作家。1955年、福岡市生まれ。 フリーランスのライターとして各誌で活躍後、92年『運転士』で第107回芥川賞受賞。 また、97年には住まいの空間構造と家族の社会生活関係を独自の視点で取材、考察したドキュメンタリー作品『「家をつくる」ということ』(プレジデント社、講談社文庫)がベストセラーに。 その後も、「家族」「子育て」「教育」といった分野での思索、執筆活動も展開、ノンフィクション作家としても活躍している。
◯声の力 声に関しての二つの話から。 山根基世さんの声論 <声を聞けばわかるというのが私の持論。嘘をついていたり、何かをごまかそうとしていたり、相手を小馬鹿にした姿勢は、必ず声に出るものです。人の声には、心がくっついてくる。人が本当に人と向き合った時には、声は体の芯から出てきます。 ヘブライ語では言葉をダブルと言うと、敬愛する故・森一弘司祭から教わりました。ダブルとは、その人の存在から発する「息吹」のようなもの。単なる「意味」や「情報」に還元されない「言葉」です。 その人の存在が温かければ、どんな言葉でも、相手の心を温めたり、励ましたり、希望をもたせたりできる一方で、冷たい心から発せられれば、…
『ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ』/藤原智美/文藝春秋/2014年刊 捨てられないノートが4冊ある。小学校高学年の2年間に担任の先生と交わした交換日記だ。教室の後ろのロッカーの上に専用のボックスがあって、一つは提出用、もう一つは返却用。生徒が提出すると、先生が返事を書き入れて翌日に返却してくれる。ノートは予め2冊用意してあって、毎日書こうと思えば毎日書ける仕組みだった。タイトルは「心のノート」。 黄ばんだ頁を開くと、書かれているのは家族のことやクラスメイトのこと、学校行事やテレビ番組の感想等々、字は下手クソで内容は幼い。書くことがなくてイラストでごまかしている頁もあるものの、日によ…