「ネズミ捕り The Rat Catcher Ⅰ~Ⅲ」は、ナオミ・イシグロ短編集『逃げ道』( Escape Routes , 2020 ) に掲載されているお話。間をあけた三部構成になっていて、その存在感は際立っている。間に入るお話は、どれも現代を舞台としているのに「ネズミ捕り」は、ペスト菌による黒死病が大流行した中世の暗黒時代を思わせる。現在と過去を往来しながら読んでいて思うことは、「逃げ道」を探したくなるような人間の心理は、今も昔も変わっていないこと。人々が内に秘める脆さは、他者との交流の中で歪みだし、いつか向き合っていかなければなれないモンスターのようなものかもしれない。 「ネズミ捕り」…