混沌のコントロール、そしてカタストロフィー…現代、音楽作品を書く時、聴き手の心を惹きつけようとするなら、成否を分ける鍵となるのがこの2つだろう。埴谷雄高氏の「死霊」に、それがある。わが国初の形而上文学…と言われる「死霊」の作者、埴谷氏は愉快そうに言う―小説は論文じゃない。事実一つだけじゃ成り立たない。どう見てもこう見ても、虚構の世界をまるで実際にあるかのように信じ込ませるのが作家の力量。その意味では、夏目漱石など私小説の作家は一段下!と。生前収録されたNHKのその番組('96年)では、「死霊」に懸ける氏の文学論が、分かり易く、熱く、格調高く紹介されていた。 構想を裏付ける独自の緻密なセオリー、…