文化的なものとしての拠点が残ってほしいと願うからである(あと、里山社の清田麻衣子さんとは一度だけ仕事をしたことがあるが、向こうはもう覚えておられないと思う)。

そういえば、第1回で取り上げられているふるほん住吉など行こう、行こうと思っていたら、先月「山田全自動の福岡暮らし」としてドラマ化されたのにはさすがに驚いたな。

古本屋をどうやってドラマにするんだろうと思ったら、一部「孤独のグルメ」みたいだったが(笑)。

それはそうとこの不定期連載は細々でもいいので続いてほしいところ。

ミッキー17

カンヌ国際映画祭パルムドールアカデミー賞作品賞、監督賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』から5年以上ぶりのポン・ジュノの待望の新作である。なのだが、本作については、ニュースになるのは公開の延期ばかりで、ワーナー・ブラザーズは本作について後ろ向きじゃないのかと疑いたくなった。

正直、ひどい駄作だったらどうしようと期待よりも不安が大きかったのだが、かなり面白かった。しかし、どこをどう評価するかを書くと、それはそれでまた分断を生みそうな構図も感じるのが難しいところである。

本作は、事業に失敗して追い詰められたロバート・パティンソン演じる主人公が、借金から逃れるためにろくに契約書も読まなかったせいで、宇宙で使い捨て労働者(エクスペンダブルズ)にされてしまう SF ブラックコメディーである。で、マーク・ラファロ演じるそこでの独裁的な権力者の政治家は、どうしてもドナルド・トランプを連想するわけですね。

そして、本作をトランプが大統領選に負けることを想定して作られているとみて、その点をもって酷評する人が散見される。その批判の文脈に付き合うなら、確か2023年はじめには撮影が終わった作品が、(テクノロジーあってこそ異星に来れたはずなのに)サイエンスのおそろしく雑な扱いなど(どんな毒性があるかも知ったもんじゃないものを早速スープに使おうとするトニ・コレット演じる権力者の妻!)、ここまで今の現実に寄って作られたように見え、権力者の恐ろしさが際立つところをワタシは肯定的に見た。

というか、異星の植民地化という意味で本作の権力者の設定にはイーロン・マスクも取り込まれており、そうした意味で本作には予見性も十分にあったと思う。延期につぐ延期のため、2025年にこれを観ることになったマイナス点がないとは言わない。が、トランプが勝った後でも本作の面白さは台無しになるものではないと評価する。

本作における異星の原住民について、ナウシカを連想した人が多いのかな。ワタシはロバート・シルヴァーバーグの「太陽踊り」を連想したが、本作はそれよりもずっとブラックで残酷なのは間違いないし、原作は未読なのでそれを意識しているかは分からない。

あと、かすかにエリオット・スミスが流れるシーンは良かったな。

WirelessWire News連載更新(ポイント・オブ・ノーリターン:プログラミング、AGI、アメリカ)

WirelessWire Newsで「ポイント・オブ・ノーリターン:プログラミング、AGI、アメリカ」を公開。

これまで WirelessWire News で足掛け何年連載してきたか忘れたが、今回が書くのにもっとも苦しんだ。本来なら一週間前に書きあげる予定で、しかし、週末かけて一行も書けず、春分の日を費やしても何も書けず、実質締切の週末を費やしてなんとか書き上げた。

苦労して書き上げた甲斐のある文章だとは思う。しかし、そのために心身に負担をかけるのはおかしい話で、終わりが近いのだろう。

さて、今回の文章でエズラ・クラインのポッドキャストを取り上げているが、彼と『ヒットの設計図――ポケモンGOからトランプ現象まで』(asin:4152098023)の邦訳のあるデレク・トンプソンの共著 Abundance が出たばかりだったりする。

Abundance

Abundance

Amazon

Abundance (English Edition)

Abundance (English Edition)

Amazon

書名は「豊かさ」だが、これはある種の皮肉というか、国家的な住宅危機、移民の制限による労働者不足、クリーンエネルギーのインフラ整備の遅れなどアメリカという国の問題を論じるものであり、政策提言まで踏み込んでいるようだ。クラインは、カマラ・ハリスが大統領選挙で勝てると踏んでいたのかな、と思ったりする。

アメリカの問題にフォーカスした本なので、前著同様、邦訳は難しいかもしれない。

ウィキペディアに掲載されているヒドい有名人の写真を改善することを使命とするWikiPortraits

www.404media.co

Wikipedia の著名人のページに、その人の写真が掲載されていることが多々あるが、撮影時期が古かったり、当然ながら宣伝写真じゃなくて、一般人が撮影したものが多いため、往々にして写真としてのクオリティは低かったりする。

というか、Bad Wikipedia Photos というそういう Wikipedia に掲載されているイケてないポートレート写真を集めた Instagram アカウントもあるのね。

今や Wikipedia は人類にとってもっとも価値のあるレポジトリであるが、この現状を改善しようとする WikiPortraits というボランティア写真家の人たちの試みがあるのを初めて知った。

昨年のはじめから WikiPortraits の写真家は世界的な催しや授賞式でセレブの5000枚もの写真を撮影しているとな。それらがオープンライセンスの元で Wikipedia(というか、正確には Wikimedia Commons かな)に公開され、それが Wikipedia の質を向上させているだけでなく、報道機関でも使用されているとのこと。

しかし、そうしたイベントで写真を撮影するのは名の知れた報道機関のカメラマンしか認められないことも多いようで簡単ではないようだが、「おたくの発行部数は?」と聞かれ、「数十億」と答えた WikiPortraits の写真家の話は微笑ましい。資金の問題もあるが(寄付を募っている)、WikiPortraits の写真家の熱意と得られる注目という報酬のほうが上回っているようだ。

これは良い試みだねぇ。

オフショア金融はいかに民主主義を損ない、新たな階級を生み出しているか

The Future, Now and Then で知ったが、『ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番――世界トップ1%の資産防衛』(asin:4622086808)の邦訳があるダートマス大学経済学教授のブルック・ハリントン(Brooke Harrington)の新刊 Offshore が昨年秋に出ていたのを知る。

「隠れた富と新たな植民地主義」という副題からも明らかなように、超富裕層がいかにして法の目をかいくぐり、蓄財を行っているかを解き明かす本のようだ。

ここでも昨年末に超富裕層とその「秘密の世界」についての本を紹介しているが、やはりこの本も超富裕層は我々とは別の世界に住んでおり、それは民主主義や我々が依存する公共財を損なってきたという認識なんですね。

オフショア金融は、見えない形で負担を庶民に負わせながら、世界を植民地化しながら新たな隠れた階級をつくり出している、と聞くと穏やかな気持ちではいられないが、それが現実なんだろう。

ロングレッグス

低予算ホラー映画が見事に大ヒットということで、(本作のプロデューサーも務める)ニコラス・ケイジのファンとしては喜ばしいのだが、日本公開されると結構評判が芳しくないようでどうかと思った。が、ワタシは楽しみました。

やはりニコラス・ケイジがどんなシリアルキラーを演じているのかと楽しみにしていたのだが、最初彼が出てきたときに別の人かと思ったくらい。

FBI捜査官の主人公を演じるのは『イット・フォローズ』でも主人公だったマイカ・モンローだけど、長らく彼女の出演作は観ておらず、『イット・フォローズ』のときよりタイトというかスリムになったなという印象。

ホラー映画らしく早々にショック描写があり、主人公も何かしらの「能力」がありそうなことが示唆される。

さて、シリアルキラー「ロングレッグス」が主人公にどう襲い掛かるのか、主人公はどう殺人鬼と戦うのかと思っていると、なぜかロングレッグスの日常生活が描かれ、もちろん彼はそこでも最高にキモいのだけど、彼は恐怖の源泉たる超人的な殺人鬼ではないの? と疑問が頭をもたげる。しかし、これが事件の真相の伏線なんですね。

これ以上書くとネタバレになるので内容に触れるのはここまでだが、映画としては音で不穏さやショックを表現する種類で、それに成功していると思った。

教皇選挙

これは何度も書いているが、ワタシ自身はカトリックの洗礼を受けている。が、それは単なる事実であって、自分のことを敬虔なカトリック信者とはまったく思っていない。

それでも、ローマ教皇を選出する選挙であるコンクラーベを舞台とする本作がしょうもない映画だったら腹が立つかなと心配だったのだが、何よりエンターテイメント作品として見事だった。

例によって金曜夜の鑑賞だったが、WirelessWire News 連載原稿が書けないための睡眠不足で、本作の画面の暗さを見ているうちに眠っちゃうんじゃないかと心配したが、ここだけの話、じきに尿意を催して結果的に眠気が吹き飛んで結果オーライだった?

でも、本当にコンクラーベの模様が中心に来る作品なので、当然映画にはセックスもバイオレンスも存在しない。しかし、それで本作の登場人物に台詞にもある「戦争」をこのように描けるのかと舌を巻いた。

本作をこれから観る人は、All About ニュースの「『教皇選挙』を見る前に知ってほしい5つのこと。実は「中間管理職」が頑張る「密室サスペンス」だった」に目を通しておくことをお勧めします。

選挙の進行役を務める主人公を演じるレイフ・ファインズの落ち着きのある演技はもちろん見事だし、デヴィッド・リンチが亡くなった年に、出番は多くないが確固たる存在感を示すイザベラ・ロッセリーニをスクリーンで観れたのは嬉しかった。何よりあの人のスピーチが見事な威力だったわけだが、その後最後のサプライズがくるのである。後で冷静に考えると、亡くなった前教皇がどこまで知っていたかを含めてどうかとも思うところもあるが、いやー、見事にやられました。

COMWARE PLUSでブックレビューを担当することになりました

COMWARE PLUS の「デジタル人材のためのブックレビュー」に寄稿することになりました。第1回目は宮内悠介『暗号の子』です。

およそ2年ぶりに COMWARE PLUS の「デジタル人材のためのブックレビュー」を再開することになり、以前よりブックレビューを担当していた高橋征義さんの推薦があり、ワタシも三月に一度ブックレビューを寄稿することになった。

過去回を見れば、ワタシは池澤あやか氏の代打の位置づけと解釈している。技術書そのものよりもテックカルチャー担当ですね。

それでも初回で小説を取り上げるのはちょっと攻め過ぎかとも思ったが、池澤あやか氏がマンガを取り上げた回もあり、また『暗号の子』の内容的にも許容範囲と考えた。

原稿依頼は昨年12月の前半にあり、1月末には原稿を送付していた。実はずっと別の本を取り上げようと考えていて、しかし、どうも気乗りしないところがあり、どうしたものかとずっと思案していた。

その候補本の質は問題なく、飽くまでワタシ自身の内心の問題だったのだが、今年の正月『ロボット・ドリームズ』鑑賞後に前田隆弘氏にお目にかかる幸運があり、その際にこのブックレビューのことを話したところ、「それは別の本について書いたほうがよいのではないか」と助言いただいた。

その時はむにゃむにゃと言葉を濁したが、今となっては前田さんの言う通りであり、『暗号の子』に変えてよかったと思う。

元の候補本がなんだったか気になる人もいると思うが、実は今回のブックレビューにちゃんとその書名も入っているんですよ(笑)。そう、その本です。

前田隆弘さんとは親不孝通りの鳥貴族で一時間ほどアルコール抜きでお話させてもらったが、上記の話などワタシのことを少し話した以外は、ひたすら雨宮まみさんのことを話続けてしまった。

自主制作版、中央公論新社版の両方を持っている『死なれちゃったあとで』のことをもっと聞くべきだった、と後になって頭を抱えたものである。もちろん雨宮まみさんのことも『死なれちゃったあとで』の一部ではあるのだが、その節は好き勝手喋って前田さんに申し訳なかった、と今改めて思う。

SEOから生成AI向け検索対策GAIOへのシフトにより、セマンティックウェブの復権……はなさそうだ

先月から小林啓倫さんが、生成 AI による SEO検索エンジン最適化)から GAIO(生成 AI 最適化)へのシフトの話を書いている。

後者の文章については、ワタシも昨年夏に「Googleからウェブサイトへのトラフィックがゼロになる日」という文章を書いているが、それが本格的になってきたようだ。

さて、そこでカタパルトスープレックスニュースレターの「LLM時代の新たなSEO戦略(LLMO/AISEO)」に書かれる LLM 時代の SEO を読んでいて閃くものがあった。

セマンティックHTMLの活用も重要だ。単なる<div>タグではなく、<article>、<section>、<header>などの意味のあるタグを使用し、コンテンツ構造をAIに伝える。ニュースサイトであれば各記事を<article>タグで囲み、明確な見出し構造を持たせることでクローラーの理解を助ける。

schema.orgに基づく構造化データの実装も効果的だ。LocalBusinessスキーマを使用して店舗情報を明示したり、FAQPageスキーマでよくある質問と回答をマークアップしたりすることで、リッチスニペットの獲得率が向上する。

カタパルトスープレックスニュースレター - by Kazuya Nakamura

これってセマンティック・ウェブ復権につながらないだろうか?

セマンティック・ウェブといえば、ティム・バーナーズ=リーによって提唱され、かつてはこれこそが Web 3.0 の本命だと彼もぶちあげていたが、現実にはそこまで浸透はしなかった。

しかし、それから20年近く経ち、生成 AI 最適化の時代に今一度セマンティック・ウェブが注目される! とぶちあげるアングルで文章を用意していたのだが……。

小林啓倫さんの最新記事によると、現実にはロシアが早くも量でプロパガンダを押し切る手法で生成 AI 最適化を早くも実現しちゃったようだ。

残念ながら、セマンティック・ウェブ復権よりも「LLMグルーミング」のほうが現実的らしい。うーむ。

そうそう、小林啓倫さんの翻訳仕事については昨年末にも讃えているが、先月にも新たな訳書『SENSEFULNESS(センスフルネス)』が出ていますな。すごい仕事量だ。

最終講義を終えられた増井俊之教授の「発明家」としての歩み

ワタシがさくらインターネット福岡オフィスで横田真俊氏のトークを椅子の上で正座して拝聴していた頃、増井俊之慶應義塾大学環境情報学部教授の最終講義が行われていたようだ。

増井俊之氏の業績を振り返るインタビューが公開されている。

corp.helpfeel.com

増井俊之氏にはゼロ年代はじめから2010年代前半の10年余りの期間に Wiki ばなや yomoyomo 飲み会(通称)で何度もお会いしてお話する機会があったのだが、ワタシが氏から一貫して感じていたのは、変わらぬ貪欲さであった。

上にリンクしたインタビューを読んでも分かるように、氏は iPhone の日本語入力システムを開発した偉人なのだが、それで満足したところがなく、もっとユーザインタフェースを改善できないか、もっとより良いものはないかの探求が続いており、というかなんでキミら今の多数派に満足してんの? オレの作ったもののほうがずっと良いぞ、という気概が薄れるところがなかった。

ひとまず、増井先生、お疲れ様でした。

Wordpressサイトにおける過去記事中のリンクをWayback MachineのURLに置き換えるWaybackify-WP

wirelesswire.jp

さて、この文章の中で、ウェブページ中のリンク先が消えてしまう問題、内容が変質してしまう問題に対して、「文中に張るリンク先をすべてインターネットアーカイブWayback Machine(の検索結果)にしてしまうのは、さすがにやりすぎというか、なにより面倒です」と書いたのだが、それをやるためのスクリプトを作る人がいたのを今更知る。

Netscape ブラウザの開発や初期 Mozilla への貢献で知られる jwz こと Jamie Zawinski が、HTML ファイル中のリンクをすべて Wayback Machine の URL に置き換えるスクリプト Waybackify の WordpressWaybackify-WP を公開していた。

これは cron から実行するスクリプトで、Wordpressプラグインではないのに注意。jwz 自身、公開から5年以上経ったすべての投稿にこれを適用しているとのこと。

yamdas.hatenablog.com

この話題についてはワタシも昔触れているが、「恐ろしく悲しい未来」なんて言わずに過去投稿は Waybackify しないといけないのかもなー。

ネタ元は Pluralistic

デヴィッド・グレーバーの遺作の邦訳『啓蒙の海賊たち あるいは実在したリバタリアの物語』が来月出る

yamdas.hatenablog.com

3年近く前にデヴィッド・グレーバーの遺作を紹介したのだが、その邦訳となる『啓蒙の海賊たち あるいは実在したリバタリアの物語』が来月刊行されるのを知る。

ワタシは原書を紹介したとき、「彼の人類学者としてのキャリア初期の仕事の書籍化ということかな?」と書いたのだが、岩波書店のページには「グレーバー生前最後の著作」と書いているので、そういうわけでもないのかもしれない。

さて、原書紹介時には「この本が今度こそ最後の遺作になるはず」とも書いたが、もちろんそんなことにはならなかったわけである。

www.nytimes.com

これは昨年末の New York Times の書評だが、グレーバーのエッセイを集めた The Ultimate Hidden Truth of the World が昨年出ている。まぁ、確かにこういう本は出るわな。

これも来年あたり翻訳が出るのでしょうかね。

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