街おこしならぬ駅おこし。一時代を画した有名漫画家たちが若き日の修業時代に、まるで共同生活でもするかのように、入れ替りたち替り入居したアパートがこの地にあったというので、漫画ファンの聖地と視做されているという。街路から高架の改札口へと昇る階段の踊り場の壁いっぱいに、でかでかと飾り看板がかかっている。 年内最後の仕事らしい仕事へ出かけるので、ふだんは通らぬ階段を昇ってみた。しばし立ち停まって、あれこれのことを考えた。人の流れを邪魔してまで、今さらのように大看板に眺め入る老人の姿は、過ぎ行く乗降客がたからどう思われたことだろうか。 今日の仕事は、とある文芸雑誌の新人賞の選考委員会である。未来の作家が…