「あぁ、退屈だ。退屈だよ、君。何か面白い事件でもないかね」 応接室の中央に置かれたソファーに座り込んで新聞を読んでいた僕に、応接室と続きになっている事務室の奥から、なんとも形容のし難い弛緩した声が投げかけられた。 確認をせずともわかる。どうせ、事務室の大部分を占めるほど大きな事務机の上に足を投げ出して、昇りゆく紫煙をぼんやりと目で追いながら、心の底から嘆いているのだろう。神の如き自分の知を満足させるような興味深い事件がどこにもないことを。 「なんだい。あいかわらず穏やかじゃないな、諏訪部君は」 僕は彼の同じ嘆きを何度も聞かされている。始めの頃はあまりにも不遜なその言葉に驚きを通り越して呆れるば…