世界には、どれだけ熱心に探しても解答の見つからない事象がいくつか存在する。 たとえば、なぜ冬の夜のプールはあれほど深く静まり返っているのかということ。あるいは、どうして鎌倉の海沿いのレストランで、私が彼という人間に文字通り一瞬で、逃げ場のないほど心を奪われてしまったのかということ。 私の名前はケイリー・スピーニー。 そのとき私は二十代半ばのありふれたハリウッド女優で、彼は四十代前半の日本人だった。彼は背が高く、まるで丁寧に調律された古いチェンバロのように端正な顔立ちをしていた。 そして何より、彼は完璧な無職だった。 「仕事をしていないというのはね、ケイリー、時間という名の広大な砂漠を一人で歩く…