岩田規久男『デフレと超円高』

2011年の本を紹介するシリーズ11冊目。今回も10冊目『福澤諭吉に学ぶ思考の技術』に続き岩田規久男氏の本を。本書の一部を面倒くさくなって飛ばし読みしてしまったので再読しようかとも考えている。私が面倒くさくなってしまったのは第2章で岩田氏が<デフレが円高の原因だ>と述べている箇所。面倒くさくなってしまったのはこの箇所が専門的だからであり、私の能力不足のためである。よって本書に落ち度はなく、むしろ本書はよい内容だと思う。2011年の岩田氏の著書(5冊ある)のベストという評価は今のところ変わってない。あと1冊未読の本があるが。

デフレと超円高 (講談社現代新書)

デフレと超円高 (講談社現代新書)

岩田規久男『デフレと超円高』(2011)講談社 ★★★★

福澤諭吉に学ぶ思考の技術』に続いて岩田氏。本書はタイトルから予想できるようにいつものデフレとリフレ政策の話。ホントこのしつこさはスゴい。ただ今回はタイトルにあるように「円高」というのを絡めて書いている点が新しい。自分は円高の話はあまり興味をもって読めなかった。専門的で理解できなかったので納得観が得られなかったのだろう。本書は骨太な本といえる。岩田氏の著書の2011年ベストか。個人的には<なぜデフレを解消すれば景気回復するのか>という点が書いてあって参考になった。


本書の主な構成は第1章で<金利は為替に影響する>、第2章で<インフレ予想は為替に影響する><円高の原因はデフレだ>と述べ、第3章で<なぜデフレは悪か>を論じ、第4〜6章で<デフレの原因は日銀の金融政策だ>と述べ、第7章で<インフレ目標政策でデフレを解消すべき>と述べている。


以下、岩田氏の過去の主張や高橋洋一氏など他の論者の主張と比較する形でメモしておく。比べてみると皆ほぼ同じことを言っている。

●なぜデフレは悪か?

高橋洋一氏によれば、投資が減るため。企業家にお金を貸すより自分で持っていたほうがいいと考えるため(『日本の大問題が面白いほど解ける本』)。

岩田氏によれば、資産価値が減少し投資・消費が減少するから(『「不安」を「希望」に変える経済学』)。本書ではこの点をはっきり書かずに失業率が上がるとか年金が破綻するとか「何でもデフレが悪い」という書き方になっている。

●デフレの原因は何か?

池田信夫氏によれば、究極的には投資機会不足(『希望を捨てる勇気』)。

高橋氏によれば、GDPギャップ(『日本経済「ひとり負け!」』)。GDPギャップとは潜在GDPと現在のGDPの差。潜在GDPとは完全雇用時のGDP。また2006年、日銀がデフレから脱却していないのに金融引き締めを行ったから現在でもデフレが続いている(『バカヤロー経済学』)。

竹中平蔵氏も同様(『日本経済「余命3年」』)。

岩田氏によれば、90年以降の日銀の金融政策の失敗(『「不安」を「希望」に変える経済学』)。本書でも同様。日銀はバブルをつぶすために金融引き締めを始めその後ずっと引き締め続けている。

●いつからデフレになったか?

岩田氏によれば、GDPデフレーターで言えば94年から、消費者物価指数で言えば、98年から(『日本経済を学ぶ』)。

●デフレが先か、構造改革が先か?

池田氏によれば、<まずデフレを止めなければいけない>は誤り。2000年代にデフレのまま経済が成長したから(『希望を捨てる勇気』)。

岩田氏によれば、デフレ下で構造改革をやっても逆効果。供給が増大し需給ギャップが余計に拡大するから(『「不安」を「希望」に変える経済学』)。本書でも同様の主張。


ここが対立点。池田氏の理由は理由になってるだろうか。

●なぜデフレを解消すれば景気回復するのか?

インフレが予想されると、企業の名目利益が増大すると予想されるため、金融資産が現金・預金から株式へと向かう。これにより企業と家計のバランスシートが改善され投資と消費が増大する。よって実際に物価が上がる。個人的には「名目利益」が増大するだけで景気が回復するんだろうか、と素朴に疑問に思ってしまう。<マネタリーベース(現金と銀行の日銀当座預金の合計)が増えても銀行の貸出が増えないからデフレは解消しない>という批判は誤り。市場でおカネが使われる結果、物価が上がるわけではなく、人びとのインフレ予想に影響することで物価が上がる。結局、この心理的な因果関係の有無(個人の合理性を想定するか)がリフレ政策論争の根本的な対立点なのだろう。だから実際やってみないことには論争は終結しないのではないか。

【その他】

近年、円高でも日本経済が持ちこたえられたのは新興国への輸出が好調だったから。


09年度経済財政報告によれば雇用者の10%が企業内潜在的失業者。これを加味した実質失業率は13.4%。

●なぜ円高になるのか?

デフレだから。購買力平価説で単純に(貨幣の価値は物価に反比例するはずだと)考えれば当たり前だが、岩田氏は色々と書いている。よく読んでいない。自分にとっては高橋洋一『この金融政策が日本経済を救う』で読んだ単純な説明で十分だと思ってしまった。


岩田氏は為替相場は「国力とはまったく関係がな[い]」と述べている。一方で、市場プレイヤーの将来予想を予測することが困難なため為替レートは予測不可能としている。インフレ予想も国力も市場プレイヤーの将来予想に影響するんだから「国力とはまったく関係がな[い]」とは言えないんじゃないか。

●なぜプラザ合意(1985)後に円高でも好景気になったのか?

交易条件が改善したため。交易条件とは輸出財1単位で輸入財何単位と交換できるかを示す比率。改善した理由はOPECカルテルの崩壊による原油価格の暴落。

【参考文献】

高橋洋一『バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる』

【関連エントリ】

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